表示装置、コメント表示方法、及びプログラム特許権侵害差止等請求控訴事件

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  • 知財判決例-侵害系
判決日 2022.07.20
事件番号 H30(ネ)10077
キーワード 知的財産高等裁判所第2部

事案の内容

【本願特許について】
※「表示装置、コメント表示方法、及びプログラム」とする特許第4734471号に係る特許権「本件特許権1」及び特許第4695583号に係る特許権「本件特許権2」が対象。
そのうち本件特許権1の請求項9についてのみ記載する。
 
(1)本件特許権1・請求項9 (※下線は筆者が付した。以下同じ)
1-9A 動画を再生するとともに、前記動画上にコメントを表示する表示装置のコンピュータを、
1-9B 前記動画を表示する領域である第1の表示欄に当該動画を再生して表示する動画再生手段、
1-9C コメントと、当該コメントが付与された時点における、動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間とを含むコメント情報を記憶するコメント情報記憶部に記憶された情報を参照し、
1-9D 前記再生される動画の動画再生時間に基づいて、前記コメント情報記憶部に記憶されたコメント情報のうち、前記動画の動画再生時間に対応するコメント付与時間に対応するコメントをコメント情報記憶部から読み出し、
1-9E 当該読み出されたコメントの一部を、前記コメントを表示する領域であって一部の領域が前記第1の表示欄の少なくとも一部と重なっており他の領域が前記第1の表示欄の外側にある第2の表示欄のうち、前記第1の表示欄の外側であって前記第2の表示欄の内側に表示するコメント表示手段
1-9F として機能させるプログラム。
*以下、筆者が判決文から適宜に抜粋。
【裁判所の判断】
3 争点1-1(1)(被控訴人ら各装置及び被控訴人ら各プログラムは、「第1の表示欄」(構成要件1-1C、1-1E、1-1F、1-5J、1-9B、1-9E)及び「第2の表示欄」(構成要件1-1D、1-1E、1-1F、1-5J、1-9E)を充足するか)について
 
(1) 「第1の表示欄」及び「第2の表示欄」の意義について
 本件発明1にいう「第1の表示欄」及び「第2の表示欄」の意義について検討するに、前記1(2)のとおり、本件発明1は、動画と共にコメントを表示する表示装置等に関するものであって、動画上に多数のコメントが書き込まれた場合であっても、コメントの読みにくさを低減させるため、動画を第1の表示欄において再生した上、コメントの少なくとも一部を第2の表示欄の内側であり、かつ、第1の表示欄の外側に表示するようにし、これにより、ユーザにおいて、コメントが動画に含まれるものではなく、ユーザが動画に書き込んだものであることを把握できるようにするものである。そして、動画が実際に再生される際の動画が再生されている領域とコメントが表示されている領域について、コメントの少なくとも一部が後者の内側であって、かつ、前者の外側に表示されるのであれば、ユーザは、コメントが動画に含まれるものではなく、他のユーザが書き込んだものであると把握することができるのであるから、本件発明1の上記作用効果を奏するといえる。そうすると、本件発明1にいう「第1の表示欄」及び「第2の表示欄」に該当するか否かは、動画が実際に表示される位置・領域及びコメントが実際に表示される位置・領域を基準にして判断するのが相当である。
・・・
(2) 被控訴人ら各装置及び被控訴人ら各プログラムが本件発明1にいう「第1の表示欄」及び「第2の表示欄」を備えているかについて
・・・
以上によると、被控訴人ら各装置及び被控訴人ら各プログラムは、いずれも本件発明1にいう「第1の表示欄」及び「第2の表示欄」を備えているものと認めるのが相当である。
 
