センサ付き省エネルギーランプ事件

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判決日 2013.12.19
事件番号 H23(ワ)30214
担当部 東京地裁民事第47部
発明の名称 センサ付き省エネルギーランプ
キーワード 構成要件充足性
事案の内容  差止請求権等の不存在確認請求訴訟において、請求が認められ、特許権者(=被告)が敗訴した事案。
 審査時の意見書の内容から、用語の意義を解釈した点がポイント。

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<請求項1の分説>

黄色が充足、水色が非充足を示す。下線は、審査過程における補正箇所を示す。

 

A 複数のランプ30と,一側に前記ランプ30が固定され,他側にネジ部11が形成されたソケットボディ10とから構成されたランプにおいて,

B 前記ソケットボディ10に備えられ,周囲の照度を感知する照度センサ12と;

C 前記ランプ30の点灯時間を調節するタイマー13と;

D 前記ランプ30の一側に備えられ,人間の動きを感知する赤外線センサ31と;

E 前記ソケットボディ10に内装され,前記照度センサ12と,タイマー13と,赤外線センサ31の出力信号に基づき,前記ランプ30の点灯を制御する点灯制御回路40と;

前記赤外線センサ31が端部に設けられるセンサ支持台32は,

F1 前記複数のランプ30の間に介在され,

F2 前記複数のランプ30の上下方向に沿って延設され,

F3 前記複数のランプ30の高さよりも高くかつ近い位置となるように所定の長さで形成されてなることを特徴とする

G 自動制御省エネルギーランプ。

<原告製品>

ソケットボディ(1),ベース部(2),キャップ(3),ランプカバー(4)の4つの部分からなっている。

 

ソケットボディ(1)

下部にソケットネジ部(11)があり,円筒形の胴部(12)の中に電気回路(14)が収容されている。

電気回路(14)は,接続電線(13)でLED(23)の電線接続部(24)につながっている。

電気回路(14)は,回路支持板(15)に取り付けられる。

回路支持板(15)の先端には,人感センサ(16)と照度センサ(17)が設けられている。

 

ベース部(2)

周囲の外面が放熱部(21)となっており,上部のLED取付部(22)にLED(23)が取り付けられ,電線接続部(24)からの送電によって発光するようになっている。

<構成要件F3の充足性について>

F3(前記赤外線センサ31が端部に設けられるセンサ支持台32は)前記複数のランプ30の高さよりも高くかつ近い位置となるように所定の長さで形成されてなる

 

①本件明細書には,「赤外線センサ31は,…左右の感知範囲が最大化される長さで突出している。」と記載されていること(段落【0016】),②構成要件F3は,構成要件F1及び2と共に,補正で加えられた構成であり,被告が提出した意見書には,上記構成により,「赤外線センサ31が感知範囲を最大化される位置に配され,自動制御省エネルギーランプ全体がコンパクトに構成されるという本願発明が奏する効果及び作用がさらに明確なものとなりました。」との記載があることが認められる。

これらを総合すれば,構成要件F3の「前記複数のランプ30の高さよりも高くかつ近い位置となるように所定の長さで形成されてなる」とは,複数のランプの上端よりは高いが,赤外線センサの感知範囲が最大化されて全体がコンパクトに構成されるような所定の長さの限度で形成されることを意味するものと解される。

原告製品の回路支持板15は,複数のLED23の上端より高く,LED23は構成要件F3の「ランプ30」に当たるから,「前記赤外線センサ31が端部に設けられるセンサ支持台32」が,構成要件F3の「前記複数のランプ30の高さよりも高」いものに当たるが,キャップ3の上端より低くなるように所定の長さで形成されるだけで,赤外線センサの感知範囲が最大化されて全体がコンパクトに構成されるような所定の長さの限度で形成されたものではないから,構成要件F3の「近い位置となるように所定の長さで形成されてなる」ものに当たらない。

<構成要件Bの充足性について>

B 前記ソケットボディ10に備えられ,周囲の照度を感知する照度センサ12と;

 

