平底幅広浚渫用グラブバケット事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-審取(当事者係)
判決日 2013.3.27
事件番号 H23(行ケ)第10414号
担当部 地財高裁 第4部
発明の名称 平底幅広浚渫用グラブバケット
キーワード 進歩性,阻害要因
事案の内容 無効審判の維持審決に対する審決取消訴訟であり,審決が取り消された。審決における相違点3,4,7,8に係る判断が誤りであるとされた。

事案の内容

【請求項1】

吊支ロープ10を連結する上部フレーム3に上シーブ6を軸支し,左右一対のシェル1を回動自在に軸支する下部フレーム2に下シーブ7を軸支するとともに,左右2本のタイロッド4の下端部をそれぞれシェル1に,上端部をそれぞれ上部フレーム3に回動自在に軸支し,上シーブ6と下シーブ7との間に開閉ロープ8を掛け回してシェル1を開閉可能にしたグラブバケットにおいて,

シェル1を爪無しの平底幅広構成とし,シェル1の上部にシェルカバー12を密接配置するとともに,シェル1を軸支するタイロッド4の軸心間の距離を100とした場合,シェル1の幅内寸の距離を60以上とし,かつ,側面視においてシェル1の両端部がタイロッド4及び下部フレーム2並びに下部フレーム2とシェル1を軸支する軸の外方に張り出していることを特徴とする平底幅広浚渫用グラブバケット。

 

【争点】

(1)引用文献

引用例1:特開平9-151075号公報(甲1)

引用例2:特開2000-328594号公報(甲5)

引用例3:実願平4-49043号(実開平6-1457号)のCD-ROM(甲2)

 

(2)相違点3(引用例1に対して),相違点7(引用例2に対して)

シェルを軸支するタイロッドの軸心間の距離を100とした場合,シェルの幅内寸の距離を60以上とした構成(本件構成1)

(3-3)相違点4(引用例1に対して),相違点8(引用例2に対して)

側面視においてシェルの両端部がタイロッド及び下部フレーム並びに下部フレームとシェルを軸支する軸の外方に張り出している構成(本件構成2)

 

【裁判所の判断】

(1)相違点3

荷役用グラブバケットに係る技術を浚渫用グラブバケットに適用することについて,グラブバケットは,荷役用又は浚渫用のいずれの用途であっても,重量物を掬い取り,移動させる用途に用いられるものであり,一律に適用を否定することは相当ではない。

本件構成1及び2は,バケットの本体の実容量及び掴み物の切取面積を大きくすることを実現するために採用された構成である。また,証拠(甲25,甲32の3)によれば,本件リーフレットに記載された本件製品の図面及び主要寸法から,本件製品は本件構成1及び2を有するものと認められるところ,被告光栄は,荷役用グラブバケットである本件製品を,浚渫用グラブバケットとして実際に使用している状況を撮影した写真を本件広告に掲載した上で,本件製品の製品名(「グラブバケット(WS型)」)を明記していることが認められる。したがって,引用発明1に,引用例3が開示する本件構成1及び2を適用することについて,動機付けが存在する一方,阻害事由を認めることはできない。

引用発明1に,引用例3が開示する本件構成1を適用することについては,動機付けを認めることが相当であり,相違点3に係る構成は,引用発明1に引用例3に記載された発明を組み合わせることにより,当業者が容易に想到し得たものということができる。

 

(2)相違点4

被告は,何を掴むかを目視できないこと等は浚渫用グラブバケットに固有の課題であって,課題の相違を考慮することなく,荷役用グラブバケット及び浚渫用グラブバケットが常に同じ技術領域に属するとはいえないと主張するが,掬い取る対象物の相違は存在するものの,掴み物の切取面積を大きくすることにより,掴み量を大きくすることを目的とする本件構成1及び2を,荷役用グラブバケットのみならず,浚渫用グラブバケットに適用することは容易であるというべきである。

シェルの幅内寸の距離を伸張することにより,切取面積を大きくすることが可能となることは明らかであるところ,薄層浚渫では,バケットの切取り深さよりも切取面積を増大させることが求められることは,用法の相違に基づく構成における工夫にすぎず,浚渫用グラブバケットに特有の技術課題ということはできない。

 

(3)相違点3,4の小括

以上のとおり,相違点3及び4に係る構成は,引用発明1に引用例3に記載された発明を組み合わせることにより,当業者が容易に想到し得たものというべきであるから,本件審決の相違点3及び4に係る判断は誤りであるというほかない。

 

(4)相違点7,8

前記のとおり,相違点7及び8に係る構成(本件構成1及び2)は,いずれも引用例3に開示されているところ,荷役用グラブバケットに係る技術を浚渫用グラブバケットに適用する動機付けが存在する一方,その適用に阻害要因は存在しない。したがって,相違点7及び8に係る構成は,引用発明2に引用例3に記載された発明を組み合わせることにより,当業者が容易に想到し得たものであるというべきであるから,本件審決の相違点7及び8に係る判断は誤りであるというほかない。

 

【結論】

以上の次第であって,本件審決の相違点3及び4に係る判断並びに相違点7及び8に係る判断は誤りであるというほかないところ,本件審決は,その余の相違点の各構成が当業者にとって容易に想到し得たか否かについて審理を尽くしていない。よって,その余の相違点について更に審理を尽くさせるために,本件審決を取り消すのが相当である。

 

【所感】

裁判所の判断は妥当であると考える。被告は,浚渫用グラブバケットと荷役用グラブバケットとが異なり、阻害要因があることについて、課題や効果における相違点の主張を行なっているが、本件構成1および2がもたらす効果は、浚渫用グラブバケットが掴む量を増やすことであり、荷役用グラブバケットでも同様の課題や効果が当然に存在するため、阻害要件があるとの主張は難しいと感じた。

以上