遊技機事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-審取(当事者係)
判決日 2012.7.4
事件番号 H23(行ケ)10313
発明の名称 遊技機
キーワード 容易想到性
事案の内容 特許無効審判の請求は成り立たないとした審決の取消しを求めた事案。原告の請求は棄却された。
「原告は,本件訂正発明2と引用例2との上記相違につき,引用例3を考慮すれば容易に想到することができる旨主張するが,そこでは2段階の容易想到性が問題になることから,これにより,当業者が,上記相違点4に係る本件訂正発明2の構成を得ることが,容易であるとはいえない。」と判示された点がポイント。

事案の内容

【特許請求の範囲】

特許第4149759号(請求項1は訂正により削除)

・本件訂正発明2(下線は訂正箇所。符号は筆者が付した。)

「【請求項2】

扉体基体16と,

前記扉体基体16の両側部に設けられる一対の側面保持部材50と,

前記側面保持部材50に上下方向に所定間隔で連続して配置された複数の光源110と,

前記側面保持部材50に設けられ,前面の角部を除く位置の長手方向に溝部53を備えた側面保持部材被覆部材51と,

前記光源110と前後方向に対向する位置であって,前記溝部53に埋設され,前記光源110を被覆する前記溝部53に沿って連続して設けられる断面矩形状([0072])の棒状の透光レンズ100を備え,電飾演出を実行する電飾表示手段202と,

を有した遊技機筐体12に開閉自在に設けられる扉体14を備え,

前記側面保持部材被覆部材51は,前記側面保持部材被覆部材51の前記前後方向の前端部が前記溝部53に埋設された前記透光レンズ100の前記前後方向の前面よりも前側に構成され,

前記溝部53は,前記透光レンズ100が嵌合可能であり,前記溝部53の中心底部には,前記溝部53に沿って,正面視で見た場合の左右方向の幅が前記溝部53の左右方向の幅よりも小さ前記複数の光源110を実装した基板が嵌合可能である溝状の開口部55が形成され,

記透光レンズ100は,前記透光レンズ100の一辺の裏面前記光源110の近傍に延出し前記光源110と対向するように配置され,前記透光レンズ100の前面が前記側面保持部材被覆部材51の表面に配置されていることを特徴とする遊技機」

 

【審決の理由の要旨】

《1》訂正事項1及び2は明瞭でない記載の釈明に該当し,明細書に記載した事項の範囲においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないから,本件訂正は,訂正要件を満たし,

《2》本件訂正発明2は,下記アないしオの引用例1ないし5に記載された発明及び周知技術等に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない,

《3》本件訂正発明3ないし5についても,同様の理由で当業者が容易に発明をすることができたものではない。

 

【原告主張の取消事由】

(1) 訂正の適否に係る判断の誤り(取消事由1)・・・本レジュメでは省略

(2) 容易想到性に係る判断の誤り(取消事由2)

 

【裁判所の判断】

1 本件訂正発明について

(2) 上記認定によれば,本件訂正発明は,遊技機の角部にレンズを設けた場合に,ぶつけるなどして割れを生じてしまうことを防止するために,側面保持部材被覆部材の角部を除く位置に透光レンズが嵌合可能な溝部を設け,この溝部に透光レンズを埋設すると共に,透光レンズの前面よりも前記側面保持部材被覆部材の前端部が前側になるようにした遊技機を提供するものということができる。

 

3 取消事由2(容易想到性に係る判断の誤り)について

(3) 一致点及び相違点の認定の誤りについて

(ア) 一致点:扉体基体6と,前記扉体基体の両側部に設けられる一対の側面保持部材18と,側面保持部材18に配置された光源32と,前記側面保持部材18に設けられた側面保持部材被覆部材31と,電飾手段32と,を有した遊技機筐体に開閉自在に設けられる扉体6を備えた遊技機である点

 

