コメント配信システム特許権侵害差止等請求控訴事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-侵害系
判決日 2023.05.26
事件番号 R4(ネ)10046
担当部 知財高裁特別部
キーワード コメント配信システム
事案の内容 本件は、侵害訴訟の控訴審であり、原判決とは異なり、特許権侵害が認められた。原審では、被告各システムの構成要素である被告各サーバは、いずれも米国内に存在し、日本国内に存在するユーザ端末のみでは、本件特許に係る発明の全ての構成要件を充足しないから、被控訴人らが被告各システムを日本国内で「生産」したものとは認められないと判断された。これに対して、当審では、被控訴人らが被告各システムを日本国内で「生産」したものと判断された。

事案の内容

【手続の経緯】
平成15年 3月 2日 原出願 (特願2007-053347号)
平成25年12月28日 分割出願(第8世代、特願2018-202475号)
令和 元年 5月17日 設定登録(特許第6526304号、以下、本願特許と表記)
令和 元年 3月29日 原告(特許権者)の請求棄却判決(R1(ワ)25152)
その後、原告が本件控訴を提起
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1A サーバと、これとネットワークを介して接続された複数の端末装置と、を備えるコメント配信システムであって、
1B 前記サーバは、前記サーバから送信された動画を視聴中のユーザから付与された前記動画に対する第1コメント及び第2コメントを受信し、
1C 前記端末装置に、前記動画と、コメント情報とを送信し、
1D 前記コメント情報は、前記第1コメント及び前記第2コメントと、前記第1コメント及び前記第2コメントのそれぞれが付与された時点に対応する、前記動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間と、を含み、
1E 前記動画及び前記コメント情報に基づいて、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、を前記端末装置の表示装置に表示させる手段と、
1F 前記第2コメントを前記1の動画上に表示させる際の表示位置が、前記第1コメントの表示位置と重なるか否かを判定する判定部と、
1G 重なると判定された場合に、前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならない位置に表示されるよう調整する表示位置制御部と、を備えるコメント配信システムにおいて、
1H 前記サーバが、前記動画と、前記コメント情報とを前記端末装置に送信することにより、前記端末装置の表示装置には、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、が前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならないように表示される、
1I コメント配信システム。
 
【被告システムについて】
ア 被告システム1について
被告システム1は、「動画配信サーバ」及び「コメント配信サーバ」と、これらとネットワークを介して接続された複数の端末装置とを備えるコメント配信システムであって、本件発明1の構成要件1A、1G及び1I、本件発明2の構成要件2A、2G及び2Iを充足する。
※本レポートでは、本件発明2についての説明は省略する。
 
【裁判所の判断】(筆者注記:以下の下線部は、本事案における重要部分)
⑵ 被控訴人FC2による被告各システムの「生産」の有無について
ア 被告サービス1のFLASH版における被控訴人FC2の行為が本件発明1の実施行為としての「生産」(特許法2条3項1号)に該当するか否かについて
(ア) はじめに
 本件発明1は、サーバとネットワークを介して接続された複数の端末装置を備えるコメント配信システムの発明であり、発明の種類は、物の発明であるところ、その実施行為としての物の「生産」(特許法2条3項1号)とは、発明の技術的範囲に属する物を新たに作り出す行為をいうものと解される。
 そして、本件発明1のように、インターネット等のネットワークを介して、サーバと端末が接続され、全体としてまとまった機能を発揮するシステム(以下「ネットワーク型システム」という。)の発明における「生産」とは、単独では当該発明の全ての構成要件を充足しない複数の要素が、ネットワークを介して接続することによって互いに有機的な関係を持ち、全体として当該発明の全ての構成要件を充足する機能を有するようになることによって、当該システムを新たに作り出す行為をいうものと解される。
 そこで、被告サービス1のFLASH版における被控訴人FC2の行為が本件発明1の実施行為としての「生産」(特許法2条3項1号)に該当するか否かを判断するに当たり、まず、被告サービス1のFLASH版において、被告システム1を新たに作り出す行為が何かを検討し、その上で、当該行為が特許法2条3項1号の「生産」に該当するか及び当該行為の主体について順次検討することとする。
