預かり物の提示方法、装置およびシステム事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-侵害系
判決日 2015.5.14
事件番号 H26(ネ)10107
担当部 知財高裁第2部
発明の名称 預かり物の提示方法、装置およびシステム
キーワード 構成要件充足性
事案の内容 平成16年10月8日 本件特許権(特許第3604335号)の設定登録

本件特許権を有する控訴人が特許法100条1項、2項に基づき製造等の差止めおよび民法709条に基づき損害賠償を請求
平成26年9月18日 控訴人の請求をいずれも棄却する旨の判決
平成26年9月30日 判決の取り消しを求めて控訴

「一覧出力形式」の用語の意義を課題の記載、意見書および補正書の記載から解釈した点がポイント。

事案の内容

【争点】

ア.被告方法は、本件発明1から3までの各構成要件を文言上充足するか(1-1)

イ.被告装置は、本件発明4から6までの各構成要件を文言上充足するか(1-2)

ウ.被告方法及び被告装置は、本件各発明と均等なものとして、その技範に属するか(1-3)※イ、ウについては省略。

 

【本件発明/被告製品】

(1)預かり物の提示方法とは、

顧客から預かっているクリーニング対象の品物がどのようなものであるかを、コンピュータネットワークを用い、顧客との共有が可能な品物の画像データの形態で提示できるようにした方法(段落【0010】参照)

宅配クリーニング…店側が利用者の自宅やコンビニなどにクリーニング品の集配や配達をするサービス

(2)本件発明

1A クリーニング対象の品物の保管業務における顧客からの預かり物の内容をインターネットを介して顧客に提示する預かり物の提示方法であって、

1B 提示者が利用する第1通信装置により、顧客から預かるべき複数の品物又は顧客から預かった複数の品物の画像データを得て、該複数の品物の画像データを記憶手段に記憶する第1ステップと、

1C 顧客が直接利用するウェブブラウザ機能を備えた第2通信装置から受信するユーザ情報と前記複数の品物の画像データに対応付けて前記記憶手段に予め記憶された認証情報とに基づいて認証を行う第2ステップと、

1D 前記ユーザ情報が前記認証情報と一致する場合に、前記記憶手段に記憶された前記複数の品物の画像データの中から、前記ユーザ情報に対応するものを一覧出力形式で、品物の顧客による識別の用に供すべく、前記第2通信装置へ送信する第3ステップとを有し、

1E 該第3ステップは、品物を識別した顧客の画面上における所定のクリック操作に応じて品物の選択的な返却要求を前記第2通信装置から送信させるようになしたウェブページに、前記品物に対応する画像データを含めて送信する

1F ことを特徴とする預かり物の提示方法。

(3)被告方法

1a 会員が所有又は管理する衣料等を、会員の申込に基づき、クリーニング(溶剤、洗剤等を使用して洗濯すること)やメンテナンスした後に専用クロークで保管する保管業務における、保管中のアイテムの写真をインターネットを介して会員に提示し、

1b 被告が利用する第1の通信装置により、会員から預かった複数のアイテムの画像データを会員からの申込後に得て、該複数のアイテムの画像データを記憶手段に記憶する第1ステップを有し、

1c 上記第1の通信装置により、会員が直接利用するウェブブラウザ機能を備えた第2通信装置から受信するユーザ情報と前記複数のアイテムの画像データに対応付けて前記記憶手段に予め記憶された認証情報とに基づいて認証を行う第2ステップを有し、

1d 上記第1通信装置により、前記ユーザ情報が前記認証情報と一致する場合に、会員画面上で「保管中アイテム一覧」の表示が求められるとき、前記ユーザ情報に対応する保管中アイテムの画像データを一覧出力形式で、アイテムの顧客による識別の用に供すべく、前記通信装置へ送信する第3ステップを有し、

1e 該第3ステップは、アイテムを識別した会員の「お預かりアイテム」メニュー画面上での「返却する」のチェックボックスへのクリック操作に応じて保管しているアイテムの中から選択的な返却要求を前記第2通信装置へ送信させるようになしたウェブページに、保管しているアイテムに対応する画像データを含めて送信する

1f ことを特徴とする、保管アイテムの提示方法。

 

