被覆ベルト用基材事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-審取(査定係)
判決日 2010.10.28
事件番号 H22(行ケ)10064
担当部 知財高裁第3部
発明の名称 被覆ベルト用基材
キーワード 進歩性
事案の内容 拒絶査定不服審判で進歩性無しとして拒絶審決を受けた出願人が取り消しを求め、請求が棄却された事案。
拒絶審決が挙げた6つの相違点のうちの相違点1~5について出願人が争わず、相違点6についてのみ争ったが、判決の最後の「小括」では、全部の相違点について争えば審決が取り消された可能性を示唆している点がポイント。

事案の内容

【経緯】

平成12年 8月21日 特許出願(特願2000-249815号 (以下、本願))

平成10年10月17日 拒絶査定
平成19年 1月16日 原告が拒絶査定不服審判請求
平成19年 1月24日 補正書提出(本件補正2)
平成21年10月14日 本件補正2を却下した上,審判請求は成り立たない旨の審決(本件審決)

 

【特許請求の範囲】(括弧内の符号は図5の部材、(1)~(6)の下線部は相違点)

 

【請求項39】<本件補正発明>

シュー形式の長尺ニッププレスもしくはカレンダー用または他の抄紙アプリケーションおよび紙加工アプリケーション用樹脂含浸エンドレスベルト(16)であって,前記樹脂含浸エンドレスベルト(16)がベースサポート構造体(50),(1)前記ベースサポート構造体(50)に付着したステープルファイバーバット(56)並びに前記ベースサポート構造体(50)の内面および外面の少なくとも一方の上の第二高分子樹脂材料被膜(58)からなり,

前記ベースサポート構造体(50)は内面,外面,縦方向および横方向を有するエンドレスループ形をとり,
(2)前記ステープルファイバーバット(56)の繊維の少なくとも一部には第一高分子樹脂材料が含まれ,
(3)前記被膜(58)は前記ベースサポート構造体(50)に含浸してこれを液体に対して不浸透性となし,さらに前記ステープルファイバーバット(56)を被包し,前記被膜(58)は滑らかであって,かつ,前記ベルト(16)の厚みを均一にし,(4)前記第二高分子樹脂材料は前記ステープルファイバーバット(56)に含まれる前記第一高分子樹脂材料に対して親和性を有し,その結果として,(5)前記第二高分子樹脂材料の前記被膜(58)は前記ベースサポート構造体(50)に付着した前記ステープルファイバーバット(56)と機械的に結合するだけでなく化学的に結合し,
(6)前記第一高分子樹脂材料及び前記第二高分子樹脂材料は,互いに異なるポリウレタン樹脂であることを特徴とする前記ベルト。

 

【当裁判所の判断】

(1)本願発明が進歩性欠如による独立特許要件を欠くとした判断の誤りについて

『原告は,本願補正発明の相違点1ないし5に係る構成が,引用発明及び刊行物2に記載の技術に基づいて容易に発明することができた点に誤りがないことについて,これを認める(ただし,主張している取消事由に関連する限度では争う。)。
その上で,原告は,本願補正発明の相違点6に係る構成は,引用発明及び刊行物2に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものではないと主張する。しかし,原告の主張は,以下のとおり,失当である。
すなわち,引用発明の第三重合体樹脂及び第一重合体樹脂はともにポリウレタン樹脂であること,前記第三重合体樹脂は前記第一重合体樹脂に化学的な親和力を持つこと,前記第一重合体樹脂が前記第三重合体樹脂に化学的に結合するものであることについては,いずれも当事者間に争いはない。そうすると,上記第三重合体樹脂及び第一重合体樹脂は,同一のポリウレタン樹脂であるか互いに異なるポリウレタン樹脂かのいずれかであるが,そのうち,互いに異なるポリウレタン樹脂を選択することに格別の困難はない。』
(2)小括
『なお,本願補正発明の進歩性の有無を判断するに当たり,審決は,本願補正発明と引用発明との相違点を認定したが,その認定の方法は,著しく適切を欠く。すなわち,審決は,発明の解決課題に係る技術的観点を考慮することなく,相違点を,ことさらに細かく分けて(本件では6個),認定した上で,それぞれの相違点が,他の先行技術を組み合わせることによって,容易であると判断した。このような判断手法を用いると,本来であれば,進歩性が肯定されるべき発明に対しても,正当に判断されることなく,進歩性が否定される結果を生じることがあり得る。相違点の認定は,発明の技術的課題の解決の観点から,まとまりのある構成を単位として認定されるべきであり,この点を逸脱した審決における相違点の認定手法は,適切を欠く。
しかし,本件では,原告において,このような問題点を指摘することなく,また,平成22年4月15付けの第1準備書面において,審決のした本願補正発明の相違点1ないし5に係る認定及び容易想到性の判断に誤りがないことを自認している以上,審決の上記の不適切な点を,当裁判所の審理の対象とすることはしない。』

 

【感想】

(1)本件は、拒絶審決が挙げた6つの相違点のうちの相違点1~5について出願人が争わず、相違点6についてのみ争ったが、判決の最後の「小括」では、全部の相違点について争えば審決が取り消された可能性を示唆している。

小さな相違点の容易想到性を争うのはかならずしも容易では無い場合が多いが、そのような場合にも、発明の技術的課題の観点から、小さな相違点をまとめたより大きな相違点として争うことができないか、を考えてみることも有益であると思われる。
(2)上記小括では、『審決は,本願補正発明と引用発明との相違点を認定したが,その認定の方法は,著しく適切を欠く。』と指摘されているが、相違点1~6はクレームから比較的素直に抽出してきているので、やや酷な判断であるようにも思える。