照明装置事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-審取(当事者係)
判決日 2014.7.17
事件番号 H25(行ケ)第10242号
担当部 地財高裁 第1部
発明の名称 照明装置
キーワード 進歩性
事案の内容 本件は、無効審決(特許第4457100号)に対する審決取消訴訟であり,請求が認められて、無効審決が取り消された事件。無効審判では、甲16公報および甲17公報に基づき、本件発明の進歩性が否定されたが、審決取消訴訟では、本件発明の課題は、甲16公報に記載も示唆もなく、甲16発明に甲17発明を組み合わせることは、動機付けを欠くと判断された。
甲16公報:特開平1-144771号公報
甲17公報:特開2000-280267号公報

事案の内容

【請求項1】

所定方向に並設された複数のLEDと,各LEDの並設方向(X方向)に延びるように設けられた集光レンズ(第2レンズ30)とを備え,各LEDの光が集光レンズ(第2レンズ30)を通過して集光レンズ(第2レンズ30)から所定の距離だけ離れた位置であって前記LEDの並設方向(X方向)に撮像範囲の長手を有するように配置されたラインセンサカメラの撮像位置に線状(L1)に集光し,これにより前記撮像位置を照明しこれをラインセンサカメラで撮像するように構成されたラインセンサカメラ撮像位置照明用の照明装置(本体1)において,

この照明装置(本体1)は,前記各LEDから前記集光位置までの光の経路中に光を主に各LEDの並設方向(X方向)に拡散させる拡散レンズ(40)を備えると共に,前記集光レンズ(第2レンズ30)の各LED側の面によって受光レンズ部(第1レンズ20)が形成され,

受光レンズ部(第1レンズ20)を,各LED側に凸面状に形成するとともに各LEDの並設方向(X方向)に延びるように形成し,各LEDにおいて他の照射角度範囲よりも光の照射量を多くした所定の照射角度範囲から照射される光を受光可能に配置し,

前記拡散レンズ(40)を,前記光の経路と交差する所定の面上に延びるように設けられた透明な基板(41)と,該透明な基板の厚さ方向一方の面上に並ぶように設けられた複数の凸レンズ部(42)から形成し,各凸レンズ部(42)を,各LEDの並設方向(X方向)への曲率半径(RX)が各LEDの並設方向(X方向)と直交する方向(Y方向)への曲率半径(RY)よりも小さい曲面状に形成し,

前記各凸レンズ部(42)を,互いに近傍に配置された凸レンズ部(42)同士で各LEDの並設方向(X方向)への曲率半径(RX)が異なるように形成し,これにより,光を前記複数の凸レンズ部(42)のそれぞれの曲率に応じてLEDの並設方向(X方向)に屈折させて前記拡散を行う

ことを特徴とするラインセンサカメラ撮像位置照明用の照明装置。

 

【裁判所の判断】

(1)取消事由1(相違点1についての容易想到性判断の誤り)について

(1)-1 記載の認定

本件発明の課題は、所定方向に並設された複数の光源の光を無用に減衰させることなく所定の位置に線状に集光させることができ,しかも集光位置における光量のむらを低減することのできる照明装置を提供することにある(段落0005-0007)。本件発明により、光は、拡散レンズの各レンズを通過する際に各LEDの並設方向と直交する方向にはほとんど拡散されず,主に各LEDの並設方向に拡散される。さらに,各レンズ部は互いに近傍に配置されたレンズ部同士で各LEDの並設方向への曲率半径が異なるように形成されているので,各LEDの並設方向への光の拡散が効果的に行われる。

甲16発明の課題は、照射面の照度を均一にし,かつ有効照射巾を広げる手段を提供することである。なお、甲16公報には、「このため,LED12から出た光はシリンドリカルレンズ14で集束され,その後照射面3の近傍で光散乱されるため照度は低くなるが均一性が大巾に向上する」との記載がある。

