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既に社会にあるシステムを使うということ

 新型コロナウィルスにより、日本社会の様々な負の側面が顕わになっている。その最たるものは、私見によれば、各種給付金の業務委託の不透明さ、特にその委託先から数次の孫請けまでに至るぶら下がり、おそらく委託毎に起きている中抜きによる税金の簒奪、要するに利権を仲間内で分け合うモラルハザードだろう。この国は、ここまで劣化していたのか、というのが正直な感想だ。しかし、これはあくまで私見であり、証拠を見せろ、といわれても困る。現状では、「そんなことではないか、という気がする」という話だ。
 この給付金の給付については、「スピード感をもって」と説明があったらしいが、現実には給付にはかなりの時間がかかっている。そもそも、定額給付金の申請書が届いたのは6月の最終週だった。各世帯2枚のマスクの配布も、遅れに遅れ、マスクが普通に買えるようになってから届いた。この様子を見ていて感じたことがある。それは、特別なものは、社会という規模では、役に立ちにくい、ということだ。特定の目的のために新たなシステムを作って各種給付金を支給するとか、マスクを配るといったことをしようとすると、時間がかかるし、様々な障害が生じて、まず上手くいかない。
 よく似たことを、障害者支援の現場で見てきた。電話ができない聴覚障害者に聞こえる人にとっての電話のような利便性を、と考えて、例えば、40年程前、手書き電話という装置が作られた。その原物を見たことがある。装置のこちら側で文字を書くと、電話回線を介して接続された向こう側で、鉛筆が動いて、紙の上に文字を書く、という装置だった。こんな特殊なものが役に立つのだろうかと思ったが、案の定、ほとんど役に立たず、すぐにお蔵入りになった。聴覚障害者のテレコミュニケーションに役立ったのは、その後、普及が始まったファックスであり、携帯電話やパソコンの普及と共に当たり前になったメッセージ配信やメールだった。ファックスやメールは、聴覚障害者のために生まれたものではない。聞こえる人を含めて総ての人に役立つものだったからこそ、広く普及して、聞こえない人にも大いに役立ったのだ。特別なものではなく汎用的なもの、平素から誰もが使っているものが、「社会」という大きな器を相手にするとき、本当の意味で役立つものになる。
 給付金の給付やマスクの配布も、特別な方法で対応しようとすると上手くいかない、という典型的な事例だったような気がする。じゃあどうすればよかったのだ、ということになるが、既に社会にあるシステムを使うことを考える、あるいはこうしたことを想定して、予めシステムを作って試しておく、ということだ。後者は、最近になってマイナンバーに口座を一つ紐付けておく、という提案がされている。マイナンバーに口座を一つ紐付けておき、年末調整や確定申告の還付、あるいはキャッシュレス還付をこの口座に行なう、ということをしていれば、もう少し簡単に全員に給付できた筈だ。これなら世帯主ではなく、個人に給付できる。
 既にあるシステムを使うというのであれば、一番近い制度は雇用保険だったろう。あるいは税金の徴収システムだろう。確定申告をしていた人は経験があると思うが、税金の還付というのは、確定申告してから意外に早く振り込まれる。検証はしていないが、例えば5月に擬似的な確定申告を行ない、国から一律10万円の還付があるとして還付金の形で振り込んでもらえばよかったのではないか。企業に勤める人は年末調整を経験していると思うが、5月に擬似的な年末調整を行ない、国から各会社にまとめて人数分を還付してもらい、従業員の給与に上乗せすればよい。税金の計算には扶養家族も反映されるから、世帯主への給付であれば、それほど面倒はないはずだ。現在、税金の申告にはマイナンバーが使われているから、マイナンバーで検証すれば、例え二重給付が起きたとしても、本当の年末調整、本番の確定申告で修正できる。
 もちろん様々な大変さはどんな場合でも存在するだろう。しかし全く新しいシステムや特殊なものを作るよりは、多分運用や検証は容易な筈だ。長く使われてきたシステムは、システムに内在し得る抜け道や誤謬に対して、経験による修正がなされ、検証の手法が組み込まれていくからだ。
 新型コロナウィルスへの対応は、世界中で、社会に存在する負の側面を私たちに気づかせてくれた。感染症によるパンデミックに限らないが、今私たちが使っているシステムをどう使えば災害という特殊な場面に生かせるのか、そういう検討が、これから社会の様々な場所で行なわれ、次に備える、ということでなければならない。[ T.S ]

 

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投稿日:2020年06月30日