GPSデバイスに対する情報の位置に依存した表示事件
判決日 | 2013.04.26 |
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事件番号 | H24(行ケ)10322 |
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担当部 | 知財高裁 第3部 |
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発明の名称 | GPSデバイスに対する情報の位置に依存した表示 |
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キーワード | 引用発明の認定、一致点の認定 |
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事案の内容 | 拒絶審決が取り消された事案。 審決の一致点の認定が誤っていると判断され、その誤っている部分(相違点3)についての容易想到性について何ら判断されていないと判示された点がポイント。 |
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事案の内容
【本願出願番号】 特願2004-560096
【本願発明】
【請求項1】(下線は本判決で問題になった部分。符号は筆者が付した。)
GPSアドバイスタイプ39と、GPSアドバイスレンジ40と、GPSアドバイス36とを含む複数のGPSアドバイスデータセット37を格納するメモリ媒体23を備える装置であって、前記メモリ媒体23は、中央演算処理装置30と、出力デバイス33とを有するGPSデバイスに動作可能に接続され、かつ前記GPSデバイスの中央演算処理装置30は、現在のGPSデバイス位置を計算し、かつ前記GPSデバイスのユーザから任意の位置および前記任意の位置に対するGPSアドバイスタイプを受け入れ、
前記GPSデバイスの前記中央演算処理装置30は、前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置を、前記複数のGPSアドバイスデータセット37と比較し、前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置が前記GPSアドバイスデータセット37の前記GPSアドバイスレンジ40内に入る場合は、前記出力デバイス33への出力のために前記GPSアドバイスデータセット37を選択し、
前記GPSデバイスの前記中央演算処理装置30は、前記ユーザ入力されたGPSアドバイスタイプを、前記GPSアドバイスデータセット37の前記GPSアドバイスタイプ39と比較し、前記ユーザ入力されたGPSアドバイスタイプが前記GPSアドバイスデータセット37の前記GPSアドバイスタイプ39と一致する場合は、前記出力デバイス30への出力のために前記GPSアドバイスデータセット37を選択する装置。
【審決の理由の要点】
本願発明は,特表平8-510578号公報(引用刊行物1)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
<一致点>(下線は本判決で問題になった部分)
データを格納するメモリ媒体を備える装置であって,前記メモリ媒体は,中央演算処理装置と,出力デバイスとを有するGPSデバイスに動作可能に接続され,現在のGPSデバイス位置が計算され,かつ前記GPSデバイスのユーザから任意の位置および前記任意の位置に対するデータのタイプを受け入れ,
前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置を,前記データと比較し,前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置が前記データと一致する場合は,前記出力デバイスへの出力のために前記データを選択し,
前記ユーザ入力されたデータのタイプを比較し,一致する場合は,前記出力デバイスへの出力のために前記データを選択する装置。
<相違点1>
本願発明において,格納されるデータが「GPSアドバイスタイプと,GPSアドバイスレンジと,GPSアドバイスとを含む少なくとも1つのGPSアドバイスデータセット」とされているのに対し,引用発明においてはデータの構造は不明である点。
<相違点2>
本願発明においては,「中央演算処理装置」が位置計算等の処理を行っているのに対し,引用発明では「プロセッサ」が処理を行っているのか,他の処理装置が処理を行っているのかが明確ではない点。
【原告主張の取消事由】
<取消事由1>本願発明と引用発明との一致点・相違点の認定の誤り
<取消事由2>相違点1についての容易想到性の判断の誤り(裁判所は判断せず)
【知財高裁の判断】
当裁判所は,原告主張の取消事由1(一致点・相違点の認定の誤り)には理由があり,審決は取消しを免れないと判断する。その理由は以下のとおりである。
~略~
3 本願発明と引用発明との対比
(1) 前記1で認定したとおり,本願発明は,「GPSアドバイスタイプと,GPSアドバイスレンジと,GPSアドバイスとを含む複数のGPSアドバイスデータセットを格納するメモリ媒体を備え」,「前記GPSデバイスの前記中央演算処理装置は,前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置を,前記複数のGPSアドバイスデータセットと比較し,前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置が前記GPSアドバイスデータセットの前記GPSアドバイスレンジ内に入る場合は,前記出力デバイスへの出力のために前記GPSアドバイスデータセットを選択」するものである。
そして,本願発明における「GPSアドバイスレンジ」は,あるGPSアドバイスデータセットを,経度,緯度及び高度の所定のレンジの組(セット)によって識別するものであり,あるGPSデバイスの計算された或いはユーザ入力された緯度,経度及び高度が,それぞれGPSアドバイスデータセットの緯度,経度及び高度の所定のレンジ内に概ね入る場合に,あるGPSアドバイスレンジ内に入ると判定されるものである。
ここで,「レンジ」とは,広辞苑(甲5)によれば,「①幅。範囲。領域。」を意味すると解される。
そうすると,本願発明における,「GPSアドバイスレンジ」とは,GPS座標を表す経度,緯度及び高度の,それぞれの範囲を規定する,上限及び下限を示す情報の組(セット)と解するのが相当である。
