機械化学的ポリッシング装置用のポリッシングパッドへの透明窓の形成事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-審取(当事者係)
判決日 2012.08.28
事件番号 H23(行ケ)10280
発明の名称 機械化学的ポリッシング装置用のポリッシングパッドへの透明窓の形成
キーワード 容易想到性、課題、動機付け、阻害要因
事案の内容 無効審判の請求不成立が維持された事案。
物理的構造に関する発明特定事項についての容易想到性の判断がポイント。

事案の内容

【出訴時の請求項1(本件発明1)】

機械化学的ポリッシング装置用のポリッシングパッドであって,

ポリッシング面を有するパッド部18と,

(相違点1)前記ポリッシング面に形成され前記パッド部18を貫通した開口30であって,前記ポリッシング面23に隣接し第1の寸法を持つ第1セクション630および前記ポリッシング面23から遠く前記第1の寸法とは異なる第2の寸法を持つ第2セクション632を有する前記開口30と,

(相違点2)前記開口30の前記第1セクション630内に位置決めされた第1部分602と,前記開口の前記第2セクション内に位置決めされた第2部分604とを有する実質的に透明なプラグ600と,

前記プラグ600を前記開口30内の前記パッド部に固定する手段614(接着剤)と

を備えるポリッシングパッド。

 

【主引例】

甲1の半導体ウエハ研磨装置

 

【相違点】

相違点1:パッド部を貫通した開口について

本件発明1

ポリッシング面に隣接し第1の寸法を持つ第1セクションおよび前記ポリッシング面から遠く前記第1の寸法とは異なる第2の寸法を持つ第2セクションを有する

甲1

開口の形状が明らかでない。

 

相違点2: プラグについて

本件発明1

「開口の前記第2セクション内に位置決めされた第2部分」を有し,「開口内の前記パッド部」に固定される

甲1発明

プラグの第2部分が「定盤1」に固定される。

 

【容易想到性】

相違点1

本件発明1は,ポリッシングパッドにプラグが固定された構造から,パッド下方に位置するプラテン孔30へのスラリ40の漏れを防止する効果を奏することが認められる(段落【0022】)。

これに対して,甲1の図1には,上部に大径部,下部に小径部を有し,研磨布窓6内に大径部が位置決めされた透明窓材4があり,透明窓材4の小径部を溝2に設けられた貫通穴3に嵌め込んだ形状が図示されていることが認められる。

甲1発明は,研磨布5(パッド)の研磨布窓6(開口)の形状が明らかでなく,少なくとも,プラグを固定するものではないから,上記形状は,プラグの固定を良好にすることを意図したものではないといえる。

 

また,甲4の第1図,甲19の第3図,甲27の図7,甲31の図1には,いずれも,開口を蓋部材で塞ぐ構造において,開口の上部(下部)を下部(上部)よりも大きくし,それに蓋部材を嵌め込むようにして蓋部材が開口から抜け落ちなくすることが開示されている。

 

しかし,甲4は「メッキ付き時計ケースの時計ガラスの固定構造」,甲27は「内視鏡カバー方式の内視鏡」,甲31は「防水ケースの検査方法」に関する技術であり,本件発明1の機械化学的ポリッシング及びポリッシングパッドに関する技術とは異なる。

さらに,甲19は「研磨過程モニタ装置及びそのモニタ方法」に関する技術であって本件発明1と技術分野が共通するが,開口はパッドではなくプラテン64に形成され,ビュー・ウィンドウ72(プラグ)はプラテン64に嵌め込まれて固定されたものである。

 

相違点2について後述するように、プラグを固定するための上部と下部とが異なる寸法の開口を,パッドに形成するかプラテンに形成するかは設計事項であるとは言えない。

そうすると,甲4,甲19,甲27,甲31に,開口を蓋部材で塞ぐ構造において,開口の上部(下部)を下部(上部)よりも大きくし,それに蓋部材を嵌め込むようにして蓋部材が開口から抜け落ちなくする技術が開示されているとしても,ポリッシングパッド又はその開口の形状に適用することが記載又は示唆されておらず,適用することの動機付けがあるとも認められない。

