円テーブル装置事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-侵害系
判決日 2015.4.28
事件番号 H26(ワ)4
担当部 大阪地方裁判所第21民事部
発明の名称 円テーブル装置
キーワード 構成要件充足性、文言解釈
事案の内容 侵害差止等の請求が棄却された事案。
特許請求の範囲に記された「テーパー」の解釈で争いになり、辞書や明成書が参酌された結果、特許権者の主張は認められなかった。

事案の内容

【請求項1】(下線は訂正箇所、赤字は図2にもある)

A      回転軸(5)の軸方向一端にワーク取付部を備え,駆動機構により回転軸(5)を回転させ,クランプ機構により所定回転角度で回転軸を固定する円テーブル装置において,

B      前記駆動機構は,回転軸(5)に設けたウォームホイール(11)と該ウォームホイール(11)に噛み合うウォーム軸(12)により構成されると共に,ウォーム軸(12)とウォームホイール(11)はオイルバス内に収納され,

C     前記クランプ機構は,

C1      前記ウォームホイール(11)に固着されたブレーキディスク(15)と,

C2     該ブレーキディスク(15)を軸方向の両側から解除可能に挟圧する固定側クランプ部材(20)及   び可動側クランプ部材(21)と,

C3      可動側クランプ部材(21)を軸方向の固定側クランプ部材(20)側に加圧する流体圧ピストン(25)            と,

C4      前記流体圧ピストン(25)を軸方向移動可能に嵌合させているシリンダ形成部材(31)と,

C5      該流体圧ピストン(25)と前記可動側クランプ部材(21)と前記シリンダ形成部材(31)との間に介             在すると共に軸方向及び径方向に移動可能なボール(26)とカム面(28,29,40)よりなる増力                機構とを,備え,

D     前記可動側クランプ部材(21)は,リターンばね(30)により,軸方向のアンクランプ側に付勢され,

E     前記増力機構は,

E1         ボール(26)を介してシリンダ形成部材(31)のテーパー面(40)に対向している流体圧ピストン                  (25)の第1段用テーパーカム面(28)のカム作用による第1段増力部と,

E2         ボール(26)を介してシリンダ形成部材(31)のテーパー面(40)に対向している可動側クランプ                   部材(21)の第2段用テーパーカム面(29)のカム作用による第2段増力部を有する

F      ことを特徴とする円テーブル装置。

 

 

 

被告製品

ボール(10)を介してクランプシリンダ(12)のテーパー面(符号無し)に対向しているクランプリング(8)の第2段用面(符号無し)を有する。

裁判所の判断

被告製品において,クランプリング8の鋼球10と当接する面が回転軸芯と直角であること(α3=0°)は争いがない。原告は,この面が傾斜している旨を主張するものではなく,この面の傾斜角度が0°であっても,テーパーカム面に該当する旨を主張する。

そこで、「テーパーカム面」の意義について検討する。

(ア) 本件明細書には,次の記載がある。

【0018】

シリンダ形成部材31のテーパー面40及び可動側クランプ部材21のテーパーカム面29は,回転軸芯と直角な面に対して,30°以下の緩やかな傾斜角度α2,α3となっており,また,ピストン25のテーパーカム面28のテーパー角α1も,30°以下の緩やかな傾斜角となっている。

 

(イ) 甲13,14によると「テーパー」とは,「円錐状に直径が次第に減少している状態。また,その勾配」であり,「カム」とは,「回転軸からの距離が一定でない周辺を有し,回転しながらその周辺で他の部材に種々の運動を与える装置」である。

 

ウ 「テーパーカム面(29)」の意義

(ア) 「テーパーカム面」の意義について,本件特許請求の範囲や本件明細書に具体的な記載はないところ,原告は,「テーパーカム面」は,不可分一体の用語であり,シリンダ形成部材テーパー面40と対向してセットになるカム作用を生じさせる面であり,傾斜角度がつけられていることは必須ではない旨主張するのに対し,被告は,「テーパー」で限定された「面」あるいは「カム面」である旨主張する。

 

(イ) 原告は,本件明細書において,「テーパー面(40)」と,「カム面(28,29)」及び「テーパーカム面」は明確に書き分けられていると指摘し,「カム面」を,カム作用を生じさせる面であるとして主張する。

しかし,構成要件C5は,「カム面(28,29,40)よりなる増力機構」と記載し(「40」は,訂正により加えられている。),ボールを介した増力機構における面40,面28及び面29を「カム面」として同列に記載していることからすれば,原告が主張するような明確な書き分けがされているとまではいえない。

また,本件明細書において,面28,29及び40については「カム面」との用語を使用しながら,構成要件E2において「テーパーカム面(29)」との用語を使用しているということは,当該面それ自体が,「カム」としての性格または機能と「テーパー」としての性格または機能を有する趣旨と解するのが自然である。

 

(ウ) 原告は,「テーパー」の意味として,ピストン側のボールと接する面(28)及び可動側クランプ部材の面(29)と,シリンダ形成部材との各2両面で勾配を形成していることのように主張する。

しかし,本件明細書には,回転軸芯と面28とのなす角度α1を「テーパー角」,「シリンダ形成部材31のテーパー面40及び可動クランプ部材21のテーパーカム面29は,回転軸芯と直角な面に対して30°以下の緩やかな傾斜角度α2,α3」となっている旨の記載があり(【0018】),ボール26を囲む面の有する勾配については,回転軸芯ないしは回転軸芯と直角な面に対する勾配であることを前提としていることが認められるものの,複数の面の相関関係によって円錐状の勾配が形成されるとの意味で「テーパー」が用いられていると解し得る記載は存しない。

そして,本件特許は回転軸芯を中心とした円テーブル装置であり,その構造に関する本件特許請求の範囲の記載を解釈するものであることをあわせ考慮すれば,「テーパー」とは,回転軸芯あるいは回転軸芯と直角な面を基準として,傾斜角度を有することと解するのが相当である。

この点,原告は,面29の回転軸芯と直角な面に対する角度(α3)が0°の場合も含む旨主張し,当業者の認識理解や,α3が0°の場合のみ除くのは不自然であることなどを指摘するが,上記「テーパー」の意義からすれば,原告の上記主張は採用できないというべきである。

 

(エ) 前述のとおり,構成要件E2の「テーパーカム面」は,面29それ自体が,「テーパー」としての性格または機能と「カム」としての性格または機能を有すべきところ,前記イ(イ)によれば,「カム」の典型的機能は,回転運動を直線運動に変換することであるから,広義では,方向等を変換しつつ力を伝達する部材と解する余地がある。

また,上記検討したところによれば,「テーパー」は,回転軸芯あるいは回転軸芯と直角な面を基準として傾斜角度(0°を含まない。)を有するとの意味になる。

 

 

 

ウ 被告製品の構成要件E2充足性

被告製品において,クランプリング8の鋼球10と当接する面が回転軸芯と直角であること(α3=0°)は争いがない。原告は,この面が傾斜している旨を主張するものではなく,この面の傾斜角度が0°であっても,テーパーカム面に該当する旨を主張する。

「テーパー」について前記のとおり解する以上,この面は「テーパーカム面」に該当せず,結局,被告製品は構成要件E2を充足しない。

 

【所感】

判決は妥当であると考えられる。

そもそもデーパーが付いていなければ、増力部にならないので、この点においても構成要件E2は非充足であると考えられる。