発明の単一性に関する平成25年改訂審査基準の概要について

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事案の内容 発明の単一性に関する平成25年改訂審査基準の概要についての説明です。

事案の内容発明の単一性に関する平成25年改訂審査基準の概要について

特許法に関する改訂審査基準が平成25年6月26日付けで公表されました。今回の改訂審査基準の主な変更点は、「発明の単一性の要件」および「発明の特別な技術的特徴を変更する補正」に関するものです。「発明の単一性の要件」の改訂審査基準は、平成16年1月1日以降の出願に対して、平成25年7月1日以降の審査に適用されます。「発明の特別な技術的特徴を変更する補正」の改訂審査基準は、平成19年4月1日以降の出願に対して、平成25年7月1日以降の審査に適用されます。以下では、これらの概要について説明いたします。

 

1.「発明の単一性の要件」の審査基準

(1)発明の単一性の要件

発明の単一性の要件は、二以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴(以下、「STF」ともいう)を有することです(特許法第37条、特許法施行規則第25条の8)。

ここで、対応するSTFを有する場合とは、それぞれの発明の間で先行技術の対比において発明が有する技術的意義が共通若しくは密接に関連している場合又はSTFが相補的に関連している場合をいいます。なお、今回の改訂では、二以上の発明において、先行技術に対して解決した課題(本願出願時に未解決である課題に限る。)が一致又は重複している場合は、先行技術の対比において発明が有する技術的意義が共通又は密接に関連している場合に該当することが、新たに明示されています(審査基準 第Ⅰ部第2章2.2(4))。

(2)発明の単一性の要件以外の要件についての審査対象の決定

発明の単一性の要件は、特許請求の範囲の最初に記載された発明が他の発明との間で判断されます。発明の単一性の要件を満たさない発明であっても、一定の要件を満たす発明については、発明の単一性の要件以外の要件の審査対象とされます(審査基準 第Ⅰ部第2章3.1.1)。

具体的には、審査対象は、「特別な技術的特徴(STF)」「審査の効率性」とに基づいて決定されます(審査基準 第Ⅰ部第2章3.1.2)。

 

 手法1.特別な技術的特徴(STF)に基づく審査対象の決定(審査基準 第Ⅰ部第2章3.1.2.1)

手法1は、先回の改訂時(平成19年)に導入されたSTFに基づく従来からの手順に準じて行われます。手法1では、特許請求の範囲の最初に記載された発明、又は、その発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの発明のうち最初の一系列(請求項の番号の最も小さい請求項に係る発明を順次選択して形成される系列)の発明について、STFの有無を判断し、「STFを発見するまでにSTFの有無を判断した発明」及び「最初に発見されたSTFと同一の又は対応するSTFを有する発明」が審査対象とされます。

 

手法1の例

<説明図はPDFファイルを参照>

請求項1からSTFの有無を判断し、請求項3にSTFが発見された。

請求項1,2は、STFを発見するまでにSTFの有無を判断した発明である。

請求項4は、最初に発見されたSTFと同一の又は対応するSTFを有する発明である。

請求項5,6は、先行技術に対して解決した課題(本願出願時に未解決である課題に限る。)が一致又は重複している場合に該当し、最初に発見されたSTFと同一の又は対応するSTFを有する発明である。

この場合には、請求項1-6は全てSTFに基づく判断によって、発明の単一性の要件以外の要件の審査対象とされる。

 

 手法2.審査の効率性に基づく審査対象の決定(審査基準 第Ⅰ部第2章3.1.2.2)

手法2では、手法1において審査対象とされた発明とまとめて審査を行うことが効率的である発明を審査対象に加えます。まとめて審査を行うことが効率的であるかどうかは、明細書等の記載、出願時の技術常識及び先行技術調査の観点などを総合的に考慮して判断されます。例えば、次の発明ア又は発明イは、手法2によって審査対象とされます。

・発明ア:特許請求の範囲の最初に記載された発明の発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの請求項に係る発明(審査基準 第Ⅰ部第2章3.1.2.2(1))

ただし、発明アのうち次の例外1又は例外2は、審査対象から除外されます。

・例外1:特許請求の範囲に最初に記載された発明が解決しようとする課題と、当該発明に対して追加された技術的特徴から把握される、発明が解決しようとする具体的な課題との関連性が低い発明(審査基準の事例17,18,22,23,24,26を参照)

・例外2:特許請求の範囲に最初に記載された発明の技術的特徴と、当該発明に対して追加された技術的特徴との技術的関連性が低い発明(審査基準の事例16,17,18,21,23,24,25,28を参照)

・発明イ:特別な技術的特徴に基づいて審査対象とされた発明について審査を行った結果、実質的に追加的な先行技術調査や判断を必要とすることなく審査を行うことが可能である発明(審査基準 第Ⅰ部第2章3.1.2.2(2))

 

手法2の例](審査基準の事例25)

【請求項1】花蕾球上の花蕾の黄化率が平均15%未満であり、かつ、花蕾球上の少なくとも50%の花蕾が他の花蕾に接触していないブロッコリ植物。

【請求項2】該花蕾球が少なくとも6の分離した花蕾を有する請求項1記載のブロッコリ植物。

【請求項3】花蕾が少なくとも10cmの平均長を有する請求項1記載のブロッコリ植物。

【請求項4】請求項1記載のブロッコリ植物を生成することができる種子。

【請求項5】材料Xからなる容器で包装された、請求項1記載のブロッコリ植物。

<説明図はPDFファイルを参照>

請求項1からSTFの有無を判断し、最初の一系列の発明である請求項1,2からSTFが発見されなかった。請求項1,2は、STFを発見するまでにSTFの有無を判断した発明であるから、審査対象とされる(手法1)

