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Eコマースと私

 昔から書店が好きだった。学生時代、本屋があれば入り、本の背表紙を眺めて何時間も過ごすということも珍しくなかった。背表紙に呼ばれるようにして手に取り、生涯の愛読書になった本も多い。例えば加藤周一の「芸術論集」、例えば大江健三郎の「万延元年のフットボール」、例えば加藤典洋の「戦後後論」などなど。しかしいつの頃からか、町の書店から足が遠のいた。Amazonなどで本を買うことがあまりに便利になり、その結果として書店が街角から姿を消したからだ。
 Amazonは自分の買い物の履歴が残る。調べて見ると、最初に利用したのは2004年。なんと20年以上使っていることになる。最初の数年間に買っていたのは、本かCDかDVDだ。その隊列にやがてデジタル機器が加わり、珈琲フィルターや、工作用のモーター、フライパン、パン用天然酵母、プリンタのインクカートリッジ等々、要はありとあらゆるものをネットで買うようになっていった。
 Eコマースで、「こんなものまで買えるのか」と驚かされたことは多い。例えば、古本。高価な稀覯本ではなく、あまり読む人はいないが、私は読みたい、というような古い本で、町中の普通の古本屋では全く見つからなかったものが、Amazonではあっさり見つかった。古いマイナーな、しかし優れた(と私が思う)コミックを全巻借りていった友人が、全18巻のうちの第12巻なくしたことがあったのだが、探したら直ぐ見つかった(ちなみに売値は10円、プラス送料250円だった)。Amazonがなかったら、私のお気に入りのこのコミックは、今も第12巻が欠けたままだったろう。減速機付きのモーターであれば、トクルと回転数を選択して買えたし、長年使ってきた圧力鍋のゴムパッキンが傷んだ時は、半信半疑で検索したら、ちゃんとゴムパッキン単体で売られていた。40年前に買ったColeman の2バーナーストーブのオイルドポンプの加圧ができなくなったときには、ポンプのシール用の牛皮のカップをAmazonで買った。
 AmazonなどのEコマースの商圏は全国だ。何千万人という人が顧客たり得る。顧客のうち10万人に一人(0.001%)が欲しいと思うに過ぎない商品でも、5000万人が相手ならば、500人が買うことになる。それなら商売になる。もちろんそうした要望に応えようとすれば、品揃えすべき商品は、気が遠くなるような数になる。Amazonであれば、多数の商店がネット上に出店するマーケットプレイスという仕組みを用意することで、こうした品揃えを実現している。
 しかし、最近、ちょっとした変化を感じる。事業者向けの商品でかつてはAmazonで買えた商品が、表示はされるが、「現在品切れでお取り扱いできません」と表示されることがしばしばあるのだ。それは、Eコマースでの販売を始めるとき、事業者向けの商品を全て取りあえずマーケットプレイスで出品したが、一般ユーザーは特定のサイズや性能のものしか買わず、Amazonではほとんど売れなかった商品なのではないか。私の商品選択は特殊らしく、最近、「前は買えたのに」ということが時々ある。こうした商品は、検索サイトで検索すると、事業者向けのEコマース、例えばモノタロウで見つかり、かつ購入できる、ということが多い。最近も、最初はAmazonで買ったが、今回品切れになっていた60cm×30m×厚み4mmという自宅空調装置用のフィルターをモノタロウで買った。8年前と同じメーカー、同じ型番の商品だった。
 この20年間、Eコマースは成長を続け、本当に日々変化している。冒頭に挙げた書籍に関しては、AmazonがKindleという電子書籍のサービスを始めたことで、もう紙の本には戻れなくなった。加齢と共に視力が低下すると、本の背表紙が並んだ書店のあの雰囲気がどんなに好きでも、文字の拡大ができるという電子書籍からは離れられないからだ。
 自宅に居ながらにして、なんでも買うことができ、数日で、いや時にはその日のうちに、それどころかKindleなら「購入ボタン」を押した直後に購入が完了する、というこの仕組みは、詐欺的商品の出品、配達事業者へのしわ寄せ、といった問題を伴いつつ、しかし後戻りできないところまで社会を変えている。Amazonを中心としたEコマース歴は21年目に入ったが、購買欲にまみれて、その行く末を見届けたい。[ T.S ]

 

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投稿日:2025年01月14日