建設廃泥の処理方法事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-侵害系
判決日 2015.6.30
事件番号 H26(ネ)10127
担当部 第2部
発明の名称 建設廃泥の処理方法
キーワード 構成要件の充足性の判断
事案の内容 損害賠償請求が、棄却された事案である。
審査段階で行なわれた装置を限定する補正を考慮して、当該工程の原理が限定的に解釈された点がポイント。

事案の内容

【特許請求の範囲】

[請求項1](分節は、原審による)

A 建設廃泥を回転粗篩機に投入し、該粗篩機内で水をシャワーして篩別し、

B 該粗篩機を通過しない粗粒分はそのまゝコンクリート等の骨材とし、

C 該粗篩機の通過分は震動篩上に受けて該震動篩を通過しない中粗粒分はそのまゝコンクリート等の骨材とし、

D 該震動篩の通過分は遠心分離されて細粒分を分別し、

E 該細粒分はセメントと混合し、該混合物を粒状に成形してコンクリート等の骨材とする

F ことを特徴とする建設廃泥の処理方法

 

【本件処理方法のポイント】

構成要件Cに関し、本件処理方法では、第2のトロンメル(大型分粒装置=粗篩機)の網目を通過した後に、回転式分級機と振動篩式脱水機とを有するハイメッシュセパレーターを使用している。控訴人は、回転式分級機の操作は「分級」とはいえず、振動篩式脱水機における操作が構成要件Cを満たすと主張。被控訴人は、分級は回転式分級機で行なわれており、振動篩式脱水機は脱水を行なうのであって分級していないため、構成要件Cを満たさないと主張。

 

【裁判所の判断】

3 構成要件Cの充足性(争点(1)ア)について

(2) 「該粗篩機の通過分は震動篩上に受けて」

ア 本件処理方法で用いられているハイメッシュセパレーターには、脱水スクリーンを振動モーターによって振動させて篩別する装置である振動篩が存在し、その脱水スクリーンの前に回転式分級機が設置されているが、原判決が、「粗篩機」と「震動篩」の間に別個の分級処理がある場合は、「該粗篩機の通過分は震動篩上に受けて」という構成要件を充足しないと判断したことから、この点に関連して、回転式分級機が、砂の大きさを分別する分級機能を有するか否かについて、当事者間に争いがある

イ 本件処理方法による分別方法

そこで検討するに、…本件処理方法における細粒分の分別方法は、次のとおりと認められる。

ハイメッシュセパレーターでは、回転式分級機の沈降槽(プール)内に投入された泥水が、スパイラルの回転によって撹拌され、粒子の大きさによる水中における沈降速度の違い(ストークスの法則:水中における球状粒子の沈降速度は粒子径の二乗に比例するという原理〔甲70、74、75〕)を利用して、粒子が小さく沈降が緩やかなシルト・粘土(細粒分)については、後部のオーバーフロー部から排出される。オーバーフロー部から排出される粒子の大きさは、水位の調整によって決せられる。他方、沈降した粒子は、スパイラルで移送されてバケットで掻き上げられ、振動篩に受ける。そして、0.075mm以上の粒子(中粗粒分)については、振動篩でスクリーン上に篩分されるとともに脱水される。一方、大きな粒子に付着するなどしてオーバーフロー部から排出されなかった0.075mm以下の粒子については、篩の振動や洗浄水のシャワーの作用により、大きな粒子と分離して、振動篩を通ってスクリーン下に水分とともに篩分され、還元樋を通って沈降槽に戻され、最終的にはオーバーフロー部から排出される。

 建設廃泥処理方法

なお、被控訴人は、ハイメッシュセパレーターの脱水スクリーンの網目サイズは0.075mmであると主張しており、この点は当事者間に争いがない(原審における平成25年10月3日付け第3準備書面7頁参照)。したがって、0.075mm以下の粒子は、脱水スクリーンの網目を透過することができる。しかしながら、網目を透過した細粒分は、その後、必ず沈降槽に戻され、そのまま機外に出ることはないのであって、オーバーフロー部から流出しない限り、最終的には分別できない構造となっている

この点に関し、ハイメッシュセパレーターの製造元である株式会社氣工社作成のDVDや同社従業員作成の意見書(乙46、52の1)では、ハイメッシュセパレーターにおける分級は、ストークスの法則を利用したものと説明されているが、同社のウェブサイトにおける「水位の調整により、150から200メッシュの間で、簡単に分級点の調整ができます。」という記載(甲14。「水位の調整」とは、排水口の高さの調整の意味と解される。なお、メッシュとは、1インチに縦横n本のワイヤを張った篩を通る大きさを指し、150から200メッシュとは、0.104mmから0.074mmを指す。)も、ストークスの法則の利用を前提とした記載といえる。本件処理方法における回転式分級機の沈降槽内にある泥水の分級のような、湿式の分級においては、一般的にストークスの法則が利用されており(甲70)、この法則は、0.085mm以下の粒子で利用可能な原理であるから(甲75)、上記回転分級機でかかる原理が利用されているとの氣工社やその従業員の説明は合理的なものである

したがって、中粗粒分と細粒分の分級は、回転式分級機でスパイラルの回転や原料泥水及びシャワーによる洗浄水の流入によって上昇流が生じ、この上昇流の速度が細粒分の沈降速度を上回るために細粒分が浮上し、オーバーフロー部から排出されることでなされるものといえる。 …