○被告方法は、画像データを「検品済みアイテム」、「保管中アイテム」、「保管期限間近のアイテム」、「返却処理済みアイテム」の4つのカテゴリーに分けてサーバに記録されている。

○被告方法には、平成25年4月29日までのもの(以下「旧被告方法」という。)と、同月30日以降のもの(以下「新被告方法」という。)とがある。

○旧被告方法の場合、選択したカテゴリーについてのみ、カテゴリー内の全ての画像が顧客側へ送信され、新被告方法の場合、当該カテゴリー内の1枚の画像のみが顧客側へ送信される(上図は、新被告方法)。

 

【裁判所の判断】

被告方法及び被告装置は、本件各発明の各構成要件のうち、「一覧出力形式」との構成要件(構成要件1D及び4D)を文言上充足すると認めることができない(争点1-1及び1-2に対する判断)。また、被告方法及び被告装置について、本件各発明と均等なものとして、その技術的範囲に属すると認めることもできない(争点1-3に対する判断)。以下、その理由を説明する。

 

○争点1-1(被告方法は、本件発明1から3までの各構成要件を文言上充足するか)に対する判断

 

以下のとおり、被告方法は、本件発明1から3までの各構成要件のうち、「一覧出力形式」との構成要件(構成要件1D)を文言上充足すると認めることができない。

(1)「一覧出力形式」の意義

ア.本件明細書の記載

本件明細書には、概ね以下の記載がある(甲3)。以下、省略(判決文P44~47)

イ.出願経過

(ア)  P1(原告代表者)は、平成13年10月23日発送の拒絶理由通知に対する意見書(甲15)において、「本願請求の範囲第1項に記載された発明は、···クリーニング後の保管の目的で、顧客が予めクリーニング会社に預けている多数の品物が、どのようなものであったかを忘れてしまったときに、その品物をオンライン上でビジュアルに確認させることを解決課題とする」旨、

「保管業務にあっては、一般のクリーニング業務と異なり、多数の商品を扱うことが通常であり、『複数の』商品の画像データを『一覧出力形式で』顧客に提供することによって、『作用』の欄に記載した通り、顧客は自分が預けている品物の内容を視覚的に認識することができて、その特定が容易であるという効果を奏する」旨述べた。

(イ)P1は、平成14年5月28日発送の拒絶査定に対する手続補正書(乙1)において、本件各発明の構成を採用したことにより、遠隔地の顧客に対し、衣類等のクリーニング対象物の内容を、いつでも画像で視覚的に示すことができるだけでなく、顧客は、預けた対象物の中から所望するものを容易に特定でき、特定した対象物を的確に事業者に知らせることができ、これを通信により実現するので、事業者と顧客との間の速やかな応答が期待できる旨、

本件各発明における提示画像は、預けた品物がどの品物であるかを顧客が識別できるような画像であればよく、全ての画像を必ず記録し、これらの全てを提示することによっても、サービス提供者にとって商取引上不利になるというような問題が生じず、かえって顧客の利便性が向上される旨、

顧客は、サービス提供者からウェブページの形態で送られてくる品物の画像を識別し易い一覧形式で、しかも簡易な構成の通信装置でどこでも見ることができ、このように一覧形式で表示された画像から特定した所望する品物の画像について、画面上で所定のクリック操作をするだけで、容易に品物の選択的な返却要求を提示者側へ返すことができる旨述べた。

ウ.検討

(ア)「一覧出力形式」のうち、「一覧」には、「全体の概略が簡単にわかるようにまとめたもの」(甲14)、「全体が一目で分かるようにしたもの」(乙4)という意味があり、「出力」には、「機器・装置が入力を受けて仕事をし、外部に結果を出すこと」(甲14)、「原動機・通信機・コンピュータなどの装置が入力を受けて仕事または情報を外部へ出すこと」(乙4)という意味があり、「形式」には、「物事を行うときの、則るべき一定の手続きや方法・様式」(甲14)、「事務などを進めるための、文書の体裁や執るべき手続」(乙4)という意味がある。構成要件1Dには、第1通信装置の記憶手段に記憶された複数の品物の画像データの中から、ユーザ情報に対応するものを「一覧出力形式」で、すなわち、全体を一覧できるように、情報を外部へ出す方法で、第2通信装置へ送信する旨が記載されている。ここで、「全体」とは、「ユーザ情報に対応するもの」、すなわち、ユーザ情報に対応する複数の品物の画像データの全てであると読み取ることができる。

