製品保持手段を有する改善されたパケット事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-審取(当事者係)
判決日 2014.11.19
事件番号 平成26年(行ケ)第10124号
担当部 知財高裁第3部
発明の名称 製品保持手段を有する改善されたパケット
キーワード 進歩性,動機付け
事案の内容 請求項の一部を無効とした審決の取消訴訟であり、特許権者の請求の一部が認められた事案。
審決は、両発明を組み合わせることについての動機付けの判断に当たり,具体的な動機や示唆の有無について検討することなく、単に、組合せ後の発明が消費者にとって有用な作用効果を奏するとの理由で動機付けを肯定しているものであり、事後分析的な不適切な判断といわざるを得ないと判示された点がポイント。

事案の内容

【経緯】

平成24年 4月20日    特許登録(特許第4976547号、本件特許)

平成24年12月17日    被告が無効審判請求(無効2012-800207号)

平成25年 4月22日    原告が訂正請求

平成26年 1月 7日    「特許第4976547号の請求項1ないし12に係る発明についての特許を無効とする。特許第4976547号の請求項13に係る発明についての審判請求は、成り立たない。」との審決

 

【取消事由】

原告主張の審決取消事由は以下の3つである。今回は、取消事由3についての裁判所の判断を説明する。

・取消事由1・・・訂正要件の判断の誤り

・取消事由2・・・本件発明12の引用発明との相違点の認定の誤り及びこれに伴う進歩性判断の誤り

取消事由3・・・本件発明12の進歩性判断の誤り

・取消事由4・・・訂正発明1の進歩性判断の誤り

 

【特許請求の範囲】

【請求項12】

製品を箱詰めする方法であって,

切取線によって区画された切離し部分を有する各々の個包装で各製品を包装し,

上記切離し部分においてシートに上記個包装製品を永久的に接着し,

上記シートを外箱内に挿入するとともに該外箱に永久的に固定し,

消費者が切離し部分を引き裂くことによって上記製品を掴んで小出しすることができるように上記外箱の形成を完了すること,

を含む方法。

 

 

【審決の理由の要点】

審決では、本件発明12は、甲2発明Aに甲1の技術を適用することで進歩性を有さないと判断した。

甲1:実願平5-45394号(実開平7-11569号)

甲2:米国特許出願公開第2003/0080020号明細書(その訳文は甲24)

甲3:米国特許出願公開第2005/0255199号明細書

(ア) 甲2発明A(本件発明12を前提とする甲2に記載された発明)

「a1 消費用製品を箱詰めする方法であって,

a2 個々の個包装で各製品を包装し,

a3 シートに上記個包装製品を接着し,

a4 上記シートを箱内に挿入するとともに該箱に結合し,

a5 消費者が上記製品を掴んで個別に取り出せることができるように上記箱を構成すること,含む方法。」

 

(イ) 本件発明12と甲2発明Aとの一致点及び相違点

【一致点】

A1 消費用製品を箱詰めする方法であって,

A2’ 各々の個包装で各製品を包装し,

A3’ シートに上記個包装製品を接着し,

A4’ 上記シートを外箱内に挿入するとともに該外箱に固定し,

A5’ 消費者が上記製品を掴んで小出しすることができるように上記外箱の形成を完了すること,含む方法。」

【相違点1】

本件発明12は,個包装が「切取線によって区画された切離し部分を有」し,「上記切離し部分においてシートに上記個包装製品を永久的に接着し」,「消費者が切離し部分を引き裂くことによって」,上記製品を掴んで小出しすることができるのに対し,甲2発明Aは,このような構成ではない点。

【相違点2】

本件発明12は,シートを外箱に「永久的に」固定するのに対し,甲2発明Aは,「永久的に」とは特定していない点。

(ウ) 進歩性の判断

a 相違点1について

甲1には,チューインガム等の被包装物を,収納容器から包装体(個包装)を取り出す際,包装体を片手で引っ張ることにより,包装体の一部を剥離し,被包装物の一部を露出させながら包装体を取り出すことのできる容器入り包装体(【0001】)であって,包装体下方部を収納容器底面又は側面に固着し,かつ,包装体に収納容器底面に略平行となるような切目線を設けることにより,包装体を収納容器から取り出す際,片手で包装体を引っ張るだけで,包装体が切目線の部分で切り離され,包装体を被包装物の一部が露出した状態で取り出すことができる容器入り包装体の技術(【0005】)が記載されている。

