遊技機事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-審取(査定係)
判決日 2013.12.10
事件番号 H25(行ケ)10016
担当部 知財高裁 第4部
発明の名称 遊技機
キーワード 進歩性
事案の内容  拒絶査定不服審判で進歩性無しとして拒絶審決を受けた出願人が取り消しを求め、請求が認容されて拒絶審決が取り消された事案。
 引用例2の実施例の内容に基づき、引用例2に開示されている技術的事項を理解して、引用例2には、本願発明と引用発明1との相違点に関する全ての技術的事項の開示があるといえない、と認定された点がポイント。

事案の内容

【出訴時クレーム】(下線は担当が付与)

【請求項1】

 遊技領域が形成され,当該遊技領域に向けて遊技媒体が打ち込まれる遊技盤と,前記遊技盤の遊技領域に配置され,遊技領域に向けて打ち込まれた遊技媒体を受け入れ可能な第1始動口と,

 前記遊技領域に向けて打ち込まれた遊技媒体が前記第1始動口に受け入れられたことを検出する第1始動検出手段と,

 前記第1始動検出手段による遊技媒体の検出に基づいて抽選を行う第1抽選手段と,

 前記第1抽選手段による抽選結果の導出を第1所定数の範囲内で留保する第1留保手段と,

 前記第1抽選手段による抽選結果を一つの図柄または一つの図柄群によって導出可能な図柄表示領域,および,前記第1留保手段における留保状態を表示可能な留保表示領域を少なくとも有する演出表示手段と,

 少なくとも前記第1留保手段による留保関連情報が前記留保表示領域に表示されるよう制御する留保表示制御手段を有する演出表示制御手段と,

前記第1抽選手段による抽選に当選したことに基づいて遊技者に所定の遊技価値を付与可能となる特別遊技を実行する特別遊技実行手段と,

 を備える遊技機であって,

 さらに,

 前記遊技盤の遊技領域に配置され,遊技領域に向けて打ち込まれた遊技媒体を受け入れ可能な第2始動口と,

 前記遊技領域に向けて打ち込まれた遊技媒体が前記第2始動口に受け入れられたことを検出する第2始動検出手段と,

 前記第2始動検出手段による遊技媒体の検出に基づいて抽選を行う第2抽選手段と,

 前記第2抽選手段による抽選結果の導出を第2所定数の範囲内で留保する第2留保手段と,

 を備え,

 前記特別遊技実行手段は,

 前記第2抽選手段による抽選に当選したときにも,遊技者に所定の遊技価値を付与可能となる特別遊技を実行するものであり,

 前記留保表示制御手段は,

 前記第1留保手段による留保数がゼロであって且つ前記第2留保手段による留保数がゼロのときは,前記第1留保手段及び前記第2留保手段のいずれもが,それぞれの抽選結果の導出を前記第1所定数及び前記第2所定数の範囲内で留保するものであるにもかからず,前記第1留保手段による留保上限情報と前記第2留保手段による留保上限情報とのうち前記第1留保手段による留保上限情報のみを表示すべく,前記第1所定数に対応する数の第1空表示態様を一列に並べて表示する第1空表示制御手段と,

 前記第1留保手段による留保数がゼロであって且つ前記第2留保手段による留保数がN(1≦N≦第2所定数を満たす整数)であったとしても,前記第2留保手段による留保上限情報を表示することなく,前記第2留保手段により留保されていることを示す第2留保表示態様を,前記一列に並べて表示された前記第1空表示態様の最も端の位置からN個並べて表示する第2留保数情報表示制御手段と,

 を有し,

 前記第1留保手段による留保数がゼロであって且つ前記第2留保手段による留保数がゼロの状態において前記第2始動検出手段により前記遊技媒体が検出されたとき,前記最も端の位置に表示された前記第1空表示態様に代えて前記第2留保表示態様を,前記第2留保数情報表示制御手段により表示し,該表示された前記第2留保表示態様に続いて前記第1所定数に対応する数の前記第1空表示態様を,前記第1空表示制御手段により並べて表示する

 ことを特徴とする遊技機。

 

【取り消し事由】

 本願発明の容易想到性に係る判断の誤り

 

