果菜自動選別装置用果菜載せ体と,果菜自動選別装置と,果菜自動選別方法事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-審取(当事者係)
判決日 2014.12.24
事件番号 H26(行ケ)10071
担当部 知財高裁第2部
発明の名称 果菜自動選別装置用果菜載せ体と,果菜自動選別装置と,果菜自動選別方法
キーワード 進歩性、動機付け
事案の内容 無効審判の請求不成立審決が取り消された事案(進歩性有り→進歩性無し)。
審判では組み合わせる動機付けが無いと認定されたが、裁判では課題の共通性等に基づき動機付け有りと認定された点がポイント。

事案の内容

<本件請求項1>

 【請求項1】

 果菜載せ体2が無端搬送体に多数取付けられた果菜搬送ラインの供給部において果菜載せ体2の上に果菜3を載せて搬送し、搬送中に果菜3を計測部Bで計測して等階級等を判別し、果菜載せ体2の上の果菜3を判別結果に基づいて振り分けて搬送ラインの搬送方向側方に送り出す果菜自動選別装置の果菜載せ体2において、

果菜載せ体2は搬送ラインの搬送方向側方に往復回転可能な搬送ベルト12を備え、搬送ベルト12の上に果菜3を載せることのできる受け部13が設けられ、搬送ベルト12の上方であって前記受け部13よりも往回転方向後方に仕切り体17が設けられ、仕切り体17は前記受け部13よりも上方に突出しており、搬送ベルト12の往回転に伴ってその往回転方向に移動し、復回転に伴ってその復回転方向に戻ることを特徴とする果菜自動選装置用果菜載せ体2。

 

<主引用発明(甲2発明)>

・受け台8がガイドチェーン7に多数取付けられた振分けコンベア2の供給部9において受け台8の上にキューイKを載せて搬送する果菜物整列箱詰装置1

・搬送中にキューイKを判定部3で計測してサイズ・品質・重量を判別し,受け台8の上のキューイKを判別結果に基づいて振り分ける

・受け台8は、キューイKを載せることのできる受け部が設けられ、振分けコンベア2の搬送方向側方に送り出すために傾動する

<相違点F’>

本件発明

 搬送部材が、往復回転可能な搬送ベルトである。

 搬送ベルトの上方であって受け部よりも往回転方向後方に仕切り体が設けられ,仕切り体は前記受け部よりも上方に突出しており,搬送ベルトの往回転に伴ってその往回転方向に移動し,復回転に伴ってその復回転方向に戻る。

 甲2発明

 搬送部材が、傾動可能な受け台8である。

<副引用発明(甲3発明)>

・搬送ユニット上の搬送物Pを搬送方向と直交方向に設けた仕分けシュートCに搬出する小物類の仕分け装置

・移送シート49の上に、搬送方向と直交する方向に走行可能であって端部位置で巻回される搬送物Pを載置する

・移送シート49は、常態で中間部で窪んでいる

・この状態で移送シート49を仕分けシュートCに対応する位置Hで走行させることにより、搬送物Pを移送シート49の走行方向の端部位置で仕分けシュートCに搬出する

 

<審判の判断>

 甲3では「小物類である搬送物P」を搬送方向側方に送り出す際に、「中央位置で窪む窪み面45を有する左右方向を円弧状に形成した受板46」の水平でない窪み面及び円弧状の形状から、前記受け部は「移送シート49」に伴い上下方向に移動することになる。

 このことにより、仮に、甲2発明に甲3発明を適用したとすると、特に、「果菜」のような「傷付き易く、傷み易く、形状、大きさが一つずつ異なるもの」で「転がる」可能性のある搬送対象では、物品の損傷や破損の防止という課題が十分に達成されるとはいえない。

 以上のことから、受け部に関して、課題解決手段の作用効果の点から甲2発明に甲3発明を適用することには、むしろ阻害要因があるものといえる。

 さらに、技術分野、搬送対象及び解決すべき課題を異にし、かつ計測部を備えた甲2発明において、甲3発明を組み合わせる動機付けはないというべきである。

⇒進歩性有り

 

