太陽電池用平角導体事件
判決日 | 2013.09.19 |
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事件番号 | H24(行ケ)10433 |
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担当部 | 知財高裁 第4部 |
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発明の名称 | 太陽電池用平角導体及びその製造方法並びに太陽電池用リード線 |
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キーワード | 除くクレーム、実質的同一、設計事項 |
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事案の内容 | 拒絶査定不服審判で特許法第29条の2違反として拒絶審決を受けた出願人が取り消しを求め、請求が認容されて拒絶審決が取り消された事案。 引用発明を除く数値範囲で規定された本願発明について、その数値範囲は本願出願当時に周知技術または慣用技術でないから、引用発明において本願発明の数値範囲を採用することは設計事項に該当しないと判断した点がポイント。 |
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事案の内容
<本願発明>
本件特許出願 :特願2004-235823号
出願日 :平成16年 8月13日
[請求項1] 体積抵抗率が50μΩ・mm以下で,かつ引張り試験における0.2%耐力値が90MPa以下(ただし,49MPa以下を除く)であることを特徴とする太陽電池用平角導体。
<先願基礎発明(引用発明)>
先願 :特願2006-513698号
出願日 :平成17年 5月18日
先願基礎出願 :特願2004-152538号
優先日 :平成16年 5月21日
[先願基礎発明] 体積抵抗率が2.3μΩ・cm以下で,かつ耐力が19.6~49MPaである太陽電池用芯材。
【本件審決】
相違点に係る本願発明の構成である「(ただし,49MPa以下を除く)」とされる点は,先願基礎発明において適宜決定されるべき設計事項の相違にとどまるものであって,技術的思想すなわち発明として格別の差異を生じるものとは認められない。したがって,本願発明は,先願基礎発明と実質的に同一のものというべきである。
【裁判所の判断】
4 相違点に係る判断について
(1) 本願発明について(略)
(2) 先願基礎発明について(略)
(3) 耐力に係る数値範囲について
ア 前記(1)及び(2)によれば,本願発明と先願基礎発明とは,体積抵抗率が23μΩ・mm以下である太陽電池用平角導体である点で一致する(その点で,体積抵抗率が50μΩ・mm以下で,かつ引張り試験における0.2%耐力値が90MPa以下で一致するとする本件審決の認定は相当ではない。)にすぎず,引張り試験における0.2%耐力値については,本願発明は90MPa以下で,かつ49MPa以下を除いているため,先願基礎発明の耐力に係る数値範囲(19.6~49MPa)を排除している。したがって,本願発明と先願基礎発明とは,耐力に係る数値範囲について重複部分すら存在せず,全く異なるものである。
イ 先願基礎発明は,耐力に係る数値範囲を19.6ないし49MPaとするものであるが,先願基礎明細書(甲10)には,太陽電池用平角導体の0.2%耐力値を,本願発明のように,90MPa以下(ただし,49MPa以下を除く)とすることを示唆する記載はない。また,半導体基板に発生するクラックが,半導体基板の厚さにも依存するものであるとしても,耐力に係る数値範囲を本願発明のとおりとすることについて,本件出願当時に周知技術又は慣用技術であると認めるに足りる証拠はないから,先願基礎発明において,本願発明と同様の0.2%耐力値を採用することが,周知技術又は慣用技術の単なる適用であり,中間層の構成や半導体基板の厚さ等に応じて適宜決定されるべき設計事項であるということはできない。したがって,本願発明と先願基礎発明との相違点に係る構成(耐力に係る数値範囲の相違)が,課題解決のための具体化手段における微差であるということはできない。
ウ 本願発明は,前記(1)のとおり,耐力に係る数値範囲を90MPa以下(ただし,49MPa以下を除く)とすることによって,はんだ接続後の導体の熱収縮によって生じるセルを反らせる力を平角導体を塑性変形させることで低減させて,セルの反りを減少させるものである。
これに対し,先願基礎発明は,前記(2)のとおり,耐力に係る数値範囲を19.6ないし49MPaとすることによって,半導体基板にはんだ付けする際に凝固過程で生じた熱応力により自ら塑性変形して熱応力を軽減解消させて,半導体基板にクラックが発生するのを防止するというものである。
そうすると,両発明は,はんだ接続後の熱収縮を,平角導体(芯材)を塑性変形させることで低減させる点で共通しているものの,本願発明は,セルの反りを減少させることに着目して耐力に係る数値範囲を決定しており,他方,先願基礎発明は,半導体基板に発生するクラックを防止することに着目して耐力に係る数値範囲を決定しているのであって,両発明の課題が同一であるということはできない。
(4) 被告の主張について
被告は,本願発明及び先願基礎発明は,いずれもシリコン結晶ウェハを薄板化した際に生じる問題を解決するために,平角導体(芯材)を塑性変形させることによって,はんだ付けする際の熱応力を低減させる点において,共通の技術的思想に基づく発明であるところ,本願発明の耐力に係る数値範囲から49MPa以下を除くことに格別の技術的意義を見いだすことはできないから,当該事項について設計的事項を定めた以上のものということはできず,先願基礎発明の耐力に係る数値範囲も,設計上適宜に定められたものにすぎないから,当該数値範囲に限られるものではなく,本願発明及び先願基礎発明における耐力に係る数値範囲の特定についての相違は,発明の実施に際し,適宜定められる設計的事項の相違にとどまるものであって,発明として格別差異を生じさせるものではないと主張する。
しかしながら,前記のとおり,本願発明はセルの反りを減少させることに,先願基礎発明はクラックを防止することに,それぞれ着目して,耐力に係る数値範囲を決定しているのであるから,両発明の課題は異なり,共通の技術的思想に基づくものとはいえないから,被告の主張は,その前提自体を欠くものである。
また,前記のとおり,本願発明の耐力に係る数値範囲から49MPa以下を除くことが,設計上適宜に定められたものにすぎないということはできず,先願基礎発明の耐力に係る数値範囲についても,同様に,設計上適宜に定められたものにすぎないということはできない。
【所感】
本判決の結論は妥当であり、両発明の数値範囲に重複部分がないことや、本願発明の数値範囲が周知技術や慣用技術でないことから、両発明が実質的に同一であるとはいえないとの判断には納得できる。
しかしながら、「本願発明はセルの反りを減少させることに,先願基礎発明はクラックを防止することに,それぞれ着目して,耐力に係る数値範囲を決定しているのであるから,両発明の課題は異なり,共通の技術的思想に基づくものとはいえない」との判断には違和感がある。本願の課題には、セルの反りだけでなくセルの破損を減少させることも含むため、各発明がそれぞれ異なる課題に着目して耐力に係る数値範囲を決定しているとは考え難い。このことは、本願の出願当初明細書等に引用発明の数値範囲を除く旨の記載がないことからも言える。また、導体の耐力が高いほど、セルの反りが大きくなり、結果的にクラックが発生するのであれば、導体の耐力を低くしてセルのクラックを防止することは、セルの反りを減少させる効果も伴うため、両発明の課題は共通すると考えられる。