 

後知恵を排除する観点から,上記の技術をポリッシングパッド又はその開口の形状に適用することに特別の動機は必要ないという解釈は採用できない。

したがって,ポリッシングパッドの開口が,「ポリッシング面に隣接し第1の寸法を持つ第1セクション」,「ポリッシング面から遠く前記第1の寸法とは異なる第2の寸法を持つ第2セクション」を有するものとすることが,当業者にとって自明であるとはいえない。

 

甲1の図1記載の形状はプラグの固定を良好にすることを意図したものではなく,甲19の図3記載の開口はパッドではなくプラテン64に形成され,ビュー・ウィンドウ72(プラグ)はプラテンに嵌め込まれて固定されたものであり,甲4,甲27,甲31記載の技術は,いずれも機械化学的ポリッシング及びポリッシングパッドに関する技術とは異なる技術分野に属する。

 

したがって,上記各証拠の記載から,実質的に透明なプラグを固定するためのポリッシングパッドに関し,「開口の上部を下部よりも大きく」する構成が周知であったとか,これらに記載された技術を適用して,相違点1に係る本件発明1の構成に容易に想到するとは認められない。

 

相違点2

相違点2は設計事項ではない。

甲1には,「定盤1」に設けられた貫通孔3に,硬質で比較的重量のある部材である「透明窓材4」が嵌め込まれること,定盤1の溝2を有する面に張り付けられるのは薄くて柔軟な部材からなる「研磨布5」であることが開示されているといえる。

甲1に接した当業者にとって,硬質で比較的重量のある部材である「透明窓材4」を「定盤1」ではなく,薄くて柔軟な材料からなる部材「研磨布5」に固定することが,技術常識からして当然とはいえない。

また,甲1において,「透明窓材4」を,「研磨布5」に固定する構成とする示唆ないし動機付けが示されているとも認められない。

そうすると,プラグ(甲1発明の「透明窓材4」)を固定する場合には,確実な固定の観点から,パッド部(甲1発明の「研磨布5」)ではなく,定盤に固定しようとすることがむしろ自然である。

また,機械化学的ポリッシング装置において,研磨パッドは定盤(プラテン)の上に貼り付け,ウエハに接触することが一般的と考えられる。

本件発明1及び甲1発明においてもそのような構成及び機能であるから,定盤と研磨パッド(ポリッシングパッド)とはその構成及び機能が異なるものと解される。

したがって,パッド部と定盤は,プラグを固定する対象として同格であるということはできず,プラグをプラテン(定盤)に固定するかパッドに固定するかは,設計事項とはいえない。

 

また、ポリッシングパッドにプラグが固定された構造から,スラリがパッドの下のプラテン孔に流出することを防止できる効果を奏することが理解できる。

一方,上記の通り、プラグがパッド部に固定されている構成が、甲1の記載から容易に想到できるとはいえないから,ポリッシングパッドにプラグが固定された構造から奏される上記の効果も,甲1から予測できるとはいえない。

また,甲19の段落【0016】に「研磨盤62はプラテン64と研磨パッド66を含む。・・・研磨パッド66は,・・・Rodel社 ・・・のもの等,一般に入手でき,厚みが50ミル(1.27mm) のオーダの研磨パッドから形成することができる。」と記載されるから,プラテンと研磨パッドとは別部材であると解され,他に,両者が一体となっていることの記載又は示唆はない。

そうすると,両者が一体となっていることを前提として,上記効果が,甲19により公知又は予測可能であるとする原告の主張は前提を欠く。

 

【所感】

結論は妥当であると考えられる。

一般的に、物理的構造に関する発明特定事項は、容易に想到できないと認定される可能性が高いと言えるので、審査において進歩性欠如の拒絶理由が通知されても、あきらめずに反論するべきである。