太陽光発電装置の施工方法事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-侵害系
判決日 2018.10.30
事件番号 H28(ワ)38103
担当部 東京地裁第29部
発明の名称 太陽光発電装置、太陽光発電パネル載置架台、太陽光発電装置の施工方法、太陽光発電パネル載置架台の施工方法
キーワード 技術的範囲、進歩性、通常実施権
事案の内容 特許侵害訴訟であり、侵害が認められた。
底面が地面に接するように地上に形成された型枠で,そこにコンクリートを流し込み基礎部材を形成することができるものであれば,構成要件Bの「地面に形成された基礎形成用溝」に含まれると解するのが相当である、と認定された。

事案の内容

【経緯】
出願日 平成24年8月2日
登録日 平成25年5月31日
【争点】
(1)被告各方法は,文言上,本件発明の技術的範囲に属するか?(被告方法2は省略)
(2)被告各方法は,本件発明と均等なものとして,その技術的範囲に属するか?(直接侵害と認定されたため、判断されず)
(3)本件発明は特開2011-181670号公報等により進歩性を欠くか?(省略)
(4)被告による被告各方法の使用は原告の実施許諾による通常実施権に基づくものか?(省略)
【請求項】の分説
A 太陽光発電パネル及び前記太陽光発電パネルを載置する太陽光発電パネル載置架台であって,基礎部材,足場パイプにより形成される柱部材及び足場パイプにより形成される接続部材を有する太陽光発電パネル載置架台を有する太陽光発電装置を施工する太陽光発電装置の施工方法であって,
B 前記基礎部材を形成するために地面に形成された基礎形成用溝に沿って前記柱部材を配置し,
C 前記基礎形成用溝の内部において,隣接する前記柱部材を前記接続部材で接続し,
D 前記基礎形成用溝に所定のコンクリートを流し込んで,前記接続部材をコンクリートに内包する基礎部材を形成し,
E 前記基礎部材上に前記太陽光発電パネル載置架台を生成し,
F 生成した前記太陽光発電パネル載置架台に前記太陽光発電パネルを載置すること,によって前記太陽光発電装置を施工する太陽光発電装置の施工方法。
 
【裁判所の判断】
1.本件発明について
 本件発明は,太陽光発電パネル載置架台を有する太陽光発電装置の施工方法について,基礎部材の形成過程として,「前記基礎部材を形成するために地面に形成された基礎形成用溝に沿って前記柱部材を配置し,前記基礎形成用溝の内部において,隣接する前記柱部材を前記接続部材で接続し,前記基礎形成用溝に所定のコンクリートを流し込んで,前記接続部材をコンクリートに内包する基礎部材を形成し」(構成要件BないしD)という構成を採用したものであり,それによって,基礎部材と柱部材とを強固に一体にすることができ,特に風荷重に対する高い強度を有する太陽光発電装置を簡単な作業で容易に設置することができるという作用効果を奏する。
 
(1)被告方法1
1a 太陽光発電パネル及びこれを載置する太陽光発電パネル載置架台であって,地上梁,支柱となる単管パイプ及びこれを接続する長尺単管パイプを有する太陽光発電パネル載置架台を有する太陽光発電装置を施工する太陽光発電装置の施工方法であって,
1b 地上梁を形成するために,木製の型枠板を互いに適当な距離を隔てて対向するように起立配置することで地上に形成された底面が地面に接する型枠に沿って,支柱となる単管パイプを配置し,
1c 型枠の内部において,隣接する支柱となる単管パイプを長尺単管パイプで接続し,
1d 型枠に,所定のコンクリートを流し込んで,長尺単管パイプをコンクリートに内包する地上梁を形成し,
1e 地上梁の上に,太陽光発電パネル載置架台を生成し,
1f 生成した太陽光発電パネル載置架台に前記太陽光発電パネルを載置すること,によって太陽光発電装置を施工する太陽光発電装置の施工方法。
 
