日本語明細書作成の際の推奨表現
1.はじめに
この文書は、主として外国出願時の翻訳(日→英、日→中等)における誤訳を予防するため、日本語明細書を作成する際に推奨される表現を例示したものである。
誤訳の原因は、大きくは、
(1)文意の理解の誤り(例えば多義的な用語の解釈の誤り)、および
(2)外国語への置換の際の誤り(例えば文法や用語の違いに起因する誤り)
に分類される。以下、これらの分類毎に、単語レベルでの推奨表現と、配列・文法レベルでの推奨表現とを例示する。
本文書には、日本語としてやや不自然な表現も含まれているが、それらの表現も誤訳予防の観点から推奨される。ただし、掲載された表現を用いるとかえって誤訳の可能性が高くなると考えられる場合や、表現が過度に不自然となったり冗長となったりする場合には、適宜、他の表現を用いる。
なお、本文書の作成にあたり、「平成22年度 特許版・産業日本語委員会報告書「産業日本語」、平成23年3月、日本特許情報機構」の「Ⅲ.特許文章ライティングマニュアル」を参考にした。
2. 文意の理解の誤りを予防するための推奨表現
2.1 単語レベルでの推奨表現
2.1.1 一般的な行為を表す動詞の明確化
[解説]
「する」「なる」といった一般的な行為を表す動詞は、翻訳時に原文作成者の意図と異なる解釈がなされるおそれがあるため、意味の明確な表現に言い換える。
例1 | 備考 | |
×原文 | 二次電池を、キャパシタにする。 | 「する」の意味が曖昧。 |
○言換後 | 二次電池を、キャパシタに置き換える |
「置き換える」という明確な表現に言い換えた。 |
2.1.2 格助詞「で」の言い換え
[解説]
格助詞「で」は「by」と翻訳されることが多い。しかし、格助詞「で」は、多様な意味を有し、「by」と翻訳されることが不適当な場合もある。そのため、意味がより明確な表現を用いることが望ましい。
例2 | 備考 | |
×原文 | 電圧監視部を冷却する冷却手段を、支持部材で兼ねる。 | 「で」の意味が曖昧。 |
○言換後 | 支持部材が、電圧監視部を冷却する冷却手段を |
明確な表現に言い換えた。 |
例3 | 備考 | |
×原文 | アニール処理で、内部歪みが取り除かれる。 | 「で」の意味が曖昧。 |
○言換後 | アニール処理によって |
明確な表現に言い換えた。 |
2.1.3 接続助詞「が」の言い換え
[解説]
接続助詞「が」の後ろには様々な論理関係(逆接、単純な接続等)の内容が続き得るため、誤訳が生じやすい。そのため、意味がより明確な表現を用いることが望ましい。
例4 | 備考 | |
×原文 | 図1に示すネットワークシステム10は、1つの端末装置210を備えるが、ネットワークシステム10は、複数の端末装置210を備えてもよい。 | 接続助詞の「が」が使用されている。 |
○言換後 | 図1に示すネットワークシステム10は、1つの端末装置210を備える |
文を分割して接続助詞「が」の使用を回避した(分割時の接続語は省略してもよい)。 |
2.1.4 臨時的な複合語表現の言い換え
[解説]
助詞を除去した臨時的な複合語表現は、誤訳の原因となりかねないため、できるだけ使用を避ける。
×原文 | ○言換後 | |
例5 | 部材上端 | 部材の上端 |
例6 | 上下壁 | 上壁と下壁 |
例7 | 断面矩形の | 断面が矩形である |
2.1.5 並列表現の明確化
[解説]
並列表現は、並列要素が多い場合や並列要素に修飾語が付随する場合等に、誤訳を引き起こしやすい。以下の規則(1)~(3)に従うことにより、並列表現における誤訳を防止する。
例8 | 備考 | |
×原文 | MACアドレステーブルMTには、端末装置210のレイヤ2アドレスとしてのMACアドレスや端末装置210の所属VLANの番号、端末装置210が接続された物理ポートの番号が登録される。 |
規則(1)並列要素の全てを指す場合(all of)
→ Aと、Bと、Cと、Dと、(のすべて)
○言換後 | MACアドレステーブルMTには、端末装置210のレイヤ2アドレスとしてのMACアドレス |
※各並列要素があまり長くない場合(単語等の場合)には、「と、」の読点「、」は省略してもよい。
