図書保管管理装置事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-審取(当事者係)
判決日 2012.10.09
事件番号 H24(行ケ)10038
担当部 第3部
発明の名称 図書保管管理装置
キーワード 進歩性 要旨認定
事案の内容 特許無効審判についてされた維持審決の取消訴訟であり、原告の請求が認められて審決が取り消された事案である。
技術分野の差異による特別な効果に基づいて進歩性を主張したが、阻害要因が無いとして進歩性が認められなかった点がポイント。

事案の内容

 【本件訂正後の特許請求の範囲の請求項】

[請求項1(本件訂正発明1)]

図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫と,

この書庫の各棚領域に収容されるもので,それぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナと,

この複数のコンテナの前記書庫内における収容位置と,各コンテナに収容された複数の図書の各図書コードとを対応させて記憶する記憶手段と,

取り出しが要求された図書の図書コードを入力することにより,前記記憶手段の記憶内容に基づいて,該要求図書が収容されているコンテナを前記書庫から取り出してステーションに搬送するとともに,返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより,該返却図書の寸法に対応する複数の前記コンテナの中から空きのあるコンテナを前記書庫から取り出して前記ステーションに搬送する搬送手段と,

この搬送手段により前記ステーションに搬送されて,前記要求図書が取り出されたコンテナまたは前記返却図書が返却されたコンテナに対して,前記記憶手段の記憶内容を更新する更新手段とを具備し,

前記書庫の複数の棚領域には,前記搬送手段によってコンテナを取り出す間口に対して,奥行き方向に複数のコンテナが収容され, 前記搬送手段には,前記コンテナを取り出す間口に対して,手前側のコンテナを取り出してから奥側のコンテナを取り出す移載手段が備えられていることを特徴とする図書保管管理装置。

 

【裁判所の判断】

1 取消事由1(本件訂正発明1の認定・解釈の誤り,及び本件訂正発明1の作用効果の認定の誤り)について

(1) 審決の認定

…『図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫』に関しては,その構成として,請求人が主張するような参考資料の図2のような構成ではなく,本件訂正発明1の図面である【図2】および【図11】に示すような構成であると解するのが自然である。そして,このような構成を採用することにより,全文訂正明細書の段落【0089】に記載された『書庫内における図書の収容効率を向上させる』という効果を奏するものである…

(2) 原告の主張

本件訂正発明1の「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫と,この書庫の各棚領域に収容されるもので,それぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナと」の構成要件には,参考資料の図2のようなものも含まれるから,参考資料の図2のように図書を収納したコンテナを参考資料の図1の棚領域に収納しても,図書の収納効率が上がらない場合がある。…審決の認定では,実施例に示された構成のどこまでが本件訂正発明1の発明の要旨として認定されたのか不明瞭となり,発明の要旨を特定することができない。

(4) 審決の認定について

ア 「書庫」の構成について

…この点,《1》特許請求の範囲の記載として,「図書の寸法にそれぞれ対応する幅及び高さを有する異なる複数の棚領域」(及びこれに対応するコンテナ)とするのであれば(これでも特定は不十分かもしれないが),審決が認定するような構成を導くことも可能であろうが,本件訂正発明1の上記記載では,そのようにはなっておらず,構成の特定方法が十分ではないと解する余地がある。

他方, 《2》「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域」という構成の内容が必ずしも明確でないので,発明の詳細な説明参酌することができるところ,本件訂正発明1は,サイズ別フリーロケーション方式を採用した図書の保管管理装置に係る発明であり,…図書の寸法にそれぞれ対応する幅及び高さを有するコンテナ(及びこれに対応する棚領域)の構成であると解する余地もある。

…しかし,本件訂正発明1の特許請求の範囲の解釈に関しては,上記《1》か《2》かという点で明確でないところがあり,また,発明の詳細な説明においても,明確に「図書の寸法にそれぞれ対応する幅及び高さを有する」と 規定されていないことに照らして判断すると,…認定は正確でないということになる。

