座席管理システム事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-侵害系
判決日 2012.01.24
事件番号 H23(ネ)10013
担当部 知財高裁第1部
発明の名称 座席管理システム
キーワード 構成要件充足性
事案の内容 特許権侵害差止等請求事件において、原告の請求が棄却された事案。
被告システムはホストコンピュータにおいて本件各特許発明にいう「座席表示情報」を作成・記憶・伝送するものでなく,かつ,車掌用携帯情報端末は伝送された上記「座席表示情報」を入力・記憶・表示するものではないと判断された点がポイント。

事案の内容

【原告の特許】

(1)特許番号:特許第3995133号

(2)出願日:平成12年5月 8日

(3)登録日:平成19年8月10日

(4)特許請求の範囲(本件発明1)(請求項1の分説)

1-A《1》 カードリーダで読取られた座席指定券の券情報或いは券売機等で発券された座席指定券の発券情報等を管理する管理センターに備えられるホストコンピュータと,

1-A《2》 該ホストコンピュータと通信回線で結ばれて,指定座席を設置管理する座席管理地に備えられる端末機と

1-A《3》 から成る,指定座席を管理する座席管理システムであって,

1-B 前記ホストコンピュータが,前記券情報と前記発券情報とを入力する入力手段と,

1-C 該入力手段によって入力された前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて表示する座席表示情報を作成する作成手段と,

1-D 該作成手段によって作成された前記座席表示情報を記憶する記憶手段と,

1-E 該記憶手段によって記憶された前記座席表示情報を伝送する伝送手段と,

1-F 前記端末機が,前記伝送手段によって伝送された前記座席表示情報を入力する入力手段と,

1-G 該入力手段によって入力された前記座席表示情報を記憶する記憶手段と,

1-H 該記憶手段によって記憶された前記座席表示情報を表示する表示手段と,

1-I を備えて成ることを特徴とする座席管理システム。

(注:下線部が争点)

 

【被告システムの構成】

下記の「2 被告システムの構成」を参照。

 

【争点】

被告システムは、構成要件1-Cないし1-Hを充足するか。

 

【知財高裁の判断】

当裁判所も,原判決と同じく,被告システムは本件各特許発明の技術的範囲に含まれないものと判断する。その理由は,以下に述べるとおりである。

1 本件各特許発明の意義

(1) 本件明細書(特許公報,甲2)には次の記載がある(ただし,「発明の詳細な説明」の段落【0010】は,平成22年3月24日付け訂正認容審決後のもの〔甲10,11〕)。

~省略~

 

(2) 上記記載によれば,本件各特許発明は,「券情報」と「発券情報」という2種類の情報を地上の管理センターから受ける場合,伝送される情報が2種になるために通信回線の負担が1種の場合に比べて2倍になってしまうとともに端末機の記憶容量と処理速度も2倍になってしまうという従来技術の問題点を課題として,これを解決すべく,管理センターに備えられるホストコンピュータにおいて,「券情報」及び「発券情報」に基づき,かつ,「座席管理地の座席レイアウト」に基づいて,1つの表示情報である「座席表示情報」を作成し,これをホストコンピュータから座席管理地に備えられる端末機に伝送し,当該端末機が,これを入力して,その表示手段(ディスプレイ等)において表示するという構成を採用することによって,前記ホストコンピュータから前記端末機へ伝送する情報量が半減され,通信回線の負担と端末機の記憶容量と処理速度等を軽減するとともに,端末機のコストダウンが図られ,本発明のシステムの構築を容易にするという効果を達成した発明であると認めることができる。

したがって,本件各特許発明の「座席表示情報」とは,ホストコンピューターにおいて,「券情報」,「発券情報」及び「指定座席のレイアウト」といった個々の情報を1つの情報に統合することによって,これを端末機に送信すれば,端末機において他の情報と照合する等の格別の処理を要することなく座席の利用状況を表示し,目視することができる情報と認めるのが相当である。

 

2 被告システムの構成

(1) 証拠(甲3,甲4,甲6の1ないし3,甲7,乙6ないし8)及び弁論の全趣旨によれば,被告システムの構成は次のとおりであることが認められる。

ア 被告システムは,自動改札機で読み取られた座席指定券の通過情報と券売機等で発券された座席指定券の発売情報とを管理するセンターサーバーを管理センターに備え,該センターサーバーと通信回線で結ばれている車掌用携帯情報端末機とを備える車内改札システムであり,上記センターサーバーが,前記通過情報と前記発売情報とを入力する入力手段を有している。