【審決が認定した引用発明1との相違点】

・相違点1

 「前記第1留保手段による留保数がゼロであって且つ前記第2留保手段による留保数がゼロのとき」,「空表示制御手段」が,本願発明では「第1留保手段による留保上限情報のみを表示す」るのに対し,引用発明1では「第1留保手段による留保上限情報」に加えて「第2留保手段による留保上限情報」をも表示する点。

 

・相違点2

 「前記第1留保手段による留保数がゼロであって且つ前記第2留保手段による留保数がN(1≦N≦第2所定数を満たす整数)であ」るとき,第2留保数情報表示制御手段が,本願発明では,「前記第2留保手段による留保上限情報を表示することなく,」「第2留保表示態様を,前記一列に並べて表示された前記第1空表示態様の最も端の位置からN個並べて表示する」のに対し,引用発明1では,そのような表示を行わない点。

 

・相違点3:略

 

【審決が認定した引用例2に記載された技術的事項】

・技術的事項A

「第1留保手段による留保上限情報と第2留保手段による留保上限情報とのうち前記第1留保手段による留保上限情報のみを表示すべく,前記第1所定数に対応する数の第1空表示態様を一列に並べて表示する第1空表示制御手段」

 

・技術的事項B

「前記第2留保手段による留保上限情報を表示することなく,第2留保表示態様を,前記一列に並べて表示された前記第1空表示態様の最も端の位置に表示する」という技術的手段

 

【裁判所の判断】(下線は担当が付与)

1.本願発明について:略

2.引用例1の記載について:略

3.相違点に係る判断について:

(1)引用発明2について

ア.引用例2の記載について

 ・・・略・・・

 図柄表示装置は,特別図柄を表示する特別図柄表示部と,保留表示を行う保留表示部とを有する。特別図柄表示部では,特別図柄作動口への打球の入賞に基づいて特別図柄が変動を行い,所定時間後に停止するといった変動態様が表示される。また,保留表示部では,第一の特別遊技に係る保留については「1」が,第二の特別遊技に係る保留については「2」が,第一の特別遊技に係る保留が上限に達していない場合にはその数だけ「予」が表示される。保留表示部は,画像表示装置と別の装置で構成してもよい(段落【0037】)。

 ・・・略・・・

 最初の図柄作動口への入賞に基づく図柄変動が終了し,次の保留に係る処理,すなわち,図柄作動口への入賞に基づく図柄変動が始まる。当該変動中に,大入賞作動口→図柄作動口→図柄作動口→図柄作動口の順で入賞があるが,大入賞作動口への入賞に関しては,既に大入賞作動口の入賞に基づく保留が存在するので,当該入賞に基づく保留は行われず,残りの入賞について保留される。【図13】(2)では,2番目の図柄作動口への入賞に基づく特別図柄の変動がまだ行われており,他方,保留に関しては,入賞順に,2→1→1→1→1と表示されている。ここでは,同(1)と異なり,図柄作動口の入賞に基づく保留は上限に達したので,まだ保留が可であることを意味する「予」は表示されていない(別紙3の【図13】,段落【0050】)。

 

  イ.相違点1ないし3について

() 前記アの引用例2の記載(略)によれば,引用発明2は,第一種の遊技と第二種の遊技とが行われる遊技機であり,これらの遊技が行われる順番について遊技者が把握できるようにする発明であるということができる。

 

() 引用発明2において,遊技が行われる順番について遊技者が把握できるようにするためだけであれば,第一種の遊技と第二種の遊技の行われる順番を表示すれば足りるが,引用例2には,保留に関する残りの上限数である「予」を併せて表示することも記載されている(略)。

 しかし,引用発明2は,第一種の遊技と第二種の遊技の2種類の変動表示ゲームの確定タイミングに時間差を設け,遊技者が同時に行われる複数の変動表示ゲームの結果を気にすることなく,わかりやすいゲーム進行が可能な遊技機を提供するとを目的としており発明の効果としては,第一の特別遊技に関連した識別情報の変動と,第二の特別遊技に関連した可変大入賞口の開閉が同時に達成することがないので,双方の遊技を存分に楽しむことが可能になること,第一の入賞口への入賞に基づく保留と第二の入賞口の入賞に基づく保留が,保留記憶手段に記憶されたことが一目瞭然なので,遊技者は保留状態を即座に把握できるとともに,これを受け,保留状況に応じた最適な遊技を行うことが可能になることが挙げられている

