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ものを作るということ

これまで、あまり趣味と言える趣味はなかった。高校時代に出会った友人に誘われて、大学を卒業した直後から、聴覚障害者を支援する少し特殊な活動に関わってきた。その活動は、「要約筆記」というのだが、あれから40年近くたったが、まだ知名度は低い。その活動が本当に草の根のボランティア活動だった黎明期から、社会福祉の一翼を担う第2種社会福祉事業として認められるまでの約30年間、地元の活動と全国の活動に関わってきた。弁理士としての仕事、子育てを中心とした家族との時間、そして要約筆記の活動、その三つをこなすのに24時間で足りることは少なかった。いきおい、大学卒業までの間に趣味にしかかったものは、その後、一つ一つ手放した。

そして30年が経ち、弁理士としての仕事はもう少し続けたいが、子どもたちも巣立ち、要約筆記の活動も一線を退いたことで、趣味に使える時間が戻ってきた。美術館に行ったり、かつて愛した芝居をまた見に行くようにもなったが、一番時間を使っているのは、「ものを作る」ことだ。「ものを作る」というと、何を作るのか、ということになるが、何でも構わないというのが本当のところだ。何か生活の役に立つものであれば、素材や方法は問わない。木工というか、木を加工することが多いけれど、アクリルを削ることも、陶器を焼くことも(最近はあまりやっていないが)、革を細工することも、竹ひごを編むこともある。

実家の傘立てが壊れていれば桜の枝を組み合わせて傘立てを作る。家族の誕生日に合せて壁にかける時計を作る。夜の底を照らす明かりを求めて、幾つもの常夜灯を作ってもきた。最近は、家族の求めに応じて革の鞄を作ることもある。

それらは全て設計図を引くところから始める。型紙とか、見本とか、そうしたものはない。木工や革細工の教室に通ったりしたこともない。全部自分で考える。だから楽しい。○○を作る、と決めてから、頭の中でラフな形状を組み立て始める。だいたいの形が見えてきたところで、紙にスケッチを繰り返す。その場合、重要なのは、デザインとして気に入ることと、作りやすいかということだ。最初の頃は、製作過程が想定できず、デザイン画は素敵だが、できたものはグシャグシャということがよくあった。自分の製作能力や、工具で加工できる形や限界などを知って、初めて、作りたいモノとできたモノとが8割くらい一致するようになった。

一番小さい作品は、5×3×2センチのスマホ台(写真1)。一番大きなものは、50センチほどランプ(写真2)。一番良く使っているのはお風呂のイス。評判が良かったのは革の鞄(写真3、4)。失敗が多かったのは陶器。
 
(写真1)
20161025-写真1
 
(写真2)
20161025-写真2
 
(写真3)
20161025-写真3
 
(写真4)
20161025-写真4
 
物を作っていると、ほんの少しだけ、発明者の気分を味わえる。一から設計して作り出したものは、この世に多分一つしかない。作るためにした沢山の工夫は、これが製品なら特許出願できた筈だと、密かに思ったりする。見本と型紙とかはない、と言ったけれど、これまで明細書を書いてきた沢山の発明の背後にあったもの、強いて言えば、ものを作り出す発明者の工夫する力というものは、いつの間にか身について、何処かで役に立っているような気がする。

CADや電動工具など、人の力を拡張する道具が発達したとはいえ、ものを作るとき、ある程度の視力、体力、それに智力が必要になる。なので、いつまで続けられるか分からないが、まだしばらくこの趣味を育てたいと思う。[ T.S ]

 

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投稿日:2016年10月25日