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社会を変える新製品と特許

 NHKの朝ドラで、即席ラーメン(以下、即席麺)の開発物語が2018年度下期のドラマとして放映されている。私はほぼ見ていないが、家族は見ており、また友人・知人から話題にされることも少なくない。
 開発者の安藤百福氏をモデルとする主人公萬平さんは、開発の鬼と化して、即席麺を発明、更には鍋も必要ないカップ麺を開発する。その、即席麺の発売初期に、沢山の模倣品が生まれ、産業スパイもどきの従業員の引き抜き、ノウハウの盗用などが、面白おかしく展開していく。やがて、特許は認められ、引き抜かれた従業員も経緯を白状し、模倣者の一つは排除できた。しかし、模倣者はまだまだ多い。そんな中、即席麺による食中毒が発生し、即席麺自体に対する社会の信頼が揺らぎ始める。どうしたら良いか、識者に相談して、即席麺の業界団体を立ち上げ、特許を無償開放し、ようやく業界が整い、即席麺は、食品として認知され、社会に浸透していく。萬平さんの会社は順調に発展していくが、片やライバルもちゃんと業績を上げていく。
 この物語の展開を見ていた多くの方々が、特許は役に立つと感じたのか、意外に役に立たない、と感じたのか、気になるところだが、私が一番感心したのは、本当の新製品、社会を変えるような新製品は、単独で事業化することは難しく、新製品を社会に浸透させていく際の仲間作りの重要性が描かれていたことだ。みんなでパイを大きくすることが不可欠なんだ、ということがある程度伝わったのではないか。
 特許は独占権だから、特許をとれば、他人の模倣を排除して、新製品による儲けは全部自分のものだ、と考える人は多い。しかし、そうではない。全く新しい製品が社会に広く受け入れられるには、多数の供給者が現れて、切磋琢磨して製品の改良を進めながら、その製品を使うという人たちを増やすという側面、いわゆるパイを大きくする、という活動が必要になる。小さなパイを独占するのではなく、パイを大きくしながら、一定のシェアを確保するということの方が、新製品の立ち上げの際には重要であり、結果的に利益も大きい、ということなのだ。
 もちろんそのためには、基本特許を含む多数の特許を他に先駆けて取得し、特許戦略として有利なポジションを築いておくことも重要だ。また、一つの特許にあぐらを掻かず、開発競争に勝てるように、研究開発費を投入し、その成果を特許として守っていくことも忘れてはならない。そうやってパイを大きくしつつ、何年か掛けて市場規模が大きくなり、ある程度飽和し始めたとき、それまでに蓄積してきた特許(ノウハウや商標、意匠も含めた知的財産)がものを言うようになる。出願から20年という存続期間を持つ特許が本当に力を発揮し、ライバルとの差を付けるのに役立つのは、こうした状況になってからなのだ。
 いわゆるスタートアップ企業で、優れた技術力を持ち、瞠目すべき製品を開発しながら消えていく企業の中には、こうした戦略を上手く実施できなかったところが多いのではないか、そんな気がする。開発の初期に、費用を掛けて取った特許で独占ができないなら、特許なんか取る意味はない、と短絡してはいけない。開発の初期に特許を取ることは当然だが、特許による独占の前に、市場を育てることの方が重要なのだ。そして特許の元(もと)は、育った市場から時間をかけて回収すればよい。特許権に基づく訴訟を起して損害賠償で何億とったとしても、大きくなったパイから上げる事業収益の方が、何倍か大きい筈だからだ。
 テレビドラマの監修に弁理士の方が入っておられるかは知らないが、特許制度の本質の一つを上手く描いていると思った。カップ麺に関する麺の特許も有名だが、実際にどんな風に活用されたか、またドラマで描かれるのだろうか。[ T.S ]

 

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投稿日:2019年03月05日