・・・
14 争点4(被控訴人FC2の行為は不法行為を構成するか)及び争点5(被控訴人HPSの行為は不法行為を構成するか)について
・・・
(4) 被控訴人らの不法行為
ア 被控訴人ら各プログラムの電気通信回線を通じた提供
(ア) 前記(1)及び(2)のとおり、被控訴人らは、共同して日本国内に所在するユーザに対し、被控訴人ら各プログラム(令和2年9月25日以降は被控訴人らプログラム1。以下同じ。)を配信している。
(イ)a この点に関し、証拠(乙107、乙108の1ないし4、乙109の1ないし3、乙110、乙111の1ないし5、乙112の1ないし3、乙113)及び弁論の全趣旨によると、被控訴人ら各プログラムは、米国内に存在するサーバから日本国内に所在するユーザに向けて配信されるものと認められるから(以下、被控訴人ら各プログラムを日本国内に所在するユーザに向けて配信することを「本件配信」という。)、被控訴人ら各プログラムに係る電気通信回線を通じた提供(以下、単に「提供」という。)は、その一部が日本国外において行われるものである。そこで、本件においては、本件配信が準拠法である日本国特許法にいう「提供」に該当するか否かが問題となる。
b 我が国は、特許権について、いわゆる属地主義の原則を採用しており、これによれば、日本国の特許権は、日本国の領域内においてのみ効力を有するものである(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁、前掲最高裁平成14年9月26日第一小法廷判決参照)。そして、本件配信を形式的かつ分析的にみれば、被控訴人ら各プログラムが米国の領域内にある電気通信回線(被控訴人ら各プログラムが格納されているサーバを含む。)上を伝送される場合、日本国の領域内にある電気通信回線(ユーザが使用する端末装置を含む。)上を伝送される場合、日本国の領域内でも米国の領域内でもない地にある電気通信回線上を伝送される場合等を観念することができ、本件通信の全てが日本国の領域内で完結していない面があることは否めない。
しかしながら、本件発明1-9及び10のようにネットワークを通じて送信され得る発明につき特許権侵害が成立するために、問題となる提供行為が形式的にも全て日本国の領域内で完結することが必要であるとすると、そのような発明を実施しようとする者は、サーバ等の一部の設備を国外に移転するなどして容易に特許権侵害の責任を免れることとなってしまうところ、数多くの有用なネットワーク関連発明が存在する現代のデジタル社会において、かかる潜脱的な行為を許容することは著しく正義に反するというべきである。他方、特許発明の実施行為につき、形式的にはその全ての要素が日本国の領域内で完結するものでないとしても、実質的かつ全体的にみて、それが日本国の領域内で行われたと評価し得るものであれば、これに日本国の特許権の効力を及ぼしても、前記の属地主義には反しないと解される。
したがって、問題となる提供行為については、当該提供が日本国の領域外で行われる部分と領域内で行われる部分とに明確かつ容易に区別できるか、当該提供の制御が日本国の領域内で行われているか、当該提供が日本国の領域内に所在する顧客等に向けられたものか、当該提供によって得られる特許発明の効果が日本国の領域内において発現しているかなどの諸事情を考慮し、当該提供が実質的かつ全体的にみて、日本国の領域内で行われたものと評価し得るときは、日本国特許法にいう「提供」に該当すると解するのが相当である。
c これを本件についてみると、本件配信は、日本国の領域内に所在するユーザが被控訴人ら各サービスに係るウェブサイトにアクセスすることにより開始され、完結されるものであって(甲3ないし5、44、46、47、丙1ないし3)、本件配信につき日本国の領域外で行われる部分と日本国の領域内で行われる部分とを明確かつ容易に区別することは困難であるし、本件配信の制御は、日本国の領域内に所在するユーザによって行われるものであり、また、本件配信は、動画の視聴を欲する日本国の領域内に所在するユーザに向けられたものである。さらに、本件配信によって初めて、日本国の領域内に所在するユーザは、コメントを付すなどした本件発明1-9及び10に係る動画を視聴することができるのであって、本件配信により得られる本件発明1-9及び10の効果は、日本国の領域内において発現している。これらの事情に照らすと、本件配信は、その一部に日本国の領域外で行われる部分があるとしても、これを実質的かつ全体的に考察すれば、日本国の領域内で行われたものと評価するのが相当である。
d 以上によれば、本件配信は、日本国特許法2条3項1号にいう「提供」に該当する。
なお、これは、以下に検討する被控訴人らのその余の不法行為(形式的にはその一部が日本国の領域外で行われるもの)についても当てはまるものである。
e 被控訴人らは、被控訴人ら各プログラムは米国内のサーバから自動的に配信されるものであり、提供行為は米国の領域内で完結しているから、本件配信は日本国特許法にいう「提供」に当たらない旨主張するが、上記説示したところに照らすと、これを採用することはできない。
(ウ) 以上のとおりであるから、被控訴人らは、本件配信をすることにより、被控訴人ら各プログラムの提供をしているといえる(特許法2条3項1号)。
イ 被控訴人ら各プログラムの提供の申出
被控訴人らは、被控訴人ら各サービス(令和2年9月25日以降は被控訴人らサービス1。以下同じ。)の提供のため、ウェブサイトを設けて多数の動画コンテンツのサムネイル又はリンクを表示しているところ(甲3ないし5)、これは、「提供の申出」に該当する(特許法2条3項1号)。
 
ウ 被控訴人ら各装置の生産被控訴人らは、被控訴人ら各サービスの提供に際し、インターネットを介して日本国内に所在するユーザの端末装置に被控訴人ら各プログラムを配信しており、また、被控訴人ら各プログラムは、ユーザが被控訴人ら各サービスのウェブサイトにアクセスすることにより、ユーザの端末装置にインストールされるものである(前記3(2)イ、被控訴人らが主張する被控訴人ら各サービスの内容)。そうすると、被控訴人らによる本件配信及びユーザによる上記インストールにより、被控訴人ら各装置(令和2年9月25日以降は被控訴人ら装置1。以下同じ。)が生産されるものと認められる。
そして、被控訴人ら各サービス、被控訴人ら各プログラム及び被控訴人ら各装置の内容並びに弁論の全趣旨に照らすと、被控訴人ら各プログラムは、被控訴人ら各装置の生産にのみ用いられる物であると認めるのが相当であり、また、被控訴人らが業として本件配信を行っていることは明らかであるから、被控訴人らによる本件配信は、特許法101条1号により、本件特許権1を侵害するものとみなされる。
 
【所感】
 本件判決では、日本国内のユーザに対して国外のサーバから電気通信回線を通じてプログラムを提供することについて、当該提供が以下の要件を満たすときは、日本国特許法2条3項1号にいう「提供」に該当するとした。
(1)当該提供が日本国の領域外で行われる部分と日本国の領域内で行われる部分とを明確かつ容易に区別することが困難であること
(2)当該提供の制御が日本国の領域内で行われること
(3)当該提供が動画の視聴を欲する日本国の領域内に向けられたものであること
(4)当該提供により得られる発明効果が、日本国の領域内において発現していること
(5)当該提供が、実質的かつ全体的に考察すれば、日本国の領域内で行われたものと評価されること
 近年では、無線通信などを利用するサーバや装置等の発明が多く見られる。これらの設置場所が侵害の成否に影響するか否かは個人的に気にするところであったため、本件判決はその解釈の助けになったといえる。
 しかしながら、本件判決で示された上記の5つの要件は、技術分野によっては機能しない場合も想定されるため、今後の判決では、他の技術分野への適性などにも注目していきたい。