プロジェクションナットの供給方法とその装置事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-審取(当事者係)
判決日 2015.6.24
事件番号 H26(行ケ)10230
担当部 知財高裁第3部
発明の名称 プロジェクションナットの供給方法とその装置
キーワード 証拠能力
事案の内容 無効審決が取り消された事案(新規性なし→新規性あり)。
被告(無効審判の請求人)が提出した証拠では、請求項に係る発明の公然実施を認定することはできないと判示された点がポイント。

事案の内容

【請求項2】

(図6)円形のボウル31に振動を与えてプロジェクションナット4を送出するパーツフィーダと(図1,図5)このパーツフィーダからのプロジェクションナット4をストッパ面28に当てて所定位置に停止させ、(図4)その後、供給ロッド6のガイドロッド25をプロジェクションナット4のねじ孔19内へ串刺し状に貫通させて(図2)プロジェクションナット4を目的箇所へ供給する形式のものにおいて、

正規寸法よりも大きいプロジェクションナット4を排除し正規寸法あるいはそれ以下のプロジェクションナット4を通過させる(図6)計測手段34をパーツフィーダの送出通路32に設置し、

ストッパ面28に位置決めされた正規寸法よりも小さいプロジェクションナット4を供給ロッド6の進出時にその先端部で弾き飛ばすガイドロッド25の外径は正規寸法のプロジェクションナット4のねじ孔19の内径よりもわずかに小さく設定されていると共に正規寸法よりも小さいプロジェクションナット4のねじ孔19の内径よりも大きく設定されている

ことを特徴とするプロジェクションナット4の供給装置。

 

審決における認定

ア 甲第1号証の1に係るナットフィーダの送給装置と検甲第1号証のナットフィーダの送給装置の同一性について

 

甲第1号証の1                  事実実験公正証書(平成25年第2号)の写し

広島法務局所属の公証人・内藤紘二が、嘱託人(本件無効審判事件の請求人)の嘱託に基づき、その現場に立ち会い目撃した事実を録取して、法定の方式に従って平成25年1月16日に作成した事実実験公正証書である。

本公証人は、(本体の)銘板に、「FEEDER」、「MODEL AF-VMU-H10-DR」、「SERIAL NO. 6582」、「MFD.NO. 93-6132」、「MFD.DATE 1993-11」及び「DENGENSHA MFG.CO.,LTD.」の文字・記号があることを確認した。

 

検甲第1号証                     電元社製作所平成5年製ナットフィーダ(「形式AF-VMU-H10」,「SERIAL No.6582」)の送給装置

(被告が電元社から平成5年に購入して、保管していた実物)

 

まず、全体的な構成については、検証により、「検甲第1号証のナットフィーダの送給装置は、エアシリンダーとガイドシリンダーが同軸で結合され、ガイドシリンダーの前端に茶色の永久磁石ホルダー及びヘッドが設けられている(写真2,写真3)」(検証調書3(3)(イ))ことが明らかとなったが、検証調書の写真2及び写真3は、甲第1号証の1の写真20に示される外観と整合する。

また、ノーズピンの形状につき、検証調書に、「ノーズピンの外径は、8.30mmであり(写真9)」と記載されているところ(検証調書3(3)(オ))、これは甲第1号証の1の「ガイドロッドの外径は8.30mm(写真24)」なる記載と整合する。

そして、検証においては、検甲第1号証の送給装置の構造及び作動状況は、甲第1号証の1に係るナットフィーダの送給装置と同様であり、特に異なる点は見出されなかった。

よって、甲第1号証の1に係るナットフィーダの送給装置と検甲第1号証のナットフィーダの送給装置が同一物であることは明らかである。

イ 甲第1号証の1に係るナットフィーダの送給装置と「平成5年製ナットフィーダ」の送給装置の同一性について

 

平成5年製ナットフィーダ              本件特許出願前の平成5年に製造され、平成5年12月に請求人に公然と譲渡された株式会社電元社製作所(電元社)製ナットフィーダ

 