甲1の上記技術は,片手で包装体を引っ張るだけで,包装体が切目線の部分で切り離され,包装体を被包装物の一部が露出した状態で取り出すことができるので,被包装物が食品の場合,露出した被包装物をそのまま口にくわえて,残りの包装体を引っ張るだけで簡単に残りの包装体が剥離され,両手を使わなくても被包装物を喫食することができる(【0005】)という,消費者にとって有用な作用効果を奏するものである。

 そして,甲2発明Aに,甲1のこの技術を適用すると,適用後の発明は,この消費者にとって有用な作用効果を奏することが,当業者に明らかであるから,甲2発明Aに,甲1のこの技術を適用する動機付けは存在する。

 そうすると,甲1のこの技術を,甲2発明Aに適用して,相違点1に係る本件発明12の構成とすることは,当業者が容易に推考し得たことである。

 

【裁判所の判断】

(2) 相違点1の進歩性判断について

審決は,甲2発明Aに,甲1の技術を適用すると,適用後の発明は,甲1に記載された上記の消費者にとって有用な作用効果を奏することが,当業者に明らかであるから,甲2発明Aに甲1の技術を適用する動機付けは存在するとした。

しかし,これは,両発明を組み合わせることについての動機付けの判断に当たり,具体的な動機や示唆の有無について検討することなく,単に,組合せ後の発明が消費者にとって有用な作用効果を奏するとの理由で動機付けを肯定しているものであり,事後分析的な不適切な判断といわざるを得ない。

イ そこで,甲2発明Aに甲1発明の技術を適用する動機付けについて検討すると,以下のとおりである。

すなわち,両発明とも,ガムなどの製品(包装体)を箱(収納容器)に収納するパッケージ(容器入り包装体)であり,同じ技術分野に属するものであって,製品(包装体)が取り外された後においても箱(収納容器)内で製品(包装体)を保持することができるようにするという点で課題(効果)を同じくする部分があるものと認められる。

しかし,甲2発明Aは,前記2(2)のとおり,消費者が製品をシート及びハウジングから掴んで容易に取り出すことができ,かつ,多数の製品が取り外された後でも製品を保持することができることを目的とし,そのために,製品とシートの間の結合(接着)は,製品をシートから容易に取り外すことのできる「剥離可能な」結合(接着)との構成をとったものである。

これに対し,甲1発明は,容器に収納されている形態の被包装物を,片手で簡便に取り出すことを可能とする容器入り包装体を提供することを目的として,包装体下方部を収納容器に永久的に固着すること,及び包装体の適宜位置に収納容器底面と略平行な切目線を設けること,の2つの要件により,包装体を収納容器から取り出す際,包装体を引っ張るだけで,包装体が切目線の部分で切り離され,包装体を被包装物の一部が露出した状態で取り出すことができるとの構成をとったものである。

そうすると,当業者は,製品をシートから容易に取り外すことのできる「剥離可能な」結合(接着)との構成をとった甲2発明Aにおいて,製品とシート間及びシートと箱間の「接着」を「永久的」なものとすることによって,包装体が切目線の部分で切り離されるように構成した甲1発明を組み合わせることはないというべきである。

よって,甲1の技術を,甲2発明Aに適用して,相違点1に係る本件発明12の構成とすることは,当業者が容易に推考し得たことである,との審決の認定は誤りである。

(3) 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,取消事由3には理由がある。

 

【感想】

 裁判所の判断は妥当であると考える。

 裁判所の判決内容に記載のように、甲2発明Aは、容易に取り出し可能で、多数の製品が取り外された後でも製品を保持するために、製品をシートから容易に取り外すことのできる「剥離可能な」結合(接着)との構成を採用しており、この甲2発明Aに包装体下方部を収容容器に永久的に固着し、かつ、包装体に切目線を入れた甲1発明の技術を適用する動機付けは無いと考える。

 ただし、本件発明12と甲1発明との相違点は、「個包装製品と外箱との間にシートがあるかないか」だけの違いのように思える。シートがあることによる技術的な意義については、本件特許の明細書中には記載が無く、甲1発明を主引例とした場合には、本件発明12の進歩性の判断は異なってくるようにも思える。この点、本件発明12は、製品を箱詰めする方法の発明であり、甲1発明には具体的な方法の開示は無い。よって、甲1発明を主引例とすることはできなかったのかも知れないと感じた。