規則(2)並列要素のいずれか1つのみを指す場合(any one of)
→ Aと、Bと、Cと、Dと、のいずれか1つ
○言換後 | MACアドレステーブルMTには、端末装置210のレイヤ2アドレスとしてのMACアドレス |
規則(3)並列要素の1つ以上を指す場合(at least one of)
→ Aと、Bと、Cと、Dと、の少なくとも1つ
○言換後 | MACアドレステーブルMTには、端末装置210のレイヤ2アドレスとしてのMACアドレス |
※例外
並列要素(A、B、C、D)が1ワードである場合や、「…として」の前の列挙の場合は、上記規則に代えて、以下のような表現を用いてもよい。
→ A、B、C、および、D
例9 | 備考 | |
△言換後1 | 非酸性の基剤は、酸化染料と、炭化水素と、エステルと、シリコーンと、高級アルコールと、動植物油と、界面活性剤と、植物抽出物と、アルコール類と、合成高分子と、香料と、精製水とを含む。 | 列挙される要素が多い場合、「と」が冗長。 |
○言換後2 | 非酸性の基剤の成分は、酸化染料 |
「と」を用いない表現を採用した。 |
例10 | 備考 | |
△言換後1 | Aと、Bと、Cと、Dと、としては・・・ | 「と、」と「としては」とのつながりがおかしい。 |
○言換後2 | A |
「と」を用いない表現を採用した。 |
2.1.6 数量詞に関する言い換え
[解説]
数量詞とその数量詞が修飾する名詞とは、数量詞を強調する場合などを除き、なるべく近づけて記載する(「数量詞の遊離」を避ける)。
例11 | 備考 | |
×原文 | 孔7をシート部材6の一端に複数設けた。 | 「孔」と「複数」が遠い。 |
○言換後 | 複数の孔7をシート部材6の一端に |
「複数」を「孔」に直接、修飾させた。 |
※クレームに「1つの」と記載すると、米国では複数も含まれると解釈されるが、中国では1つに限定されて解釈される可能性が高い。そのため、1つであることを明確に記載する場合を除き、翻訳容易化のために和文の段階で「1つの」と記載しない。
2.1.7 バリエーションの表現の明確化
[解説]
実施形態のバリエーションの記載(変形例)において頻繁に用いられる「~できる」という表現は、「may」とも「can」とも訳出される可能性がある。英文明細書で一般的に使用される「may」と訳出させるため、「~であってもよい」「~してもよい」という表現を用いる。
例12 | 備考 | |
×原文 | 抵抗部90の形状は、オリフィス形状の代わりに、蛇腹形状とすることができる。 | 「may」「can」の双方に訳出される余地がある。 |
○言換後 | 抵抗部90の形状は、オリフィス形状の代わりに、蛇腹形状であってもよい |
確実に「may」と訳出される。 |
例13 | 備考 | |
×原文 | 画像解析部20は、解析対象として、カラーの画像データの代わりに、グレースケールの画像データを用いることができる。 | 「may」「can」の双方に訳出される余地がある。 |
○言換後 | 画像解析部20は、解析対象として、カラーの画像データの代わりに、グレースケールの画像データを用いてもよい |
確実に「may」と訳出される。 |
2.2 配列・文法レベルでの推奨表現
2.2.1 注記の配置の最適化
[解説]
「図示しない」という注記と「部材名」との位置が離れていると、注記「図示しない」の係り受けに解釈が必要となる。したがって、注記「図示しない」は「部材名」の直後に括弧書きで表記する。ただし、図示できる部材は、なるべく図面に示し、符号を付すことが好ましい。
例14 | 備考 | |
×原文 | …の側面には、図示しない長さ約1mmの複数の突起部が設けられている。 | 「図示しない」の係り受けに解釈が必要。 |
○言換後 | …の側面には、 |
部材名の直後に(図示しない)を配置した。 |
[解説]
括弧による注記が表現要素の途中に配置されていると、要素が分断され文意を把握しにくい。そこで、括弧による注記を表現要素の切れ目に置くか、注記の内容を独立した文に分ける。
例15 | 備考 | |