上記アにより、甲第1号証の1に係るナットフィーダの送給装置と検甲第1号証のナットフィーダの送給装置が同一のものであることが明らかとなったので、次に、甲第1号証の1及び検甲第1号証に係るナットフィーダの送給装置(以下、単に「甲第1号証の1ナットフィーダ送給装置」という。)と「平成5年製ナットフィーダ」の送給装置との同一性につき検討する。

被請求人も概ね同様に主張しているとおり(第4の2(1)等)、「甲第1号証の1ナットフィーダ送給装置」と「平成5年製ナットフィーダ」の送給装置との同一性の判断においては、以下の各要件を検討する必要がある。

 

(i)ナットフィーダ送給装置はナットフィーダ本体と、送給チューブ等のチューブ類のみにより接続され容易に分離可能であるところ、「甲第1号証の1ナットフィーダ送給装置」は、平成5年製ナットフィーダのナットフィーダ本体とセットで譲渡されたものか否か。

 

(ii)「甲第1号証の1ナットフィーダ送給装置」のスピンドル(供給ロッド6)は交換可能なものであることは両者に争いがないところ(第1回口頭審理調書「当事者双方」欄4)、「甲第1号証の1ナットフィーダ送給装置」のスピンドルは、請求人譲受後、交換されたものか。

 

(iii)被請求人が主張するように(上記第4の2(1)イ)、「甲第1号証の1ナットフィーダ送給装置」のスピンドル(供給ロッド6)とその先端のガイドロッド(25)は螺合されている可能性があるところ、「甲第1号証の1ナットフィーダ送給装置」のガイドロッドは、請求人譲受後、交換されたものか。

 

(ア)要件(i)について

 

(ア-1)上記1(1)(1-39)にて示したように、甲第39号証の2(検甲第1号証の送給装置のチューブ接続管の刻印を撮影した写真)によれば、検甲第1号証(すなわち甲第1号証の1)の送給装置先端のヘッドより上方へ延びるチューブ接続管の前面片側に「132HM10」の刻印があることが視認できる。これにつき検討するに、上記1(1)(1-1)(ク)(ク-1)にて示した電元社製ナットフィーダの取扱説明書と照らし合せれば、そのうちの「H」は六角ナットを表し、「M10」はM10ナットを表すことは明らかである。また、「132」については、ナットフィーダ本体銘板に記された「MFD.NO.」すなわち製造番号である「6132」と、「6」は判別できないものの下三桁「132」と整合する。

 

そうすると、「甲第1号証の1ナットフィーダ送給装置」の主要な部分であるチューブ接続管に、M10用ナットフィーダ本体の銘板の製造番号「6132」と下三桁が整合する番号が刻印され、M10ナット用である点も整合する記号「M10」が刻印されていることに鑑みれば、「甲第1号証の1ナットフィーダ送給装置」は、平成5年製ナットフィーダのナットフィーダ本体とセットで譲渡されたそのものである蓋然性が極めて高いということになる。

 

もっとも、上記甲第39号証の2は、検証実施後撮影されたもので、検証においてはそのような刻印が存在することは当審も認識し得なかった。しかしながら、(検証前に撮影された)請求書と同時に提出された甲第1号証の1添付の写真21(上記1(1)(1-1)(エ))には、甲第39号証の2の刻印と同じ字体の「13」を読み取ることができ、上記刻印は、検証前から存在していたものと推認できる。

 

(ア-2)検証の結果、エアシリンダーにはラベルが一部が欠けた状態で残っており、そのラベルには「KD//CYLINDER」等の表示があり、そのうち「KD」は二重書きデザインの角張った書体であることが明らかになった(上記検証調書3(3)(ケ)b))。一方、甲第8号証ないし甲第11号証(上記1(1)(1-8)ないし(1-11))について指摘した事項を併せ考えれば、CKD株式会社のロゴは、平成7年10月までは、二重書きデザインの角張った書体であったものと認められる。そうすると、「甲第1号証の1ナットフィーダ送給装置」は、平成7年10月以前に製造されたものと推認される。

(ア-3)さらに、「三浦本人」の当事者尋問に、平成5年製ナットフィーダ送給装置を入れ替えていないことと矛盾するような陳述はみられなかった。

 

