家具の脚取付構造事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-侵害系
判決日 2013.07.16
担当部 大阪地裁 第26民事部
発明の名称 家具の脚取付構造
キーワード 構成要件充足性、用語の解釈
事案の内容  特許権侵害訴訟において、原告の請求が棄却された事案。
 「緊密に挿嵌」という条件を含む構成要件について、「被告製品の場合、緊密には挿嵌されておらず、構成要件を充足しない」と判断された点がポイント。

事案の内容

【請求項1】

A:テーブル等の家具の脚部を,天板等の家具本体に着脱自在に取付ける為の構造であって,

B:家具本体1に固定させる基盤6に,有底短筒状の嵌合突起8を下向きに突設した固定部4と,

C:脚部2の上端に設けられて,前記嵌合突起8を緊密に挿嵌させる嵌合孔10を備える被固定部5とから成り,

D:前記嵌合突起8の底面8aには,筒の径方向に伸びるスリット9を設けると共に,

E:底面8aの上面は,前記スリット9の両側端9a,9aから夫々筒周方向に上向きに緩やかに傾斜する斜面aに形成し,

F:前記嵌合孔10の底部11には,前記スリット9に挿嵌させ得る形状を備えて,その上端に前記斜面aに当接させる掛止部12bを設けた掛止部材12を突設し,

G:前記掛止部12bを前記スリット9に挿通させたうえ,前記脚部2をその軸周りに回動させると,

H:前記掛止部12bが前記斜面aを次第に締付けて,前記固定部4と被固定部5とが強固に掛合される様にしたことを特徴とする

I:家具の脚取付構造。

 

【裁判所の判断】

被告製品は,構成要件Cを充足せず,その技術的範囲に属するとは認められない。

構成要件Cは,「被固定部5」に備えられた「嵌合孔10」が,「嵌合突起8」を「緊密に挿嵌させる」ことを求めている。

そのため,「緊密に挿嵌させる」の解釈を明らかにした上で,被告製品について検討する。

 

 

ア「緊密に挿嵌」の解釈

一般に「緊密」の用語は,隙間なく付着していることを意味する。

そのため,「嵌合突起8を緊密に挿嵌させる嵌合孔10」とは,その文言から,「嵌合突起8」を「嵌合孔10」に挿嵌させた際,「嵌合突起8」の外周面と「嵌合孔10」の内周面がほぼ一致し,全面にわたって隙間のない状態となることを意味すると解される。

ただし,本件特許発明では,「嵌合突起8」を「嵌合孔10」に挿嵌させた状態で,「嵌合孔10」を上端に備える「脚部2」を「その軸周りに回動させる」ことが想定されているため,「回動」ができないほどに隙間がないことを求めているとはいえず,若干の隙間があるにとどまる場合を除外するものではないと解される。

この点,本件明細書の記載によれば,本件特許発明において,嵌合突起8と嵌合孔10とが「緊密に挿嵌」されることは,脚部2の回動開始時から,支脚3の回転軸の位置決めを行うことができる点にその技術的意義があると解される。

すなわち,本件特許発明は,斜面a(嵌合突起8の底面8aの上面)に当接させる掛止部12b(嵌合孔10の底部11の上端)が,脚部2の回動に伴って斜面aを次第に締め付けて,固定部4と被固定部5とが強固に掛合される様にしたものであるが,嵌合突起8が嵌合孔10に「緊密に挿嵌」されることは,その「緊密」さゆえに,斜面aの締付けを開始する時点から,脚部2の回転軸の位置決めを行い,「次第に締め付ける」との作用効果を実現するようにしたものといえる。

「緊密に挿嵌」に係る上記文言解釈,つまり,嵌合突起8の外周面と嵌合孔10の内周面に隙間がないことを意味すると解することは,このような「緊密に挿嵌」の技術的意義とも整合的といえる。

なお,本件明細書記載の実施例では,「嵌合突起8」を「嵌合孔10」に挿嵌させた状態を図3のとおりに示しているが,同図面においても,「嵌合突起8」の外周面と「嵌合孔10」の内周面との間に隙間はなく,上記解釈の相当性を裏付けるものといえる。

 

イ被告製品の充足性

被告製品の嵌合突起8は,周面の外径が付け根部分における約54.5~54.7mm(平均約54.6mm)から,頂部における約44.7mmへと傾斜縮小する有底円錐台形状であるのに対し,嵌合孔10は,内径約56.1~57.9mm(平均約57.2mm)の円筒状であり,嵌合突起8を嵌合孔10に挿嵌させた状態を図示すると,下図のとおりである。

すなわち,被告製品の嵌合孔10の内径(平均値)は,嵌合突起8の外径と比べると,同外径が最も大きくなる嵌合突起8の付け根部分(平均値)で見ても,約2.6mmも大きく,挿嵌時に嵌合突起8の外周面との間で隙間が存在している。

しかも,嵌合突起8は傾斜縮小する有底円錐台形状なため,その頂部(下方)へと向かうにつれ,嵌合孔10の内周面と嵌合突起8の外周面との隙間は大きくなる。

「緊密に挿嵌」といっても,脚部2を回動させるためには,嵌合突起8と嵌合孔10の内周面との間にある程度の隙間は必要であるが,上記認定の構成からすると,被告製品の嵌合孔10の内周面と嵌合突起8の外周面との間には,必要以上の隙間があるといわざるを得ない。

そうすると,「締め付けを開始する時点から,脚部2の回転軸の位置決めを行う」という作用効果を奏しているとはいえず,嵌合孔10は,嵌合突起8を「緊密に挿嵌」させるものとはいえない。

したがって,被告製品は,構成要件Cを充足するとは認められない。

 

【所感】

判決は妥当であると感じた。

「緊密」という表現が問題となっているが、発明の詳細な説明には、定義や技術的意義について何らの記載もなく、実施形態に限定解釈されてもやむを得ない。

 

しかも本件は、拒絶査定不服審判において、構成要件D,Eによって進歩性が認められており、「緊密に」が請求項1に記されていなくても、特許されていたものと考えられる。

つまり、「緊密に」は余分な限定であった可能性が高い。

 

また、特許請求の範囲に「挿嵌」などのいわゆる特許用語が多く用いられている。

特許用語は、争いのもとになる可能性があるので、使用をできるだけ避けるべきであろう。