×原文 | ネットワーク(本明細書では、ネットワークは、有線ネットワークと無線ネットワークとを含む。)装置100は、通信部110を備える。 | 要素が途中で分断され、把握しにくい。 |
△言換後 | ネットワーク |
注記を表現要素の切れ目に置いた。 |
○言換後 | ネットワーク |
注記の内容を独立した文に分けた。 |
2.2.2 文の分割
[解説]
原則として、3行を超える長い文は、重複記載による冗長化に注意しつつ、複数の文に分割する。
例16 | 備考 | |
×原文 | 亀裂内にガラスが侵入すると、侵入したガラスによって亀裂内の水素の流通が妨げられるため、水素と酸素との燃焼反応が抑制され、温度が下降し、亀裂内に侵入したガラスは、亀裂内に侵入した形で固化し、亀裂を通って水素が漏洩することを防止する。 | 1文が長い。 |
△言換後 | 亀裂内にガラスが侵入すると、侵入したガラスによって亀裂内の水素の流通が妨げられるため、水素と酸素との燃焼反応が抑制され、温度が下降する。温度が下降すると、 |
2文に分割したが、まだ1文が長い。 |
○言換後 | 亀裂内にガラスが侵入すると、侵入したガラスによって亀裂内の水素の流通が妨げられる |
4文に分割した。 |
[解説]
修飾部分を含む要素列挙文は、長文となりやすい。このような場合には、修飾先の誤解のおそれがないとしても、主要素を列挙する文と、主要素の修飾部分を説明する文とに分割する。
例17 | 備考 | |
×原文 | スパークプラグ100は、軸線方向ODに沿って延びる軸孔12を有する筒状の絶縁碍子10と、絶縁碍子10の周囲を取り囲む筒状の主体金具20と、絶縁碍子10の後端側に取り付けられた端子金具30と、絶縁碍子10の軸孔12の先端に設けられた中心電極40とを備える。 | 1文が長い。 |
○言換後 | スパークプラグ100は、 |
主要素を列挙する文と、主要素の修飾部分を説明する文とに分割した。 |
2.2.3 長文の箇条書き化
[解説]
例えば条件や例を多数列挙することによって1文が長くなる場合には、箇条書き化を検討する。
例18 | 備考 | |
×原文 | 本発明は、例えば、ファクシミリ装置や、液晶ディスプレー用のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射装置、有機ELディスプレーの電極形成に用いられる電極材噴射装置、生体有機物を含む液体を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとしての試料噴射装置など、インク以外の他の液体を噴射する任意の液体噴射装置にも適用可能である。 | 例示が多く文が長くなっており、わかりにくい。 |
○言換後 | 本発明は、 (2)液晶ディスプレー用のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射装置 (3)有機ELディスプレーの電極形成に用いられる電極材噴射装置 (4)生体有機物を含む液体を噴射する液体噴射装置 (5)精密ピペットとしての試料噴射装置 |
箇条書きにすればすっきりする。 |
2.2.4 係り受けの曖昧性の除去
・文の分割による曖昧性の除去
[解説]
修飾要素が長いと、その修飾先が誤解されるおそれがある。そこで、修飾要素が長い場合には、一文が短くても、主要素と修飾要素とを別の文に分割する。
例19 | 備考 | |
×原文 | 複数のセルが積層されることによって形成された燃料電池スタック100の電圧は、電圧検出部20によって検出される。 | 修飾要素が長い。 |
○言換後 | 燃料電池スタック100は、複数のセルが積層されることによって形成される。 |
修飾要素を別の文に分離した(構成を先に、処理を後に配置した)。 |
・配置の変更による曖昧性の除去
[解説]
修飾成分と被修飾成分との間に他の要素が入ると、その要素が被修飾成分であると誤解されるおそれがある。この場合、修飾成分または被修飾成分を移動し、修飾成分を被修飾成分の直前または近傍に配置することにより、係り受けが明確化されることがある。
例20 | 備考 | |