請求項3は、請求項1の発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの発明(手法2の発明ア)であるから、審査対象に加えられる。

請求項4は、請求項1について審査を行った結果、実質的に追加的な先行技術調査や判断を必要とすることなく審査を行うことが可能である発明(手法2の発明イ)であるから、審査対象に加えられる。

請求項5は、請求項1の発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの発明(手法2の発明ア)であるが、請求項1の技術的特徴が「花蕾球上の花蕾の黄化率が平均15%未満であり、かつ、花蕾球上の少なくとも50%の花蕾が他の花蕾に接触していない」ブロッコリ植物自体であるのに対し、請求項1に対して追加された請求項5の技術的特徴はブロッコリ植物が「材料Xからなる容器で包装された」ことであり、両者は、技術的関連性が低い(手法2の例外2)。さらに、「材料Xからなる容器」は周知技術ではないので、請求項5は、請求項1,2について審査を行った結果、実質的に追加的な先行技術調査や判断を必要とすることなく審査を行うことが可能であるともいえないし、請求項1,2に係る発明とまとめて審査を行うことが効率的であるといえる他の事情も無い(手法2)。したがって、請求項5は、審査対象から除外される。

 

(3)第37条違反の拒絶理由通知(審査基準 第Ⅰ部第2章3.2)

いずれかの請求項が発明の単一性の要件以外の要件の審査対象とならない場合には、第37条違反の拒絶理由が通知されます。

 

2.「発明の特別な技術的特徴を変更する補正」の審査基準

(1)基本的な考え方(審査基準 第Ⅲ部第Ⅱ節3.1.1)

発明の特別な技術的特徴(STF)を変更する補正(いわゆるシフト補正)であるか否かは、補正前に新規性・進歩性等の特許要件について審査が行われた全ての発明と、補正後に特許請求の範囲に記載される事項により特定される全ての発明とが、発明の単一性の要件を満たすか否かにより判断されます。ただし、発明の単一性の要件と同様の考え方に基づき、STFを変更する補正に該当しない発明のほか、一定の要件を満たす補正後の発明が、第17条の2第4項以外の要件についての審査対象とされます。

(2)具体的な手順(審査基準 第Ⅲ部第Ⅱ節3.1.2)

補正後の特許請求の範囲に記載される事項により特定される全ての発明が、補正前に新規性・進歩性等の特許要件について審査が行われた全ての発明の後に続けて記載されていたと仮定したときに、上述の手法1及び手法2によって審査対象となる補正後の発明が、第17条の2第4項以外の要件についての審査対象とされます。

 

[例1] 補正前の請求項にSTFが発見されていた場合

<説明図はPDFファイルを参照>

補正前の請求項3にSTFが発見された。

補正後の請求項1-3に係る発明は補正前の請求項3の技術的特徴を全て含む同一カテゴリーの発明である。

補正後の請求項4-6に係る発明は、補正前の請求項3において発見されたSTFと同一のまたは対応する技術的特徴を有する発明である。

この場合には、補正後の請求項1-6は全てSTFに基づく判断(手法1)によって、第17条の2第4項以外の要件についての審査対象とされる。

 

[例2] 補正前の請求項にSTFが発見されていない場合

<説明図はPDFファイルを参照>

 補正前の請求項1-3にはSTFが発見されなかった。

補正後の請求項1-3に係る発明は補正前の請求項1の技術的特徴を全て含む同一カテゴリーの発明(手法2の発明ア)である。

この場合には、補正後の請求項1-3は、原則として、まとめて審査を行うことが効率的である発明として、第17条の2第4項以外の要件についての審査対象とされる。ただし、補正後の発明において追加された技術的特徴から把握される具体的な課題と補正前の請求項1に係る発明が解決しようとする課題との関連性が低い場合(手法2の例外1)や、補正前の請求項1に係る発明の技術的特徴と補正後の発明に追加された技術的特徴との技術的関連性が低い場合(手法2の例外2)などには、第17条の2第4項以外の要件についての審査対象から除外される可能性もある。

 

(3)補正前に拒絶理由通知が複数回なされている場合(審査基準 第Ⅲ部第Ⅱ節3.1.3)

補正前に拒絶理由通知が複数回なされている場合には、当該補正後の特許請求の範囲に記載される事項により特定される全ての発明が、各拒絶理由通知ごとに、当該拒絶理由通知において新規性・進歩性等の要件の判断が示された発明に続けて記載されていたと仮定して上述の手法1及び手法2によって審査対象となるか否かを判断しますこれら複数回の拒絶理由通知における判断の全てにおいて発明の単一性の要件以外の要件について審査対象となる補正後の請求項に係る発明が、第17条の2第4項以外の要件についての審査対象とされます。

(4)第17条の2第4項違反の拒絶理由通知(審査基準 第Ⅲ部第Ⅱ節3.2)

最初の拒絶理由通知に対する補正において、いずれかの請求項が第17条の2第4項以外の要件についての審査対象とならない場合には、第17条の2第4項違反の拒絶理由が通知されます。

最後の拒絶理由通知に対する補正において、いずれかの請求項が第17条の2第4項以外の要件についての審査対象とならない場合には、第17条の2第4項違反に違反していることを理由として当該補正が却下される場合があります。

なお、平成25年6月26日付けで審査ハンドブックから「63.09第17条の2第4項の要件に関する審査における留意点」が削除されたことにより、第17条の2第4項の要件に関する留意点を拒絶理由通知に記載することによって補正の方向性を示す運用が廃止されました。その結果、平成25年7月1日以降の審査に基づく拒絶理由通知には、審査官によって認定されたSFTを記載しない運用となっています。