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親父

 2022年2月24日に開始されたロシアによるウクライナへの侵攻は、本記事が掲載される2022年4月12日においてもいまだ終焉を見ず、ウクライナ東部での大規模な軍事作戦前との報道もあり、終わりが見えない状況です。
 双方の国に多くの死傷者が出ているとの報道、また、泣きながら惨状を訴える一般市民の方や、復興が容易でないほどに破壊され尽くした都市の映像を見聞きするたび、「なぜ」「どうして」と憤りと共に理解できない不条理を感じてしまいます。もちろん、双方に理由はあるのでしょうが、やはり、このようなあからさまな暴力を理解できませんし、理解したくもないと思ってしまいます。
 ウクライナの兵士・一般市民もそうですが、ロシアの兵士にもご家族がいらっしゃいます。「一人が傷つけば、多くの人が悲しむ」この事実は、どのような正義があるにせよ、また、攻める側か守る側かに関わらず変わるものではないと思います。
 *この争いで亡くなられた方のご冥福をお祈り申し上げます。*
 
 私の親父は、大正3年生まれで、存命であれば108歳。20代後半に太平洋戦争を経験しました。徴兵され、東京にて訓練を受けた後、激戦地ラバウルへと送られました。自宅には、太平洋戦争に関する本があり、戦争に行ったことがあるということで、小学生だった私は興味本位で「戦争はどんなだった?」「鉄砲を撃ったことがあるの?」「爆弾に当たらなくても近くで爆発するとなんで死んじゃうの?」「敵に囲まれたら死んだふりすればいいんじゃないの?」とか、いろいろと親父に尋ねました。
 「青いバナナを砂浜に埋めしばらくすると熟して美味しくなる」とか、「夜中の行軍は眠気との闘いで、そのうち眠りながら歩けるようになった」といった具合に、小学生の好奇心を微妙に刺激しながら生々しい部分はかわして答えてくれていました。食い下がって聞いても答えてくれないことが多かったです。もともと寡黙な人で、特に自分のことはあまりしゃべりたがらない人だったこともあったでしょうが、やはり、地獄絵図の状況の中、辛いことが多かったのだと思います。
 ある日、「同じ隊の同僚が、一緒に食事をしてから俺よりも先にテントを出たところでグラマンにやられたことがあった」「そいつは、死にたくない死にたくないといつも言っていた。俺なんかいつ死んでいいと思っていた。そういうやつが生き残ったんだなぁ」と話してくれました。小学生の私に言ったのか、独り言だったのか。
 奇跡的に復員できた親父は、その後高度経済成長期を駆け抜け、20年以上前に84歳の天寿を全うしました。ラバウルでは辛いことも多かったと思いますが、生き残ってくれたからこそ、こうしてこのような記事を書くような息子をもうけることができた訳です。
 
 まだ終わりは見えないですが、ウクライナ・ロシア双方において、これ以上ひとりの死者も出ないことを祈っています。そして、紛争の最前線の一人ひとりに苦しみ、悲しみがあり、また、未来があることを、国のトップの方にはどうか忘れないで欲しいと切に願うばかりです。
 この記事を書きながら、マラリアの後遺症なのか臀部にできた吹き出物に風呂上がりにオロナイン軟膏を塗っている親父の姿を思い出しました。なにか平和の象徴のように思えました。[ S.K ]

 

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投稿日:2022年04月12日