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義兄のこと

 8月に義兄を見送った。兄は、半年ほどの闘病の後、帰らぬ人になった。
 この兄は技術系で、私が燻製や木工などを始めた時期に、同じように燻製や工作を始め、工具を融通し合ったり、作品を見せ合ったり、趣味を同じにする楽しみを共有してきた。もっとも兄は、私より更に趣味の幅が広く、珈琲は生豆を焙煎していたし、雨水を貯めて庭に散水する仕組みなども作っていた。かてて加えて、竹細工は趣味の領域を超えようとしていた。毎年、年末になると、兄の作った門松が届き、我が家の新年の玄関先を飾った。
 兄も私も、生活の中で、これがあったら便利とか、ここが困っているとか、そういう何かを見つけると、じゃ、自分で作って、工夫して、解決すれば良いよね、という風に考えた。だから、家中に、自分たちで作った「これ、便利でしょう」というものが幾つも幾つもある。小は、靴べらや、石けん置き。大は、ピザ窯や、バーベキューテーブル。何これ?と言われるものなら、パン生地発酵装置や、切り干し大根干し台。趣味のものなら、珈琲豆の焙煎機や、廊下を照らすライトや、革細工の鞄、それに燻製機や、孫のおもちゃまで、みんな造ってきた。造るだけでなく、壊れたものを修理するのも、二人とも好きだし得意だった。修理して修理して、何年も遣い続けているものが、我が家にも、兄の家にも沢山ある。例えば、我が家の傘は、何度も骨接ぎされ、繕われ、いつまで経っても引退できないでいる。
 私たちは、誰しもいずれ、この世界から立ち去る。そして親しかった人たちの中に記憶として留まるが、それもいずれ失われる。そう考えると、たいしたものではないが、生活の中で、必要なもの、必要とまでは言えないが便利なもの、自分が好きで造ってきたもの、そういうものが残るのは、残せるのは、技術系の私たちには悪くないかも知れない。兄の残したものは、私たちの記憶と共に、時には記憶を超えて、そこに在り続ける。いずれ、それも失われるが、造ってきたものが在り続ける限り、それは「よすが」として、いつも私たちのそばで僅かな光を放っている。大事にするよ、義兄さん。[ T.S ]

 

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投稿日:2021年12月14日