<裁判所による副引例発明の認定>

 本件請求項1の記載からすると,「受け部」の構成、位置を搬送ベルト上の特定の箇所や構成に限定する記載はない。

 そうすると,「受け部」は,仕切り体よりも往回転時に前方に位置する,すなわち,仕切り体よりも果菜引受け体側(排出側)に位置する搬送ベルト上にある,果菜を載せ置く部分との意味合いを有するものと認められる。

 そして、請求項1における「搬送ベルトの往回転に伴ってその往回転方向に移動し,復回転に伴ってその復回転方向に戻る」との技術的意義は,往回転によって送り出した搬送ベルトを,送り出した分だけ復回転することによって,元々あった搬送ベルトの位置,すなわち,果菜が載置されて往回転する前の状態に戻すことを指すものと認められる。

 そして,甲3発明の「バー48b及び当該バー48bと側縁の結着した移送シート49の側縁領域」は,中央位置で窪む窪み面45を有する左右方向を円弧状に形成した受板46とこの受板46に重合される緩衝シート47の面上に重合して左右方向に移動する移送シート49(本件発明の「搬送ベルト」に相当)の上にあって,中央位置で窪む窪み面45よりも往回転方向後方に高い位置Hを保持しているものであるから,「受け部よりも上方に突出して」取り付けられているものであるといえ,本件発明における「仕切り体」に相当するものと認められる。

 また,甲3において,搬送物は,「(中央位置で窪む窪み面45を有する左右方向を円弧状に形成した受板46とこの受板46に重合される緩衝シート47の面上に重合して左右方向に移動する)移送シート49の上面領域からバー48a,48bと結着した両側縁領域を省いた領域」に載置されるものであるから,同領域が本件発明の「受け部」に相当するものと認められる。

 したがって,甲3発明は,審決も認定するとおり,「移送シート49の往回転に伴ってその往回転方向に移動し,復回転に伴ってその復回転方向に戻る」構成を備えているものである(段落【0029】~【0033】参照)。

 そうすると,甲2発明において,甲3発明の搬送ユニットを適用したものは,往復回転可能な搬送ベルトを備えたものとなり,「仕切り体」及び「受け部」が,往回転及び復回転(戻り回転)方向に移動するものであり,結局,相違点F’に係る構成を備えることになると認められる。

したがって,甲2発明と甲3発明を組み合わせたとしても,相違点F’に至らないとの被告の主張は採用できない。

 

<甲2発明に甲3発明を組み合わせる動機付け>

審決は,搬送対象について甲2発明の搬送対象は,キューイなどの「果菜」であるが,甲3発明の搬送対象は,薄物や不定形品などの小物類であり,搬送対象の具体的性状を異にしており,この搬送対象の相違により,発明の対象となる技術分野も,甲2発明において「果菜自動選別装置用果菜載せ体」であるのに対し,甲3発明では「物品選別装置用物品載せ体」であって,相違すると判断した。

 

 しかし,甲2発明は,上記のとおり,キューイ等の果菜を選別する装置における果菜を載置する受け台に関するものであり,また,甲3発明は,上記のとおり,薄物や不定形品などの小物類を自動的に仕分ける装置における小物類を載置する搬送ユニットに関するものであるから,甲2発明と甲3発明とは,物品を選別・搬送する装置における物品載せ体,すなわち「物品選別装置用物品載せ体」に関する技術として共通しているといえる。

 また,両者が搬送する物品は,甲2発明では,キューイ等の果菜であるのに対して,甲3発明では,薄物や不定形品などの小物類であるから,物品の大きさや性状に大きな相違はない。

 このことは,甲1において,「各種の品物を,大きさ(サイズ)別,重量別などに自動的に選別してより分ける選別装置」と記載され(【0001】),「従来より小荷物,果菜その他の各種品物を大きさ,重量,形状等の条件に基づいて自動的に選別する装置には種々のものがあった」として,従来技術について,特に小荷物と果菜とを区別しておらず,「特にいたみやすい果菜の自動選別」(【0001】)として,傷みやすい搬送物の典型として特に果菜を挙げながらも,請求項1において,搬送物につき「果菜や小荷物等」との記載をしており,対象とする物品が,果菜と小荷物等とで異なるとしても,これらの物品を選別,搬送する装置としては,同一の技術分野に属するものと捉えていることが明らかである。