×原文 | 既存のネットワーク装置において使用されるルーティングテーブルRTは、… | 「既存の」が「ネットワーク装置」に係るのか「ルーティングテーブルRT」に係るのか、不明確。 *正しい解釈:「既存の」は「ルーティングテーブルRT」に係る。 |
○言換後 | 「既存の」が「ルーティングテーブルRT」に係ることが明確になった。また、「ネットワーク装置で使用される」が「既存の」に係ると誤解されるおそれはない。 |
注)上記例では、「既存の」と「ネットワーク装置において使用される」との2つの修飾成文があり、一方は単語(形容詞句)であり、他方は節(形容詞節)である。このような場合に、形容詞句を先に配置すると、形容詞句の係り先が形容詞節の先頭の名詞であると誤解される可能性が高い。そのため、このような場合には、形容詞節を先に配置することを検討してみるとよい。
ただし、配置の変更によって曖昧性を除去できない場合もある。この場合には、文を分割することによって曖昧性を除去する。
例21 | 備考 | |
×原文 | 公開鍵暗号化方式に準拠したネットワーク装置において使用される暗号鍵は、… | 「公開鍵暗号化方式に準拠した」が「ネットワーク装置」に係るのか「暗号鍵」に係るのか、不明確。 *正しい解釈:「公開鍵暗号化方式に準拠した」は「暗号鍵」に係る。 |
×言換後1 | (失敗例) 「公開鍵暗号化方式に準拠した」が「暗号鍵」に係ることは明確になったが、今度は「ネットワーク装置において使用される」が「公開鍵暗号化方式」に係るのか「暗号鍵」に係るのかが、不明確となった。 →このような場合は2文に分割すると良い。 |
|
○言換後2 | この暗号鍵は、公開鍵暗号化方式に準拠している。 |
2文に分割した。 |
・係り先の明示による曖昧性の除去(クレーム限定)
[解説]
明細書中では、上述したように、文を分割することによって係り受けの曖昧性を除去することを原則とする。他方、クレームにおいては、多くの修飾語を一文に配置せざるを得ない場合がある。この場合に、配置の変更だけでは係り受けの明示が不可能であったり、不適当であったりすることもある。こうした場合には、係り先の明示によって曖昧性を除去することを検討する。
例22 | 備考 | |
×原文 | ネットワーク装置であって、 公開鍵暗号化方式に準拠したネットワーク装置において使用される暗号鍵を格納するメモリと、 Aと、 Bと、 を備える、ネットワーク装置。 |
「公開鍵暗号化方式に準拠した」が「ネットワーク装置」に係るのか「暗号鍵」に係るのか、不明確。 *正しい解釈:「公開鍵暗号化方式に準拠した」は「暗号鍵」に係る。 |
×言換後1 | ネットワーク装置であって、 公開鍵暗号化方式に準拠した、ネットワーク装置において使用される暗号鍵を格納するメモリと、 Aと、 Bと、 を備える、ネットワーク装置。 |
読点を加えることにより「公開鍵暗号化方式に準拠した」が「ネットワーク装置」には係らないことを明確にしたが、「公開鍵暗号化方式に準拠した」の係り先は未だ明確でない。 |
○言換後2 | ネットワーク装置であって、 公開鍵暗号化方式に準拠した暗号鍵であって、ネットワーク装置において使用される暗号鍵を格納するメモリと、 Aと、 Bと、 を備える、ネットワーク装置。 |
「であって」によって文を区切ることにより、「公開鍵暗号化方式に準拠した」が「暗号鍵」に係ることを明確にした。※プリアンブルの「であって」と重複することはやむを得ない。 |
・表現の変更による曖昧性の除去(クレーム限定)
[解説]
上述の係り先の明示以外に、表現を変更することによっても、曖昧性の除去が可能な場合がある。
例23 | 備考 | |
×原文 | ネットワーク装置であって、 IEEE802.11に準拠したクライアント装置と通信する通信部と、 Aと、 Bと、 を備える、ネットワーク装置。 |
「IEEE802.11に準拠した」が「クライアント装置」に係るのか「通信部」に係るのか、不明確。*正しい解釈:「IEEE802.11に準拠した」は「通信部」に係る。 |
○言換後 | ネットワーク装置であって、 IEEE802.11に準拠 Aと、 Bと、 を備える、ネットワーク装置。 |
「…準拠する」と「…通信する」とが、「通信部」を並列的に修飾することを明確化した。 |