3 争点1(被告各方法は,文言上,本件発明の技術的範囲に属するか)
(1) 争点1-1(被告方法1は構成要件Bの「地面に形成された基礎形成用溝」を充足し,構成要件Bを前提とする構成要件A,CないしEを充足するか)
ア 「地面に形成された基礎形成用溝」の意義
(ア) 構成要件Bは,「前記基礎部材を形成するために地面に形成された基礎形成用溝に沿って前記柱部材を配置し」というものであるところ,一般に,「地面」には「地の表面」という字義があり,「溝」には「細長いくぼみ」という字義があることからすると,文言上,底面が地面に接するように地上に形成された型枠であっても,「地面に形成された基礎形成用溝」に当たり得る。
 また,上記のとおり,「基礎形成用溝」は,基礎部材を形成するためのものであるから,コンクリートを流し込み基礎部材を形成することができる形状のものであることが必要であるものの,本件明細書に,それが地面を掘って地中に形成されたものでなければならないとする説明は見当たらない。
 そうすると,底面が地面に接するように地上に形成された型枠で,そこにコンクリートを流し込み基礎部材を形成することができるものであれば,構成要件Bの「地面に形成された基礎形成用溝」に含まれると解するのが相当である。
(イ) これに対し,被告は,構成要件Bの「地面に形成された基礎形成用溝」は,地面を掘って地中に形成された基礎形成用溝であると解すべきであり,その理由として,①上記の文言,【0035】,【0036】の記載並びに図4A及びBから明らかであること,②本件発明は,太陽光発電装置を地面から引き抜こうとする力への対策として考案されたものであり,基礎形成用溝が地上に形成される場合には,上記の対策として機能しないこと,③基礎形成用溝を地上に形成するためには,地中に形成するのと比べて余分の作業が必要になり,かつ,相応の追加の部材も必要になるから,「施工コストの低減」,「施工の簡略化」といった【0021】,【0034】の記載の趣旨に反することなどを主張する。
 しかしながら,①について,文言上,底面が地面に接するように地上に形成された型枠であっても,「地面に形成された基礎形成用溝」に当たり得ることは上記のとおりであり,また,被告が指摘する本件明細書の説明及び図面は,いずれも実施例を示すものにすぎず,仮に,地面を掘って地中に形成された基礎形成用溝を開示するものであったとしても,この説明によって,基礎形成用溝を地中に形成されるものに限定されるということもできない。
 また,②について,本件発明は,前記1(2)認定のとおり,従来技術の太陽電池パネル架台ユニット10では,アンカー8によって基礎ブロック1と支柱2とを固定しただけであったため,場合によっては,太陽電池パネル架台ユニット10に取り付けられた太陽電池パネル5が受ける風荷重に耐えられず,また,基礎ブロック1が支柱2に対して個別に形成されていたため,太陽電池パネル架台ユニット10の施工が煩雑になるという課題があったことに鑑み,施工が容易で高い強度を有する太陽光発電装置を提供することを目的としてされたものであり,その作用効果は,従来技術の基礎ブロック1に代えて,構成要件BないしDに示されているように,隣接する柱部材を接続する接続部材をコンクリートに内包して形成される基礎部材に係る構成を採用することによって,基礎部材と柱部材とを強固に一体にし,特に風荷重に対する高い強度を有する太陽光発電装置を簡単な作業で容易に設置する点にあるから,このような従来技術の課題,本件発明の目的,構成,作用効果に照らせば,本件発明は太陽光発電装置を地面から引き抜こうとする力への対策として機能するか否かという観点から規定されているものではないのであって,上記の機能を有するように「地面に形成された基礎形成用溝」について限定解釈をすべきであるということはできない。
 さらに,③について,基礎形成用溝を地上に形成することによって相応の作業や部材が必要になるとしても,従来技術のように基礎ブロック1を複数形成することによる施工の負担は軽減されるから,本件発明の作用効果を損なうものともいえない。
 したがって,被告の主張は採用することができない。
イ 被告方法1の構成
 前記2(1)のとおり,被告方法1は,構成1bを有する,すなわち,木製の型枠板を互いに適当な距離を隔てて対向するように起立配置することで,地上に型枠を形成し,この型枠は,地上梁を形成するためのものであり,底面が地面に接するものであるところ,上記の地上梁は構成要件Bの「基礎部材」に相当するから,構成要件Bの「地面に形成された基礎形成用溝」を充足する。
ウ 小括
被告方法1のその他の構成は前記2(1)のとおりであり,本件発明の「柱部材」に相当すると認められる支柱となる単管パイプ及び本件発明の「接続部材」に相当すると認められる長尺単管パイプは,いずれも足場パイプによって形成されていると認められるから,被告方法1は,本件発明の構成要件を全て充足する。よって,被告方法1は,本件発明の技術的範囲に属する。
 
【所感】
 被告方法1について、裁判官は、『「地面」には「地の表面」という字義があり,「溝」には「細長いくぼみ」という字義があることからすると,文言上,底面が地面に接するように地上に形成された型枠であっても,「地面に形成された基礎形成用溝」に当たり得る。』と判断している。しかし、『地面に形成された基礎形成用溝』というからには、溝は、地の表面に対して細長くくぼんでいると解釈する方が自然であると思われる。
 この点について、裁判官は、「基礎形成用溝に沿って前記柱部材を配置し,前記基礎形成用溝の内部において,隣接する前記柱部材を前記接続部材で接続し」を重視し、できたコンクリート基礎が同一なので、実質同一と判断した可能性がある。
 しかし、本願発明は、特徴B、Cに記載されているように、先に溝が形成されていることが必要であると思われるが、被告方法1説明書による被告方法は、工程1、工程2で柱、接続部材を設置し、工程3で、木製の型枠板を,地面に仮止めされた2本の長尺単管パイプの各両側いずれも適当な間隔で・・・起立配置しており、順序が逆である。施工(製造)方法の発明においては、順序は、大きな相違点であり、被告方法は、実質同一と言えないように感じる。
 なお、原告の「溝は型枠も含む」との主張は、型枠を用いてコンクリート基礎を打設する方法を含ませる。型枠を用いてコンクリート基礎を打設する工法は、一般建築物の布基礎などの細長いコンクリート基礎を打設するために通常行われる手法である。原告の「溝は型枠も含む」との主張は、進歩性判断における先行技術の範囲を広げ、逆手に取られる可能性を感じる。