イ 「コンテナ」の構成について

「コンテナ」について,本件訂正発明1では,「この書庫の各棚領域に収容されるもので,それぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナ」と特定されているのみである。そうすると,上記アの説示に照らして,参考資料の図2に記載されているようなコンテナ,すなわち,複数の同じサイズの図書を収容するコンテナであれば,…例えば,コンテナがA4版用,B5版用,A5版用というように分類されていれば,図書の…「幅及び高さ」よりコンテナの「幅及び高さ」のそれぞれの長さが長いコンテナであっても,本件訂正発明1の「コンテナ」の特定事項を満たしているといえる。…その限りにおいて認定は正確でないということになる。

ウ 本件訂正発明1の効果について

…確かに,被告が主張するように,サイズ別フリーロケーション方式を採用した場合,同じサイズの図書をまとめて一つのコンテナに収容することができ,これが収容効率の向上につながることが予想される。

しかし,収容効率の向上をいうのであれば,「図書の寸法にそれぞれ対応する幅及び高さを有する棚領域」,「及びこれに対応するコンテナ」と特定する構成の方が,より明確であったといえる。

エ 以上のとおり,審決の認定には正確性を欠くところがあるが,審決は,相違点1の容易想到性 判断において,後記2 (1)ウのとおり述べるにとどまり,「書庫」の構成に関して,図書の幅及び高さと棚領域との大小関係については何ら言及していない。そこで,原告主張の審決の認定の誤りが取消事由にどこまで影響を与えるかについては,次項以下で,実質的な検討を進める。

2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)について

(1) 審決の認定・判断

ア 相違点1

「書庫の複数の棚領域と複数の図書を収容する複数のコンテナに関して,本件訂正発明1においては,『図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫』と『それぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナ』とを採用しているのに対し,甲4発明においては,このような図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域や棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナを用いていない点。」

イ 甲1発明

「図書入出庫管理装置において,図書の寸法別に分類された図書に対応する寸法の複数種類のコンテナを収容するための,図書の寸法別に分類された高さが異なる複数の棚領域を有する書庫。」

容易想到性判断

自動倉庫の分野幅が異なる棚領域を設けること,並びに,自動倉庫の分野幅及び高さがそれぞれ異なる棚領域を設けることが請求人の主張するように従来周知の技術的事項であって,また,…自動倉庫は書庫の技術分野と共通することが従来周知の技術的事項であるとしても,書庫に用いる棚領域において,その幅及び高さがそれぞれ異なるものであることまでが周知の技術であるとまではいえない

したがって,甲4発明におけるその書庫の複数の棚領域と複数の図書を収容する複数のコンテナにつき,甲1発明を適用できたとしても,書庫の複数の棚領域が,幅及び高さがそれぞれ異なるものとはならない。

(2) 周知技術について

カ 甲第21号証等に記載されている周知技術の内容

…以上によれば,甲第21号証,同第22号証,同第28号証及び同第29号証の記載から,次の事項が周知技術であることが認められる。
収容物の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する倉庫とそれぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の収容物を収容する複数のコンテナを備えた自動倉庫。」

(3) 相違点1に係る容易想到性について

甲4発明と上記(2)で認定した周知技術は,コンテナ等に収容物を収容し,このコンテナを,棚等を有する収容場所に格納するものである点で共通する。

したがって,甲4発明に上記周知技術を適用し,相違点1に係る本件訂正発明1の構成を得ることは,当業者が容易になし得たことである。

この点,審決は,本件訂正発明1と甲4発明の相違点1について,発明特定事項である「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫」に関しては,その構成として,本件訂正発明1の図面である【図2】及び【図11】に示すような構成であると解するのが自然であると認定・判断し,また,「書庫に用いる棚領域において,その幅及び高さがそれぞれ異なることまでが周知の技術であるとまではいえない」とした上,甲4発明,甲1発明及び従来周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえないとの判断をしている。