 また,第二種の遊技の留保について保留可能な上限に達していない場合に,第一種の遊技と異なって,「予」といった表示を行わない理由については,何らこれを示唆する記載はないが,引用例2に記載された実施例については,第一種の遊技の留保数は4個であるのに対し,第二種の遊技の留保数は1個であることからすると,引用発明2は,これを前提として,第一種の遊技については,保留可能な上限を「予」という形で示す必要があるが,第二種の遊技については,留保数は1 個しかないので,留保状態だけを表示することにすれば,遊技者は第二種の遊技の留保状態について確実に把握できることを前提としたものであり,第一種の遊技と異なって,あえて第二種の遊技について留保の上限を表示しないことにしたものではないと理解することができる

そうすると,本件審決が認定した技術的事項Aについては,「第一留保手段による留保上限情報」について,「前記第1所定数に対応する数の第1空表示態様を一列に並べて表示する第1空表示制御手段」が記載されているということはできるが,引用例2の記載から,「第1留保手段による留保上限情報と第2留保手段による留保上限情報とのうち前記第1留保手段による留保上限情報のみを表示すべく」という技術的事項が開示されていると認めることはできない

 また,技術的事項Bについては,「第2留保表示態様を,前記一列に並べて表示された前記第1空表示態様のもっとも端の位置に表示する」ことが記載されているということができるが,「前記第2留保手段による留保上限情報を表示することなく,」という技術的事項が開示されていると認めることはできない

 

() さらに,引用発明1は,2種類の第一種の遊技について,確定タイミングに時間差を設け,遊技者が同時に行われる複数の変動表示ゲームの結果を気にすることなく,わかりやすいゲーム進行が可能な遊技機を提供することを目的としており,変動表示装置は,2種類の変動表示ゲームについて,いずれも,留保上限情報と現在の留保状態の有無と数を明示するものであり,本願発明のように,第2留保手段による留保上限情報をあえて表示しないことにより,遊技者から見れば留保上限が増えたように感じることができ,興趣が高められるといった目的,手段,効果を示唆する記載は見当たらない

 そして,引用発明2についても,その目的,効果は,引用発明1と同様であり,変動表示装置は,実施例についていえば,第一種の遊技と第二種の遊技の留保上限数を前提として,遊技者から見て留保状態の有無及び数と留保上限数との関係が明確に分かるように表示しており,本願発明のように,第2留保手段による留保上限情報をあえて表示しないことにより,遊技者から見れば留保上限が増えたように感じることができ,興趣が高められるといった目的,手段,効果を示唆する記載は見当たらない。

 そうすると,引用発明1及び引用発明2は,実質的に「わかりやすいゲーム進行が可能な遊技機を提供する」という共通の目的を有しているものの,引用発明1に,本願発明のような第2留保手段による留保上限情報をあえて表示しないことにより,遊技者から見れば留保上限が増えたように感じることができ,興趣が高められるといった目的を達成し,またこのような効果を得るために,相違点1ないし3について,引用発明2を適用する動機付けはないといわざるを得ない。

 

() 以上によれば,引用例2には,相違点1ないし3に関する全ての技術的事項の開示があるとはいえず,引用発明1に引用例2に開示された技術的事項を適用する動機付けも認められないから,本願発明は,引用発明1及び引用発明2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたと認めることはできない。

 

小括

 以上検討したところによれば,本願発明は,引用発明1及び引用例2に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから,原告主張の取消事由には理由がある。

 

【所感】

 裁判所の判断は妥当であると思われる。

 引用例において第二種の遊戯に関する保留(大入賞作動口の入賞に基づく保留)について、まだ保留が可能であることを意味する「予」が表示されないことの技術的意義を、引用例の目的および効果から特定(理解)している点は、中間処理における引用発明の把握および意見書作成において、参考になるものと思われる。