(イ) 被告サービス1のFLASH版における被告システム1を新たに作り出す行為について
a 被告サービス1のFLASH版においては、訂正して引用した原判決の第4の5⑴ウ(ア)のとおり、ユーザが、国内のユーザ端末のブラウザにおいて、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページを指定する(②)と、それに伴い、被控訴人FC2のウェブサーバが上記ウェブページのHTMLファイル及びSWFファイルをユーザ端末に送信し(③)、ユーザ端末が受信した、これらのファイルはブラウザのキャッシュに保存され、ユーザ端末のFLASHが、ブラウザのキャッシュにあるSWFファイルを読み込み(④)、その後、ユーザが、ユーザ端末において、ブラウザ上に表示されたウェブページにおける当該動画の再生ボタンを押す(⑤)と、上記SWFファイルに格納された命令に従って、FLASHが、ブラウザに対し動画ファイル及びコメントファイルを取得するよう指示し、ブラウザが、その指示に従って、被控訴人FC2の動画配信用サーバに対し動画ファイルのリクエストを行うとともに、被控訴人FC2のコメント配信用サーバに対しコメントファイルのリクエストを行い(⑥)、上記リクエストに応じて、被控訴人FC2の動画配信用サーバが動画ファイルを、被控訴人FC2のコメント配信用サーバがコメントファイルを、それぞれユーザ端末に送信し(⑦)、ユーザ端末が、上記動画ファイル及びコメントファイルを受信する(⑧)ことにより、ユーザ端末が、受信した上記動画ファイル及びコメントファイルに基づいて、ブラウザにおいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが可能となる。このように、ユーザ端末が上記動画ファイル及びコメントファイルを受信した時点(⑧)において、被控訴人FC2の動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバとユーザ端末はインターネットを利用したネットワークを介して接続されており、ユーザ端末のブラウザにおいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが可能となるから、ユーザ端末が上記各ファイルを受信した時点で、本件発明1の全ての構成要件を充足する機能を備えた被告システム1が新たに作り出されたものということができる(以下、被告システム1を新たに作り出す上記行為を「本件生産1の1」という。)。
b これに対し、被控訴人らは、①被告各システムの「生産」に関連する被控訴人FC2の行為は、被告各システムに対応するプログラムを製作すること及びサーバに当該プログラムをアップロードすることに尽き、いずれも米国内で完結しており、その後、ユーザ端末にコメントや動画が表示されるまでは、ユーザらによるコメントや動画のアップロードを含む利用行為が存在するが、ユーザ端末の表示装置は汎用ブラウザであって、当該利用行為は、本件各発明の特徴部分とは関係がない、②被告システム1において、ユーザ端末は、被控訴人FC2がサーバにアップロードしたプログラムの記述並びに第三者が被控訴人FC2のサーバにアップロードしたコメント及び被控訴人FC2のサーバにアップロードした動画(被告システム2及び3においては第三者のサーバにアップロードした動画)の内容に従って、動画及びコメントを受動的に表示するだけものにすぎず、ユーザ端末に動画やコメントが表示されるのは、既に生産された装置(被告各システム)をユーザがユーザ端末の汎用ブラウザを用いて利用した結果にすぎず、そこに「物」を「新たに」「作り出す行為」は存在しない、③乙311記載の「一般に、通信に係るシステムはデータの送受を伴うものであるため、データの送受のタイミングで毎回、通信に係るシステムの生産、廃棄が一台目、二台目、三台目、n台目と繰り返されることまで「生産」に含める解釈は、当該システムの中でのデータの授受の各タイミングで当該システムが再生産されることになり、採用しがたい」との指摘によれば、被控訴人FC2の行為は本件発明1の「生産」に該当しないというべきである旨主張する。
 しかしながら、①については、被控訴人FC2が被告システム1に対応するプログラムを製作すること及びサーバに当該プログラムをアップロードすることのみでは、前記aのとおり、本件発明1の全ての構成要件を充足する機能を備えた被告システム1が完成していないというべきである。
 ②については、前記aのとおり、被控訴人FC2の動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバとユーザ端末がインターネットを利用したネットワークを介して接続され、ユーザ端末が必要なファイルを受信することによって、本件発明1の全ての構成要件を充足する機能を備えた被告システム1が新たに作り出されるのであって、ユーザ端末が上記ファイルを受信しなければ、被告システム1は、その機能を果たすことができないものである。