そして,本願発明の「前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置が前記GPSアドバイスデータセットの前記GPSアドバイスレンジ内に入る場合は,前記出力デバイスへの出力のために前記GPSアドバイスデータセットを選択し,」との発明特定事項における,「前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置が前記GPSアドバイスデータセットの前記GPSアドバイスレンジ内に入る場合」とは,「前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置」が,「前記GPSアドバイスデータセットの前記GPSアドバイスレンジ」により規定される,経度,緯度及び高度で表されるGPS座標の範囲内に入る場合と解するのが相当である。
(2) これに対し,引用発明は,前記2で認定したとおり,現在のポータブル情報システムの位置を計算し,また,前記ポータブル情報システムのユーザが入力した所望の場所の緯度/経度を受け入れ,現在の位置に対応するデータを検索するために,例えば,興味ある場所のGPS用の緯度/経度座標がデータベースに記録格納されるものである。
ここで,「座標」とは,広辞苑(甲6)によれば,点の位置をx軸,y軸等に関して一意的に決定する数値の組を意味すると解される。
また,引用刊行物1には,一般的にユーザの現在位置を中心とする所定半径内の,ユーザにとって興味のある特定の事項に関するデータベースの自動検索を開始することや,新しいGPSデータをキーとして使用して,データベースをサーチし,新しいGPSパラメータと非直接的に適合または関連する任意のデータ記録を検索することは記載されているが,そのための具体的な構成及び方法が明示されているとは認められない。
そうすると,引用刊行物1には,現在のポータブル情報システムの位置を計算し,また,前記ポータブル情報システムのユーザが入力した所望の場所の緯度/経度を受け入れ,現在の位置に対応するデータを検索する際に,記録格納された,興味ある場所のGPS用の緯度/経度座標,すなわち緯度及び経度により一意的に決定する座標点と解される,所定の固定のGPS座標と比較することは,記載されているが,GPS座標の所定の範囲を規定する,経度,緯度それぞれの上限及び下限を示す情報の組(セット)と比較することが記載又は示唆されているとは認められない。
(3) 一致点及び相違点に係る審決の認定について
審決は,本願発明と引用発明は,「データを格納するメモリ媒体を備える装置であって,前記メモリ媒体は,中央演算処理装置と,出力デバイスとを有するGPSデバイスに動作可能に接続され,現在のGPSデバイス位置が計算され,かつ前記GPSデバイスのユーザから任意の位置および前記任意の位置に対するデータのタイプを受け入れ,前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置を,前記データと比較し,前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置が前記データと一致する場合は,前記出力デバイスへの出力のために前記データを選択」する点で一致すると認定している(前記第2の3(2))。
なるほど,引用発明は,現在のポータブル情報システムの位置を計算し,また,前記ポータブル情報システムのユーザが入力した所望の場所の緯度/経度を受け入れ,現在の位置に対応するデータを検索する際に,記録格納された,興味ある場所のGPS用の緯度/経度座標,すなわち所定の固定のGPS座標と比較するものであるから,「前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置を,前記データ(メモリ媒体に格納されたデータ)と比較し,前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置が前記データと一致する」ことを検出するものといえる。
しかし,前記(1)のとおり,本願発明は,「前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置が前記GPSアドバイスデータセットの前記GPSアドバイスレンジ内に入る」ことを検出して,「前記出力デバイスへの出力のために前記GPSアドバイスデータセットを選択」するものであって,「前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置を,前記データ(メモリ媒体に格納されたデータ)と比較し,前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置が前記データと一致する」ことを検出するものではない。
そして,本願発明と引用発明とは,本願発明が,「前記現在のGPSデバイス位置或いは前記任意の位置が前記GPSアドバイスデータセットの前記GPSアドバイスレンジ内に入る」ことを検出して,「前記出力デバイスへの出力のために前記GPSアドバイスデータセットを選択」するとの構成を備えるのに対し,引用発明は,現在のポータブル情報システムの位置を計算し,また,前記ポータブル情報システムのユーザが入力した所望の場所の緯度/経度を受け入れ,現在の位置に対応するデータを検索する際に,本願発明の上記の構成を備えていない点で相違するというべきであり(以下「相違点3」という。),審決がこの点を含めて一致点として認定したことは誤りである。
以上のとおり,審決は,相違点3を看過したため,一致点及び相違点の認定を誤ったものである。
4 まとめ
上記3のとおり,審決は,相違点3を看過している。そして,審決は,相違点1及び2の容易想到性については判断しているが,相違点3の容易想到性については何ら判断していない。
そうすると,審決は,一致点及び相違点の認定を誤った結果,相違点3の判断を遺脱したものであり,これが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,原告主張の取消事由1は理由がある。
よって,その余の点について検討するまでもなく,審決は違法であり,取消しを免れない。
【所感】
審決に記載された一致点は、文言上も、本願のクレームの内容と明らかに一致していない。そのため、一致点の認定に誤りがあるとした裁判所の判断は妥当であると考える。
実務においても、一致点に誤認のある拒絶理由通知書は、かなり多いと感じる。そのため、相違点だけに囚われず、一致点にも注意を払うことは重要である。
なお、本願は、差戻し後、相違点3が刊行物に記載されていないとして、すぐに特許審決となった。
以上