(イ) 相違点1:本件訂正発明2は,「側面保持部材に上下方向に所定間隔で連続して配置された複数の光源」を有したものであるのに対し,引用例1に記載された発明は,保持部(本件訂正発明2の「側面保持部材」に対応する部分)に光源が設けられているものの,当該「光源」が「上下方向に所定間隔で連続して配置された複数の光源」で構成されているか不明である点

 

(ウ) 相違点2:本件訂正発明2は,「側面保持部材に設けられた側面保持部材被覆部材」が「前面の角部を除く位置の長手方向に溝部を備え」ているのに対し,引用例1に記載された発明は,上記構成を有しない点

 

(エ) 相違点3:本件訂正発明2は,「光源と前後方向に対向する位置であって,溝部に埋設され,前記光源を被覆する前記溝部に沿って連続して設けられる断面矩形状の棒状の透光レンズを備え」たものであるのに対し,引用例1に記載された発明は,上記構成を有しない点

 

(オ) 相違点4:本件訂正発明2は,「側面保持部材被覆部材は,前記側面保持部材被覆部材の前後方向の前端部が溝部に埋設された透光レンズの前記前後方向の前面よりも前側に構成され」たものであるのに対し,引用例1に記載された発明は,上記構成を有しない点

 

(カ) 相違点5:本件訂正発明2は,「溝部には,前記透光レンズが嵌合可能であり,前記溝部の中心底部には,前記溝部に沿って,正面視で見た場合の左右方向の幅が前記溝部の左右方向の幅よりも小さく複数の光源を実装した基板が嵌合可能である溝状の開口部が形成され」たものであるのに対し,引用例1に記載された発明は,上記構成を有しない点

 

(キ) 相違点6:本件訂正発明2は,「透光レンズは,前記透光レンズの一辺の裏面が光源の近傍に延出し前記光源と対向するように配置され,前記透光レンズの前面が側面保持部材被覆部材の表面に配置されている」ものであるのに対し,引用例1に記載された発明は,上記構成を有しない点。

 

(ク) 相違点7:本件訂正発明2は,光源及び透光レンズを備えた側面指示部材被覆部材からなる電飾手段が「電飾演出を実行する電飾表示手段」であるのに対し,引用例1に記載された発明は,電飾手段(光源及び光透光性樹脂の成型品からなる縁取り部材)が電飾演出を実行するものか不明な点

 

(5) 相違点2ないし6(相違点A)の判断の誤りについて

ア 引用例2ないし4の適用の可否

(ア) 引用例2について

引用例1は遊技機に関するものであり,遊技機における発光装置は音響等とともに遊技客を引きつけるための演出装飾効果の一環をなすもので,発光色,発光タイミング及び発光強度等を変化させること等の発光の装飾性が要求されるもので,光源を設けることにより,縁取り部材の内面側から照明して独特の装飾効果を得るスロットマシンの発明である。これに対し,引用例2の発光装置では,ムラのない発光が得られる発光装置であって,発光の高度な均一性が要求されるものの,発光の装飾性は必要とされないものである。

このように,引用例1に記載された発明と引用例2に記載された発明とは,発光装置という点では共通するものの,独特の装飾効果とムラのない発光という点で異なることから,そのために必要とする構成も自ずと異なる。したがって,使用する分野,課題及び目的等が相違する引用例2を,引用例1に記載された発明に適用する動機付けがない。

 

(イ) 引用例3について

・・・,引用例1記載の発明と引用例3記載の発明は,その技術分野と課題が相違する。しかも,引用例3は,レンズの損傷を防止するものではなく,モールが設けられているフロントフェンダからドアパネルの損傷を防止するものであり,レンズの損傷を防止する本件訂正発明2とは異なり,レンズの衝撃力による損傷をモールにより防止するという技術思想が引用例3に開示又は示唆されているとはいえない。

 