(イ)発明が解決しようとする課題、

課題を解決するための手段及び発明の効果において、顧客がどの衣類を預けたか忘れてしまうことがあるが、事業者が預かっている対象物の内容を画像で視覚的に示すことによって、顧客が、預けている衣類を正確に把握でき、その中から、返却を要求したい衣類を事業者に対して容易かつ的確に知らせることができる旨が指摘されており、P1は、本件特許出願の過程で、同様の指摘や補正をしている。

このような目的、作用効果のためには、顧客が、事業者に預けた複数の品物の全ての画像データを特定のウェブページで表示させる操作を1度すれば(ただし、実際の画面表示までに要する出力回数は問わない。)、その後、他のウェブページへのアクセスや同一ウェブページ上で他の画像への切替操作等をすることなく、同一のウェブページ上で全ての画像を閲覧できるように、事業者は当該画像を提示する必要がある。発明の実施の形態においても、預かり物の全ての画像データが読み込まれ、その結果、注文情報データベースから抽出した所定の注文情報と、預かり物画像データベースから読み込んだ衣類の画像データによって生成される「お預かり表」のウェブページに、抽出された全てのレコードに記述されている画像データパスの画像データが表示され、全ての画像データを閲覧することが可能となる。

(ウ)前記(ア)及び(イ)を併せ考えると、「一覧出力形式」とは、「ユーザ情報に対応する複数の品物の画像データを含むように生成されたウェブページとして出力表示された場合、ウェブページに含まれるその画像データの全てが同一ウェブページ上で一時に閲覧できる状態(表示される画像の数や大きさに起因するウェブページのサイズと、ディスプレーや画面の大きさの関係により、全ての画像を閲覧するためにウェブページをスクロールする必要が生じる場合は、それを含む。)で、情報を外部へ出力する方法を意味する」と解される。

 

(2)構成要件1Dに対応する被告方法の構成

証拠(甲6~8、17、乙3)及び弁論の全趣旨によると、被告方法は、別紙被告方法目録記載第2の構成を備えていると認めることができる。これによると、被告方法では、各画像データが「保管中アイテム」等のカテゴリー(※1)に分けられてサーバに記録されており、顧客があるカテゴリーのボタンをクリックすると、旧被告方法の場合、当該カテゴリーについてのみ、カテゴリー内の全ての画像が顧客側へ送信され、新被告方法の場合、当該カテゴリー内の1枚の画像のみが顧客側へ送信される(※2)。

(3)被告方法の構成要件1Dへの充足性

そうすると、被告方法は、ユーザ情報に対応する複数の品物の画像データの全てが一覧できる状態で、情報を外部へ出す方法をとっておらず、「一覧出力形式」との構成要件(構成要件1D)を充足しない。したがって、被告方法は、本件発明1から3までの構成要件を文言上充足すると認めることができない。

(※1)「検品済みアイテム」「保管中アイテム」「保管期限間近のアイテム」「返却処理済みアイテム」にそれぞれ分かれてサーバに記録されている。

(※2)平成25年4月29日までのもの(以下「旧被告方法」という。)と、同月30日以降のもの(以下「新被告方法」という。)とがある。

○結論

以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求にはいずれも理由がない。よって、主文のとおり判決する。

【所感】

本判決の判断は、新被告方法については止むを得ないと考えられる。なぜなら、「一覧出力形式」の解釈について、原告は、「顧客がどの衣類を預けたか忘れてしまうことを防止するために顧客が預けている衣類を正確に把握するには、預けた衣類の画像データの全てが同一ウェブページ上で一時に閲覧できる状態である」ことが必要である旨、本件特許出願の過程において同様の指摘や補正をしているからである。しかし、旧被告方法については、本判決の判断は、妥当でないと考えられる。なぜなら、旧被告方法では、控訴人が主張しているように、構成要件1Dの充足性の判断は、「保管中のアイテム」についてのみ判断すれば足りると考えるからである。侵害による差止等を請求する際には、構成要件の充足性について、よく検討したうえで行うべきだと感じた。