 しかも,果菜が傷みやすく傷付きやすいとはいえ,甲1にも示されるように,従来から,果菜を選別して搬送方向から側方に送り出す際であっても,容器を傾倒する方式が採用されていたのであるから,破損しやすい小物類との間で,技術分野が異なるというほどに相違するものではない。

 さらに,甲2発明は,前記のとおり,キューイを転動させて受けボックス内に整列させると,受けボックスの下流側内壁面にキューイが当接したり,キューイの相互接触により,キューイの外周面に打ち傷や擦り傷が付いたりすることがあり,キューイの商品価値が損なわれるという問題点を解決するために,コンベアの搬送面上に形成した受け部に果菜物を個々に載置し,果菜物を所定間隔に離間した姿勢に保持して搬送することで,搬送中における果菜物の接触及び衝突を防止することとしたものであるところ,搬送物を選別振り分けする際に,搬送物が壁等の設備に衝突することを防止したり,搬送物同士の相互接触を防止したりするという課題は,ボックス内に整列させる際のみならず,選別・搬送の全過程を通じて内在していることは明らかである。

 そして,甲2発明は,振り分けコンベアの受け台が,載置された搬送物を搬送方向側方に送り出す際に,搬送方向側方に向けて傾動可能な構成であるところ,甲1には「傾動させて搬送物を搬送方向側方に送り出すには,ある程度の落下による衝撃,あるいは,接触時に衝撃が生じ,搬送物に損傷や破損の生じるおそれがあることは,従来技術の秤量バケットEを可倒させて,果菜Bを転がして落とす自動選別装置において,傷が付いたり潰れたりするという問題を解決するために,バケット式の果菜載せ体をベルト式の果菜載せ体に置換した」と記載されるように,その構成自体から明らかな周知の課題である。

 一方,甲3発明は,上記で認定したように,従来の傾動可能なトレイを備えた方式の場合は,搬送物同士の衝合による損傷や破損の生じるおそれがあり,破損しやすい搬送物の搬送には不向きであるという課題を解決するものである。

 そうすると,甲2発明と甲3発明は,課題としての共通性もある。

 以上を総合すると,甲2発明の振分けコンベアの搬送方向側方に向けて傾動可能な構成において生じる搬送物の損傷,破損という技術課題を解決するために,甲3発明を適用して,相違点F’の構成に至る動機付けが存在するといえる。

 

【所感】

判決は不当であり、審決と被告の主張とが妥当であると感じた。

審決の認定通り、甲2発明に甲3発明を組み合わせる動機付けは無いと思う。

判決文では、各文献における請求項1の発明が解決しようとする課題に共通性があるから動機付け有りと認定しているが、進歩性を否定するための後知恵であると考えられる。

つまり、上記の共通性があったとしても、組み合わせるために抽出された発明特定事項が、請求項1についての課題解決のための特徴でなければ、動機付け有りと認定する根拠にはならないと考えられる。

実際に組み合わせることで得られる構成は、審決や、裁判における被告の主張(判決文P35-36等)として説明されている通り、課題が解決できるどころか、改悪になると考えられる。

このような場合は、阻害要因があるとして進歩性を認めるべきであろう。

 

 また、裁判所は「両者が搬送する物品は,甲2発明では,キューイ等の果菜であるのに対して,甲3発明では,薄物や不定形品などの小物類であるから,物品の大きさや性状に大きな相違はない。」と認定しているが、キューイのような楕円体形状と、薄物や不定形品とでは、搬送技術において大きな相違であると考えられる。

 具体的には、甲3発明のバー48aは、楕円体形状の搬送物を押し出すのには不向きであると考えられる。

 

さらに、動機付け有りを認定するために、第3の文献(甲1)を持ち出している時点で、通常の手法では論理付けが成立しないことを裁判所が自白しているようなものである。

 

裁判所が、今回の被告の主張を認めないのは残念である。