 ③については、上記のとおり、被告システム1は、被控訴人FC2の動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバとユーザ端末がインターネットを利用したネットワークを介して接続され、ユーザ端末が必要なファイルを受信することによって新たに作り出されるものであり、ユーザ端末のブラウザのキャッシュに保存されたファイルが廃棄されるまでは存在するものである。また、上記ファイルを受信するごとに被告システム1が作り出されることが繰り返されるとしても、そのことを理由に「生産」に該当しないということはできない。
 よって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
(ウ) 本件生産1の1が特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かについて
特許権についての属地主義の原則とは、各国の特許権が、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを意味するものであるところ(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁、最高裁平成12年(受)第580号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁参照)、我が国の特許法においても、上記原則が妥当するものと解される。
 前記(イ)aのとおり、本件生産1の1は、被控訴人FC2のウェブサーバが、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページのHTMLファイル及びSWFファイルを国内のユーザ端末に送信し、ユーザ端末がこれらを受信し、また、被控訴人FC2の動画配信用サーバが動画ファイルを、被控訴人FC2のコメント配信用サーバがコメントファイルを、それぞれユーザ端末に送信し、ユーザ端末がこれらを受信することによって行われているところ、上記ウェブサーバ、動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバは、いずれも米国に存在するものであり、他方、ユーザ端末は日本国内に存在する。すなわち、本件生産1の1において、上記各ファイルが米国に存在するサーバから国内のユーザ端末へ送信され、ユーザ端末がこれらを受信することは、米国と我が国にまたがって行われるものであり、また、新たに作り出される被告システム1は、米国と我が国にわたって存在するものである。そこで、属地主義の原則から、本件生産1の1が、我が国の特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かが問題となる。
ネットワーク型システムにおいて、サーバが日本国外(以下、単に「国外」という。)に設置されることは、現在、一般的に行われており、また、サーバがどの国に存在するかは、ネットワーク型システムの利用に当たって障害とならないことからすれば、被疑侵害物件であるネットワーク型システムを構成するサーバが国外に存在していたとしても、当該システムを構成する端末が日本国内(以下「国内」という。)に存在すれば、これを用いて当該システムを国内で利用することは可能であり、その利用は、特許権者が当該発明を国内で実施して得ることができる経済的利益に影響を及ぼし得るものである。
 そうすると、ネットワーク型システムの発明について、属地主義の原則を厳格に解釈し、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在することを理由に、一律に我が国の特許法2条3項の「実施」に該当しないと解することは、サーバを国外に設置さえすれば特許を容易に回避し得ることとなり、当該システムの発明に係る特許権について十分な保護を図ることができないこととなって、妥当ではない。
 他方で、当該システムを構成する要素の一部である端末が国内に存在することを理由に、一律に特許法2条3項の「実施」に該当すると解することは、当該特許権の過剰な保護となり、経済活動に支障を生じる事態となり得るものであって、これも妥当ではない。
 これらを踏まえると、ネットワーク型システムの発明に係る特許権を適切に保護する観点から、ネットワーク型システムを新たに作り出す行為が、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かについては、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解するのが相当である。
