棚装置侵害訴訟事件

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判決日 2016.02.29
事件番号 H25(ワ)第6674号
担当部 大阪地方裁判所第26民事部
発明の名称 棚装置
キーワード 構成要件の充足性
事案の内容  原告(特許権者)が被告に対して特許権に基づく差止および損害賠償請求を行った事案であり、原告の主張が概ね認められた事案。
 本件明細書の記載から本件発明の技術的意義が認定され、技術的意義からすれば実施例に発明が限定されず被告製品が本件発明の構成要件を充足すると判示した点がポイント。

事案の内容

【前提事実】
(1)原告の特許権
ア 本件特許1
出願日 平成23年7月25日
分割の表示 特願2006-123085の分割
原出願日 平成18年4月27日
登録日 平成24年1月27日
イ 本件特許2
出願日 平成18年4月27日(特願2006-123085)
登録日 平成23年11月18日
原告への権利移転日 平成24年4月25日

 

(2)本件特許2
本件特許2の請求項1に記載された発明を「本件発明2」という。
・特許無効審判請求
・訂正請求(本件訂正2):本件訂正2の請求項1に記載された発明を「本件訂正発明2」という。
・再度、訂正請求(本件再訂正):本件再訂正の請求項1に記載された発明を「本件再訂正発明2」という。
・本件、再訂正を認め、無効審判不成立審決。審決は未確定。

構成要件の分説は、別紙「構成要件の分説2」に記載の通り。

 

(3)被告の行為
ア 被告は,遅くとも,別紙物件目録1記載の製品(以下「被告製品1」という。)については平成24年2月1日から,同目録2及び3記載の製品(以下「被告製品2」,「被告製品3」といい,被告製品1ないし3を併せて「被告各製品」という。)については同年5月から,平成27年2月末日又は同年3月26日まで(ただし一部の製品については,平成24年11月まで),業として製造,販売及び販売の申出を行った。
また,被告は,被告各製品用の別紙物件目録4記載の製品(以下「オプション棚板」という。)については,それらが対象とする被告各製品と同期間中,業として製造,販売及び販売の申出を行った。
被告各製品は本件発明1-1及び本件訂正発明1-1の構成要件を,被告製品1は本件発明1-2及び本件訂正発明1-2の構成要件をそれぞれ充足する。また,被告製品1は,本件発明2の構成要件2A,2B,2C及び2G(本件訂正発明2,本件再訂正発明2においても同一)を充足する。

 

【争点】
1 被告製品1の本件発明2の構成要件(2D,2E,2F)の充足性(争点1)
2 本件特許1は特許無効審判により無効とされるべきものか(争点2)
(1) 分割要件違反による出願日(平成23年7月25日)より前に頒布された
本件特許2の公開特許公報による新規性又は進歩性欠如(争点2-1)
(2) 本件発明1-1につき乙17発明を主引例とする,本件発明1-2につき
公知文献及び技術常識に基づく,進歩性の欠如(争点2-2)
(3) 乙3発明を主引例とする進歩性の欠如(争点2-3)
(4) 乙4発明を主引例とする新規性欠如(本件発明1-1),進歩性欠如(本
件発明1-2)(争点2-4)
3 本件発明2は特許無効審判により無効とされるべきものか(争点3)
(1) 乙34発明を主引例とする進歩性欠如(争点3-1)
(2) 乙3発明を主引例とする進歩性欠如(争点3-2)
4 本件発明1についての訂正の対抗主張の成否(争点4)
5 本件発明2についての訂正・再訂正の対抗主張の成否(争点5)
6 オプション棚板についての間接侵害の成否(争点6)
7 侵害行為のおそれ-差止請求の必要性(争点7)
8 損害発生の有無及びその額(争点8)

 