上記(ア-1)ないし(ア-3)を総合すると、「甲第1号証の1ナットフィーダ送給装置」は、平成5年製ナットフィーダのナットフィーダ本体とセットで譲渡されたそのものであると推認することができる。

 

(イ)要件(ii)について

 

(イ-1)上記1(1)(1-35)にて示したように、呉工業高等専門学校機械工学分野教授・西坂強は、「スピンドルを固定しているロックナットは締付方向の傷痕のみで、取り外す方向の傷痕は発生していないと判断できる」との所見を示している(甲第35号証)。したがって上記所見によれば、「甲第1号証の1ナットフィーダ送給装置」のスピンドルは、請求人譲受後、交換されていないものである蓋然性が高い。

 

これに関し、被請求人はスピンドル交換の際に新品のロックナットを取り付けた可能性を指摘する(上記第4の2(1)ケ)。しかし、機械部品の交換は消耗品のみ行うのが通常であって、消耗品であるスピンドルと共に消耗品でないロックナットまでも交換する可能性は低いと言わざるを得ず、被請求人の反論を採用する理由がない。

(イ-2)また、上記1(1)(1-27)ないし(1-29)にて指摘した甲第27号証ないし甲第28号証の内容等をまとめると、請求人のプレス加工事業については、時系列的に以下の事実を認めることができる。

(a)遅くとも昭和44年以降、請求人はプレス加工を業として行っていた(甲第27号証)。

(b)平成5年末に、請求人は電元社より平成5年製ナットフィーダを購入した。

(c)平成11年1月に、請求人はプレス事業を売却した(甲第28号証、甲第29号証)。

 

そして、請求人がプレス加工事業以外にナットフィーダを使用する事情が見当たらないこと、「三浦本人」の陳述書(甲第12号証)及び反対尋問を含む当事者尋問での「三浦本人」の陳述の内容を併せ考えれば、請求人は平成5年末に平成5年製ナットフィーダを購入した後、約5年間のみ該平成5年製ナットフィーダを使用していたものと考えることができる。

 

ここで、「甲第1号証の1ナットフィーダ送給装置」のスピンドルは、検証の結果、スピンドル本体先端付近にはその裏側面に平面状の擦過痕が存在することが明らかになったところ(上記検証調書(3)(コ))、その写真19にて撮影された擦過痕は、「甲第1号証の1ナットフィーダ送給装置」のスピンドルが少なくとも数年間使用されたことを推認させるものである。これを上記で指摘した請求人が平成5年製ナットフィーダを購入後約5年間のみ使用していたことと照らし合せれば、「甲第1号証の1ナットフィーダ送給装置」のスピンドルは、電元社からの購入後、交換されたとは考え難い。

(イ-3)さらに、「三浦本人」の当事者尋問に、スピンドルを交換していないことと矛盾するような陳述はみられなかった。

 

上記(イ-1)ないし(イ-3)を総合すると、「甲第1号証の1ナットフィーダ送給装置」のスピンドルは、請求人譲受後交換されていないものと推認することができ、平成5年製ナットフィーダのスピンドルと「甲第1号証の1ナットフィーダ送給装置」のスピンドルの同一性は肯定される。

 

(ウ)要件(iii)について

 

(ウ-1)検証の結果、スピンドル本体先端付近には、その裏側面に平面状の擦過痕があり、スピンドル先端のノーズピン(すなわちガイドロッド)にも裏側面に擦過痕が三角状に存在していることが明らかになったところ(上記検証調書3(3)(コ))、その写真19にて撮影されたガイドロッドの三角状の擦過痕は、ガイドロッドの螺合元たるスピンドルの平面状の擦過痕と、痕の性状及び方向並びに周方向の位置が類似している。そうすると、スピンドルとガイドロッドの擦過痕は、同じ使用期間の間に生じたものと考えるのが合理的であり、「甲第1号証の1ナットフィーダ送給装置」のガイドロッドは、請求人譲受後、交換されていない蓋然性が高い。

 

(ウ-2)また、上記平成5年製ナットフィーダの取扱説明書である甲第1号証の1添付の資料1には、スピンドルが消耗品であり予備品を容易することが推奨されているものの(上記1(1)(1-1)(ク)(ク-3))、それと螺合されるガイドロッドに関する記載はないことからすれば、ガイドロッドはスピンドルと一体に扱われるものであり、ガイドロッドのみをスピンドルとは別に交換することが通常であるとは考えにくい。

