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弁理士という仕事

 以下の文章は、もう8年も前になりますが、事務所の所員のお嬢さん(当時、小学5年生でしたか)から、夏休みの課題のため、弁理士の仕事についての質問書を受け、それに回答したものです。受けた質問は以下のとおりです。
 Q1.この職場で働いていて嬉しいこと
 Q2.この職場で働いていて辛いこと
 Q3.この仕事が他の仕事と違う点
 
 弁理士という仕事を小学生である彼女(直接お会いしてはいませんが)に理解してもらうために、少々長くなりましたが、できるだけ丁寧に回答しました。また、自分が仕事を引退した後、そして、もしかしたら自分が塵に返った後、社会を背負っていくであろう者に対して、襟を正して書いたつもりです。
 
 弁理士について、比較的分かりやすく書けていると思うので、事務所のホームページの「雑感」(トピックス)コーナー、第1回目の私の記事として、一部を伏せ字にした以外はそのままここに再掲します。
 
 なお、回答において、新規の出願の締め切りのつらさについて書いていないのは、他の職種における締め切りのつらさと同じだと判断したからです。また、意匠についてまったく触れず、商標について軽くしか触れていないのは、回答をできるだけ短くするためです。
 
—————————————————————-

YK様
 
 ご質問について、以下のように回答します。課題の参考になれば嬉しく思います。
 なお、「この仕事が他の仕事と違う点」の回答を先に読むと、「嬉しいこと」、「辛いこと」の回答も理解しやすいと思います。
 
○前提(弁理士の仕事)
 お母さんがこの仕事をしているので、知っているだろうとは思いますが、一応、最初に、弁理士の仕事について簡単に説明します。
 弁理士の主な仕事は、
(a)発明をした人や会社に頼まれて、特許庁に特許出願をし、特許権をとること、
(b)商標を考えた人や会社に頼まれて、特許庁に商標登録出願をし、商標権をとること、
です(そのほかにも、裁判所に対してする仕事などもあります)。私は主に特許を扱っています。
 
 誰かが自分の発明について特許を取ると、他の人はその発明を勝手に使うことはできません。たとえその人の発明を見てマネたのではなく、自分で考えた場合でも、です。商標も同じで、誰かが自分の商標について商標登録を取ると、他の人はその商標を勝手に使うことはできません。たとえその人の商標を見てマネたのではなく、自分で考えた場合でも、です。なぜ国がそんな制度を作っているのかについては、別途、勉強してみてください。簡単に言うと、そうやって発明を保護すると、みんなが頑張って発明をして国全体として技術が進むからです。商標については、また別の理由があって、同じ商標を誰も彼もが勝手に使うと、みんなが商品を買うときに区別がつかなくなって困るからです。テレビに「SONY」と書いてあるからソニーのテレビだと思って買ったのに、実は、ソニーとはまったく関係ない会社が倉庫のすみかどこかでてきとうに作ったテレビだったら、困るでしょう?
 
 ところで、特許出願や商標登録出願は、特許庁に出したらそれで特許や商標登録がとれるわけではありません。たいていはその後、特許庁から「これでは特許(商標登録)をあげることはできません。」という通知(「拒絶理由通知」といいます)が来ます。それに対して反論しなければ特許や商標登録はとれません。たとえば、「そんなことはありません。その理由はこうです。」と反論するとか、提出した書類を一部直して、「ここをこういうふうに変えます。そうすれば特許(商標登録)をとれるでしょう。」と反論するなどです。その反論や修正は、特許庁が指定してきた期間中にしなければなりません(これが、「辛いこと」に関連してきます)。これらも、本人(発明をした人、商標を考えた人)に代わって弁理士が行います。もちろん、本人が自分ですることもできます。
 
○この職場で働いていて嬉しいこと
 この仕事をしていると、自分が扱った発明(技術)が使われている製品が店頭に並び、パンフレットがおかれ、テレビコマーシャルが流れることがあります(私の場合は、たとえば、****のプリンタ)。それらを見ると、「この製品は、自分が扱った特許(または特許出願)で守られているのだ。」と思います(特許がとれる前でも、特許出願がされていることは他の人に分かります。だから、将来、特許がとられるかもしれない技術は、将来、特許をとった会社から使用料を取られたり、使うのをやめたりしなければならなくなるかもしれないので、他の人はマネしにくいです)。そして、自分が扱った特許出願が、お客さんの会社の商売において重要な役割を果たしている製品を守っている、と思うのは、うれしいものです。
 
 また、自分が特許出願を扱った技術(発明)が実際に製品になっているということは(特許出願しても、製品に反映されない発明もたくさんあります)、その技術がそれだけ世の中を便利にしている、ということです。そういう世の中の役に立つ技術を守る(勝手にマネされないようにする)のに役立った、という感じることができるのも嬉しいものです。
 
 つまり、お客さんにとって大切な技術、そして世の中の役に立っている技術を守るのに役立っている、と実感できるときが嬉しいときですね。
 

 また、この仕事をしていると、お客さんから「この発明は重要ですから、(他の人ではなくて)○○先生にお願いします。」と、指名してもらえることがあります。そういうときも嬉しいですね。
 