【裁判所の判断】
1 争点1(被告製品1の本件発明2の構成要件(2D,2E,2F)の充足性)について
イ 本件発明2の技術的意義
以上の本件明細書2の記載からすれば,本件発明2は,周囲に外壁を折り曲げ形成した平面視四角形の棚板の外壁を平面視L形のコーナー支柱の内面に重ねて,コーナー支柱の外側からボルト及びナットで直接締結するタイプの棚装置(構成要件2A,2B,2C及び2G)において,従来技術では,コーナー支柱と棚板との間にガタ付きが生じやすく,外壁の内面に配置されるナットが露出するために見栄えが悪く,物品が引っ掛かるという課題があったことから,棚板における外壁の先端に基板の側に折り返された内壁を一体に形成し,外壁と内壁の間にナットを隠す空間を空け(構成要件2E),その空間内の外壁の内面にナットを配置する(構成要件2D)ことにより,体裁を良くし,ナットに物品が引っ掛からないようにするとともに,内壁の補強機能により棚板の剛性を高めて棚装置をより頑丈にし,コーナー支柱の側板と棚板の外壁に位置決め突起と位置決め穴を設けること(構成要件F)により,それらを嵌め合わせて相対的な姿勢を保持し,コーナー支柱と棚板との間のガタ付きを防止するようにしたものであると認められる。
(2) 構成要件2Dについて
ア 上記(1)イの本件発明2の技術的意義①からすると,構成要件2Dの「前記棚板における外壁の内面には前記ボルトがねじ込まれるナットを配置しており」とは,ボルトをコーナー支柱の外側から締結する場合に,外壁と内壁との間に設けた空間内にナットが配置される前提として,ナットが外壁の内側でボルトと締結されるよう配置されるとの趣旨であると解するのが相当である。
この点,被告は,本件明細書2においては,実施例に関する記載(【0021】)等,ナットと外壁の内面との間には何も存在していないものしか記載されていないとして,このような配置に限定されている旨主張する。
しかし,被告の指摘する記載は,単なる一実施例の記載にすぎず,これに限定して解する理由にはならない。
イ 被告製品1において,ナットは,樹脂キャップに固定され,覆われてはいるものの,棚板の外壁の内側でボルトと締結されるように配置されているから(平成25年10月18日付け準備書面(被告)(1)添付の図1-1,甲13),構成要件2Dを充足する。

 

(3) 構成要件2Eについて
ア 被告製品1において,構成要件2Eのうち,「前記棚板における外壁の先端には前記基板の側に折り返された内壁が一体に形成されており,前記外壁と内壁との間には…空間が空いており」との構成を有することについては,当事者間に争いがない。そして,上記のとおり,被告製品1では,ナットは樹脂キャップに固定され,覆われて外壁と内壁の間の空間に配置されていることから,被告は,同空間は,「前記樹脂キャップを嵌め込むための」空間であり,「ナットを隠す空間」との構成を充足しない旨主張する。
しかし,前記(1)イの本件発明2の技術的意義①からすると,「外壁と内壁との間にはナットを隠す空間が空いており」との趣旨は,ナットが内壁と外壁との間の空間に隠れていることから,体裁が良くなるとともに,ナットが物品に引っ掛かることも防止できるとの点にあると認められ,このことからすれば,ナットが外壁と内壁との間の空間にあって外部に露出していないことに意義があるから,外壁と内壁との間にナットが隠れる間隔の空間が空いているという意味であると解するのが相当である。
なお,本件明細書2には,内壁6に円形の窓穴14を空けた実施例図4(A)が記載されており(【0023】),ナットが外壁と内壁との間にあることにより,外部から見えないことや内壁でナットを直接覆い隠すことは必ずしも必要とされていないものといえ,樹脂キャップにより覆われていることが意味を有するものではない。
したがって,被告製品1は,「前記外壁と内壁との間には前記ナットを隠す空間が空いており」との構成を有し,構成要件2Eを充足する。

 

