分散型システムにおいて複数の関連付けられたマルチメディア資産の何れかを同期させる技法事件
判決日 | 2015.08.06 |
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事件番号 | H26(行ケ)10231 |
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担当部 | 知財高裁第2部 |
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発明の名称 | 分散型システムにおいて複数の関連付けられたマルチメディア資産の何れかを同期させる技法 |
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キーワード | 進歩性 |
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事案の内容 | 拒絶査定不服審判の不成立審決の取消訴訟。原告の請求が認容された。 デバイス間で双方向にデータを同期させることと、一方向にデータを同期させることの違いが相違点と認められた点がポイント。 |
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事案の内容
【補正発明(特願2011-198143号)】
分散型ネットワークにおいて,
前記分散型ネットワークに参加しているいずれかのデバイスに格納されている第1の写真アルバムであって複数のデジタル写真を含む写真アルバムが修正されたことを検出する手段と,
前記検出結果に基づいて,前記分散型ネットワークに参加している,前記デバイス以外のデバイスに格納されている他の写真アルバムであって前記第1の写真アルバムに関係付けられる他の写真アルバムを前記第1の写真アルバムに自動的に同期させる手段と,
を備える,分散された写真アルバムの集合を自動的に同期させる装置。
【審決の理由】
補正発明は、特開平11-219330号公報(甲1)記載の発明(引用発明)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。したがって,本件補正は,却下すべきものである。本願発明(補正前)は,特許法29条2項の規定により,特許を受けることはできない。
<引用発明(甲1)>
省略
<審決で認定された相違点/判断>
・相違点
補正発明では,コンテンツが「複数のデジタル写真を含む写真アルバム」であるのに対し,引用発明は,コンテンツが「テキストデータ,画像データ,音声データ,コンピュータプログラムなど(ひとまとまりの情報(例えば,1のファイル))である点。
・判断
引用発明の「コンテンツ」は,「テキストデータ,画像データ,音声データ,コンピュータプログラムなど(ひとまとまりの情報(例えば,1のファイル))」等であるから,当該コンテンツとしては画像データのコンテンツを含んでいる。上記引用文献に接した当業者であれば,画像データコンテンツとして上記周知技術であるデジタル写真アルバムを容易に想到し得る。
【原告主張の審決取消事由】
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)
引用発明は,データを「不特定多数」へ一斉配信することを本質的な構成要件とする発明であると理解すべきであり,単に「多数」へ配信するシステムではない。
2 取消事由2(相違点の認定の誤り)
上述のように,引用発明は,「不特定多数のデータベースへのデータ配信システム」である。したがって,補正発明と引用発明との一致点が審決のとおりであるとしても,補正発明と引用発明との相違点は,当該装置が,補正発明の場合は「分散型ネットワークにおいて,写真アルバムの集合を自動的に同期させる装置」であるのに対し,引用発明の場合は「分散型ネットワークにおいて,不特定多数のデータベースへデータを同期させる装置」である点を,認定すべきであった。
3 取消事由3(容易想到性の判断の誤り):省略
【被告の反論】
1 取消事由1に対し
審決の引用発明の認定に誤りはない。「不特定多数」は,「多数」の下位概念であってこれに含まれており,「不特定多数」を認定できるのにもかかわらずその上位概念である「多数」を認定できないはずはない。
2 取消事由2に対し
審決の相違点の認定に誤りはない。取消事由2は取消事由1を前提とした主張であるところ,上述したとおり,取消事由1は失当であるから,取消事由2も失当である。
3 取消事由3に対し:省略
【裁判所の判断】
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)について
データの配信先を示す「不特定多数」とは,一般に,性質・傾向などを特定しないため,様々なものが数多くあること,を指す文言であり,「多数」の下位概念である。