しかし,取消事由1について検討したとおり,審決の上記認定は,その前提において正確性を欠くところがあることから,審決が,「書庫に用いる棚領域において」という点について,上記【図2】及び【図11】に示すような構成に限定して解釈しているとすれば,それが「その幅及び高さがそれぞれ異なることまでが周知の技術であるとまではいえない」との判断に影響を与えているものといえる。

また,仮に,取消事由1で検討したように,本件訂正発明1がフリーロケーション方式を採用したもので,図書のサイズにそれぞれ応じた棚領域及びコンテナを有する書庫(《2》の見解)であると解し,書庫の形式をそのように限定したとしても,甲4発明(及び甲1発明)に上記周知技術を適用し,「書庫に用いる棚領域において」採用することについて,すなわち相違点1に係る本件訂正発明1の構成を得ることについて,格別の阻害要因があると認めることはできない

イ…そして,本件の場合 ,図書は,その幅及び高さが複数種類に限定されているため,収容物が図書に限定された場合には,限定のない場合と比較して収容効率が向上するという効果が予想されるが,収容効率を更に向上させるために,荷物の大きさを揃えて,それに対応するコンテナに収容する方がよいことは,当業者が技術常識に照らして容易に予測し得るところであって,図書の場合は,規格上,それが更にA4版,B5版等に特定されたものというべきである。被告は,本件訂正発明1が採用したフリーロケーション方式では,複数の分類にかかる同じサイズの図書を一つのコンテナに混在させることができるから,空間の利用効率が高くなり,収容効率が向上すると主張するが,このような効果は,収容物の大きさに応じた収納容器を用いることで収容効率が向上するという効果から当業者が予測し得る程度のものであり,それ以上に格別なものとはいえない。

ウ 被告は,原告が掲げる倉庫に関する技術(甲20 ~甲22,甲28,甲29)は,出納効率の向上の点からは適さないものであると主張する。

確かに,図書の場合,出入庫が一冊単位で,一つの図書について複数回繰り返し要求され,かつ出庫だけでなく必ず返却作業を伴うものである点,荷物系とは,収容対象物の動きの複雑さと入出庫の回数で大きく異なる,との被告の主張は理解できる。

しかし,…出納効率を向上させることとともに,収容効率を向上させることは,書棚や倉庫の分野において周知の課題であり(甲48,55),出納効率の点において多少の相違があるとしても,必ずしも周知技術を適用することの阻害要因となるものではない

(4) 小括

よって,原告主張の取消事由2は理由がある。

 

【解説・感想】

コンテナが、「図書の寸法にそれぞれ対応する幅および高さを有する」ことが明細書中に明確に記載されていなかったため、意図した要旨認定がされなかった。「サイズ別フリーロケーション方式」が、「図書の寸法に応じた大きさの異なるコンテナを用いてコンテナを大きさごとに分類して書庫に収容する」方式であることが知られていたとしても(判決文30頁、甲32[0009])、明細書中に明示されていないと、当然にそのような内容に認定されるわけではない。公知文献に記載されており、従来技術として当たり前の部分であっても、発明のポイントに係る部分は、補正可能となるように明細書中で十分に説明することが必要と思われる。(ただし、今回の判決では、この要旨認定に係る判断は結論に影響しなかったと思われる。)

引用文献との間の技術分野の差異(自動倉庫の分野に対する書庫の技術分野)や、書庫であることによる特別な効果に基づく進歩性の主張をしているが、主張が認められるのにはかなりの困難が伴う程度にかなり近い技術分野である。技術分野の差異に基づく必要な主張はなされていたと思われ、審決では要旨認定を含めて被告に有利な判断がなされている。しかし、結果的には、動機付けの有無ではなく阻害要因の有無に基づいて判断がされたこともあり、被告に厳しい判決となった。