(ウ-3)さらに、「三浦本人」の当事者尋問に、ガイドロッドを交換していないことと矛盾するような陳述はみられなかった。

 

上記(ウ-1)ないし(ウ-3)を総合すると、「甲第1号証の1ナットフィーダ送給装置」のガイドロッドは、請求人譲受後交換されていないものと推認することができ、平成5年製ナットフィーダのガイドロッドと「甲第1号証の1ナットフィーダ送給装置」のガイドロッドの同一性は肯定される。

 

ウ 小活

よって、「甲第1号証の1ナットフィーダ送給装置」と「平成5年製ナットフィーダ」の送給装置とは同じものであると推認され、両者の同一性は肯定される。

裁判所の判断

1 審決は,本件発明が,出願当時公然実施されていた発明と同一である(あるいは,公然実施されていた発明から容易に想到することができる)として本件特許を無効とした。

そして,取消事由1において問題となっているのは,審決の上記判断の前提となった,「本件ナットフィーダと出願当時の公然実施品である平成5年製ナットフィーダは同一であるから,本件ナットフィーダ(本件ナットフィーダ送給装置も含む。)は,本件特許出願当時の公然実施品であったと認められる。」との判断が正しいかどうかであり,特に,両者のスピンドルとノーズピンが同一であって,スピンドルの先端に取り付けられたノーズピンが,ナットを貫通する長さを有する構成になっているとの判断が正しいかどうかが問題となる。

ところで,本件特許に新規性ないし進歩性欠如の無効事由が存することは,本件特許が無効であると主張する側が立証すべき事柄であるから,その前提となる「本件ナットフィーダと平成5年製ナットフィーダが同一であること。」についても,本件特許が無効であると主張する側が立証責任を負うべきである。

したがって,この点の立証が尽くされたと判断される場合に初めて,特許無効の判断をすることができる筋合いとなるが,この点を検討するのに当たっては,次の点を考慮する必要があると思われる。

まず,平成5年製ナットフィーダについては,その構造や構成を直接認定する根拠となるような図面等の証拠は存在しない(取扱説明書(甲1の1添付の資料1)は,被告も自認するとおり,平成5年製ナットフィーダ用として個別に作成されたものではなく,電元社製のあらゆる種類のナットフィーダ共通のものとして作成されたものであるから,これを直接の根拠として,平成5年製ナットフィーダの構造や構成を認定することはできない。)。

そのため,間接事実に基づいて,現存する本件ナットフィーダと平成5年製ナットフィーダが同一かどうかを判断しなければならないことになる。

しかし,この同一性の認定に当たっては,次のような問題点が存することを考慮する必要がある。

 

第1に,本件ナットフィーダは,ナットフィーダ送給装置(本件ナットフィーダ送給装置)のスピンドル先端に付けられたノーズピン(ガイドロッド25,図4,図5)が,ナットを「串刺し」にして貫通する長さを有する構成(以下「串刺し方式」という。)になっている(甲1の1,47)。

これに対し,平成5年製ナットフィーダを製作したのは電元社であるところ,電元社は,もともと,電元社発明(昭和51年出願。特公昭56-10134号。甲40)の実施品としてナットフィーダの製造を始めた可能性がある。

そして,電元社発明は,串刺し方式の場合の,ナットが串刺しロッドを回転しながらすべり落ちるために生じる降下速度のばらつきの問題を解消すべく,ナットをロッドで串刺しにして保持する代わりに,磁石で吸着して保持することを特徴としていた(これを「磁石吸着方式」という。)のであるから,電元社がもともと製造していたナットフィーダも,串刺し方式ではなく,磁石吸着方式を採用していた可能性があることは否定できない(当初は,磁石吸着方式を採用していたとまで認定することはできないが,電元社の当初の製品がどのような構造や構成を持つものであったかを認めるに足りる証拠はない以上,その可能性を排除することはできないという趣旨である。)。

