巻寿司事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-審取(査定係)
判決日 2011.12.14
事件番号 H23(行ケ)10169
担当部 知財高裁第1部
発明の名称 巻寿司
キーワード 進歩性
事案の内容 拒絶査定不服審判の請求棄却審決に対する取消訴訟であり、審決が維持された事案。
組み合わせる引用文献の一方に課題が明示されていなくても、かかる課題が当該技術分野において出願時において周知であれば、かかる課題解決のために引用文献を組み合わせる動機付けが無いとの主張は認められないと判断された点がポイント。

事案の内容

【出訴時クレーム】

[請求項1]

茄子漬の青色部を芯に含む巻寿司。

[請求項2]

茄子漬の青色部を芯とした巻寿司。

[請求項3]

請求項1および請求項2のいずれかに記載の巻寿司において,前記青色部を小片で構成してなる巻寿司。

 

【審決概要】

(相違点ア)『漬物』の種類が,本願発明1は,茄子漬の青色部であるのに対し,甲1発明は,明らかではない点

(相違点イ)『漬物』の形状が,本願発明1は,明らかではないのに対し,甲1発明は,細切れにした漬物に増粘剤を添加混合してスティック状に成形したものである点

 

【取消事由】

(取消事由1)本願発明1の認定の誤り、相違点認定の誤り

(取消事由2)甲1発明認定の誤り

(取消事由3)進歩性判断の誤り

 

【原告主張概要】<担当が要約>

(取消事由1):本願発明1の「青色部」は、発明の詳細な説明の記載を参酌すると、茄子漬の青色の部分を取り出した(切り出した)ものである。これに対して、甲1発明には、漬物の有色部分の選択及び当該選択された部分の取り出しという技術思想が一切示されていない。甲2により「茄子漬の藍青色が茄子の皮による」点を周知事項と認定されても、本願発明1の「青色部」は「茄子漬の皮」を意味するものではなく、皮及び皮に近接する青い果肉部分も含む異なる概念である。

(取消事由2):甲1の巻きずしは実施不可能であり,引用発明としての適格性を欠く。甲1では、解凍時に生ずる水分によって巻寿司の構造が維持できない。

(取消事由3):甲1の課題は、歯の悪い老人等のために細切れにした漬物が,ばらばらにならないように包装することである。したがって、甲1には、巻寿司製造時の見栄えや色彩の考慮は一切なく、周知課題であると認定された「巻寿司の彩りに変化をつける」は存在しない。

甲1発明と甲2発明については,技術分野の関連性及び課題の共通性は全くなく、このように技術思想の全く異なるものを結びつけて考える動機付けは一切見当たらない。

 

【裁判所の判断】

(取消事由1):本願発明1の特許請求の範囲には「茄子漬の青色部」が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項として記載されているのであって,「茄子漬の青色の部分を取り出した(切り出した)もの」とは記載されていない。そして,「茄子漬の青色部」との記載が意味する事項は明確であって,これを,「茄子漬の青色の部分を取り出した(切り出した)もの」と解釈して,特許を受けようとする発明を認定しなければならない理由もない。してみると,審決が本願発明1をその特許請求の範囲の記載のとおりに「茄子漬の青色部を芯に含む巻寿司」と認定したことに誤りはない。

(取消事由2):甲1発明が解決しようとする課題との関係において,当該漬物スティックの冷凍は,甲1では必須の要件とはされていない。以上からすると,原告の主張は,甲1発明の正しい理解に基づくものではなく,これを採用することはできない。

(取消事由3):巻寿司の彩りに変化をつけようとすることが周知の課題であれば,巻寿司についての発明である甲1発明においても,その彩りに変化をつけようとする課題はあるといえるので,たとえ,甲1に巻寿司の見栄えや色彩についての記載が存在しなくとも,周知の課題を根拠に甲1発明に巻寿司の彩りに変化をつけようとする課題が存在するとした審決の判断に誤りはない。…原告は,甲1記載の漬物スティックは,細切れにした漬物がばらばらにならないように包装するという課題を解決するものであるので,彩りを考慮する課題はないと主張する。しかし,…甲1は,そこに記載の漬物スティックを芯とした巻寿司を製造することをも念頭に置くものである。そうすると,甲1記載の漬物スティックを使用して巻寿司を得る甲1発明においても,巻寿司の彩りに変化をつけようとする課題が存在するということができ,原告の主張は採用することができない。

漬物を巻寿司の芯として使用する甲1発明と,漬物に関する技術を記載する甲2とは,漬物又は漬物を利用した料理という点で技術分野を同一にする。してみると,甲1発明と甲2を結びつけて考察した審決の判断に誤りはなく,原告の主張は理由がない。

 

【所感】

「青色部」に関する出願人の主張は、特許請求の範囲の記載に基づくものではなく、審決及び裁判所の判断は妥当であると思われる。中間応答時等に課題の欠如を主張する場合、当該課題について、たとえ引用文献に明示がなくとも、当該技術分野において出願時に周知であったか否かを検討する必要があると思われる。