ストロボスコープを使った入力システムを備える情報処理装置事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-審取(査定係)
判決日 2012.07.17
事件番号 H24(行ケ)10098
担当部 第3部
発明の名称 ストロボスコープを使った入力システムを備える情報処理装置
キーワード 進歩性,阻害要因
事案の内容 本件は,拒絶審決の取り消しを求めた審決取消訴訟であり,取消事由には理由があるとして審決が取り消された事案。
裁判所は,原告が主張した取消事由1-2および取消事由4記載の発明と刊行物2記載の技術,刊行物3記載の技術との組合せ(阻害要因の看過)には理由があると判断した。

事案の内容

(1)本願(特願2002-346052)について

本願明細書には,ストロボスコープを用いて,ストロボスコープの発光時と非発光時とにおける対象物を撮影して,対象物の動きを算出する情報処理装置が記載されている。実施例では,対象物をゴルフクラブとするゴルフゲームについて説明されている。以下は,本願の請求項1について。

[請求項1]

ストロボスコープを使った入力システムを備える情報処理装置であって,

ストロボスコープ,

前記ストロボスコープ(赤外発光ダイオード42)の発光時および非発光時にそれぞれ対象物(ゴルフクラブ型入力装置14)を撮影して発光時映像信号および非発光時映像信号を出力する撮像手段(反射体50,撮像ユニット28),

複数の前記発光時映像信号と複数の前記非発光時映像信号とのそれぞれの差に基づいて前記対象物14の位置,大きさ,速度,加速度,運動軌跡パターンの情報の一部または全部を算出する第1の手段,および

第1の手段によって算出された前記情報に基づき情報処理を行う第2の手段を備える,情報処理装置。

 

(2)刊行物について

刊行物1に記載の発明は,プレイヤーがボールを打球したとき,その打球音を検知してストロボライト20を間欠発光させると同時に,ゴルフクラブ34及びゴルフボール13を,プレイヤーの上方及び正面前方に設置された2台のCCDカメラ14,15によって高速多重撮影し,撮影した画像データに応じてゴルフクラブ34及びゴルフボール13の運動を解析し,スクリーン上にボールの運動を表示させることによって,プレイヤーは室内にいながらゴルフコースであたかもプレイをしているごとく楽しむことができ,しかも,打球を検出するのに機械的な構成を用いていないため,メンテナンスが容易になるという効果を奏する。

刊行物2には,対象に発光した場合と発光していない場合とにおける反射光の差分を検出して解析することで,対象を検出することについて記載されている。

刊行物3には,再帰反射体について記載されている。なお,再帰反射体の反射特性は,光源から入射した光を,この光源に完全に一致する方向および光源の近傍周囲の方向にも反射させるものである。

 

【裁判所の判断】

1.取消事由1-2(相違点3についての判断の誤り)について

本願の請求項1に係る発明は,ストロボスコープが対象物を明るく照射することにより,撮像結果における対象物と対象物以外とのコントラストを高め,対象物の検出を容易にしており,また,第1の手段が複数の発光時映像信号と複数の非発光時映像信号とのそれぞれの差を算出することにより,移動体である対象物以外の静止画像や固定光源等のノイズ成分の影響を抑えて(図19(c)-(e))対象物の位置,大きさ,速度,加速度,運動軌跡パターンを正確に,かつ簡単な情報処理で検出することが可能となり,そのようにして算出された情報に基づいて,第2の手段が所定の情報処理を行い,そのときに,対象物が再帰反射体を含むので,対象物と他の画像とのコントラストがさらに強調されるため,安価な構成で検出精度を高めることを可能とする。

刊行物1に記載されたゴルフゲーム模擬装置において,刊行物3に記載された再帰反射体をゴルフクラブ14またはゴルフボール13に取り付けた場合,ストロボライト20の反射光を正面前方のCCDカメラ14に入射させようとすると,正面前方のCCDカメラ14の近傍にストロボライト20を配置することになるが,そのようにすると,上方のCCDカメラ15は,ストロボライト20の近傍周囲には配置されていないから,再帰反射体からの反射光を上方のCCDカメラ15に入射させることはできない。また,同様にCCDカメラ15の近傍にストロボライト20を配置すると,CCDカメラ14に反射光を入社させることはできない。よって,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の技術を適用することには,阻害要因があるといえる。

なお,被告は,複数あるCCDカメラ14,15の各カメラに対応したストロボライトを設け,これらを同期させて発光させるようにすることは,当業者であれば適宜なし得ることであると主張するが,これにより,各カメラに対応したストロボライトを設け,これらを同期させて発光させることは,情報処理を複雑にし,コストや消費電力を上げることになり,本願発明の技術思想に反することになるため,被告主張は採用できない。また,被告は,刊行物2記載の技術は,1つの「反射光抽出手段102」によりジェスチャやポインティングなどの情報を得ることができるものでもあるところ,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の技術を適用することにより,刊行物1記載の発明のゴルフボール13やゴルフクラブ34の動きは,「CCDカメラ14」から置き換えられた「反射光抽出手段102」より認識できるので,仮にCCDカメラの台数が1台になったとしても,刊行物1記載の発明の目的が達成できなくなるようなことはないと主張するが,刊行物1記載の発明は,ゴルフクラブ34及びゴルフボール13を,プレイヤーの上方及び正面前方に設置された2台のCCDカメラ14,15によって高速多重撮影し,撮影した画像データに応じてゴルフクラブ34及びゴルフボール13の運動を解析し,スクリーン上にボールの運動を表示させることによって,プレイヤーは室内にいながらゴルフコースであたかもプレイをしているごとく楽しむことができ,しかも,打球を検出するのに機械的な構成を用いていないため,メンテナンスが容易になるという効果を奏するものである。そのため,刊行物1記載の発明は,プレイヤーの上方及び正面前方に設置された2台のCCDカメラを用いることを前提としている発明であって,CCDカメラを1台とすることを想定しているとはいえないから,被告の主張は,失当である。

 

2.取消事由4(刊行物1記載の発明と刊行物2記載の技術,刊行物3記載の技術との組合せ阻害要因の看過)について

刊行物2には,【発明が解決しようとする課題】において,「このように従来では,特殊な装置を装着することなく,簡易にジェスチャや動きを入力できる直接指示型の入カデバイスが存在しなかった」との記載があり,対象物体となる手や身体の一部に色マーカーや発光部を取り付けることを想定していない。一方,刊行物3に記載された発明は,入力手段(筆記用具)に再帰反射部材を取り付けるものである。そのため,両者は,マーカー(再帰反射部材)の取付けについて相反する構成を有するものである。したがって,刊行物1記載の発明に,刊行物2記載発明と刊行物3記載発明を同時に組み合わせることについては,阻害要因があるというべきである。

 

3.結論

以上のとおり,原告主張の取消事由1-2および取消事由4には理由があるから,審決は違法として取り消されるべきである。

 

【所感】

裁判所の判断は妥当であると考える。刊行物1記載の発明において、1台のCCDカメラによって課題を解決する態様が開示されていれば、また違う結論になったかもしれない。

以上