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弁理士として働く、ということ

 特許事務所で仕事、明細書を作るという仕事をしているのは弁理士だ。なので、特許事務所に弁理士が沢山働いている、というのは、今ではほぼ当たり前の状態になっているが、かつてはそうではなかった。特許事務所に転職した35年前、もちろん私はまだ弁理士試験には合格していなかったが、転職先の事務所は、一人の弁理士先生が事務所を運営し、二、三人の、開業前の弁理士が法律事務所のいわゆるイソベンと同じような立場で働き、後の大多数は、弁理士試験合格を夢見て、弁理士の補助職として働く、と言う構造だった。それが当時は一般的な特許事務所の形態だった。
 明成国際特許事務所は、現在、明細書作成を主な仕事にしている弁理士が、パートナーを含めて20名弱。弁理士数の増減は残念ながら常にあるし、弁理士試験合格を目指している補助職も少数ながら在職している。従業員として働いている弁理士には、早くパートナーにまで辿り着いて欲しいと思っているが、所内の規定を満たして、パートナーに上がってくる弁理士の数はそれほど多くはない。とはいえ、創業時の2名を除いて、これまで7名がジュニアパートナー以上になった。
 従業員として働く弁理士と、パートナーになった弁理士とでは、働く上での動機付け・意欲(いわゆるモチベーション)は、異なるだろう。しかし、と最近よく思うのだが、弁理士として仕事する上でのやりがいや、身に付けておくべき技能(スキル)には、立場の違いはない、と。
 弁理士は、一人でクライアントと向き合うことの多い仕事だ。事務処理を含めた組織としての仕事という側面も勿論あるが、発明者が生み出した発明を理解し、知的財産部の担当者の意向を汲み上げ、強い権利として成立させるための仕事は、弁理士のほぼ個人の能力にかかっている。もちろん上司がチェックし、図面担当者が遺漏のない図面を仕上げ、事務担当者がきっちりした仕事をして、特許や商標等の出願や権利化の手続は完結するのだが、明細書の内容、その品質や納期に関しては、担当弁理士が責任を持つ。弁理士個人の力が、結果に大きく影響する仕事なのだ。そのために、弁理士になったら、自分の時間を最大限投入して、早く高いレベルに達して欲しい。クライアントは、誰も、新人弁理士の訓練期間に付き合いたいとは思っていないのだから。
 こうした点も含めて、弁理士としてのやりがい、働く意欲や動機付けは、事務所という枠内で考えてはいけない。クライアントの知的財産保護という目的に向かって、研鑽し、努力し、成果を上げることが、そしてそれを評価されることが、代理人である弁理士のやりがいであり、働く意欲の源泉であるはずだ。発明者との面談の技術を身に付けることも、発明を理解するために最新の技術を学ぶことも、先行技術を理解するために公開公報を読む込むことも、日本語の表現力を磨くことも、あるいは発明概念を言葉で操作して請求項として仕上げていく力を醸成していくことも、その目的に向かってなされる。「弁理士として働く」ということは、そういう力を身に付けることとほぼ等価だ。その力がどのくらい身についているかは、「この仕事は是非○○先生に」というクライアントからの信頼や高い特許査定率などの形で返ってくる。
 弁理士という職業を選択して、労働年数の終わりまでを弁理士として過ごすことを選択したなら、こうした力を身に付けることを、ひたすらに目指して欲しい。それ以外に、何があるのだろう。クライアントからの高い評価も、パートナーとなることも、報酬も、みんなその結果としてしか、弁理士の手元にはやってこないのだから。[ T.S ]

 

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投稿日:2018年08月28日