・・・の記載によれば,甲1には,一斉同報による「不特定多数に配信する場合」のほかに,「分散型データベースにおける多数のデータベースへのデータの配信を行う場合」や「IPマルチキャストによりデータを配信する場合」が,データ配信システムの具体的な態様として示されており,そのうち「IPマルチキャストによりデータを配信する場合」とは,IPネットワーク上で1対多でのデータ通信を行う場合を指し,その際データ送信者は,マルチキャストグループアドレスによってデータを送信するものであり,マルチキャストグループアドレスに加入する多数の受信者がそのデータを受信できるから,特定された多数の受信者へデータを配信するものであるといえる。
・・・そうすると,甲1には,一斉同報による「不特定多数に配信する場合」のほかに,「特定された多数の受信者へデータを配信する場合」も,データ配信システムの具体的な態様として示されているから,仮に,引用発明が,データを「不特定多数」に配信する場合にも有用なものであるとしても,データを「不特定多数」へ一斉配信することを本質的な構成要件とするものとは必ずしもいえず,甲1の記載に基づいて,引用発明を,「多数」の下位概念である「不特定多数」にデータを配信する発明として限定的に認定すべき理由はない。
したがって,審決が,引用発明を,「多数のデータベースへのデータ配信システム」と認定した点に誤りはない。
2 取消事由2(相違点の認定の誤り)について
(1) 補正発明における「第1の写真アルバム」が格納されている「デバイス」とは,請求項の記載上では「分散型ネットワークに参加しているいずれかのデバイス」であればよいから,特定のデバイスに限定されるものではない。また,「同期させる手段」によって「同期」される「他の写真アルバムであって前記第1の写真アルバムに関係付けられる他の写真アルバム」が格納されている「前記デバイス以外のデバイス」も,請求項の記載上では「分散型ネットワークに参加している」デバイスであればよいから,特定のデバイスに限定されるものではない。
そうすると,ある場合には修正された「第1の写真アルバム」が格納されている「デバイス」が,別の場合には「同期させる手段」によって当該修正に「同期」される写真アルバムが格納されている「デバイス」となることが想定されており,その逆の状況も想定されるから,分散型ネットワークに参加しているデバイスはいずれも,「第1の写真アルバム」が格納されているデバイスとなり得るし,また,「同期させる手段」によって「同期」される写真アルバムが格納されているデバイスとなり得ることとなる。したがって,補正発明の装置においては,分散型ネットワークに参加しているある特定の「デバイス」とそれ以外の「デバイス」と間において,「写真アルバム」変更の検出による関連する他方の「写真アルバム」の自動的な同期が,双方向に行われるものと認められる。
(2) 引用発明は,第2,3(2)ア記載のとおりに認定されるところ,サーバ2及びミラーサーバ7は,更新オブジェクト情報やイベントをその都度受信端末へ提供するが,仮に,受信端末側においてオブジェクトが変更されたとしても,更新オブジェクト情報やイベントが,データベース・サーバないし他の受信端末へ提供されることは想定されていない。すなわち,オブジェクトの変更等の検出による更新オブジェクト情報の提供は,一方向にのみ行われるものと認められる。
(3) そうすると,引用発明は,補正発明における「分散された写真アルバムの集合を自動的に同期させる」との構成,すなわち,ある特定の「デバイス」とそれ以外の「デバイス」と間において,「写真アルバム」変更の検出による関連する他方の「写真アルバム」の自動的な同期を双方向に行う構成に相当する構成を含むものではない。この意味で,補正発明と引用発明との相違点は,補正発明の場合は,「分散型ネットワークにおいて,写真アルバムの集合を自動的に同期させる装置」であるのに対し,引用発明の場合は,「分散型ネットワークにおいて,多数のデータベースへデータを同期させる装置」であると認定すべきである。
(4) 被告は,取消事由2は取消事由1を前提とした主張であるところ,取消事由1は失当であるから,取消事由2も失当である旨主張する。しかしながら,前記のとおり,審決が,引用発明を「多数のデータベースへのデータ配信システム」と認定した点に誤りはないものの,取消事由2における原告の主張は,引用発明が「分散型ネットワークにおいて,不特定多数のデータベースへデータを同期させる」装置と認定すべきことを前提として,審決がこれを誤認した結果,補正発明と引用発明との相違点の認定も誤ったというものである。したがって,必ずしも取消事由1を前提とするものではなく,被告の主張は理由がない。
(5) 審決は,上記認定の相違点の容易想到性を判断せずに補正発明の進歩性を否定したものであるから,特許法29条2項の適用を誤ったものであり,取消しを免れない。
【所感】
裁判所が認定した相違点、すなわち、補正発明の装置において実現されるデバイス間のデータ同期が双方向であるのに対し、引用発明が一方向である点については、まさにその通りだと感じた。
しかし、原告主張の取消事由を見ても、原告が、上記のようなデータ同期方法の相違について言及しているようには読めなかった。