振動発生装置事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-審取(査定係)
判決日 2010.10.20
事件番号 H22(行ケ)10051
担当部 第4部
発明の名称 振動発生装置
キーワード 補正却下
事案の内容 拒絶査定不服審判の請求棄却審決に対する取消訴訟であり、審決が維持された事案。
本事事案は拒絶理由通知において新規事項の追加が指摘された補正と、補正却下の決定がなされた補正との法的な効力の差異が指摘された点がポイントである。

事案の内容

(1)本件は、拒絶査定不服審判において、審判請求と同時にした補正が却下された上で、請求不成立の審決がなされたことに対し、これを不服とする原告が、その取消を求めた事案である。

 

(2)経緯:
(1)出願(請求項の数9)
(2)第1回補正(補正後の請求項の数9)
(3)最初の拒絶理由通知(進歩性違反)
(4)第2回補正(補正後の請求項の数1、明細書・図面の全体を差し替え)
(5)最後の拒絶理由通知(新規事項の追加、進歩性違反、記載不備)
(6)第3回補正(補正後の請求項の数1、明細書・図面の全体を差し替え)
(7)補正却下の決定の上、拒絶査定
(8)審判請求、第4回補正(補正後の請求項の数3)
審決の結論:補正却下の上、請求不成立審決

 

(3)審決の内容
《1》補正却下の判断:
第4回補正は、第2回補正による特許請求の範囲の請求項の数を1項から3項に増加させるものであり、その補正の目的が、特許法17条の2第4項各号のいずれにも該当しない。
《2》拒絶理由の妥当性の判断:
第2回補正は新規事項の追加に該当し、かつ、補正後の特許請求の範囲には記載不備がある。

 

(4)第2回補正後の特許請求の範囲
[請求項1]
胴体部の両側にシャフトを突出した振動モーターの両端に偏重心の分銅を備え、該分銅は振動モーター胴体部の中心点を中心とし、その両側のシャフトに略対称に取り付けた振動発生器において、発生する振動幅の設定は、該胴体部と分銅間の該間隔を変えて、発生する振動の大きさを決めて、該分銅の取り付け位置を設定し、又、その間隔は軸方向の幅の二分の一以上とする事を特徴とする振動発生装置。
(下線部は、新規事項の追加および記載不備を指摘された箇所を示す。)

 

(5)裁判所の判断
1.補正却下の判断について
裁判所では、まず、「手続補正の効果は,その手続補正を行う時点の記載事項を変更するもの」であると認定した。そして、「第3回補正は,第4回補正を行う以前に却下されているのであるから,第4回補正は,第3回補正を行う時点の特許請求の範囲の記載,すなわち,第2回補正による特許請求の範囲の記載を変更したものといわざるを得ない」とし、「第4回補正は,第2回補正により1項の請求項とされた特許請求の範囲を,3項の請求項を含む特許請求の範囲に変更するもの」であり、「17条の2第4項1号(請求項の削除),2号(特許請求の範囲の減縮),3号(誤記の訂正)及び4号(明りょうでない記載の釈明)のいずれの事項にも該当しない」と判示した。
また、原告の「第2回補正は,拒絶理由通知により補正要件の違反を指摘されており、補正の基礎となるものではない」との主張に対しては、以下のように判示した。即ち、第2回補正は最初の拒絶理由通知に対するものであり、その補正が法17条の2第3項に規定する要件(新規事項追加の禁止)を満たしていないことは拒絶理由には該当するが(法49条1号)、決定をもって補正を却下しなければならない事由には当たらない(法53条1項)。補正が却下されていない以上、第2回補正が存在しないものとして扱われることはないため、第2回補正を、それ以降の補正の基礎とすることが違法であるとはいえない。
2.法36条第6項第1号及び第2号違反について
裁判所は、「軸方向の幅」が何の「軸方向の幅」を意味しているのか明確であるとはいえず、本件明細書の発明の詳細な説明や図面に「軸方向の幅」に関して参酌すべき記載もないとして、審決を支持した。なお、原告は、「軸方向の幅」について、出願当初の明細書の図1(c2)の記載を根拠として、「分銅の軸方向の幅」である旨を主張していた。しかし、これに対して裁判所は、第2回補正において特許請求の範囲の全文、明細書の全文、図面の全図が変更されており、出願当初の明細書の内容は参酌できず、第2回補正に係る明細書、図面に参酌すべき記載もない、と判示した。
3.法17条の2第3項違反について
裁判所は、当初明細書等には、胴体部と分銅間の間隔が何の軸方向の幅であるか特定する記載があるとはいえず、この間隔が何らかの物の軸方向の幅の2分の1以上であることを特定する記載があるとはいえないとし、審決の判断に誤りはないとした。

 

【解説】

 

本件では、審判においても、裁判所においても、条文に則った至極妥当な判断がなされたと言える。しかし、本件は、拒絶理由通知において不適法な補正であると認定された補正と、決定によって却下された補正との効果の差を、あらためて確認することができた事例であるとも言える。
以上