美顔器事件

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  • 知財判決例-侵害系
判決日 2013.09.26
事件番号 H24(ワ)7151
担当部 大阪地裁 第21民事部
発明の名称 美顔器
キーワード 構成要件充足性
事案の内容 特許法100条1項、2項に基づき、実施行為の差止め等と損害の賠償を求めた事件。文言侵害、均等侵害共に認められず、原告の請求は棄却された。
出願経過が参酌され、本件特許が限定的に解釈された点がポイント。

事案の内容

【原告の特許】

(1)特許番号:特許第4871937号

(2)登録日 :平成23年11月25日

(3)特許請求の範囲

A’ 所定量の化粧水をカップ29に収納し、且つ炭酸ガス供給用ボンベBから可撓性ホースPを介して導かれた炭酸ガスをスプレー本体Sの先端噴出ノズル31から噴出させて前記カップ内の化粧水と共に、炭酸混合化粧水を霧状に噴射する様にした美顔器に於いて、

A (省略)ソケット部5と、

B (省略)ノズル部10と、

C (省略)上側筒体1と、

D (省略)円形調整用摘子17と、

E (省略)押圧杆18と、

F ノズル部10の内孔12に上昇、下降変位自在に設けられる弁杆15であって、弁杆15の上端15aは、押圧杆18の下端18aに当接し、弁杆15の下部は、下降時には内孔12からノズル孔13へのガス流通路を遮断し、上昇時には内孔12からノズル孔13へのガス流通路を形成する弁杆15と、

G 円形調整用摘子17の前記一方向への水平回転によって、押圧杆18を連動下降させて弁杆15の下部が前記ガス流通路を遮断し、円形調整用摘子17の前記反対方向への水平回転によって、該押圧杆18を連動上昇させて弁杆15の下部が前記ガス流通路を形成する手段と、

H (省略)下側筒体2とを有し、

I 可撓性ホースPは、スプレー本体Sとノズル孔13とを接続することを特徴とする美顔器

 

【被告製品】

(a’) 所定量の化粧水・美容液をローションボトルに収納し、かつ炭酸ガスカートリッジから可撓性を有するエアホースを介して導かれた炭酸ガスを、エアブラシの先端にあるエアノズルから噴出させ、前記ローションボトル内の化粧水・美容液と共に、炭酸混合化粧水を霧状に噴射するようにした美顔器において、

(a) (省略)レギュレータ本体下部と、

(b) (省略)レギュレータ本体上部と、

(c) (省略)レギュレータカバーと、

(d) (省略)開閉ハンドルと、

(e) (省略)ピストンと、

(f) レギュレータ本体上部に設けられたバルブケース、バルブシート及びシリンダ内に上昇、下降変位自在に設けられるバルブであって、バルブの上端は、ピストンの下端に当接し、バルブの中央のテーパ部は、下降時にはバルブの中央のテーパ部がバルブケース上のバルブシートから離間してバルブケースからシリンダへ至るガス流通路を形成し、上昇時にはバルブの中央のテーパ部が前記バルブシートに接触してバルブケースからシリンダへ至るガス流通路を遮断し、

(g) 開閉ハンドルの前記一方向への水平回転によって、ピストンを連動下降させてバルブの中央のテーパ部が前記ガス流通路を形成し、開閉ハンドルの前記反対方向への水平回転によって、該ピストンを連動上昇させてバルブの中央のテーパ部が前記ガス流通路を遮断する手段と、

(h) (省略)本体ケースとを有し、

(i) エアホースは、エアブラシとレギュレータジョイントとを接続することを特徴とする美顔器。

 

【争点】

・被告製品が、構成要件F、Gを充足するか

・構成要件F、Gについて、均等侵害が認められるか

※他の争点は、裁判所にて判断されていないため、割愛。

 

【大阪地裁の判断】

1.事実認定

(1) 本件特許の出願経過

特許庁審査官は、平成22年6月23日、上記出願にかかる請求項の全てについて、特許法29条2項により、拒絶理由通知を発し、備考として、押圧杆によりガスの供給を可能とする点、ボンベ上部の封板(封印幕)を貫通させてガスを通孔、ガス供給口に導く構成は周知技術(引例7:特開昭和62-226208公報、乙2の5の8)であるとして、請求項1-8に係る発明のように構成することは当業者が容易に想到しえたものであると記載したところ(乙-18-2の5の1)、引例7は、後記(3)認定のとおり、バルブを上昇、下降変位自在とし、バルブ下降時にガス流通路を形成し、上昇時に流通路を遮断するとの構成を有するものであった。