このように,本件ナットフィーダと電元社がもともと製造していたナットフィーダとは,異なる構成であった可能性を否定することができないのであって,このことは本件ナットフィーダと平成5年製ナットフィーダも異なる構成であった一般的可能性を否定することができないことを意味する(平成5年以前に構成を変更した可能性もあるが,変更時期や変更内容を認定するに足りる的確な証拠はない。)。

 

第2に,平成5年製ナットフィーダは,平成5年12月に購入され,平成10年末まで使用された後は,使用されないまま被告社内において保管されていたものであるが,その間に,その部品の一部であり,使用時には存在していたヒンジカバー,キックバネ及びチューブがなくなるなどしていたことが認められる(甲1の1,甲48。なお,この点については,後記の2(2)ウも参照。)。

このように,平成5年製ナットフィーダは,その使用が停止されてから,平成25年1月にその形状等の確認が行われる(甲1の1)まで,約15年間も使用されないまま放置されていた上(その間,使用価値のなくなった機械が厳重に管理されていたとは到底考えられない。),その部品の一部が実際に紛失するなどしてしまっているのであるから,平成5年製ナットフィーダが,その同一性を完全に保持したまま保管されていた(したがって,本件ナットフィーダと完全に同一である)と認定することができないことは明らかである。

そうであるとすると,他の部品も,失われるなどした一般的可能性があることは否定できない。

したがって,平成5年製ナットフィーダと本件ナットフィーダが同一かどうかを判断するのに当たっては,以上のような事情を考慮してもなお同一といえるだけの証拠や根拠があるかという観点からの検討が必要であると考えられるところ,次項において説示するとおり,本件審決には,少なくとも,スピンドル交換の可能性はない(したがって,平成5年製ナットフィーダと本件ナットフィーダのスピンドルは同一である)と判断した点において,誤りがあったと考えざるを得ない。

2 スピンドルの交換の有無に関する審決の認定判断について

(1) 審決は,

①A教授が「スピンドル(供給ロッド6)を固定しているロックナットは締付方向の傷痕のみで,取り外す方向の傷痕は発生していないと判断できる」との所見を示しており(甲35),機械部品の交換は消耗品のみ行うのが通常であって,消耗品であるスピンドルと共に消耗品でないロックナットまでも交換する可能性は低いこと,

②被告が,遅くとも昭和44年以降,プレス加工を業として行っており(甲27),平成5年末に,電元社から平成5年製ナットフィーダを購入したが,平成11年1月に,プレス加工事業を売却したという経緯に加え,被告がプレス加工事業以外にナットフィーダを使用する事情が見当たらないことや,Bの陳述内容を併せ考えると,被告は平成5年末に平成5年製ナットフィーダを購入した後,約5年間のみ平成5年製ナットフィーダを使用していたものと考えることができるところ,本件ナットフィーダ送給装置のスピンドルの本体先端付近の裏側面に平面状の擦過痕が存在しており,その擦過痕の状況からして,上記スピンドルは少なくとも数年間使用されたことが推認されることからすれば,本件ナットフィーダ送給装置のスピンドルは,電元社からの購入後,その使用停止まで継続して使用されていたもので,交換されたとは考え難いこと,

③Bの当事者尋問に,スピンドルを交換していないことと矛盾するような陳述はみられなかったことを根拠として,本件ナットフィーダ送給装置のスピンドルは,被告が譲り受けた後には交換されていないものと推認することができるとして,平成5年製ナットフィーダのスピンドルと本件ナットフィーダ送給装置のスピンドルの同一性を肯定している。

 

(2)ア しかし,①については,A教授の前記(1)の見解を前提としても,本件ナットフィーダ送給装置のスピンドルを固定するロックナットについて,一度締め付けられた後取り外されたことがないことが示されるにすぎないのであって,スピンドルがロックナットと共に交換されていれば,審決の判断が成り立たなくなることは明らかである。

また,審決の述べるように,機械部品の交換は消耗品のみ行うのが通常であって,消耗品であるスピンドルと共に消耗品でないロックナットまでも交換する可能性は低いといえるとしても,それはあくまでも,通常の業務が行われている中では交換の可能性が低いというにとどまり,そのことから直ちに,上記ロックナットが交換されてはいないと断定することは困難である。