甲17公報には、拡散角度の異方性を制御することが可能である光拡散体の製造方法が記載されている。

 

(1)-2 相違点1の認定について

甲16公報に記載された散乱シート2(本件発明の拡散レンズに相当)は,光の拡散方向を一定の方向に制御することなく,無指向にいずれの方向にも同程度に散乱させるものと認められる。したがって,甲16発明の散乱シート2は,各LEDの並設方向だけではなく,各LEDの並設方向と直交する方向にも,同程度,光を拡散させるものであると認められる。

甲16公報には,「有効照射巾を広げる」との目的や効果を,特定の方向に限定することを示唆する記載はなく,甲16発明は,横方向と同程度に縦方向にも光が拡散される構成を採用しているのであるから,主として横方向に光を拡散させることによって,甲16発明の課題が解決されるものとはいえず,甲16発明が,主として横方向に光を拡散する構成を備えるものとはいえない。

一方、本件発明は,各LEDの並設方向への曲率半径が各LEDの並設方向と直交する方向への曲率半径よりも小さい曲面状に形成されているので,主に各LEDの並設方向に拡散されることから,光が無用に減衰することなく所定の位置に線状に集光されるとともに,集光位置における光量のむらを低減することができるという効果を生じる(段落0009)。したがって,本件発明は,照射面における各LEDの並設方向のみの光のむらを問題とし,これを解消しつつ,光量の無用の減衰をさせないという課題を解決するため,光の散乱角度を制御し,光を各LEDの並設方向と直交する方向にはほとんど拡散させず,主に各LEDの並設方向という一定の方向にのみ拡散させることができる構成を採用したものである。

無効審決では、甲16発明に甲17発明を組み合わせることで、本件発明の進歩性を否定しているが、甲16発明は,主としてLEDアレイの並設方向に光を集中的に拡散させることを課題とするものではなく,かえって,これと直交する方向にも光を拡散させることを課題とするものであるから,光を特定の1つの方向にのみ集中的に拡散させるという機能を有する光拡散体である甲17発明を,甲16発明に組み合わせることは,その動機付けを欠くものであり,当業者が容易に想到することができるものとは認められないというべきである。

また,甲16発明と本件発明とは,照射面における光のむらを解消することを課題の一部とする点では共通するが,甲16発明は,照度のユラギを改善して照射面全体における照度を均一とすることを目的とし,これに加えて,有効照射巾の拡大のため,縦方向にも光を散乱させることを課題とするものであり,その結果として,照射面における一定程度の照度の低下はやむを得ないことを前提とし(実施例),これを防止することは解決課題とはしていないのに対し,本件発明は,各LEDの並設方向と直交する方向への光の拡散は課題としておらず,かえって,同方向へはほとんど拡散させずに,光を無用に減衰させることなく主に各LEDの並設方向に集光させ,かつ,照度の低下を防止することを必須の課題とするものであるから,両発明の解決課題は全体として異なるものである。それだけではなく,本件発明は,各LEDの並設方向と直交する方向への光の拡散はほとんどさせないことにより,光を無用に減衰させることなく集光することを解決手段の1つとするものであるから,これとは逆に,同方向への光の拡散を課題の一部とする甲16発明には,本件発明を想到することについての阻害要因が存するというべきである。

 

【所感】

裁判所の判断は、極めて妥当である。本件発明の課題と甲16発明との課題は全く異なるにもかかわらず、当業者であれば、甲16発明に甲17発明を組み合わすことで、本件発明に容易に想到できるとの特許庁での無効審決は、極めて不合理であると感じる。また、一致点や相違点の認定について、原告と被告との間で争いはないようだが、請求項の記載に明確な誤記が存在するため、明細書も含めて、そういった明瞭でない記載が他にも散見されるおそれがあり、こういった記載も誤った審決を導いた要因であるとも考えられる。新規の明細書作成時には、争いのない明確な記載をすべきである。