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日本語ワープロ考

 特許事務所に就職したのは、今から35年前。その時、明細書は手書きだった。やがて、パソコンとワードブロセッサ(以下、ワープロソフトとも言う)が導入され、明細書の作成は一変した。初めて使ったワープロソフトは「一太郎V2.0」だった。爾来、一貫して日本語明細書の作成には、「一太郎」というワープロソフトを使っている。英文については、最初は「WordStar」というソフトを使っていた。やがてマイクロソフトの「Word」が市場を席巻した。
 ワードプロセッサは、言語を扱う。言語は、その言語を使う国の文化と一番深く結びついている。何しろ、何かを考え、感じる、表現するその瞬間から言語を使っているのだから。その言語を使っている国で開発されたワードプロセッサが、その国で使うワープロソフトとしては一番優れているはずだと私は思う。自宅で使っているコンピュータはマッキントッシュという機種だ。マッキントッシュでは、初期の頃は、「EG Word」を、その後は、「NISUS Writer」というワープロソフトを使ってきた。後者のワープソフトは、検索と置換が異常に凄い。この機能のお陰で、テキストデータを整形して、他のソフトに移すといった作業がどれだけ助かったか知れない。
 それでも、結局、日本語を扱う場合、つまり仕事で明細書や意見書を作る作業をする場合、使うワープロソフトは、「一太郎」にとどめを刺す。多くの士業、例えば弁護士の方も同意見だという。「一太郎」のワープロソフトとして優れている点は沢山あるが、紙面の都合で2つだけ挙げる。
 1つは、シート機能。複数の文書を1つのファイルにまとめておける機能だ。しかもそこから複数の文書を自由に選択して同時に表示できる。クライアントから受領した資料(「Word」形式でも読み込める)を右に、明細書の案文を左に表示して作業できるのは勿論だが、このシート機能が最も力を発揮するのは、中間処理だ。出願明細書と拒絶理由通知を参照しながら、コメントを作成したり、作成した補正書を見ながら意見書を作ったりするとき、たった1つの文書ファイルを開くだけで済む。過去に何回中間手続をしていたとしても、その全ての来歴、全ての中間書類を、たった1つのファイルで扱える。しかも、作成した各文書は、必要があれば、シート毎に名前を付けて保存でき、そのときあの「Word」の形式でも保存できるのだ。
 もう一つの機能は、少し地味だが、コピー機能だ。カットやコピーした文字列は画面端のナレッジウィンドウの欄に操作した順番に複数表示され、いつでも再度ペーストできる。加えて、コピーしようとする対象の文字列は、とびとびに複数指定できるのだ。これは使った人にしか分からないかも知れない。例えば、請求項1から、複数の範囲を指定して、しかもその指定した順序でまとめてコピーできる。私は、この機能を使って、請求項1記載の装置の機能を説明する文をつくる。こうすれば、請求項1の記載からはみ出すことがないから、機能の説明に余計な言葉を使ってしまうという心配がない。
 この他にも、参照文書機能とか、連番および連番参照機能とか、明細書を作成する人なら、「便利だ」という機能が幾つもある。とはいえ、弊所での「一太郎」率はそれほど高くない。これは不思議だ。私が「一太郎」の優位性を説いても、一度「Word」で覚えた人は、なかなか乗り換えるのは難しいらしい。その気持も分からなくはない。しかし、弁理士として長く働くつもりなら、乗り換えに多少の困難さはあるとしても、長い目で見れば必ず元は取れると思う。それほど、「一太郎」は日本語ワードプロセッサとして優れていると私は思う。
 言語を扱うソフトウェアとして、「考える」領域には、アウトラインプロセッサがある。「表現する」領域には、デスクトップパブリッシングのためのソフトがある。この辺は、残念ながら、Windows用では国産の廉価な良質のソフトは見当たらない。マッキントッシュ用のものに優れたソフトが多い。しかし、考えをまとめて文書にする領域については、「一太郎」は、もはや改良の余地がないように見えるほど完成されていると思う。
 乗換はともかく、今から弁理士として仕事をする人がおられたら、是非「一太郎」を使ってみて欲しい。日本語を扱う能力の高さは、他を寄せ付けない。[ T.S ]

 

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投稿日:2019年07月30日