ピストン式圧縮機における冷媒吸入構造事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-侵害系
判決日 2017.04.21
事件番号 H26(ワ)34678
担当部 東京地裁民事第40部
発明の名称 ピストン式圧縮機における冷媒吸入構造
キーワード 訂正の再抗弁、進歩性
事案の内容 特許権侵害が認められた事案。
進歩性の無効理由による無効の抗弁が、訂正の再抗弁によって回避された点がポイント。

事案の内容

【請求項1】(下線部は訂正箇所)
A  シリンダブロックにおける回転軸の周囲に配列された複数のシリンダボア内にピストンを収容し、前記回転軸の回転にカム体を介して前記ピストンを連動させ、前記回転軸と一体化されていると共に、前記ピストンによって前記シリンダボア内に区画される圧縮室に冷媒を導入するための導入通路を有するロータリバルブを備えたピストン式圧縮機において、
B  前記シリンダボアに連通し、かつ前記ロータリバルブの回転に伴って前記導入通路と間欠的に連通する吸入通路と、
C  吐出行程にある前記シリンダボア内の前記ピストンに対する圧縮反力を前記ロータリバルブに伝達して、吐出行程にある前記シリンダボアに連通する前記吸入通路の入口に向けて前記ロータリバルブを付勢する圧縮反力伝達手段とを有し、
D  前記シリンダブロックは、前記ロータリバルブを回転可能に収容する軸孔を有し、
E  前記導入通路の出口は、前記ロータリバルブの外周面上にあり、前記吸入通路の入口は、前記ロータリバルブの外周面は,前記導入通路の出口を除いて円筒形状とされ<相違点1-1’>,前記軸孔の内周面上にあり、前記軸孔の内周面に前記ロータリバルブの外周面が直接支持されることによって前記ロータリバルブを介して前記回転軸を支持するラジアル軸受手段となっており、前記ラジアル軸受手段は、前記カム体から前記ロータリバルブ側における前記回転軸の部分に関する唯一のラジアル軸受手段であり、
F  前記ピストンは両頭ピストンであり、前記両頭ピストンを収容する前後一対のシリンダボアに対応する一対のロータリバルブが前記回転軸と一体的に回転し、前記ロータリバルブの各導入通路は前記回転軸内に形成された通路を介して連通し,前記カム体は、前後一対のスラスト軸受手段によって挟まれて前記回転軸の軸線の方向の位置を規制されており、前記一対のスラスト軸受手段の少なくとも一方は前記圧縮反力伝達手段の一部をなし、該圧縮反力伝達手段の一部をなすスラスト軸受手段は、前記シリンダブロックの端面に形成された環状の突条と前記カム体の端面に形成された環状の突条とに当接し、前記カム体の突条の径を前記シリンダブロックの突条の径よりも大きくした
G  ピストン式圧縮機における冷媒吸入構造。
 
進歩性
 相違点に係る構成の容易想到性
 以上を前提に,相違点1-1’に係る構成の容易想到性について検討する。
 乙19発明と乙4発明とは,ピストン型斜板式圧縮機という同一の技術分野に属している。
 そして,乙19公報には「例えば特開平5-126039号公報〔判決注:乙4公報〕に開示されているように,回転軸16のラジアルベアリングと対応する部分にロータリバルブを配設した圧縮機において,そのロータリバルブ上に反力付与構造39を配設すること。」(段落【0049】)と記載されているのであって,乙19公報に記載された実施例に乙4公報に記載された実施例を組み合わせることにつき,教示が存在する。
 したがって,当業者であれば,乙19発明において,乙19発明の「吸入弁機構35」に代えて,乙4発明の「回転弁22」を「回転軸16」の「ラジアルベアリング17,18」の部分に設けることは,容易に想到し得るものというべきである。
 (イ) しかるに,乙19発明に「回転弁22」を採用した場合であっても,同発明にいう「反力付与構造39」の機能は当然に保持されることになる。
 すなわち,乙19発明は,滑り軸受を使用しても回転軸の円滑な回転に支障が生じないようにするために反力付与手段を設けたものであり(乙19公報の段落【0013】),反力付与手段としての「反力付与構造39」(段落【0031】)を備えることが必須の発明である。
 そして,乙19発明は,この「反力付与構造39」の一つとして,回転軸16の軸支部38の外面に「凹部40」を備えているのであるから,「凹部40」は,乙19発明にとって必須の構成要件ということになる。
 そうすると,乙19発明において,「前記ロータリバルブの外周面は,前記導入通路の出口を除いて円筒形状とし」との構成を採用し,もって「凹部40」を無くしてしまうことについては,阻害要因が存在するというべきである。
 
【所感】
 判決は妥当であると考える。
 進歩性の無効理由を、正確な技術の理解に基づく訂正によって回避しており、原告の対応が上手かったと感じた。
 なお、乙19公報および乙4公報共に、原告の公開公報であり、乙19公報に「例えば特開平5-126039号公報〔判決注:乙4公報〕に開示されているように,・・・」と記し、組み合わせの動機付けを明示したため、訂正を余儀なくされている。
 このような余計なことは書くべきではないと感じた。