原告製品の照度センサ17は,回路支持板15の先端に設けられていて,構成要件Bの「ソケットボディ10に備えられ」ていない。

<原告製品>

CPUは,人感センサ(16)と照度センサ(17)からの情報に従って,電源をON/OFFする。

すなわち,人感センサ(16)が人間の存在を感知し,照度センサ(17)が所定の暗度を感知したときに電源回路に電流が流れ,LED(23)が点灯する。

LEDが点灯しているときに,人感センサ(16)が人間の存在を感知しなくなったときは,約5分後に電源回路がOFFになるようになっている。

 

<構成要件Cの充足性について>

C 前記ランプ30の点灯時間を調節するタイマー13と;

 

a 「タイマー13」について

タイマーとは,「①ストップウォッチの別称。②タイムスイッチの別称。」を,タイムスイッチとは「一定の時間がたつと,自動的にスイッチが働いて,電流を流したり切ったりする装置。」をそれぞれ意味する(広辞苑(第6版))。

本件図面には,斜視図と分解斜視図に,「タイマー13」として,ダイヤル目盛りが付されたつまみが記載され(【図1】【図2】【図3】),本件発明によるランプ装置の電気的構成を示すブロック構成図に,「タイマー13」と「マイクロプロセッサ41」が別に記載されていること(【図5】)が認められる。

これらを総合すれば,構成要件Cの「タイマー13」は,一定の時間がたつと,自動的にスイッチが働いて電流を切る装置を意味するものと解される。

原告製品の回路支持板15に設けられたマイクロコントローラ内に入力されたプログラムは,装置でないから,構成要件Cの「タイマー13」に当たらない。

 

b 「点灯時間を調節する」について

調節とは,物事の具合が良いように整えることを意味することが認められる。

また,本件明細書に,従来技術では設定された時間だけ点灯していたが,本件発明により,周囲に合わせて適当に設定された所定の時間だけ点灯されるようになった旨が記載されていること(段落【0006】【0020】)が認められる。

これらに前記aで認定した本件図面中の「タイマー13」の記載を併せ考慮すれば,構成要件Cの「点灯時間を調節する」とは,使用者が点灯時間を具合が良いように整えることを意味するものと解される。

原告製品は,回路支持板15に設けられたマイクロコントローラ内に入力されたプログラムが,LED23の点灯時間を照度センサ17が所定の暗度を感知して人感センサ16が人間の存在を感知した時から人感センサ16が人間の存在を感知しなくなって約5分が経過した時までとしているのであって,使用者が点灯時間を具合が良いように整えることができないから,構成要件Cの「点灯時間を調節する」に当たらない。

 

<構成要件Eの充足性について>

E 前記ソケットボディ10に内装され,前記照度センサ12と,タイマー13と,赤外線センサ31の出力信号に基づき,前記ランプ30の点灯を制御する点灯制御回路40と;

 

原告製品の電気回路14は,マイクロコントローラに設定された点灯時間値に基づいてもLED23の点灯を制御するところ,マイクロコントローラに設定された点灯時間値は,構成要件Eの「タイマー13…の出力信号」に当たらない。

 

均等の成否について

<「当該部分が特許発明の本質的部分ではない」の要件について>

特許発明の本質的部分とは,特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうち,公開された明細書や出願関係書類の記載から把握される当該特許発明特有の課題解決手段を基礎付ける特徴的部分をいうと解するのが相当である。

本件発明は,照度センサと点灯時間を調節するタイマーと赤外線センサとが光源としてのランプに一体に備えられるとともに,赤外線センサの感知範囲が最大化されて全体がコンパクトに構成された自動制御省エネルギーランプを提供するという従来技術では達成し得なかった技術的課題を解決するために,構成要件B,C,F1,F2,F3を含むものであり,これが本件発明特有の課題解決手段を基礎付ける特徴的部分であると認められる。

そうすると,本件発明と原告製品との間において構成の異なる部分のうち,

構成要件B:照度センサ12がソケットボディ10に備えられる,

構成要件C:点灯時間を調節するタイマー13を有する,

構成要件E:タイマー13の出力信号に基づいて点灯を制御する

構成要件F3:センサ支持台32が近い位置となるように形成される,

は、いずれも本件発明の本質的部分であるというべきである。

 

