自動パッケージピックアップ及び配送に関するシステム及び方法事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-審取(査定係)
判決日 2013.04.26
事件番号 H24(行ケ)10266
担当部 知財高裁 第3部
発明の名称 自動パッケージピックアップ及び配送に関するシステム及び方法
キーワード 進歩性、容易想到性、周知技術
事案の内容 拒絶理由不服審判における請求不成立審決に対する審決取消訴訟であり、審決が維持された。
 認証技術は,取引の安全性確保等を目的として,各種技術分野,各種用途で使用され得ることは認証技術に接した当業者には自明であるから,周知技術2を引用発明の認証処理に係る技術として適用することは,何ら困難なことではない、と判断されたことがポイントである。

事案の内容

【審決の判断】

(1)本願と引用文献1の共通点

 本願発明と引用文献記載の発明を対比すると、引用文献記載の発明における「宅配ボックス装置A」、「宅配ボックス本体B」、「荷物」、「扉3cを備えたボックス3b」、「電子錠3e」、「システム制御ユニット部2」及び「情報処理装置D」は、それらの機能や技術的意義からみて、本願発明における「自動パッケージピックアップ及び配送ステーション」、「ハウジング」、「パッケージ」、「少なくとも1つのパッケージ受領及び取出口」、「アクセスコントロール装置」、「コントローラ」及び「セントラルホストデータセンター」に、それぞれ相当する。

(2)相違点1

 本願発明においては,情報入力デバイスが,バイオメトリクス入力デバイスであって,バイオメトリクス入力デバイスによる識別情報に関して,識別及び認証情報を遠隔のセントラルホストデータセンターとの間で送信及び受信するのに対して,引用発明においては,情報入力デバイスが,ICカード用リードライト7であって,認証のための識別情報を遠隔の情報処理装置D(本願発明の「セントラルホストデータセンター」に相当)へ送信していない点。

(3)相違点2

 本願発明においては,ハウジングの場所にいる個人と,その場にいない係員との間での通信を可能にする,コントローラに接続しているビデオ会議システムを備えるのに対して引用発明においては,デオ会議システムをするかどが明らかでない点

【争点】

取消事由1:本願発明の要旨認定の誤り,相違点の看過

取消事由2:相違点1において,引用発明と周知技術2(特開平11-232531、特開平9-198531)との組合せの容易性の判断遺漏,及び同判断の誤り

取消事由3相違点2において,引用発明と周知技術3(特開2001-175947、特開平5-236153)との組合せの容易性の判断の誤り(略)

【裁判所の判断】

当裁判所は,原告主張の取消事由はいずれも理由がないものと判断する。

1 取消事由1(本願発明の要旨認定の誤り,相違点の看過)について

(1) 本願発明の概要

 本願発明は,出荷者から出荷されたパッケージを受領するハウジングと,ハウジング内に受領されたパッケージを安全にするためのアクセスコントロール装置と,このアクセスコントロール装置を制御するコントローラとを備えた,自動パッケージ配送及びピックアップステーションに関する発明である。

 ~略~

(2) 本願発明の「バイオメトリクス入力デバイス」の意義

 ~略~,具体的には「指紋又は虹彩スキャナ,サイン入力パッド,顔識別カメラ,及び/又は,音声認識マイクロフォン」のような入力装置である「バイオメトリクス入力デバイス」を備える旨を特定するものであることが認められる。

(3) 原告の主張について

ア 原告は,審決が,本願発明の「バイオメトリクス入力デバイス」の意義について,ICカードに記録されているバイオメトリクス情報をICカードリーダを介して読み込むデバイスを包含するように広く認定しているとして,このような認定は誤りである旨主張する。

 ~略~

 審決は,「情報入力デバイス」という点を除けば,「ICカード用リードライト7」は「バイオメトリクス入力デバイス」とは区別されたものとして認定しているのであり,本願発明の「バイオメトリクス入力デバイス」の意義について,「ICカード用リードライト7」(原告がいうところの「ICカードに記録されているバイオメトリクス情報をICカードリーダを介して読み込むデバイス」)を包含するような認定はしてはいない。

 (4) 小括

 以上のとおり,審決による本願発明の認定に誤りはない。そして,審決による引用発明の認定について,原告は争っていない。したがって,審決には,原告が主張するような相違点の看過はなく,審決による相違点1の認定に誤りはない。

