車両用指針装置事件
判決日 | 2015.6.30 |
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事件番号 | 平成26年(行ケ)第10236号 |
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担当部 | 知財高裁第2部 |
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発明の名称 | 車両用指針装置 |
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キーワード | 周知性、進歩性 |
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事案の内容 | 特許無効審判の特許無効審決に対する審決取消訴訟であり、審決が取り消された事案。 引用発明に周知技術1を適用した場合に想定される「照射手段の輝度が徐々に低下している状態」と,周知技術2の前提となる「指針及び目盛り板がともに発光していない状態」は,その態様が相違するものであるから,上記周知技術2を適用することは,当業者が容易に想到するものではないと判断された点がポイント。 |
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事案の内容
【経緯】
平成8年5月23日 特許出願(特願平8-128704号)
平成5年10月3日 特許登録(特許第3477995号)
平成24年9月3日 特許無効審判請求(無効2012-800143号)
平成25年4月26日 請求不成立審決
平成25年6月4日 審決取消訴訟提起(平成25年(行ケ)第10154号)
平成25年12月24日 審決を取り消す判決(前訴判決)
平成26年7月25日 訂正請求(本件訂正請求書)により特許請求の範囲を訂正(本件訂正)
平成26年9月30日 訂正を一部(請求項2,3及び5からなる一群の請求項に係る訂正)認める、特許を無効とする審決
【本件訂正前の請求項2】
目盛り板(20)と,この目盛り板上に指示表示する発光指針(30)と,前記目盛り板を光により照射する目盛り板照射手段(50)と,前記発光指針を光により照射して発光させる指針照射手段(31)とを備えた車両用指針装置において,車両のキースイッチ(IG)のオフに伴い前記目盛り板照射手段及び指針照射手段の各照射光の輝度を徐々に低下させるように制御する制御手段(112,112A,113,113A,121乃至124,130,130A)を備えることを特徴とする車両用指針装置。
【本件訂正後の請求項2】
目盛り板(20)と,この目盛り板上に指示表示する発光指針(30)と,前記目盛り板を光により照射する目盛り板照射手段(50)と,前記発光指針を光により照射して発光させる指針照射手段(31)とを備えた車両用指針装置において,
車両のキースイッチ(IG)のオフに伴い前記目盛り板照射手段及び前記指針照射手段の各照射光の輝度を,前記キースイッチのオン状態の前記目盛り板照射手段及び前記指針照射手段の各照射光の初期輝度から徐々に低下させるように制御し,
前記キースイッチのオフに伴い前記目盛り板照射手段及び前記指針照射手段の各照射光の輝度が徐々に低下している状態で前記キースイッチがオンされると,
前記指針照射手段の輝度を前記キースイッチがオンされるタイミングで前記初期輝度に戻すと共に,
前記目盛り板照射手段の照射光の輝度を前記キースイッチがオンされるタイミングで零にし前記指針照射手段の輝度が前記初期輝度に戻るタイミングから遅延させて前記目盛り板照射手段の輝度を前記初期輝度に戻すように制御する制御手段(112,112A,113,113A,121乃至124,130,130A)を備えることを特徴とする車両用指針装置。
【原告主張の審決取消事由】
(1)取消事由1
訂正事項1の判断の誤り
(2)取消事由2-1
訂正発明2の進歩性判断の誤り
(甲1+周知技術1(甲2~甲7)+周知技術2(甲9、甲13)で進歩性無し。
周知技術1→車両に関する照明である室内灯,キーシリンダ照明灯,足下照明灯,ヘッドライトや住宅用照明灯を消灯する際に,照射光の輝度を徐々に低下させるように制御すること
周知技術2→キースイッチがオンされたときに目盛り板照射手段は発光せずに照射光の輝度は零のままであり,キースイッチがオンされてから一定の遅延時間後に目盛り板照射手段の輝度を所定輝度とするように制御すること)
(3)取消事由2-2
訂正発明3及び1の進歩性判断の誤り
【裁判所の判断】
(3) 周知技術2について
審決は,引用発明におけるイグニッションキーをオフした際の挙動に,周知技術1及び公知技術2を適用して,目盛り板照射装置及び指針照明装置を点灯状態から徐々に暗くなるよう制御して消灯させる構成に変更するとともに,引用発明を登載した車両の運転の再開に当たって,イグニッションキー10をオンした際の挙動について,使用者に不快感を与えないことに加え,まず指針が発光するため,すなわち,目盛りや記号等の表示部分が発光していない時に指針が発光するため,使用者に指針を鮮明に認識させることができ,指示計器の高精度感を使用者に与えることができる周知技術2を適用することは,当業者が容易に想到することであるとした上で,イグニッションキーをオフした直後にイグニッションキー10がオンされる場合もあり,イグニッションキーをオンした観者の関心は,走行の停止ではなく運転の再開に向かっているから,フェードアウト中に観者(操作者)がイグニッションキー10をオンした場合には,直ちに周知技術2の制御を提供するのが自然であり,周知技術2の制御に際して,いったん,目盛りや記号等の表示部分が発光していない状態に制御すること,すなわち,「イグニッションキー10をオンすることで指針照明装置5に電力を供給して点灯すると同時に目盛板照明装置3を消灯し,演算回路9は所定数の正転パルスを発生して指針4をゼロ目盛20aにリセットし,指針照明装置5への電力供給に遅延させて目盛板照明装置3に電力を供給して点灯」することは必然であると判断した。
これに対し,原告は,周知技術2の認定が誤りであると主張するので,まず,この点について検討する。
