二酸化炭素含有粘性組成物事件

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判決日 2013.01.17
事件番号 H23(ワ)4836
担当部 大阪地裁 第26民事部
発明の名称 二酸化炭素含有粘性組成物
キーワード 間接侵害
事案の内容 直接侵害と間接侵害とが認定され、損害賠償請求等が認められた。
ポイントは、間接侵害が認定されるための条件(証拠)である。

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直接侵害《1》(カテゴリー:物)

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【請求項1】

1-A)部分肥満改善用化粧料、或いは水虫、アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットであって、

1-B)1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、酸を含む顆粒(細粒、粉末)剤の組み合わせ;又は

2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒、粉末)剤と、アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ

からなり、

1-C)含水粘性組成物が、二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴とする、

1-D)含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット。

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被告各製品の構成

a脂肪代謝の活性化,たるみ改善,リフトアップ,小顔等の部分痩せ効果を有するジェル状化粧料として使用される二酸化炭素を含有するジェルを得るためのキットであって,

b炭酸水素ナトリウム及びアルギン酸ナトリウムを含有するジェル剤と,コハク酸又はアスコルビン酸を含む顆粒剤の組み合わせからなり,

cジェル剤と顆粒剤を混ぜ合わせたジェルが,二酸化炭素を気泡状で保持できる,

dジェル剤の中で炭酸塩とコハク酸又はアスコルビン酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有するジェルを得ることができるキット。

 

被告各製品は,構成aからdまでを有するところ,これらの構成は,構成要件1-A,1-B 1),1-C及び1-Dをそれぞれ充足し,特許発明1の技術的範囲に属すると認めることができる。

 

「部分肥満改善」についての充足性は、次の通りである。

被告各製品に係る広告宣伝によれば,被告各製品は,小顔効果,顔やせ,部分痩せの効果を奏する化粧料として販売されていることが認められる。

そうすると,被告各製品が本件各特許発明の「部分肥満改善用化粧料として使用される」という構成を文言上充足することは明らかである。

被告らは,被告各製品に係る広告宣伝には関与していない旨主張する。

しかしながら,上記各広告宣伝は,その体裁・内容自体からして真正に成立したものであると認めることができる。

被告らも第三者の作成名義で真正に成立した文書であることについてまで争っているとは解されない。

そして,被告各製品について上記のような類似した広告宣伝がされていることからすれば,被告らが,小売店等に対し,上記のような作用効果を奏する化粧料として被告各製品を販売していることは優に認められるものというべきである。

 

 

 

直接侵害《2》(カテゴリー:物)

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【請求項2】

得られる二酸化炭素含有粘性組成物が、二酸化炭素を5~90容量%含有するものである、請求項1に記載のキット。

【請求項3】

含水粘性組成物が、含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させた後にメスシリンダーに入れたときの容量を100としたとき、2時間後において50以上の容量を保持できるものである、請求項1又は2に記載のキット。

【請求項4】

含水粘性組成物がアルギン酸ナトリウムを2重量%以上含むものである、請求項1乃至3のいずれかに記載のキット。

【請求項5】

含有粘性組成物が水を87重量%以上含むものである、請求項1乃至4のいずれかに記載のキット。

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被告は,当初,原告のOEM製品を製造しており,その際,本件各特許発明を実施していたものと認めることができる。

特許発明2から5までの内容は,特許発明1を実施するに当たり,当然備えるべき内容であったり(特許発明2,4及び5),その作用効果を説明したにすぎない内容であったり(特許発明3)するものである。

被告らは,これらの発明に係る構成要件充足性について否認ないし争うと述べるだけで,具体的な認否・反論をしていない。

これらの事情を総合考慮すると,被告各製品は,特許発明2から5までの技術的範囲にも属するものであると認めるのが相当である。

 

 

 

間接侵害《1》(カテゴリー:物)

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【請求項7】

請求項1~5のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化炭素含有粘性組成物を含む部分肥満改善用化粧料。