 よって,原告主張の取消事由1は理由がない。

2 取消事由2(相違点1において,引用発明と周知技術2との組合せの容易性の判断遺漏,及び同判断の誤り)について

(1) 相違点1に係る容易想到性

 前記1(3)のとおり,「情報入力デバイス」として,甲2には,指紋,音声,顔の画像,網膜パターン等の読取装置のような「バイオメトリクス入力デバイス」が開示されており,甲3には,指紋,声紋,虹彩等の人証データ入力器のような「バイオメトリクス入力デバイス」が開示されている。

 これによれば,「情報入力デバイス」として,甲2の上記読取装置や甲3の上記認証データ入力器のような「バイオメトリクス入力デバイス」を用いることは,周知の技術(周知技術1)であると認められる。

 そして,このような周知技術1を通常の知識として有する当業者にとって,パッケージを受領(関連するロッカーを解錠)するために,利用者の確認及び認証を目的として,その利用者を識別するための情報を「ICカード7aの情報」として取得するか(すなわち「ICカード用リードライト7」を用いるか),又は「バイオメトリクス情報」として取得するか(すなわち「バイオメトリクス入力デバイス」を用いるか)は,必要に応じて適宜選択して採用できる設計事項にすぎないものというべきである。

 また,甲4の段落【0005】ないし【0007】の記載及び甲5の段落【0016】の記載に照らせば,バイオメトリクス入力デバイスからの識別情報に関して,識別及び認証情報を遠隔のセントラルホストデータセンターとの間で送信及び受信することは,周知の技術(周知技術2)である。

 したがって,引用発明に周知技術1及び周知技術2を適用して,相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことであるといえる。

(2) 原告の主張について

原告は,引用発明と周知技術2は異なる技術分野に属するにもかかわらず,審決は,両者の組合せが容易であることを論理付けしていないと主張する。

 ~略~

 しかし,そもそも,認証技術は,取引の安全性確保等を目的として,各種技術分野,各種用途で使用され得ることは認証技術に接した当業者には自明であるから(この点は,乙6の記載からも裏付けられる。),周知技術2を引用発明の認証処理に係る技術として適用することは,何ら困難なことではない。引用発明が宅配ボックス装置の技術分野に属するものであっても,当該宅配ボックス装置の認証技術として,各種技術分野,各種用途で使用され得る周知の認証技術を適用できないとする理由はない。

 したがって,原告の上記主張は採用することができない。

 (3) 小括

 よって,原告主張の取消事由2は理由がない

3 取消事由3(相違点2において,引用発明と周知技術3との組合せの容易性の判断の誤り)について

~略~

4 まとめ

 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,審決に取り消すべき違法はない。

【所感】

 認証技術は,取引の安全性確保等を目的として,各種技術分野,各種用途で使用され得ることは認証技術に接した当業者には自明であるから,周知技術2を引用発明の認証処理に係る技術として適用することは,何ら困難なことではない、と判断された点については、妥当と考える。なお、H22(行ケ)10329のように、多数の異分野[(1)車両情報を認識するシステム,(2)TFTアレイ基板などの薄膜装置,(3)フォトマスク、レチクル、ウエハ、ガラスプレート等の基板に刻印されたコードを読み取るコード読取り装置,(4)貸出を管理するための情報を読み取り可能に表示する情報表示部が物品本体に付設されている貸出用物品,(5)液晶表示素子に利用される認識マーク,(6)ガス容器用表示装置]で用いられる識別技術を引かれながら、「透明基板の一方の面にバーコードを設け,他方の面からバーコードを読み取るようにすること」が記載されているものの,いずれの証拠も刷版に関するものではなく,補正発明の技術分野とは異なる技術分野に関するものであるから,これらの証拠からから,「透明基材の一方の面にバーコードを設け,他方の面からバーコードを読み取るようにすること」が,補正発明の技術分野において一般的に知られている技術であるということはできない。」と認定されたように、技術分野が異なる、とされた判決例もある。本願のような、発明の或る構成要件(PIN認証)を周知技術(バイオメトリック認証)に置換するような場合には、進歩性が否定されるが、H22(行ケ)10329のように、多数の分野で用いられる(識別)技術であっても、異分野(刷版)の発明に追加されて特別な効果を奏する場合には、技術分野が異なるとして進歩性が認められる可能性があるように思われる。また、多くの分野で使われる技術については、特別な効果を奏することが出来なければ、その技術で差別化をしても進歩性を主張することは困難と思われる。