 これを本件生産1の1についてみると、本件生産1の1の具体的態様は、米国に存在するサーバから国内のユーザ端末に各ファイルが送信され、国内のユーザ端末がこれらを受信することによって行われるものであって、当該送信及び受信(送受信)は一体として行われ、国内のユーザ端末が各ファイルを受信することによって被告システム1が完成することからすれば、上記送受信は国内で行われたものと観念することができる。
 次に、被告システム1は、米国に存在する被控訴人FC2のサーバと国内に存在するユーザ端末とから構成されるものであるところ、国内に存在する上記ユーザ端末は、本件発明1の主要な機能である動画上に表示されるコメント同士が重ならない位置に表示されるようにするために必要とされる構成要件1Fの判定部の機能と構成要件1Gの表示位置制御部の機能を果たしている。
 さらに、被告システム1は、上記ユーザ端末を介して国内から利用することができるものであって、コメントを利用したコミュニケーションにおける娯楽性の向上という本件発明1の効果は国内で発現しており、また、その国内における利用は、控訴人が本件発明1に係るシステムを国内で利用して得る経済的利益に影響を及ぼし得るものである。
 以上の事情を総合考慮すると、本件生産1の1は、我が国の領域内で行われたものとみることができるから、本件発明1との関係で、特許法2条3項1号の「生産」に該当するものと認められる。
c これに対し、被控訴人らは、①属地主義の原則によれば、「特許の効力が当該国の領域においてのみ認められる」のであるから、海外(国外)で作り出された行為が特許法2条3項1号の「生産」に該当しないのは当然の帰結であること、権利一体の原則によれば、特許発明の実施とは、当該特許発明を構成する要素全体を実施することをいうことからすると、一部であっても海外で作り出されたものがある場合には、特許法2条3項1号の「生産」に該当しないというべきである、②特許回避が可能であることが問題であるからといって、構成要件を満たす物の一部さえ、国内において作り出されていれば、「生産」に該当するというのは論理の飛躍があり、むしろ、構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、我が国の特許法の効力を及ぼすという解釈の方が、問題が多い、③我が国の裁判例においては、カードリーダー事件の最高裁判決(前掲平成14年9月26日第一小法廷判決)等により属地主義の原則を厳格に貫いてきたのであり、その例外を設けることの悪影響が明白に予見されるから、仮に属地主義の原則の例外を設けるとしても、それは立法によってされるべきである旨主張する。
 しかしながら、①については、ネットワーク型システムの発明に関し、被疑侵害物件となるシステムを新たに作り出す行為が、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かについては、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、前記bに説示した事情を総合考慮して、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解すべきであるから、①の主張は採用することができない。
 ②については、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かの上記判断は、構成要件を満たす物の一部が国内で作り出されれば、直ちに、我が国の特許法の効力を及ぼすというものではないから、②の主張は、その前提を欠くものである。
 ③については、特許権についての属地主義の原則とは、各国の特許権が、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを意味することに照らすと、上記のとおり当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときに特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解釈したとしても、属地主義の原則に反しないというべきである。加えて、被控訴人らの挙げるカードリーダー事件の最高裁判決は、属地主義の原則からの当然の帰結として、「生産」に当たるためには、特許発明の全ての構成要件を満たす物を新たに作り出す行為が、我が国の領域内において完結していることが必要であるとまで判示したものではないと解され、また、我が国が締結した条約及び特許法その他の法令においても、属地主義の原則の内容として、「生産」に当たるためには、特許発明の全ての構成要件を満たす物を新たに作り出す行為が我が国の領域内において完結していることが必要であることを示した規定は存在しないことに照らすと、③の主張は採用することができない。
 したがって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
(エ) 被告システム1(被告サービス1のFLASH版に係るもの)を「生産」した主体について