○この職場で働いていて辛いこと
 どんな仕事でもそうですが、仕事には「締め切り」があります。会社同士の約束であれば「すいません。締め切りを延ばしてください。」ということができますが(できない場合もありますが)、特許庁(お役所)には、締め切りを延ばしてもらうことができません。
(理由:特許庁に手続きをするときの締め切りを、「場合によっては伸ばしてもいい」ということにすると、お願いして伸ばしてもらえた人と、伸ばしてもらえなかった人との間で不公平がうまれるからです。また、「みんなが延ばしてもらえる」ようにするのであれば、最初から十分な期間を設定して「みんなが延ばせない」ようにしても同じですね。)
 ところが、特許庁とのやりとりする仕事は、一人の弁理士が何件も抱えていて、同じ日にたくさんの仕事の締め切りが重なることがあります。「じゃあ、早くから順番にやればいい。」と思うかもしれません。しかし、一方で、弁理士というのは、お客さんの代わりに特許庁に対して手続きをする人です。だから、お客さんに対して「特許庁に、こういうふうに反論できますよ。」と提案することはできますが、最後はお客さんに「そういうふうに(または、別な方針で)反論したいです。」と決めてもらわないと、仕事は始められないのです。ですから、いっぱい抱えている仕事のうち、何件もについて、お客さんがなかなか「こうしてください。」という指示をくれないと、特許庁に応答する期限までの時間がどんどん短くなってしまいます。それでもなんとかしなければいけないのが、一番、辛いところでしょうね。
 
○この仕事が他の仕事と違う点
 弁理士の仕事を「ほかのすべての仕事」と切り分けて「一番ちがう点」を説明するのは難しいので、3段階に分けて説明します。
 
(a)職人仕事であること。
 大工、植木職人、料理人、床屋、小説家、弁護士などと同様、弁理士の仕事も職人仕事です。「職人仕事」というのは、ここでは、「一つの仕事は、基本的に全部自分一人でできる仕事」という意味で使っています。ふつうの会社では、たとえば、1台の自動車を作る、という仕事をものすごく多くの人で分担して行っています。これに対して、弁理士の仕事は、特許出願にしても、その後の特許庁への手続きにしても、基本的に一つの仕事は複数人で分担せずに一人の弁理士が行います。
 
(b)代理人業であること。
 弁理士は職人であって、さらに代理人業です。つまり、弁護士と同様、弁理士も「誰かの代理人になる。誰かの代わりに手続きをする」という仕事をしています(上でも説明しましたね)。人が「こうしたい」というときに、専門知識を使って、間違いや漏れがないように、本人に代わって手続きをします。弁理士の場合は、主には特許庁に対する手続きをします。一部、裁判所に対する手続き(訴訟手続き)もできます。
 
(c)技術を扱う仕事であること(技術を理解する必要があること)。
 弁理士は職人であって、代理人業であって、さらに、技術を扱う仕事です。弁護士も、代理人業ですが、通常、技術に関する仕事をする場合はとても限られています。弁護士は、人と人とのもめごとの解決を「代理人」として手伝うわけですが、いつもいつも技術に関するもめごとばかり起こるわけではありませんから。
 
 これに対して、弁理士は、発明を扱うわけですから、ほとんど毎日、技術に関する資料を読んで、技術を説明する文書(特許庁に提出します)を書いています。その文書は、同時に、裁判になって法律に沿って解釈されたときに、間違いや漏れ、損になる言い回しがないように気をつかって書かれます。
 
 なお、裁判の内容が特許など、技術に関するものである場合は、弁護士も、技術を理解する必要があります。しかし、特許裁判の場合は、通常、弁理士が弁護士と一緒に仕事をして、弁護士を助けています。だから、特許裁判をやる弁護士が技術内容を全部理解する必要があるわけではないと思います(全部理解する弁護士さんもいます)。これが、上で書いた「(弁理士が)一部、裁判所に対する手続きもできる」ということのうちの一つです(ほかにもあります)。特許裁判では、弁護士と弁理士がともに訴訟の「代理人」(本人に代わって裁判所に手続きをする人)になることもありますし、「代理人」は弁護士がやって、弁理士はそれを助ける「補佐人」になることもあります。
 
 というわけで、弁理士の仕事が他の仕事と違う点は、「弁理士の仕事は、職人仕事であって、代理人業であって、さらに、技術を扱う仕事である」という点だと思います。
 
○補足
必要であれば、以下のホームページも、見に行くと役に立つ情報が見つかるかもしれません。
・弁理士会のホームページ http://www.jpaa.or.jp

・弁理士会東海支部のホームページ http://www.jpaa-tokai.jp

・弁理士会近畿支部のホームページ http://www.kjpaa.jp

・特許庁のホームページ https://www.jpo.go.jp/indexj.htm
 
「君たちの生きる社会」 (ちくま文庫)  伊東 光晴 (著)
の最初の方、20ページくらい(だったかな?)に、なぜ特許制度が作られているのか、特許制度はないと本当に困るものなのか(実は、国の方針としては、「特許制度を作らない」というやりかたもある)、について説明されています。古い本ですがお勧めです(この課題のため、とは限らずに)。[ K.H ]

 

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投稿日:2015年10月15日