電気コネクタ組立体事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-審取(当事者係)
判決日 2015.5.12
事件番号 H26(行ケ)10237
担当部 知財高裁第2部
発明の名称 電気コネクタ組立体
キーワード 用語の意義
事案の内容 特許無効審判を不成立とした審決の取消訴訟であり、新規性、進歩性および明確性要件の判断の当否を争点とし、原告の請求が棄却(特許維持)された事案。
特許発明における用語の意義を、明細書の記載から導き出される特許発明の技術思想に基づいて解釈すべきと判断した点がポイント。

事案の内容

<本件発明>

特許第5362931号

【請求項3】

(理解の容易化のため誤記修正および符号追加を施した。)

下線は訂正箇所を示し、二重下線は争点に関係する箇所を示す。)

(A)ハウジングの周面に形成された嵌合面で互いに嵌合接続されるケーブルコネクタ(10)とレセプタクルコネクタ(50)とを有し,嵌合面が側壁面(20)とこれに直角をなし前方に位置する端壁面(15)とで形成されており,ケーブルコネクタ(10)が後方に位置する端壁面(12)をケーブル(C)の延出側としている電気コネクタ組立体において,

(B)ケーブルコネクタ(10)は,突部前縁(21′A)と突部後縁(21′B)が形成されたロック突部(21′)を側壁面(20)に有し,レセプタクルコネクタ(50)は,前後方向で該ロック突部(21′)に対応する位置で溝部前縁(57A)と溝部後縁(57′B)が形成されたロック溝部(57′)を側壁面(53)に有し,該ロック溝部(57′)には溝部後縁(57A’)から溝内方へ突出する突出部(59′)が設けられており,ケーブルコネクタ(10)は,前方の端壁面(15)に寄った位置で側壁(20)に係止部(22)が設けられ,レセプタクルコネクタ(50)は,前後方向で上記係止部(22)と対応する位置でコネクタ嵌合状態にて該係止部(22)と係止可能な被係止部(60)が側壁に設けられており,

(C)コネクタ嵌合過程にて上記ケーブルコネクタ(10)の前端がもち上がって該ケーブルコネクタ(10)が上向き傾斜姿勢にあるとき,上記ロック突部(21′)の突部後縁(21′B)の最後方位置が,上記ケープルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢にあるときと比較して前方に位置し,上記ロック突部(21′)が上記ロック溝部(57′)内に進入して所定位置に達した後に上記上向き傾斜姿勢が解除されて上記ケーブルコネクタ(10)が上記コネクタ嵌合終了姿勢となったとき,上記ロック突部(21′)の突部後縁(21′B)の最後方位置が上記突出部(59′)の最前方位置よりも後方に位置し,

(D)該ケーブルコネクタ(10)が後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたとき,上記ロック突部(21′)が上記抜出方向で上記突出部(59′)と当接して,上記ケーブルコネクタ(10)の抜出が阻止されるようになっていることを特徴とする電気コネクタ組立体。

【裁判所の判断】

イ 「ロック突部の突部後縁の最後方位置」の意義(判決P.28 l.18~)

以上の記載を前提に,本件発明3における「ロック突部の突部後縁の最後方位置」の意義を検討する。

まず,本件発明3において,ケーブルコネクタの側壁にあるロック突部は,ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタの嵌合に至るまでの過程を経て,その突部後縁の最後方位置が,コネクタ嵌合終了姿勢において,レセプタクルコネクタにあるロック溝部の突出部の最前方位置よりも後方の位置となり,ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとすると,ロック突部がロック溝部の突出部と当接することで,抜出しを防止するものである。コネクタ嵌合過程において,ロック突部がロック溝部の突出部と当接すると,ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタを嵌合させることができないから,コネクタ嵌合過程において,ロック突部はロック溝部の突出部に当接しないことが必要であり,「ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が,上記ケーブルコネクタがコネクタ嵌合終了姿勢にあるときと比較して前方に位置」も,これに沿うように解釈する必要がある。また,「ロック突部の突部後縁の最後方位置」が「突出部の最前方位置よりも後方に位置」することで,ケーブルコネクタの抜出が阻止されることも必要であるから,これに沿うように解釈する必要もある。

そうすると,ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタを嵌合させるためには,ロック突部の全体が,コネクタ嵌合過程において,常に,ロック溝部の前縁突出部の最後方位置と後縁突出部の最前方位置の間になければ,すなわち,ロック溝部の前後方向の最小溝幅(B)より上向き姿勢の突部前縁と突部後縁との距離(A’)が短くなければ,当該ロック溝部の突出部がロック溝部に進入できなくなる。したがって,少なくとも,コネクタ嵌合過程において,ロック突部が嵌入の支障にならないためには,溝部の後縁突出部の最前方位置との関係では,上向き傾斜姿勢時におけるロック突部の最後方位置が問題となるのであって,「コネクタ嵌合過程にて上記ケーブルコネクタの前端がもち上がって該ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置」における「上記ロック突部の突部後縁の最後方位置」は,上向き傾斜姿勢時におけるそれを指すことになる。その後,嵌合過程におけるロック突部の最後方位置が,嵌合終了姿勢時におけるそれよりも前方にあることは,嵌合終了後の抜出しを防止するための要件であるが,ロック突部の形状によっては,嵌合過程において最後方位置となるロック突部の特定の部位が,嵌合終了時において最後方とならない場合がある。この点に関して,明細書の記載によれば,本件発明3では,ロック突部の水平姿勢時の前後方向距離A,上向き傾斜姿勢時の前後方向距離A’,ロック溝部57’の前後方向の最小溝幅の距離Bの関係は,距離A’<距離B<距離Aとされる。すなわち,本件発明3は,ロック突部の水平姿勢時における前後方向距離(A),ロック溝部の前後方向の最小溝幅(B)の大小関係によって,ロック突部の形状を利用して,レセプタクルコネクタを水平姿勢時に移転させた際に,溝部における突出部が作った空間にロック突部の1箇所が嵌るようにして,垂直方向への抜出しを防止するものである。したがって,本件発明3は,嵌合終了姿勢時において,ロック突部の少なくとも1箇所が突出部の最前方位置よりも後方に配置されていれば,上方向への抜出しを阻止することが可能であるという技術思想を示すものであり,「上記ロック突部の突部後縁の最後方位置」もこれに基づいて解釈すべきであって,嵌合終了姿勢時における「上記ロック突部の突部後縁の最後方位置」という要件は,ロック突部において,ロック突部の突部後縁の他のいずれの位置よりも後方にある位置,すなわち,ロック突部の突部後縁の最も後方となる位置を指すものというべきである

(中略)

以上によれば,本件発明3における「最後方位置」とは,ロック突部の上向き傾斜姿勢時と嵌合終了姿勢時において異なる位置を指すというべきであり,これを統一的に説明するとすれば,嵌合過程における各時点におけるロック突部の突部後縁の最も後方となる位置を意味すると解するのが相当である。

【所感】

本件は、請求項に記載されていた用語である「最後方位置」の解釈が問題となった事案である。なお、本件発明では、出願当初から請求項に「最後方位置」との用語が用いられている。

「最後方位置」という用語は、一般的な辞書に掲載されていなが、一般的に使用される用語であると言える。「最後方位置」自体の意味は明確であるが、本件発明では、その使い方に問題があり、このような争いを招いてしまっている。本件のように動きの要素を含む発明の場合には、位置に関する記載が不明確とならないように注意する必要がある。