ポンプ作動衛生器具事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-審取(当事者係)
判決日 2011.05.30
事件番号 H22(行ケ)10271
発明の名称 ポンプ作動衛生器具及び便器設備
キーワード 進歩性
事案の内容 無効審判の請求棄却審決に対する審決取消請求事件であり、審決が取り消された事案。
審決における引用例の解釈が技術常識に反すると判断され、また、かかる解釈によると、引用発明の機能(洗浄機能)を果たさないと判断された点がポイント。

事案の内容

【出訴時クレーム】(下線は担当が付与)

[請求項1]

洗浄可能な汚物を受け入れる衛生器具であって,

前記汚物を受け入れる少なくとも一つの受容器(12)と,

所定量の洗浄水を貯える貯水タンク(17)と,

前記貯水タンク(17)の内部と流体連通するポンプ(18)と,

ポンプ排出口(25)と前記受容器(12)とを連結する管(27)と,を有し,

前記ポンプ(18)を作動させて所定時間の間に所定量の洗浄水を前記受容器(12)に送出させ,あるいは前記ポンプ(18)を作動させて少なくとも一つの他の所定時間の間に少なくとも一つの他の所定量の洗浄水を前記受容器(12)に送出させ,それにより前記衛生器具が制御されて2つの異なる洗浄サイクルを使用できるようにポンプ(18)に選択的にかつ作動的に接続された自動制御手段(80)を備え,前記制御手段(80)は前記ポンプの最後の動作後一定の遅延時間前に前記ポンプ(18)が作動するのを防止する時間遅延手段を有している,ことを特徴とする洗浄可能な汚物を受け入れる衛生器具。

 

【「時間遅延手段」に関する審決の概要】(判決文P25より抜粋)

審決は,(1)甲1には,S9の封水給水時間が経過する前に使用者が操作部16のスイッチを操作した場合に,ポンプの作動が防止されることは記載されておらず,封水給水時間が経過する前に使用者がスイッチを操作した場合,洗浄サイクルがリセットされることも考えられること,したがって,(2)本件発明1と甲1発明とは,本件発明1では,自動制御手段が「ポンプの最後の動作後一定の遅延時間前に前記ポンプ(18)が作動するのを防止する時間遅延手段」を有しているのに対し,甲1発明では,このような時間遅延手段を有していない点において相違すること(相違点1),を認定した。

【相違点1に関する原告主張概要】(判決文P10,11より抜粋)

甲1の第1実施例(図3)によれば,仮に洗浄サイクルがリセットされたとしても,洗浄開始に戻りタイマが起動した(S1)後,ポンプ11の駆動(S5)の前にボウル部3への給水時間の経過(S3)を要し,時間遅延手段(S3,S5)が存在することになる。

タンク内には,ジェット給水に必要な洗浄水約2リットルが存在していなければならず,前回の駆動が終了する時点で,上記洗浄水がタンクに供給されていることが明らかであり,封水給水時間を経過するまでは,NOの判定がなされ,その間は,タンク10に洗浄水が供給され続け,次の段階には進まない。

【相違点1に関する被告主張概要】(判決文P17,18より抜粋)

甲1には,タンクの再充てんのために,一定時間ポンプの作動を防止するという技術思想は開示されていない。

甲1発明の「封水給水時間」(S9)は,ボウル部3の封水のためであり,タンク10への洗浄水供給のためではなく,途中でスイッチ操作があっても次の段階に進まないことや,スイッチ操作があってもポンプ作動が防止されることについては,記載も示唆もされていない。

ポンプ11の駆動(S5)の前にボウル部3への給水時間の経過(S3)を要するのであれば,封水給水時間経過(S9)前に洗浄起動入力があった場合において,リセットが行われたとしても何ら問題はなく,甲1発明において「前記ポンプの最後の動作後一定の遅延時間前に前記ポンプ(18)が作動するのを防止する時間遅延手段」が存在しないことは明らか。

 

【相違点1に関する裁判所の判断】(判決文P25-28より抜粋)

甲1には,S2ないしS4の経過時間においては,タイマ15dの起動によって,タイマ15dで設定した経過時間の間は,ボウル部用弁機構17の開状態が保たれており,その間にボウル部3とタンク10への洗浄水の供給が行なわれており,使用者が再度操作部16のスイッチを操作して洗浄を開始しようとしても,上記経過時間が経過しない時点では,洗浄開始信号は受け付けないという技術が開示されている。この点,甲1には,洗浄水の供給をタイマ15dで設定した時間が経過しない状態で終了させることは記載されていない上,仮にそのような状態で終了した場合には,溜水水位が隔壁2の下端より高くならず,上記サイホン状態を生じさせることができず,汚物・汚水の排水が行なわれなくなるから,上記経過時間が経過しない間に洗浄開始信号を受け付けるとの構成を採ることは,技術常識に反する。

また,同様に,ポンプが駆動停止した(S7)後,S8ないしS10の経過時間においても,タイマ15dで設定した経過時間の間は,ボウル部用弁機構17の開状態が保たれており,その間にボウル部3とタンク10への洗浄水の供給が行なわれており,使用者が再度操作部16のスイッチを操作して洗浄を開始しようとしても,上記経過時間が経過しない時点では,洗浄開始信号は受け付けられないものと解される。

甲1発明において,ポンプ11の駆動(S5)の前にボウル部3への給水時間の経過(S3)を要するとしても,これはS9の経過時間におけるタンク10への給水とS3の経過時間におけるタンク10への給水が相俟って,サイホン状態を起こさせるジェット給水に必要な洗浄水を確保するための構成であるから,封水給水時間経過(S9)前に洗浄起動入力があった場合にリセットがされると,上記洗浄水を確保することができず,洗浄機能を果たさない。

審決には,本件発明1の甲1発明との相違点1について認定の誤りがあり,同認定の誤りは,結論に影響を及ぼす違法があることとなる。

 

【所感】

審決では甲1に開示のない状況(封水給水時間が経過する前にスイッチ操作があった状況)及びその状況下における動作(リセット)を想定して結論を導いており、妥当性に欠き、裁判所の結論は妥当であると感じた。但し、裁判所の判断のうち、「経過時間が経過しない時点において洗浄開始信号を受け付けないという技術が開示されている。」との認定は行き過ぎと感じた。