a 被告システム1(被告サービス1のFLASH版に係るもの)は、前記(イ)aのとおり、被控訴人FC2のウェブサーバが、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページのHTMLファイル及びSWFファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末がこれらを受信し、ユーザ端末のブラウザのキャッシュに保存された上記SWFファイルによる命令に従ったブラウザからのリクエストに応じて、被控訴人FC2の動画配信用サーバが動画ファイルを、被控訴人FC2のコメント配信用サーバがコメントファイルを、それぞれユーザ端末に送信し、ユーザ端末がこれらを受信することによって、新たに作り出されたものである。そして、被控訴人FC2が、上記ウェブサーバ、動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバを設置及び管理しており、これらのサーバが、HTMLファイル及びSWFファイル、動画ファイル並びにコメントファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末による各ファイルの受信は、ユーザによる別途の操作を介することなく、被控訴人FC2がサーバにアップロードしたプログラムの記述に従い、自動的に行われるものであることからすれば、被告システム1を「生産」した主体は、被控訴人FC2であるというべきである。
 この点に関し、被告システム1が「生産」されるに当たっては、前記(イ)aのとおり、ユーザが、ユーザ端末のブラウザにおいて、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページを指定すること(②)と、ブラウザ上に表示されたウェブページにおける当該動画の再生ボタンを押すこと(⑤)が必要とされるところ、上記のユーザの各行為は、被控訴人FC2が設置及び管理するウェブサーバに格納されたHTMLファイルに基づいて表示されるウェブページにおいて、ユーザが当該ページを閲覧し、動画を視聴するに伴って行われる行為にとどまるものである。すなわち、当該ページがブラウザに表示されるに当たっては、前記のとおり、被控訴人FC2のウェブサーバが当該ページのHTMLファイル及びSWFファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末が受信したこれらのファイルがブラウザのキャッシュに保存されること(④)また、動画ファイル及びコメントファイルのリクエストについては、上記SWFファイルによる命令に従って行われており(⑥)、上記動画ファイル及びコメントファイルの取得に当たってユーザによる別段の行為は必要とされないことからすれば、上記のユーザの各行為は、被控訴人FC2の管理するウェブページの閲覧を通じて行われるものにとどまり、ユーザ自身が被告システム1を「生産」する行為を主体的に行っていると評価することはできない。
b (中略)
 したがって、被控訴人らの上記主張は理由がない。
(オ) 小括
 以上によれば、被控訴人FC2は、本件生産1の1により、被告システム1を「生産」(特許法2条3項1号)したものと認められる。
 
【所感】
 本判決では、ネットワーク型システムの構成要件の一部が外国に存在していても、当該システムが日本国内で生産されたと認定され、当該システムについて特許権侵害を主張できる場合があることが示された。また、ネットワーク型システムが日本国内で生産されたか否かを判断する基準として、以下の4つの判断基準が示された。
(1)当該行為の具体的態様
(2)当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割
(3)当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所
(4)その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響
 本判決により、システムクレームの有用性が高まったと言える。システムクレームを作成する場合、上記判断基準(2)および(3)を考慮すると、システムの利用によって効果を発揮する要素である「ユーザ端末」の機能・役割を、クレームや明細書で明確に表現することが重要と考える。なお、事件番号H30(ネ)10077の判決において、端末装置(表示装置)クレームについて特許権侵害が認められていることを踏まえると、端末装置クレームの有用性も高まっていると考える。端末装置クレームと比較したシステムクレームの利点としては、(1)サーバ・クライアントの双方における各処理を構成に加えることができ進歩性を確保しやすいこと、(2)サブコンビネーションを用いない構成にできること、等が挙げられる。
 また、本判決では、システムが日本国内で生産されたか否かの判断にあたっては、上記4つの判断基準等を総合考慮すると述べられている。今後、本事例と同様の判断が行われることがあれば、各判断基準がどの程度考慮されるのか、また、判断に他の要素が入り込み得るのか等に着目したい。