2.2.5 述語の過度な省略の回避
[解説]
述語が過度に省略された表現は、読解に支障をきたすおそれがあるため、使用しない。
例24 | 備考 | |
原文 | 第1工程において、半導体素子は基板と、第2工程において、半導体素子はチャックと接触する。 | 最後まで読まないと前半部分の述語がわからない。 |
△言換後1 | 第1工程において、半導体素子は基板と接触し、第2工程において、半導体素子はチャックと接触する。 | 前半部分における述語の省略を避けた。 |
○言換後2 | 半導体素子は、第1工程において |
さらに、主語をまとめた。*この程度の重複部分がある場合には、必ずしも2文に分ける必要はない。 |
参考 | 第1工程において、半導体素子は基板と接触する。 |
2文に分けてもよい(ただし重複が多いため、やや冗長)。 |
2.2.6 動詞の目的語の過度な省略の回避
[解説]
目的語を省略しても意味が通じる場合はあるが、目的語の省略は誤訳を招くおそれがあるため、できるだけ目的語を省略せずに明示する。
例25 | 備考 | |
×原文 | ケーシング本体とキャップ本体との間に封入した場合、燃料注入管の表面における亀裂等の不具合の発見が困難となる。 | 「封入」の目的語がない。 |
○言換後 | ケーシング本体とキャップ本体との間に燃料注入管を封入した場合、燃料注入管の表面における亀裂等の不具合の発見が困難となる。 | 「封入」の目的語を明示した。 |
2.2.7 手段を表す表現の明確化
[解説]
ある結果を得るための手段としての動作や処理を表す表現が、誤って並列表現と解釈される場合がある。手段を表す場合には、そのような誤解のおそれがない表現を用いる。
例26 | 備考 | |
×原文 | 画像データに対してフィルタを適用し、鮮鋭化処理を行う。 | フィルタを適用し、その後、鮮鋭化処理を行う、と解釈されるおそれ有り。 |
○言換後1 | 画像データに対して、フィルタを用いた |
「フィルタ」は「鮮鋭化処理」の手段であることが明確。 |
○言換後2 | 画像データに対してフィルタを適用することにより |
「フィルタの適用」は「画像鮮鋭化」の手段であることが明確。 |
2.2.8 繰り返し表現の除去
[解説]
文中において、明晰性に寄与せず冗長性を増す繰り返し表現は、除去する。
例27 | 備考 | |
×原文 | 【第1文】外部プロテクタ6の上面部に複数の孔7が設けられている。 【第4文】外部プロテクタ6の上面部に設けられている複数の孔7の形状は、・・・。 |
繰り返し表現があり、冗長。 |
○言換後 | 【第1文】外部プロテクタ6の上面部に複数の孔7が設けられている。 【第4文】 |
繰り返し表現を除去した。 |
3. 外国語への置換の際の誤りを予防するための推奨表現
3.1 単語レベルでの推奨表現
3.1.1 語調を整えるための冗長表現の除去
・形式名詞を伴う冗長表現の除去
[解説]
冗長な表現として、「もの」「こと」など形式名詞を伴うものがある(「~するものである」「~することができる」「~なものとなる」など)。これらの表現は、文を長くし、回りくどい翻訳結果となることも多いため、できるだけ削除する。
例28 | 備考 | |
×原文 | ハンダの溶解を防止することができるようになる。 | 語調を整える表現として、「~こと」「~になる」の表現が使われている。 |
△言換後 | ハンダの溶解を防止 |
「~こと」「~になる」を削除した。 |
○言換後 | ハンダの溶解が |
主語を明示して、直訳できる文に言い換えた。 |
・不要な接続語の除去
[解説]
日本語では、外国語に比べて、接続語が多用される傾向にある。和文明細書においてよく使用される接続語は不要な場合も多い。そのため、そのような接続語の使用はできるだけ避ける。
例29 | 備考 | |
×原文 | 本発明の一形態によれば、燃料電池が提供される。即ち、この燃料電池は、・・・ | 「即ち」は、必然性に乏しい。 |
○言換後 | 本発明の一形態によれば、燃料電池が提供される。 |
「即ち」を削除した。 |
注)この他に、「具体的には」、「詳細には」、「換言すれば」、「要するに」、「図示するように」、「なお」、「また」などの使用についても注意する。
