インターネット情報通信システムを介した画像伝達における色変化情報提供方法とこの方法を利用した商品選択方法事件

  • 日本判例研究レポート
  • 知財判決例-審取(査定係)
判決日 2011.07.21
事件番号 H22(行ケ)10373
発明の名称 インターネット情報通信システムを介した画像伝達における色変化情報提供方法とこの方法を利用した商品選択方法
キーワード 新規事項の追加
事案の内容 拒絶査定不服審判の請求棄却審決に対する取消訴訟であり、審決が維持された事案。
補正により特許請求の範囲に追加された用語の意義が特許請求の範囲の文言上明らかでないとして、発明の詳細な説明が参酌され、かかる補正は、新規事項に該当すると判断された点がポイント。

事案の内容

【出訴時クレーム】

[請求項1]

少なくとも一つの彩色商品の見本画像と,基準色画像αを組込んで彩色商品カタログとし,この商品カタログをデジタル・データとしてコンピューターの記憶装置に格納し,

情報の送信元がこのデジタル・データをデジタル商品カタログXとしてインターネット情報通信システムを介して不特定多数の潜在消費者である情報の受信者に送信し,

デジタル商品カタログXを受信した前記受信者がデジタル商品カタログの受信データをデジタル画像X‘として自己が所有する画像システムのモニタに表示し,

自己のシステムにおける選択機能を機能させずに,その画像中のデジタル化されており,送信に伴い色変わりしている前記基準色画像部分α‘の色調を,前記情報の受信者が自己が所有する前記基準色画像αの色調に合致した色調に色補正することによって,この補正と同一条件で且つ同時にモニタ表示画像X‘のα‘以外の他の部分の色調も補正することを特徴とする,彩色商品カタログの画像伝達における色変化情報の伝達方法。

 

【新規事項違背に関する原告主張の概要】

本件追加事項の意味は、「色調整の指標とする「基準色画像部分」のみを画像処

理(色補正)対象として選択しないこと」…を意味する。…画像全体につき色補正の対象とすることは,「同時」補正という本願発明の技術思想を理解し,また,色補正手段として「Adobe 社 Photoshop LE-J」等の公知手段を利用できることを理解した当業者であれば,当然に理解する具体的処理方法である。

…当業者であれば,本件追加事項は,本来なら,補正処理の目標である基準色画像(部分)のみを補正対象として選択するところを,あえて,そのような選択をしないこと(画像全体を補正対象として同時に色補正を行うこと)を指示する意味であると理解する。すなわち,本件追加事項における「選択機能を機能」は,画像の一部の処理の場合のみを意味し,画像全体の処理の場合を含んでいない。

 

【新規事項違背に関する被告主張の概要】

本願当初明細書には,…公知のコンピューター画像処理手法(例えばAdobe 社 Photoshop LE-J(登録商標))を用いた色補正処理」を用いることが可能であることが記載されているが,色補正処理の具体的な動作が記載されているものでなく,…「Adobe 社 Photoshop LE-J」以外の手法を用いて色補正処理を行う場合の具体的な動作については何ら記載されていない。…「Adobe 社 Photoshop LE-J」では,たとえ画像全体を処理対象とする場合であっても,画像全体を「選択する」ことに変わりはないから,本願当初明細書に「選択機能を機能させず」に色補正処理を行うことは何ら記載されていない。

 

【裁判所の判断】

特許請求の範囲の文言上は,「自己のシステムにおける選択機能」の意義は明らかでない。

発明の詳細な説明に「公知のコンピューター画像処理手法」として記載された「Adobe Photoshop LE-J」のユーザガイド(以下「本件ユーザガイド」という。)の「第3章:選択範囲の操作」には,選択ツールにより,《1》「画像の一部を補正する具体的方法」と《2》「画像全体を補正する具体的方法」とが記載されている。…なお,「公知のコンピューター画像処理手法を用いた色補正処理」として,本件ユーザガイドに記載された上記以外の技術的事項があると認めるに足りない。そうすると,「自己のシステムにおける選択機能」とは,本件ユーザガイドにおける《1》「画像の一部を補正する具体的方法」と《2》「画像全体を処理する具体的方法」のことであり,いわゆる「選択ツール」により編集操作の対象として画像の一部又は全部を選択する機能のことをいうものと解される。そうすると,基準色画像を「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」色補正するとは,受信者所有のパソコンのような「自己のシステム」に含まれた「選択機能」である「選択ツール」により編集操作の対象として画像の一部又は全部を選択する機能を機能させないで色補正をすることを意味するものである。すなわち,選択機能を機能させて色補正するものと,上記選択機能を機能させずに色補正するもののうちの,後者を特定して記載したものである。

原告らは,…「選択機能を機能(させる)」とは,画像の一部の処理の場合のみを意味し,画像全体の処理の場合を含んでいないと主張する。しかしながら,発明の詳細な説明を参酌しても,「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」との文言が,…「画像の全部」を選択する機能と区別された,…「画像の一部」を選択する機能を機能させないことを表現したものであると解することはできない。…本件ユーザガイドに記載された「選択ツール」の機能としての「画像の全部」の選択と「画像の一部」の選択とは,同じものであり,一方から他方を区別することはできないものである。よって,本願明細書における「選択機能」も,画像の全部の選択と画像の一部の選択をそもそも区別することができないものと解される。このように,本願明細書には,上記《2》の「画像の全部」を選択する機能から区別された上記《1》の「画像の一部」を選択する機能は記載されていないのであるから,「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」との文言が,上記《2》と区別された上記《1》を機能させないことを意味すると解することはできない。よって,…「画像の一部」を選択する機能と「画像の全部」を選択する機能とを技術的に区別することができないから,その区別を前提に,画像の一部を選択する機能を選択しないことが本件追加事項であるかのようにいう原告らの主張は採用できない。

そうすると,「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」という事項は,本願当初明細書等に明示的に記載されていない。のみならず,本願当初明細書等に記載された全ての事項を総合することにより導かれる技術的事項ということもでない。したがって,本件追加事項(「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」という事項)は,本願当初明細書等に記載された全ての事項を総合することにより導かれる技術的事項とはいえず,本件補正は,法17条の2第3項に違反するものといわざるを得ない。

 

【所感】

裁判所の判断は妥当であると感じた。

原告は、「選択機能を機能させずに」を、引用文献との差異を明確にするために導入したものと思われる。原告は、引用文献記載技術として、(i)ユーザは、商品情報と共にディスプレイに表示された「標準イメージに対して色調や濃淡を段階的に少しずつ変化させたイメージ」と、予め別途用意された標準イメージの写真とを見比べて補正値を得て、(ii)得られた補正値に基づき商品情報を補正する、という2段階手法であり、送信元と送信先でシステムの変更がないことが前提である点、色補正の精度が低い点を挙げていた。これに対して、本願では、「1段階で色補正を行うので、システム変更の有無に関わらず精度の高い色補正が可能となる」という効果を主張するために上記構成を導入したものと思われる。(すなわち、選択機能を機能させて基準画像部分を選択して当該部分について色補正を行い、続いて他の部分を同様に補正するという2段階手法を排除する意図。)

しかしながら、原告は、進歩性違背に関する主張において、請求項1の構成要件中、「一体組込み」,「同時に」の部分を挙げて上記効果を主張しており、殊更「選択機能を機能させず」の部分を挙げていない点、「同時に」については明細書(段落0045)に明記がある点を考えると、「選択機能を機能させずに」を導入する必要がなかったのではと思われる。