(ウ) 引用例4について

引用例1は,スロットマシンに用いられる装飾効果を得るための光源であるのに対し,引用例4に記載された発明は,例えばレベルメータ等に用いられる発光表示装置であるから,技術分野においても同一とまではいえない。・・・また,引用例4には,棒レンズの破損を防止する点についても記載されていないことから,引用例4に記載された発明を引用例1に記載された発明に適用する動機付けがない。

 

(エ) 以上のとおり,引用例1に記載された発明に,引用例2ないし4に記載された発明を適用する動機付けがないから,本件訂正発明2は,引用例1に記載された発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

 

イ なお,仮に,引用例1に記載された発明に,引用例2ないし4に記載された事項を適用したとしても,以下のとおり,本件訂正発明2に係る構成を想到することは,容易とはいえない。

 

(ア) 相違点4について

引用例2の上記(4)ア(イ)(ウ)(オ)の記載によれば,レンズホルダの前後方向の前端部は,棒状レンズの前面よりも後側に構成されていることから,引用例2には,「レンズホルダは,前記レンズホルダの前後方向の前端部が溝部に埋設された棒状レンズの前記前後方向の前面よりも後側に構成されたもの」が記載されている。

そして,引用例2に記載された「レンズホルダ」は,その溝部にレンズを埋設するレンズ埋設手段である限りにおいて,本件訂正発明2の「側面保持部材被覆部材」に相当し,同じく「棒状レンズ」は,本件訂正発明2の「透光レンズ」に相当するから,引用例2と本件訂正発明2とは,透光レンズは溝部に埋設されるものの,側面保持部材被覆部材の前後方向の前端部が,本件訂正発明2では,透光レンズの前端部よりも前側に構成されるのに対し,引用例2では後側に構成される点で異なる。そして,本件訂正発明2は,側面保持部材被覆部材の前後方向の前端部が透光レンズの前端部よりも前側に構成されることにより,透光レンズの損傷を防止するという効果があることから,本件訂正発明2と引用例2との上記相違を設計的事項ということはできない。

なお,原告は,本件訂正発明2と引用例2との上記相違につき,引用例3を考慮すれば容易に想到することができる旨主張するが,そこでは2段階の容易想到性が問題になることから,これにより,当業者が,上記相違点4に係る本件訂正発明2の構成を得ることが,容易であるとはいえない。

 

(イ) 相違点5について

・・・

したがって,引用例2には,「溝部には,前記透光レンズが嵌合可能であり,前記溝部の中心底部には,前記溝部に沿って,正面視で見た場合の左右方向の幅が前記溝部の左右方向の幅よりも小さく複数の光源が嵌合可能である溝状の開口部が形成され」ることが記載されているが,「複数の光源を実装した基板が嵌合可能である溝状の開口部が形成され」ることは,記載されていない。

また,引用例2の上記(4)ア(イ)に記載されたLEDチップが設けられる長尺状基板は,図6によれば,長尺状基板の上にレンズホルダが設けられていることから,LEDチップが嵌合可能である溝状の開口部に長尺状基板は嵌合可能であるとはいえない。そして,「複数の光源を実装した基板が嵌合可能である溝状の開口部が形成され」ることを示す証拠はない。

したがって,引用発明に引用例2を適用したとしても,上記相違点5に係る本件訂正発明2の構成を得ることはできない。

 

4 結論

以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。

 

【所感】

 裁判所は、本判決において、「原告は,本件訂正発明2と引用例2との上記相違につき,引用例3を考慮すれば容易に想到することができる旨主張するが,そこでは2段階の容易想到性が問題になることから,これにより,当業者が,上記相違点4に係る本件訂正発明2の構成を得ることが,容易であるとはいえない。」と判示した。

つまり、主引例に、技術分野の異なる引例を段階的に適用しなければならない場合にはその発明は進歩性有りとの判断を示したことになる。

よって、中間処理等の実務において、3以上の引例によって進歩性を否定された場合には、本判決を引用することで、拒絶が解消できる場合もあり得ると考える。