【請求項8】

顔、脚、腕、腹部、脇腹、背中、首、又は顎の部分肥満改善用である、請求項7に記載の化粧料。

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被告各製品は,ジェル剤と顆粒剤のキットからなる化粧料であり,特許発明1の各構成要件を充足するが,被告各製品を購入した需要者は,上記2剤を混ぜ合わせて,自らジェル状の「部分肥満改善用化粧料」を調製し,生成することが予定されており,それ以外の用途は考えられない。

したがって,被告各製品を製造,販売する行為は,特許発明7に係る特許権の間接侵害に当たるといえる。

また,上述のとおり,被告各製品の製造,販売は,特許発明7に係る特許権の間接侵害に当たるところ,被告各製品は,主に顔の部分肥満改善に使用されているので,被告各製品を製造,販売する行為は,特許発明8に係る特許権の間接侵害にも当たるといえる。

 

 

 

間接侵害《2》(カテゴリー:生産方法)

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【請求項9】

部分肥満改善用化粧料、或いは水虫、アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を調製する方法であって、

1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、酸を含む顆粒(細粒、粉末)剤;又は

2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒、粉末)剤と、アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物;

を用いて、含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化炭素含有粘性組成物を調製する工程を含み、

含水粘性組成物が、二酸化炭素を気泡状で保持できるものである、二酸化炭素含有粘性組成物の調製方法。

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被告各製品は,ジェル剤と顆粒剤のキットからなる化粧料であり、特許発明1の各構成要件を充足するものであるところ,特許発明9は,特許発明1の2剤を使用して二酸化炭素含有粘性組成物を調製する方法を内容としている。

そして,被告各製品は,それらを購入した需要者が,上記2剤を混ぜ合わせて,自ら二酸化炭素を含んだジェル状の「部分肥満改善用化粧料」を調製することが予定されており,それ以外の用途は考えられない。

したがって,被告各製品を製造,販売する行為は,特許発明9に係る特許権の間接侵害に当たる。

 

 

 

間接侵害《3》(カテゴリー:生産方法)

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【請求項10】

調製される二酸化炭素含有粘性組成物が、二酸化炭素を5~90容量%含有するものである、請求項9に記載の調製方法。

【請求項11】

含水粘性組成物が、含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させた後にメスシリンダーに入れたときの容量を100としたとき、2時間後において50以上の容量を保持できるものである、請求項9又は10に記載の調製方法。

【請求項12】

含水粘性組成物がアルギン酸ナトリウムを2重量%以上含むものである、請求項9乃至11のいずれかに記載の調製方法。

【請求項13】

含有粘性組成物が水を87重量%以上含むものである、請求項9乃至12のいずれかに記載の調製方法。

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被告各製品は特許発明2から5までの技術的範囲に属するものであると認められるところ,前記のとおり,これらの製品は,購入した需要者が,上記2剤を混ぜ合わせて,自ら二酸化炭素を含んだジェル状の「部分肥満改善用化粧料」を調製することが予定されており、それ以外の用途は考えられない。

したがって,被告各製品を製造,販売する行為は,特許発明10から13までに係る特許権の間接侵害に当たる。

 

 

 

【所感】

結論は、妥当であると考えられる。

但し、今回の事件においては、請求項1の直接侵害の認定のみで十分であり、間接侵害の認定は原告の利益に貢献していない。

本件特許の請求項7~13が、権利取得や権利行使の場面において有用となるケースが仮に想定できないのであれば、そもそも請求項7~13は不要と考えられる。

少なくとも請求項9~13は、請求項1~5の単なるカテゴリー変更と考えられ、権利取得(新規性・進歩性の判断)の場面において有用であるとは考えにくい。

また、請求項7,8は、不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当すると考えられ、権利行使の場面において「請求項1~5では侵害が認められないが、請求項7,8では侵害が認められる」というケースは限定的であると考えられる。

 

無闇にカテゴリーを増やすと請求項の数も増え、この結果、権利者の料金負担が増えるというデメリットが生じる。

加えて、シフト補正の制限が課せられた場合に、原則、最初にSTFが認定された発明のカテゴリーと異なるカテゴリーの発明は補正後の特許請求の範囲に記載できないので、中間応答時に注意を要することになる。

 

以上に鑑み、どのような発明の場合に、どのカテゴリーが有用であるのか検討を深め、実務に反映させるべきである。