まして,前記1において指摘した諸事情,すなわち,機械の長期間の放置やその間における一部部品の紛失,平成5年製ナットフィーダと本件ナットフィーダとでは,スピンドル(及びノーズピン)の構成に違いがある可能性を否定できないことなどといった事情を考慮してもなお,スピンドルの同一性を肯定する根拠となし得るものではない。

したがって,①の事実をもって直ちに,平成5年に被告が電元社から購入した平成5年製ナットフィーダの送給装置のスピンドルと,本件ナットフィーダ送給装置のスピンドルとが同一であることの根拠とすることはできない。

 

イ ②についても,本件ナットフィーダ送給装置のスピンドルの本体先端付近の裏側面に平面状の擦過痕が存在していることからは,当該スピンドルがナットフィーダにおいて繰り返し使用されたことが認定できるにとどまり,上記スピンドルが少なくとも数年間使用されたことが推認されるとまではいい難い。

まして,上記の事実は,上記スピンドルが,どのナットフィーダに取り付けられて使用されていたのかについては,何ら示唆を与えるわけではない。

そして,被告が平成5年末に平成5年製ナットフィーダを購入した後,約5年間のみ平成5年製ナットフィーダを使用していたとの事実を前提としても,それは,せいぜい,上記スピンドルの使用期間と,平成5年製ナットフィーダの使用期間とが一致する可能性がある(あるいは,使用期間に矛盾は生じない)ということを意味するだけで,そのことから直ちに,本件ナットフィーダ送給装置のスピンドルが購入当初から本件ナットフィーダ送給装置に取り付けられていたことが裏付けられるものでもない。

このことに,前記1で指摘した諸点を併せ考えると,②の事実をもって直ちに,平成5年に被告が電元社から購入した平成5年製ナットフィーダの送給装置のスピンドルと,本件ナットフィーダ送給装置のスピンドルとが同一であることの根拠とすることはできないというべきである。

 

ウ ③についても,Bは,購入以後,本件ナットフィーダ送給装置のスピンドルを交換したことはない旨陳述ないし供述する(甲12,48)ものの,本件ナットフィーダのメンテナンスの記録等,上記陳述ないし供述を裏付ける客観的証拠の提出はなく,上記陳述ないし供述のみをもって直ちに,平成5年に被告が電元社から購入した平成5年製ナットフィーダの送給装置のスピンドルと,本件ナットフィーダ送給装置のスピンドルとが同一であることを認定することはできない。

さらに,審判におけるBの供述(甲48)によれば,本件ナットフィーダは,使用しなくなった後は,工場の中二階にビニールの袋をかぶせて保管していた(甲48・046)というのであるが,本件ナットフィーダの本体と送給装置の保管方法について判然としない部分もあること(甲48・051ないし053),使用時には存在していたヒンジカバー,キックバネ及びチューブがなくなっていたりし(甲1の1,甲48・058,094,162),その理由について,Bの認識(甲48・126)と被告C取締役の認識(甲1の1・6頁)に食い違いが見られること,使用当時は動いていたシリンダーが破損していること(甲48・062,063)などに照らすと,本件ナットフィーダの保管状況には判然としない部分があるというほかなく,このことも,Bの供述,ひいては本件ナットフィーダの送給装置と平成5年に被告が電元社から購入した平成5年製ナットフィーダの送給装置との同一性について疑問を生じさせる事情であるということができる。

したがって,③のBの陳述ないし供述をもって直ちに,平成5年に被告が電元社から購入した平成5年製ナットフィーダの送給装置のスピンドルと,本件ナットフィーダ送給装置のスピンドルとが同一であることの根拠とすることはできない。

 

エ そうすると,審決の挙げた前記①ないし③の事情から,平成5年に被告が電元社から購入した平成5年製ナットフィーダの送給装置のスピンドルと,本件ナットフィーダ送給装置のスピンドルとが同一であることを認定することはできない。

 

オ なお,審決は,

①本件ナットフィーダの送給装置のチューブ接続管に,M10用ナットフィーダ本体の銘板の製造番号「6132」と下三桁が整合する番号が刻印され,M10ナット用である点も整合する記号「M10」が刻印されていることからすると,本件ナットフィーダの送給装置は,ナットフィーダ本体とセットで譲渡されたと考えられること,