 

被告システムにおいては,「編成パターン情報」(車両及び座席の編成に関する情報であり,車掌が乗務している列車内で同じ座席配置を有する車両のパターン数,パターンごとの車両数,各パターンに該当する車両の号車番号,普通車/グリーン車の別,ABCDE等横列順その他の座席配置に関するデータ)と「座席・乗車券情報」(号車数,号車内座席数,各座席番号に対応する乗車券数,当該乗車券に記載された乗車駅等のデータであって,「通過情報」〔自動改札機で読み取った座席指定券の乗車日,列車番号,座席番号,乗降車駅等の情報〕又は「発売情報」〔券売機等で発券された座席指定券の乗車日,列車番号,座席番号,乗降車駅等の情報〕のどちらか一方のみからなる場合と,両方の情報を含む場合があるが,それ自体としては,座席のレイアウトに基づき各指定席の利用状況を表示するものではない。)という情報があり,それらの情報が別々にセンターサーバーから車掌用携帯情報端末に送信され,座席管理地(列車)の座席レイアウトに基づいて座席の利用状況が表示されるものであって,各指定席の利用状況を目視することができる情報は,車掌用携帯情報端末において作成されている

 

ウ 被告システムにおいて,ある座席について送信される「座席・乗車券情報」は,「通過情報」又は「発売情報」のどちらか一方のみの場合もあれば,「通過情報」と「発売情報」の両方の場合もあり,更にはいずれの情報もなければ送信されないものであり,車掌が「座席・乗車券情報」をセンターサーバーから取得したタイミングが,乗客が新幹線自動改札機を通過した後であり,かつ,当該新幹線自動改札機を通過した駅が座席指定席券に記載された乗車駅と同じであれば,「通過情報」のみが「座席・乗車券情報」として車掌用携帯端末に伝送され,さらに,乗客が新幹線自動改札機を通過済みだが,当該自動改札機を通過した駅が座席指定席券に記載された乗車駅と異なる場合は,「通過情報」及び「発売情報」の両方が「座席・乗車券情報」として車掌用携帯端末に伝送されるものである。

 

(2) 被告システムが本件各特許発明の技術的範囲に含まれるか

ア 要件充足につき当事者間に争いのない部分

~省略~

 

イ 構成要件1-Cないし1-H及び2-Cないし2-Hの充足性の有無

前記認定のとおり,本件各特許発明の「座席表示情報」とは,ホストコンピューターにおいて,「券情報」,「発券情報」及び「指定座席のレイアウト」といった個々の情報を1つの情報に統合することによって,これを端末機に送信すれば,端末機において他の情報と照合する等の格別の処理を要することなく座席の利用状況を表示し,目視することができる情報と認められるところ,前記(1)イで認定した被告システムの構成からすれば,被告システムにおいては,センターサーバーから車掌用携帯情報端末に送信される情報は,「編成パターン情報」と「座席・乗車券情報」という別々の情報であって,本件各特許発明における「座席表示情報」に相当する情報,すなわち,「端末機において他の情報と照合する等の格別の処理を要することなく座席の利用状況を表示し,目視することができる情報」は,上記「編成パターン情報」と「座席・乗車券情報」を統合処理することによって車掌用携帯情報端末において作成されているから,被告システムはホストコンピュータにおいて本件各特許発明にいう「座席表示情報」を作成・記憶・伝送するものでなく,かつ,車掌用携帯情報端末は伝送された上記「座席表示情報」を入力・記憶・表示するものではないと認められる。

したがって,被告システムは,本件各特許発明の構成要件1-Cないし1-H,2-Cないし2-Hを充足しない。

 

ウ 控訴人の主張に対する判断

(ア) 原審における控訴人(一審原告)の主張に対する判断は,原判決(39頁17行~41頁下6行)のとおりであるから,これを引用する。

以下、原審を一部引用。

 また,原告は,被告システムにおいても,一定の場合には,「通過情報」でも「発売情報」でもない,新たな別の情報である「座席・乗車券情報」を伝送しており,「座席・乗車券情報」を車掌用携帯情報端末に伝送する際のパケット量は,「通過情報」と「発売情報」の2つの情報を伝送する際のパケット量よりも少なく,その限りにおいて,被告システムは,本件各特許発明の作用効果とほぼ同様の作用効果を奏しているとして,被告システムにおける「座席・乗車券情報」は,本件各特許発明の「座席表示情報」に相当すると主張する。