<「当該部分を上記製品におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏する」の要件について>

前記の点をおくとしても,本件明細書には,本件発明が,点灯時間を調節するタイマー13の構成を有することにより,使用者が周囲に合わせて点灯時間を適当に設定して,無駄なエネルギー消費が防止され,電気エネルギーが節約されるなどの作用効果を有する旨記載されていること(段落【0001】【0006】【0020】【0022】)が認められる。

 

構成要件Cの構成を「点灯時間を照度センサが所定の暗度を感知して人感センサが人間の存在を感知した時から人感センサが人間の存在を感知しなくなって約5分が経過した時までとする,回路支持板に設けられたマイクロコントローラに入力されたプログラム」に置き換えると,使用者が点灯時間を適当に設定することができないから,本件発明の目的を達することができず,同一の作用効果を奏しない。

 

被告は,パソコンで点灯時間を変更するプログラムを作成して,パソコンと原告製品のマイクロコントローラをケーブルで接続し,このプログラムをダウンロードすることにより,点灯時間を調節することができるから,構成要件Cの「タイマー13」という構成を回路支持板15に設けられたマイクロコントローラ内に入力されたプログラムという構成に置き換えても,本件発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏すると主張する。

 

しかしながら,上記プログラムにおいて点灯時間を調節するには,その都度,プログラムを別途作成する必要があるから,タイマーの操作と比較して,その容易さに大きな違いがあるのであって,同一の作用効果を奏するということはできない。

 

【所感】

結論は妥当であると考えられる。

構成要件F3に関して、特許公報からだけでは解釈できないような記載になっており、本来であれば拒絶・無効にされるべきものであると考えられる。

このような事情から、意見書での主張を参酌して構成要件F3を非充足とする判断は、論理的ではないが妥当なところだと考えられる。

 

なお、裁判所によるいくつかの検討は、結論ありきで雑な感じは否めない。

構成要件Bについて、『照度センサ17は,回路支持板15の先端に設けられていて,構成要件Bの「ソケットボディ10に備えられ」ていない』と判断しているが、回路支持板15はソケットボディの一部なのだから、「照度センサ17はソケットボディ1に備えられている」と考えれば、構成要件Bは充足している可能性がある。

 

構成要件Cについて、原告製品のCPUがタイマー13に該当すると考えられるので、「タイマーが無い」

という認定には疑問が残る。

また、「点灯時間を調節する」主体は、文言上、タイマーであるのに、「使用者が…整えることを意味する」という解釈は正しいのだろうか。主体を「製造者が…整える」と考えてもおかしくなく、構成要件Cは充足している可能性がある。

 

一方で請求項1には、不要な限定が多すぎると考えられる。

例えば、以下の記載であれば、構成要件Fによって進歩性が認められ、且つ、全ての構成要件が充足された可能性がある。

 

A 複数のランプ30と,

D人間の動きを感知する赤外線センサ31と;

E赤外線センサ31の感知結果に基づき,前記ランプ30の点灯を制御する点灯制御回路40と;

前記赤外線センサ31が端部に設けられるセンサ支持台32は,

     F1 前記複数のランプ30の間に介在され,

     F2 前記複数のランプ30の上下方向に沿って延設され,

     F3 前記複数のランプ30の高さよりも高いことを特徴とする

G 自動制御省エネルギーランプ。

 

構成要件Fと関連しない内容は、進歩性の主張に不要なので、応答時に請求項1から削除すべきだったと考えられる。

但し、このように、応答時に構成要件を削除する補正は、実務上、難しい場合もあると考えられるので、審査までには各請求項の記載を必要最小限にすべきである。

 

なお、「一側に前記ランプ30が固定され,他側にネジ部11が形成された」「前記ソケットボディ10に備えられ,」「前記ランプ30の一側に備えられ,」「前記ソケットボディ10に内装され,」という限定は、課題や効果との関連が薄く、そもそも記載する必要がなかったと考えられる。

 

また、タイマーのようにハードでもソフトでも実現できる機能については、特許請求の範囲では機能的表現で記載し(例えば調節部)、明細書でハード及びソフトで実現可能であることを開示すべきだったと考えられる。

以上