ウ そうすると、上記回転式分級機は、分級を行うものの、その分級は、篩の網目を透過するか否かによって実施されるものではない以上、明らかに「震動篩」に該当しないことになる。したがって、本件処理方法においては、「粗篩機」と「震動篩」との間に他の分級手段が設けられていることになるところ、このような構成は、本件発明の技術的範囲に含まれないか否かを検討する

本件特許の特許請求の範囲には、「該粗篩機の通過分」を「震動篩上に受け」るまでの間に、震動篩による分別効率を高めるための何らかの工程を付加してはならないことを明示した記載はない。また、構成要件B及びCにおいては「『そのまゝ』コンクリート等の骨材とし」とあるのに対し、該粗篩機の通過分は「そのまゝ」、「直接」的に震動篩上に受ける等の限定もない。さらに、本件明細書の【0008】には、「本実施例以外、細粒分(1C)の脱水はフィルタープレスによって行なってもよいが、遠心分離器(13)の方が脱水効率は良好である。」と記載され、脱水方法に関して他の方法の利用の示唆があるが、分級方法に関しては、他の分別方法を禁止する記載やこれを示唆する記載もない。そうすると、本件発明において、「該粗篩機の通過分」を震動篩上に直接受けずに、それまでの間に何らかの構成を設けることを、除外していると解することは相当でない

したがって、本件処理方法における回転式分級機の設置という構成を理由として、構成要件Cを充足しないと判断することはできないというべきである(もっとも、上記構成があることによって、分別された細粒分が構成要件Dの「該震動篩の通過分」という要件を満たすかどうかは、別問題であり、この点は、下記4で検討する。)。

(3) 小括

以上によれば、本件処理方法は、構成要件Cを充足するものである。

4 構成要件Dの充足性(争点(1)ア)について

 (1) 本件明細書の記載

イ そして、特許請求の範囲の記載のうち、「回転粗篩機に投入し、該粗篩機内で水をシャワーして篩別し、該粗篩機を通過しない粗粒分はそのまゝ」、「該粗篩機の通過分は震動篩上に受けて該震動篩を通過しない中粗粒分はそのまゝコンクリート等の骨材とし、該震動篩の通過分は遠心分離されて細粒分を分別し、」との部分は、建設廃泥を粒子の大きさで分類して骨材として利用することは引用文献(特開平2-14858号公報.乙3)に記載されている等という拒絶理由を通知された(乙2)ことから、【0006】、【0007】の実施例の記載に基づいて、上記引用文献には記載されていない分別装置、粒子の動き及び分別された後の骨材の利用状況を限定するものとして、平成14年11月28日付け補正の際に追加された文言である(乙1、6、7)。

ウ そうすると、本件発明では、分級の方法(装置及び原理)、粒子の動きと分別された後の骨材の利用状況が特定されているというべきである。すなわち、分級の方法(装置及び原理)及び粒子の動きの点でいえば、回転粗篩機、震動篩及び遠心分離機によって、建設廃泥を連続的かつ効率的に粒子の大きさに応じて分別することのみならず、回転粗篩機、震動篩による分別における原理として、分級は篩の網目の通り抜けの可否によってなされることが明らかになっているというべきである。したがって、構成要件C、Dにおける「通過分」とは、粗篩機や震動篩の網目を通り抜けることによって分級されたものを指し、篩の網目を通り抜けずに、他の装置や原理によって粒子の大さきが分別されたものは、本件発明の技術的範囲から除外されるものと解される

(3) 小括

以上によれば、本件処理方法において、粗粒分と中粗粒分は、第1及び第2のトロンメルの網目を通り抜けるか否かによって分級されているといえる。他方、細粒分は、回転式分級機において、ストークスの法則によって十分沈降しないでそのままオーバーフロー部から流出された場合、「振動篩の上に受け」ることはない。また、1回でオーバーフロー部から流出されない細粒分は、他の中粗粒分とともに沈降槽内に沈降し、スパイラルで移送されて「震動篩機」に運ばれ、篩の振動作用及び洗浄水のシャワーの作用により、中粗粒分と分離して、水とともに「震動篩機」の網目を通り抜けるが、これは、他の中粗粒分に付着しているためであって、付着したままの状態では細粒分とはいえない。しかも、このような細粒分は、「震動篩機」の網目を通り抜けた後も、必ず沈降槽に戻されて、機外に出ることはなく、オーバーフロー部から流出しない限り、最終的には分別できないのであって、「震動篩の通過」は、機外に排出されるのを防止する補助的機能を果たすだけであって、分級する機能を有しているとはいえない

したがって、本件処理方法は、「該震動篩の通過分」を細粒分として分別するものではないから、構成要件Dを充足しない。

【解説・感想】

裁判所の判断は、概ね妥当と思われる。

(本願の当初明細書の記載より、本願出願時には、本件処理方法の構成までは想定されていないと思われ、本願明細書の記載範囲から、本件処理方法が技術的範囲に含まれるとすることには無理があると思われる。)

 

判決では、「該粗篩機の通過分は震動篩上に受けて」については、他の工程とは異なり「そのまま」等の記載が無かったため、構成要件Cを満たすことについては認められた。

ただし、「そのまま」等の表現は、その間のあらゆる他の処理を排除する強い意味を持ち得ると思われるため、使用には特に注意を要する。その部分がポイントであり、その部分でしか差別化できない場合以外には、基本的には使用すべきでないと思われる。本件においては、他の箇所で「そのまま」等の文言を用いたことにより、用いなかった当該箇所において他の工程を行なう場合を含むことが認められ易かったと思われるが、基本的にはクレームでは用いない方がよいと考える。

 

なお、本件の被控訴人による本件特許の無効審判は、棄却審決が出ている(無効2014-800011)。

以上