3.2 配列・文法レベルでの推奨表現
3.2.1 主語の明示
・受動構文への言い換えによる主語の明示
[解説]
能動構文を用いることにより動作の主体を明示することが原則である。しかし、能動構文によって動作の主体を明示するとかえって不自然で冗長な文となる場合も多い。そのような場合には、受動構文を採用することによって主語を設けるよう努める。
例30 | 備考 | |
×原文 | まず、電解質膜10の上に電極層20を形成する。次に、電極層20の上に拡散層30を接合する。 | 主語が無い。 |
○言換後 | まず、電解質膜10の上に電極層20が |
受動構文を採用して主語を設けた。 |
・コピラ構文(AはBであるのような構文)への言い換えによる主語の明示
主語の欠落は、たいていの場合には受動構文化によって解決する。ただし、文型によっては、受動構文化よりコピラ構文化による方が、より自然なかたちでの言い換えが可能な場合がある。
例31 | 備考 | |
×原文 | 上記実施形態において、セパレーターを金属製としてもよい。 (上記実施形態において、セパレーターの材料を金属としてもよい。) |
AをBとする。*日本語としては自然であるが、主語がないため直訳できない。 |
○言換後 | 上記実施形態において、セパレーターは (上記実施形態において、セパレーターの材料は |
AはBである(コピラ構文)。 |
×参考 | 上記実施形態において、セパレーターは |
AはBとされる(受動構文)。 |
3.2.2 主語の簡潔化
[解説]
日本語では、主語が長大な連体修飾節を伴う場合でも、連体修飾節は通常は主語の前方に接続されるため、主語と述語との間隔が開き過ぎたり、主語と述語との間に連体修飾節の動詞が挟まって紛らわしくなったりする原因とはならない。しかし、英語では、連体修飾節は主語の後方に配置されるため、このような問題が発生する(そのため、英文は通常、あまり主語が長くならないような構成となっている)。そのような問題を避けるため、長い主語を簡潔に言い換える。
例32 | 備考 | |
×原文 | 原稿の撓みにより、位置検出部が原稿読み取り装置の相対的な位置を誤検出するという不具合が生じる。 | 主語(位置検出部が・・・不具合)が長い。 |
○言換後 | 原稿の撓みは |
主語を「原稿の撓み」に変更した。 |
注)言換後の構文は、日本語としてはやや違和感があるかもしれないが、英語等ではごく自然に用いられる構文であるため、誤訳防止のためには、和文明細書の段階から言換後の構文を用いることが好ましい。
例33 | 備考 | |
×原文 | アノード側セパレータとカソード側セパレータとの両方に対する折り返し加工は、セパレータの製造工程を煩雑化させる。 | 主語(アノード・・・加工)が長い。 |
○言換後 | アノード側セパレータとカソード側セパレータとの両方に対する折り返し加工によって |
主語を「製造工程」に変更した。 |
3.2.3 入れ子構造の回避
[解説]
入れ子構造の文は、誤解釈・誤訳の原因となり得るため、できるだけ回避する。特に、多重の入れ子構造は使用しない。
例34 | 備考 | |
×原文 | Aは、Bに接続されたCがDである場合に、Eする。 | 入れ子構造を使用したため、主語と述語との間隔が開き過ぎている。 |
○言換後 | Bに接続されたCがDである場合に、Aは、 |
入れ子構造の使用をやめ、主語を述語の近くに配置した。 |
3.2.4 主語の単一化(ハガ構文の回避)
[解説]
「象は鼻が長い」のように「AはBがCである」という構造を持つ文(ハガ構文)は、形式的には主語が2つあり、英語に直訳することができないため、単一主語による構文に言い換える。
例35 | 備考 | |
×原文 | この函体は、内部が密閉空間である。 | AはBがCである。 |
○言換後 | この函体の |
AのBはCである。 |
例35 | 備考 | |
×原文 | 部材Xは、右側面が部材Yで覆われている。 | AはBがCである(Cされている)。 |
○言換後 | 部材Xの右側面は、 |
AのBはCである(Cされている)。 |