②本件ナットフィーダ送給装置のエアシリンダーにはラベルが一部欠けた状態で残っており,そのラベルには「KD//CYLINDER」等の表示があり,そのうち「KD」は二重書きデザインの角張った書体で書かれているところ,エアシリンダーの製造会社であるCKD株式会社のロゴは,平成7年10月までは,二重書きデザインの角張った書体であったから,本件ナットフィーダ送給装置も平成7年10月以前に製造されたものと推認できることなどをも同一性肯定の根拠としている。

しかし,スピンドルは,本件ナットフィーダ送給装置のチューブ接続管やエアシリンダーとは別に交換することができる以上,上記①,②の点は,スピンドルが(ノーズピンとともに)交換された可能性を否定できないという上記の認定判断を何ら左右するものではない。

(3) なお,電元社の機械技術部長は,弁護士法23条の2に基づく照会において,本件ナットフィーダ送給装置のスピンドルの写真を付して,銘板に「MODEL AF-VMU-H10-DR」,「SERIAL NO. 6582」,「MFD.NO. 93-6132」及び「MFD.DATE 1993-11」の記載があるナットフィーダ(すなわち,本件ナットフィーダ)のスピンドルについて,上記写真のとおりかどうか照会され,①上記写真が上記銘板を正当に付した電元社の製品のスピンドル部分を撮影したものであれば上記写真のとおりであり,②電元社の製品は,スピンドルの長さは,M10ナットを使用した場合,M10ナットを貫通し反対側に突き抜けるほどの長さを備えている旨回答している(甲37・照会事項2(4))。

しかし,上記①の回答は,上記写真が上記銘板の付された製品のスピンドルを撮影したものであれば,上記銘板の付された製品のスピンドルは上記写真のとおりであると述べているにすぎないとも解されるのであって,そもそも,上記写真において撮影されたスピンドルが平成5年製ナットフィーダの送給装置のスピンドルと同一かどうかを述べているものかどうかが判然としない。

仮に,上記写真において撮影されたスピンドルが平成5年製ナットフィーダの送給装置のスピンドルと同一である旨を述べているとしても,どのような根拠に基づいて,上記写真に撮影されたスピンドルと平成5年製ナットフィーダの送給装置のスピンドルとの同一性を判断しているのかも明らかではない。

また,上記②の回答についても,平成5年製ナットフィーダを含む趣旨の回答であるのかどうかは,その回答のみから判然としないし,仮に含むものであるとしても,どのような根拠に基づくものかは明らかではない。

そうすると,上記甲第37号証の記載をもって,平成5年に被告が電元社から購入した平成5年製ナットフィーダの送給装置のスピンドルと,本件ナットフィーダ送給装置のスピンドルとが同一であることを裏付けるものとすることはできない。

(4) そして,他に平成5年に被告が電元社から購入した平成5年製ナットフィーダの送給装置のスピンドルと,本件ナットフィーダ送給装置のスピンドルとが同一であることを認めるに足りる証拠はない。

なお,被告は,仮に,ノーズピンを備えたスピンドルを譲渡時と異なるものに交換したり,そのスピンドルをエアシリンダーと共に譲渡時と異なるものに交換したりすると,チューブ接続管の下端部(ガイドシリンダの先端部)に位置決めされるナットとスピンドルの芯がずれ,その結果,作動不良を生ずる懸念が出てくるから,そのようなスピンドルないしエアシリンダーの交換はできるだけ避けるのが通常であるとか,スピンドルをノーズピンと共に180度反転させて,摩耗を生じていない面を出すと,作動不良が解消されるのであるから,スピンドルないしノーズピンを交換する必要はないなどと主張する(前記第4の1(2)ア)。

しかし,スピンドルを交換すること自体は可能である以上,上記各主張は前記(2)及び(3)の認定を左右するものとはいえない。

 

【所感】

判決は妥当であると考えられる。

無効審判や異議申立で、文献以外の証拠を取り扱う可能性があるので、証拠能力について研究が必要であると感じた。