オープン式発酵処理装置並びに発酵処理法事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-審取(当事者係)
判決日 2012.06.06
事件番号 H23(行ケ)10284
担当部 第2部
発明の名称 オープン式発酵処理装置並びに発酵処理法
キーワード 容易想到性
事案の内容 無効審決の請求認容が取り消された事案(進歩性無し→進歩性有り)。
阻害要因の認定がポイント。

事案の内容詳細はこちら

・本件発明1(出訴時の請求項1の発明)

有機質廃物を経時的に投入堆積発酵処理する長尺広幅の面域の長さ方向の1側に長尺壁を設け,

その他側は長尺壁のない長尺開放側面として成る大容積のオープン式発酵槽を構成すると共に,該長尺壁の上端面にレールを敷設し,

該レールを回転走行する車輪と該長尺開放側面側の床面上を該長尺開放側面に沿い回転走行する車輪とを配設されて具備すると共に該オープン式発酵槽(1、図2,3)の長尺広幅の面域(a、図3)の幅方向に延びる回転軸(5a、図2)の全長に亘り且つその周面に多数本のパドル(5b、図2)を配設して成り,且つ堆積物を往復動撹拌する正,逆回転自在のロータリー式撹拌機(5、図2)を具備した台車(6、図2,3)を該オープン式発酵槽(1、図2,3)の長さ方向に往復動走行自在に設けると共に該オープン式発酵槽に対し,該長尺開放側面を介してその長さ方向の所望の個所から被処理物の投入堆積と発酵済みの堆肥の取り出しを行うようにした

ことを特徴とするオープン式発酵処理装置。

 

・甲1(主引例)との相違点

甲1は上記特徴部分(赤の箇所)を備えない点。

 

・副引例による開示

 甲2,3

上記特徴部分に相当する構成が開示されている。

↓甲2               ↓甲3

 

・審判での判断(進歩性なし)

特徴部分は、甲2,3に開示されるように、本願出願前に周知であった。

したがって、甲1発明において採用する撹拌方式に替え、上記周知の撹拌方式を採用することで本件特許発明1における発明特定事項に想到することは、当業者であれば容易になしうるところである。

 

・裁判所の判断(進歩性あり)

(A)甲2,3には,台車を所望の位置に動かして,所望の範囲(領域)で撹拌動作を指定した頻度(回数)で行うことで,領域ごとに被処理物の滞留日数及び撹拌頻度を管理することは記載されていない。

(B)他方,甲1が解決しようとする課題は,発酵槽内を複数の領域に概念的,論理的に区切り,領域ごとに被処理物の滞留日数及び撹拌頻度を管理する点にある(甲1の2頁左下欄10~16行)。

(C)甲1の撹拌機も,第1図のとおり,発酵槽(1)内からいったん移動通路(15)上に移動させた後,移動通路上を発酵槽の長尺方向に沿って他の領域の前(開口部側)まで移動させ,再度発酵槽内に移動させることによって,上記の領域ごとの被処理物の撹拌頻度の管理を可能にするものである。

(D)したがって,甲1においては,撹拌機の構成と移動通路とは機能的に結び付いているものである。

そうすると,

(D-1)甲1の発酵処理装置の構成から移動通路(15)を省略し,かつ

(D-2)奥行き方向に往復して撹拌する撹拌機の構成を、長尺方向にのみ往復移動しながら撹拌動作する甲2,3から認められる周知技術に係る撹拌機の構成に改め,

(D-3)同時に概念的,論理的に複数に区切られた発酵槽内の領域を,発酵槽開口部の所望の個所から被処理物の投入・堆積・取出しを行うことができるようにするべく,領域ごとに被処理物の滞留日数及び撹拌頻度を管理することができるようにすること

は,甲2,3に表れる構成が当業者に周知のものであるとしても,容易であったと認めることはできない。

 

【所感】

裁判所の判断は、不当であると考えられる。

「撹拌機の構成と移動通路とは機能的に結び付いている」という認定に誤りがあると考えられる。

移動通路が、甲1に甲2,3を組み合わせることの阻害要因になるとは考えづらい。

甲1に甲2,3を組み合わせることを考えた場合、長尺方向の移動経路は、甲2,3に開示されているように発酵槽の内部となり、発酵槽の外部の移動通路が廃止されることは必然である。

このように思考手順が必然であれば、容易想到であったと結論されるのが妥当であると考えられる。