 しかしながら,前記(1)イのとおり,本件各特許発明における「座席表示情報」は,当該情報を端末機に表示すれば,座席管理地の座席レイアウトに基づいて座席の利用状況が表示されるものであって,各指定座席の利用状況を目視することができるものをいうと解されるのに対し,前記アのとおり,被告システムにおける「座席・乗車券情報」は,座席のレイアウトに基づき各指定席の利用状況を表示するものではないことからすれば,当該「座席・乗車券情報」が,本件各特許発明における「座席表示情報」に該当するとは認められない。

 そして,仮に,被告システムにおいて,「座席・乗車券情報」を伝送する際のパケット量が,「通過情報」と「発売情報」の2つの情報を伝送する際のパケット量より少なくなることにより,「通信回線の負担と端末機の記憶容量と処理速度」が軽減されるという,本件各特許発明と同様の作用又は効果を奏しているとしても,当該「座席・乗車券情報」と本件各特許発明における「座席表示情報」とが,その情報の構成・内容を異にする以上,別の手段・構成によって本件各特許発明と同様の作用又は効果を奏しているにすぎないのであるから,同様の作用又は効果を奏することをもって,「座席・乗車券情報」が本件各特許発明の「座席表示情報」に該当することになるものではない。

 したがって,原告の前記主張は,理由がない。

 

(イ) 当審における控訴人の主張(1)(原判決における実施例限定解釈の誤り)について

控訴人は,原判決が「他方で,本件明細書には,端末機において,座席表示情報とそれ以外の他の情報とを処理することにより,座席のレイアウトに基づいて座席の利用状況を表示して,各指定座席の利用状況を目視することができるものとすることに関する記載はない」と説示されていることを理由として,このような認定は,本件明細書の記載のみに基づき行われているものであって,本件各特許発明の特許請求の範囲の記載に基づかない実施例限定解釈であって不当である旨主張する。

しかし,本件各特許発明の1-B及び1-C並びに2-B《1》及び2-Cには,それぞれ「該ホストコンピューターが・・・」「・・・前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて表示する座席表示情報を作成する・・・」と記載されているのであって,その文言解釈上,「座席表示情報」は,端末機に送信される以前に,ホストコンピューターにおいて「券情報」,「発券情報」及び「指定座席のレイアウト」に基づいて表示される1つの情報として統合処理される情報であると解釈するのが相当であるから,本件各特許発明が「端末機において,座席表示情報とそれ以外の他の情報とを処理することにより,座席のレイアウトに基づいて座席の利用状況を表示」するものでないことは,特許請求の範囲の文言上明らかである。

したがって,原判決の上記説示は,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の各記載によれば,本件各特許発明の「座席表示情報」は「ホストコンピュータ」において1つの情報として作成されるものであることが明らかであり,これに反する記載,すなわち端末機上で1つの表示情報に統合処理することに関する記載は本件明細書上には存在しない旨を補足的に述べているにすぎないものというべきであるから,原判決の認定は本件明細書の記載のみに基づき行われているものであって実施例限定解釈であるとする控訴人の上記主張は,原判決を正解しないものであり採用することができない。

 

(ウ) 当審における控訴人の主張(2)ア(原判決が「座席表示情報」を「表示イメージ情報」と解釈していることの不当性)について

~省略~

 

(エ) 当審における控訴人の主張(2)イ(「座席表示情報」は,「券情報」と「発券情報」から作成されるものであること)について

~省略~

 

エ 小括

以上の検討によれば,被告システムは本件各特許発明の技術的範囲には含まれない,ということになる。

 

3 結論

そうすると,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の被控訴人に対する本訴請求は理由がないことになるから,これと結論を同じくする原判決は相当である。

よって,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。

 

【所感】

請求項において、情報に名前を付した場合には、その情報の内容が争点となる場合がある。したがって、その情報にはどういった内容が含まれるのか、どういった形式のデータであるのかといった定義を明確にしておくことが必要である。