ア 甲9について
・・・複数の照明灯をそれぞれ別の電源系統から給電し,各照明灯を時間差で点灯させる車両用計器類照明装置を提供することとしたもので(【0003】,【0004】),そのために,車両のキースイッチをOFF位置からACC位置にすると計器用放電灯が点灯し,その後,更にキースイッチをACC位置からON位置にすると指針用放電灯が点灯するという従来例における点灯順序と逆の実施例が開示されているものであるから,使用者に指針を鮮明に認識させるとの技術的意義を読み取ることはできない。
イ 甲13について
・・・さらに,前記遅延手段は,前記第1の発光体への電力供給時期に対して前記第2の発光体への電力供給時期を遅延させたことにより,まず指針が発光するため,すなわち,目盛りや記号等の表示部分が発光していない時に指針が発光するため,使用者が指針を鮮明に認識させることができ,使用者に高精度感を与えることができる効果を奏するものである(請求項2,【0009】,【0011】,【0052】)。
以上によれば,車両用のキースイッチのオンにより,指針計器用発光体及び計器板用発光体へ電力を供給する際に,指針計器用発光体への電力供給時期に対して計器板用発光体への電力供給時期を遅延させる遅延手段を備えることで,目盛りや記号等の表示部分が発光していない時に指針が発光するため,指針を鮮明に認識させて,使用者に高精度感を与えることが理解でき,審決が前記第2,4(3)イ(エ)において「周知技術2」と認定した技術が記載されていると認められる。
ウ 周知性について
甲13からは,上記イの技術が読み取れるものの,証拠(乙1,2)を斟酌したとしても,当該技術事項が,車両用指針装置の技術分野において,当業者に一般に知られている技術であると認めることはできない。(中略)
したがって,目盛り板照射装置及び指針照明装置の各発光輝度がキースイッチのオフによって徐々に低下している状態でキースイッチがオンされた場合に,引用発明に周知技術1及び周知技術2を適用することによって,訂正発明2が容易に想到できることとした審決の判断には誤りがある。
(4) 周知技術2の適用について
ア 仮に,審決の認定した「周知技術2」の事項が周知であるとしても,以下のとおり,本件において,引用発明に周知技術1を適用して,指針照射手段(発光素子31)及び目盛り板照射手段(光源50)の各発光輝度が徐々に低下している状態で,更に周知技術2を適用することは,容易といえないと解される。
すなわち,審決の認定した「周知技術2」は,前記第2,4(3)イ(エ)のとおり,目盛りや記号等の表示部分が発光していない時に指針が発光するため,指針を鮮明に認識させることができ,使用者に高精度感を与えるとするもので,目盛り板や指針が発光していない状態でキースイッチがオンされた場合に関する技術である。これに対し,訂正発明2は,キースイッチのオフに伴う指針や目盛り板の明るさの変化に工夫を凝らし,キースイッチのオフ後の視認性の斬新さを乗員に与えることを目的とし(甲17の2【0003】),「各発光輝度が低下している状態でイグニッションスイッチがIGがオンされた場合には,イグニッションスイッチIGのオフ後のオン時にも自発光指針30及び目盛り板20の斬新な視認性を乗員に提供できる。」(甲17の2【0021】)という効果を奏するものである。そして,引用発明に周知技術1を適用した場合,目盛り板を光により照射する目盛り板照射手段と,発光指針を光により照射して発光させる指針照射手段とを備えた車両用指針装置において,車両のキースイッチ(IG)のオフに伴い前記目盛り板照射手段及び前記指針照射手段の各照射光の輝度を,前記キースイッチのオン状態の前記目盛り板照射手段及び前記指針照射手段の各照射光の初期輝度から徐々に低下させるように制御するという態様となり,目盛り板照射手段及び指針照射手段が初期輝度から低減しているものの,未だ点灯していることになるが,審決の認定した「周知技術2」は,あくまで「指針及び目盛り板がともに発光していない状態」を前提として,その場合に,「キースイッチがオンされたときに目盛り板照射手段は発光せずに照射光の輝度は零のままであり,キースイッチがオンされてから一定の遅延時間後に目盛り板照射手段の輝度を所定輝度とするように制御すること」であり,「照射手段の輝度が徐々に低下している状態」でキースイッチがオンされる場合における制御を示すものではない。
したがって,引用発明に周知技術1を適用した場合に想定される「照射手段の輝度が徐々に低下している状態」と,周知技術2の前提となる「指針及び目盛り板がともに発光していない状態」は,その態様が相違するものであるから,上記周知技術2を適用することは,当業者が容易に想到するものではない。
(5) 小括
以上によれば,当業者が,「キースイッチのオフに伴い前記目盛り板照射手段の照射光の輝度が徐々に低下している状態で前記キースイッチがオンされると,前記目盛り板照射手段の照射光の輝度を前記キースイッチがオンされるタイミングで零にし」た構成を容易に想到するとは認め難い。
よって,取消事由2-1には理由がある。
第6 結論
以上のとおり,原告主張の取消事由にはいずれも理由がある。
よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。
【感想】
裁判所の判断は妥当であると考える。
裁判所は、周知技術2の周知性を否定した上で、さらに周知技術2が本願発明に記載の技術分野(本技術分野)において周知であったと仮定した場合に、引用発明、周知技術1、周知技術2の組み合わせが可能かどうかを検討し、組み合わせについても否定している。これは、原告主張内容に沿った判決である。
拒絶対応において、引用発明と周知技術とを用いて進歩性が否定された場合、周知技術であると容易に認めるのではなく、本技術分野における周知技術では無いという反論を行う姿勢が常に大切であると感じた。
<参考(審査基準 第2章から抜粋)>
「周知技術」とは、その技術分野において一般的に知られている技術であって、例えば、これに関し、相当多数の公知文献が存在し、又は業界に知れわたり、あるいは、例示する必要がない程よく知られている技術をいい、また、「慣用技術」とは、周知技術であって、かつ、よく用いられている技術をいう。