(4) 構成要件2Fについて
ア 被告は,被告製品1は,「位置決め突起」,「位置決め穴」及び「きっちり嵌まる」との構成を具備しないと主張する。
イ この点,前記(1)イの本件発明2の技術的意義②からすると,「位置決め突起」,「位置決め穴」及び「きっちり嵌まる」とは,コーナー支柱と棚板の相対的姿勢を保持し支柱の棚板との間のガタ付きを防止するものであれば足りると解するのが相当である。
 そして,弁論の全趣旨(特に平成25年10月18日付け準備書面(被告)(1)添付の図1-2)によれば,被告製品1は,被告の主張のとおり,「前記コーナー支柱における2枚の側板の交叉する角の内面には,平面視で交差した鉤型の突部が設けられている一方,棚板における角を形成する隣接する2つの外壁の各端部には,前記突部を嵌めるための切欠き凹部が設けられている」との構成を有すること,「突部」は「切欠き凹部」に嵌り合うが,僅かな隙間があることが認められる。このように,被告製品1の「前記コーナー支柱における2枚の側板の交叉する角の内面には,平面視で交差した鉤型の突部」は,「切欠き凹部」に嵌め合わされるものであり,嵌め合わせた際の隙間も僅かであることからすれば,コーナー支柱と棚板の相対的姿勢を保持し支柱の棚板との間のガタ付きを防止し得るものであることは明らかであり,被告製品1の「突部」は本件発明2の「位置決め突起」に該当し,「切欠き凹部」は「位置決め穴」に該当し,両者は「きっちり嵌まる」構成であると認められる。
ウ 被告は,「位置決め突起」について,側板と外壁のいずれにも設置し得る形状であり,簡単に加工し得る,部分的に突き出て存在している形状である旨主張する。
しかし,前記(1)イの本件発明2の技術的意義②からすれば,「位置決め突起」は,側板か外壁のいずれか一方に設けられていれば足り,構成要件2Fの文言上もいずれにも設置し得る形状という限定を加えるものではないし,突起が部分的か否かといった相対的な大きさにおいて限定されているものでもない。また,本件明細書2の「突起及び穴とも加工は簡単であるためコストが嵩むことはない」(【0011】)との記載は,幅の広い程度の問題であって,この記載から直ちに何らかの特定の程度に加工が簡単な形状という意味に限定的に解することはできない。
また,被告は,「位置決め穴」は,隣接する2つの外壁の端部にまたがらずに1つの外壁のみで全周が閉じられたものでなければならない旨主張するが,被告の指由になるものではないし,「穴」ないし「孔」がくぼんだ所を意味するものであること,部材の端を切り欠いたもの等も「穴」ないし「孔」として認識されていること(甲10ないし12)からすれば,全周が閉じられたものに限定されるものではない。
さらに,被告は,「きっちり嵌まる」とは,コーナー支柱と棚板との相対的な姿勢が保持される態様で,位置決め突起が隙間なく位置決め穴に嵌まることを意味することと主張する。しかし,前記(1)イの本件発明2の技術的意義②からすると,「位置決め突起」が「位置決め穴」に「きっちり嵌まる」とは,ガタ付き防止に役立つものであればよく,位置決め突起と位置決め穴との間に完全に隙間がないことが要件となるものではない。
よって,被告製品1は,構成要件2Fを充足する。
(5) 以上から,被告製品1は,本件発明2の構成要件2D,2E及び2Fを充足する。そして,被告製品1が本件発明2の他の構成要件を充足することに争いはないから,被告製品1は,本件発明2の技術的範囲に属する。

 

(3) 技術的範囲の属否について
前記1のとおり,被告製品1は当初の本件発明2の構成要件を充足するところ,別紙被告製品1説明書記載2の「図面の説明」(写真)によれば,被告製品1は,当初の構成要件2Eに追加された「前記内壁の先端部は前記基板に至ることなく前記外壁に向かっており」との構成要件2E′を充足し,当初の構成要件2Fが変更された「更に,前記コーナー支柱の側板には位置決め突起を,前記棚板には前記外壁のみに前記位置決め突起がきっちり嵌まる位置決め穴を設けている」との構成要件2F′を充足すると認められるから,被告製品1は本件再訂正発明2の技術的範囲に属する。
(4) 結論
以上から,本件特許2について訂正請求がされ,本件再訂正は訂正要件を備えており,これらの訂正により無効理由が解消されており,被告製品1が本件再訂正発明2の技術的範囲に属するのであるから,本件特許2についての訂正の再抗弁は,理由がある。
したがって,争点3―1及び3-2について別途判断するまでもなく,被告製品1を製造販売等する行為は,本件特許2に係る特許権を侵害する。

 

【感想】
裁判所の判断は妥当であると感じる。
裁判所において、発明の各構成要件の内容を認定する際に、明細書の記載から技術的意義を認定し、認定した技術的意義をもとに各構成要件の内容を認定している。
各構成要件が実施例の記載に限定解釈されないように、課題や各構成要件の技術的意義(効果)を記載すること(例えば、ナットは内壁と外壁との間の空間に隠れてるため、体裁が良いと共にナットに物品が引っ掛かることも防止できる(本件明細書段落0013))が大切であると感じた。