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デジタル敗戦とレシート宝くじ

 デジタル敗戦という言葉がある。それに関連して、最近、台湾の領収書宝くじというシステムの話を聞いた。長女が、台湾で生活しているのだが、その娘が言うのには、台湾では、お店で買い物をして領収書を受け取ると、領収書(以下、レシート)に台湾政府が発行した番号が付与されており、これが宝くじになっている、と言うのだ。宝くじ付きのレシートを「統一発票」と言うらしい。ちょっと驚いて調べて見て再度ビックリ。なぜ再度ビックリしたかは後で説明するが、まずレシートに宝くじ機能を付けたレシート宝くじの凄さを説明したい。
 レシートに宝くじ機能を付けると、お店で買い物をしたりレストランで食事をするなどのサービスを受けたりした人は、みんなレシートを貰いたがる筈だ。なにしろわざわざお金を出して宝くじを買わなくても、自動的に、タダで、宝くじが手に入るのだから。ちなみに、娘の話では、買い物した値段によって宝くじの当選金額が異なると言ったことはないそうだ。つまり、額面10元のレシートでも1万元のレシートでも宝くじとしての機能は同じだという話だ。なお、当選金額の最高は現在、1000万元。日本円にしたら4000万円程度だ。日本のジャンボ宝くじとは桁が違うが、何しろレシートを貰っておくだけで良いのだ。それでウン千万円が当たるなら、みんな、買い物の度に、レシートを貰うはずだ。しかも、レシートにはQRコード(登録商標)が印刷されており、これをスマートフォンで読み込んでおけば、当選かどうかもアプリがチェックしてくれるらしい。毎日数枚のレシートを貰うと、2か月に一度の抽選までに数十枚のレシートが、時には百枚を超えるレシートが溜まるだろうから、アプリがチェックしてくれるなら手間がない。それに、少額の当選金は、スマートフォンで受け取ってそのまま使えるらしい。デジタル技術でここまでやってくれれば、レシートを貰わない理由がない。さすがにデジタル先進国だと感心し、改めて我が国のデジタル敗戦を実感したのだった。
 さて、こんな美味しい話はないから、消費者はこぞってレシートを貰う。みんながレシートを貰うようになると何が起こるだろうか。レシートには宝くじ番号が印刷されている。宝くじなので、当然その番号には重複がない。それを政府が発行している。となると、政府は小売業の売り上げをほぼ100%捕捉できるということだ。脱税のやり方は良く知らないが、小売業からしたら、少なくとも売り上げを見かけ上減らすという形での脱税はできない、と言うことになる。税金を徴収する側からみたら、多少の当選金を払ってもお釣りが来るだろう。もちろん、これはB2Cの話で、B2B、つまり会社間の取引には関係がない。しかし会社間の取引は、もともと売り上げを計上しないということが難しい。ある会社の売り上げは他の会社の支出だからだ。
 それにしても、このシステムは素晴らしいと思う。レシートに宝くじ機能を付与することで、レシートを発行させ、宝くじ番号という重複のない番号を通して、売り上げを把握する。しかも、政府はレシートの発行を強制しないのだ。小売業の人は、統一発票付きのレシートを発行する義務はない。しかし、発行しないお店で買い物をする人は減るだろうから、小売店は、いずれレシートを発行するようになる。宝くじ番号を付与したレシートを介して売り上げを把握できれば、消費税の漏れもない。もっと言えば、消費者の消費動向をリアルタイムに近いところで把握できる。経済対策にも生かせる筈だ。
 さて、「再度ビックリした」のはなぜか。それはこのレシート宝くじが、1951年から実施されている、ということに気付いたからだ。つまりこれは「デジタル敗戦」などというレベルの話ではなかったのだ。戦後の日本でも、宝くじは発行されている。戦後最初の日本勧業銀行による宝くじは、1945年10月29日に販売を開始している。しかし、それは人々が、高額当選の夢を見てくじ券にお金を払い、その一部を戦後の復興などに充てようとするものであり、庶民が、自らの財布から支出して成り立つものだ。同じ宝くじでもレシート宝くじは全く発想が違う。しかも、上述のとおり、その効果は大きい。
 海外に視察に出かける政治家達は、こうした制度をなぜ学んでこないのだろうか。いや、学んだとしても実現するだけの力がなかったのか。今から70年以上前に、こんな優れた制度設計を行なった台湾の官僚・政治家のユニークな発想力とこれを実現した政治力に敬意を表したい。いつか台湾に行くことがあったら、お店で買い物して、統一発票付きのレシートを貰って来よう。[ T.S ]

 

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投稿日:2024年04月30日