 

(2) 本件特許発明におけるガス流通機構(甲1):省略

(3) 公知技術の存在及び内容(乙2の5の8、前記(1)の引例7):省略

(4) 被告製品の備える弁の開閉機構:省略

 

2.争点(2)(被告製品が、構成要件F、Gを充足するか)について

(1) 構成要件F、Gの解釈

・構成要件F:弁杆15の下降時にガス流通路を遮断し、弁杆15の上昇時にガス流通路を形成することを内容とする。

・構成要件G:連動下降、連動上昇という語が使用されていることから、円形調整用摘子17自体が下降すると、これと連動して押圧杆18が下降し、更に弁杆15が下降してその株がガス流通路を遮断し、また円形調整用摘子17を反対方向に回転してこれを上昇させると、これと連動して押圧杆18が上昇し、さらに弁杆15が上昇してガス流通路を形成することを内容とする。

・本件明細書及び図面において、上記と異なるガス流通路の形成及び開閉の制御の方法を示唆する記載はない。

・本件特許の出願経過によれば、原告は、当初、ノズル部の弁杆の上下動とガス流路の形成遮断の関係について何らの限定もなかったところ、補正3において弁杆の連動下降、連動上昇という要素を加え、補正4において、弁杆の下降時にガス流通路を遮断し、上昇時にガス流通路を形成するとの構成を明示するに至った経緯が認められる。

・以上を総合すれば、構成要件F、Gは、弁杆下降時にガス流通路が遮断され、弁杆上昇時にガス流通路が形成される構成のみを内容とし、弁杆の上昇下降と、ガス流通路の遮断形成の関係がこれとは異なる構成となるものを含まないことは明らかと言わざるをえない。

 

(2) 被告製品の構成

・構成要件F、Gの弁杆15は、被告構成(f)、(g)のバルブに相当すると認められる

・一方、弁杆15に相当するバルブが上昇(※注:正しくは「下降」と思われる)したときにガス流通路が開通し、下降(※注:正しくは「上昇」と思われる)したときに閉じる構造となっている点で構成要件F、Gとは異なる。
(3) 結論

以上によれば、被告構成(f)、(g)は、構成要件F、Gを充足せず、結局、被告製品は、本件特許の技術的範囲に属しない。

 

3.争点(3)(構成要件F、Gについて、均等侵害が認められるか)について

・原告は、本件特許の構成要件F、Gにつき、被告製品の構成(f)、(g)が均等の範囲内であると主張する。

・本件特許の出願経過からすると、原告は、本件特許発明のうちのガス流通路の開閉機構に関して、引例7が公知文献であることを指摘された状況において、補正4において特許請求の範囲を補正し、審判請求書において、当初出願の構成であった「水平回転により前記噴出口頭部と連結されたノズル部の弁杆を上下動させて炭酸ガス噴出を調整する円形調節用摘子」の構成を、更に具体化し限定したものである。

・引例7は、バルブが上昇した際に閉塞され、バルブが下降した際に開栓する機構を有していたのであるから、本件特許発明は、ガス流通路の開閉機構に関して、引例7に開示された構成を意識的に除外したものといわざるを得ない。

・総合すると、原告は、本件特許出願時に存在していた一定の技術について、これを含まないものとするよう特許請求の範囲の補正を行い、本件明細書においても同旨の記載をしたのであるから、特許権成立後に、前記除外された範囲について、均等の主張ができないことは明らかと言うべきであり、均等のその他の要件を検討するまでもなく、原告の主張には理由がない。

 

【所感】

裁判所の判断は妥当であると感じた。

ただ、本件特許について「弁杆15の下降時にガス流通路を遮断し、弁杆15の上昇時にガス流通路を形成すること」は請求項の記載から明らかである。このため、文言侵害の判断(争点2)では、出願経過を参酌するまでもなく、被告製品は構成要件F、Gを充足しないとの判断が可能であったのではないかと感じた。