電子計算機のインターフェースドライバプログラム事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-審取(査定係)
判決日 2012.03.28
事件番号 H23(行ケ)10269
担当部 知財高裁第2部
発明の名称 電子計算機のインターフェースドライバプログラム及びその記録媒体
キーワード 進歩性
事案の内容 拒絶査定不服審判で進歩性なしとして拒絶審決を受けた出願人が取り消しを求め、請求が認容されて拒絶審決が取り消された事案。
引用発明との構成および機能の相違から本願発明の進歩性を認めた点がポイント。

事案の内容

・本願(特願2001-136135号)

[請求項1(審判請求時の補正によるもの、下線は争点に関連する箇所)]

複数のデバイスが接続され,OSによって制御されている電子計算機の前記複数のデバイスの間にデータを送受信するとき,前記送受信を制御する手段として前記電子計算機を機能させる電子計算機用インターフェースドライバプログラムにおいて,

前記デバイスには前記デバイスを制御するためのデバイスドライバが存在し,

前記デバイスは,第1デバイスと第2デバイスからなり,

前記第1デバイスを制御する第1デバイスドライバが存在し,

前記第2デバイスを制御する第2デバイスドライバが存在し,

前記OSには,前記OSを操作するための全命令が実行できるカーネルモード及び前記全命令の一部しか実行できないユーザモードの動作モードがあり,

前記電子計算機用インターフェースドライバプログラムは,前記電子計算機で動作するアプリケーションプログラムから出される命令によって前記デバイス間にデータの送受信を行うとき,前記アプリケーションプログラムから前記デバイスドライバへのデータ又は命令の送受信を行うための共通のインターフェース手段として前記電子計算機を機能させるプログラムであり

更に,前記電子計算機用インターフェースドライバプログラムは,前記カーネルモードで動作し,かつ,

前記アプリケーションプログラムからの命令を受信し命令実行結果を前記アプリケーションプログラムに通知するためのアプリケーションインターフェース手段

前記第1デバイスドライバから受信データを取り込むための第1インターフェース手段

前記第2デバイスドライバへ送信データの送信を行うための第2インターフェース手段,及び,

前記受信データを処理して前記送信データを作成し,前記送信データを前記第2インターフェース手段に渡すためのデータ処理手段

として前記電子計算機を機能させるプログラムである

ことを特徴とする電子計算機のインターフェースドライバプログラム。

 

・審決の要旨

相違点1:引用例(特開平10-283195号、甲1)には,OSによって制御されている電子計算機の複数のデバイスの間にデータを送受信するとき,制御エージェントは,第1のデバイスドライバ,リーダ・ドライバ,デコンプレッサ・ドライバ,効果フィルタ及び第2のデバイスドライバの相互接続を行い,ストリーム読取りと書込みを出し,第1のデバイスドライバからのデータの送信から第2のデバイスドライバでのデータの受信までをカーネルモードで実行し,処理の終了の通知を受けることについては記載があるが,上記本願発明の構成について明確な記載がない。

オペレーティングシステムにおいて,アプリケーションプログラムなどのクライアントプロセスとのインターフェース手段(本願発明の「アプリケーションインターフェース手段」に相当。),第1のドライバとのインターフェース手段(本願発明の「第1インターフェース手段」に相当。)及び第2のドライバとのインターフェース手段(本願発明の「第2インターフェース手段」に相当。)を有し,クライアントプロセスからの入出力要求を受け取ると,ドライバにその入出力要求を渡し,ドライバが処理した結果を受け取り,その結果をクライアントプロセスへ戻すという制御を行い,また,ドライバ間の通信制御を行う,カーネルモードで動作するI/Oマネージャは,例えば,国際公開98/47074号(甲2)の7頁28行~10頁4行及びFig.1滝口政光「超初心者のためのWindows NT デバイスドライバ入門」Interface1999年6月号(甲4)の95頁~102頁に記載されているように周知である。そして,上記周知技術の「I/Oマネージャ」は,本願発明の「電子計算機用インターフェースドライバプログラム」に相当する。

 

【裁判所の判断】

1.本願発明について(判決文を参照)

2.引用発明について(判決文を参照)

3.取消事由1(一致点認定の当否)について(略)

4.取消事由2(相違点1に関する判断の当否)について

本願発明は,複数のデバイスの間におけるデータの送受信を制御する手段として「電子計算機用インターフェースドライバプログラム」の構成を採用したものであり,第1デバイスと第2デバイス,これらに対応する第1デバイスドライバと第2デバイスドライバを構成に含むものである。

これに対し,国際公開98/47074号(甲2,翻訳文は甲3)及び滝口政光「超初心者のためのWindows NT デバイスドライバ入門」Interface1999年6月号(甲4)によれば,これらの文献には,カーネルモードで動作するファイルシステムドライバ,中間ドライバ,デバイスドライバが階層を形成し,I/Oマネージャが,それら階層化されたドライバ間のデータの受渡しを仲介する技術が開示されているもののそこで示されるドライバは,電子計算機に接続された同じデバイスに対する入出力要求を処理するために階層化されているものでありこのような階層化されたドライバが一体となって対応する各別のデバイス相互の関係に相当するものではないしさらにその複数のデバイスを制御するそれぞれのデバイスドライバ相互の関係を示すものではない。これらの文献には,複数のデバイスの間におけるデータの送受信を制御するに際し,I/Oマネージャにアプリケーションプログラムからデバイスドライバへのデータの送受信を行うための共通のインターフェース手段として電子計算機を機能させる技術は開示されていない。

そうすると,甲2文献及び甲4文献に開示されたI/Oマネージャは,複数のデバイスの間におけるデータの受渡し(送受信)を仲介(制御)するものではないから,本願発明の「電子計算機用インターフェースドライバプログラム」には相当せず,このようなI/Oマネージャを引用発明に適用したとしても,相違点1に係る本願発明の構成には至らない

また,引用発明は,上記2で認定したとおり,ユーザモードで動作する制御エージェントが複数のソフトウェア・ドライバ(デバイスドライバに相当する。)を相互接続するものであり,かつ,各ソフトウェア・ドライバ自体に,ドライバを接続するための「接続ピン・インスタンス」を形成し,これによりソフトウェア・ドライバを相互接続するという方式を採用するものである。被告は,引用例において,ソフトウェア・ドライバを相互接続する際にI/OマネージャやIRP[1]を用いてデータを伝送する具体例が記載されている旨主張するがその具体例においても,ユーザモードで動作する制御エージェントにより相互接続が行われるのであって,I/Oマネージャが制御エージェントに代替し得る関係にはない。そうすると,このようなユーザモードで動作する制御エージェントや「接続ピン・インスタンス」の形成による相互接続に代えて,カーネルモードで動作する本願発明の「電子計算機用インターフェースドライバプログラム」に相当する構成を採用することが,当業者にとって容易に想到し得るとはいい難い

 

【所感】

審決で例示された周知技術(甲2,甲4)を引用発明に適用することによる容易相当性に関し、裁判所の判断は妥当であると考える。なお、本願については、審判に差し戻された後、特許審決となった。

しかしながら、引用例には、ユーザモードとカーネルモードとの切り替えを抑制するという課題を解決するために、従来ユーザモードで動作させていた機能をカーネルモードで動作させる技術思想が開示されており、引用例における制御エージョントの制御機能の一部を、カーネルモードで動作する機能に変更することは、当業者にとって容易であると考えた場合にも、同様に進歩性が認められるのか興味がある。



[1] IRP:I/O Request Paket、OSがドライバと通信するために送信するデータ