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金属の発見
珈琲豆の焙煎を、焙煎機の製作から楽しんでいることは以前書いた。焙煎機自体は、中心温度を測れるようにしたり、焙煎籠を回転するモータを数回取り替えたり、直火式なので加熱用のガスコンロとの組合せを工夫したり、と何度も改修を重ねてきた。焙煎機がなんとか使える様になったあとで、課題になっていたのが、チャフコレクタだ。珈琲豆は、加熱すると膨らんで爆ぜる。そのとき、皮がはがれる。これがチャフだ。チャフが珈琲豆に残った状態だと、見ていてもきれいじゃないし、珈琲の味も落ちる。最初のころは、焙煎の終わった珈琲豆をざるにあけ、下からファンで風を送って、珈琲豆を冷ますと同時にチャフを飛ばしていた。飛んだチャフはそこら中に散らばる。洗濯物にも付く、ということで甚く不評だった。
なんとかしたい、と思い、チャフコレクタと呼ばれるチャフ取り機を開発しようとして何度も試作品を作った。市販のチャフコレクタ付きの焙煎機はあるが、その構造が全く分からない。なので、本当に試行錯誤の連続だった。小さい容器に小さいブロアでは200グラムの珈琲豆を空気の流れで踊らせて、チャフを集める、ということができない。このため、容器やブロアはだんだん大型化していった。そうなると容器などの加工が難しい。焙煎した直後の珈琲豆の温度は200度を超える。こうなるとプラスチックはほぼ使えない。耐熱シリコンなら可能だが、シリコンで一定の硬さをもった容器というのはなかなか手に入らない。耐熱ガラスの容器も検討したが、耐熱ガラスの加工はかなり難易度が高い。ワインボトルなどの外周に、ダイヤモンドカッターでキズを付け、熱水と冷水に交互に漬けて、熱膨張を利用してカットする方法が知られているが、耐熱ガラスは熱膨張しないので、その方法は使えない。かといって普通のガラス容器では、焙煎したての珈琲豆を入れたら、割れる可能性が否定できない。
あれこれ試行錯誤すること約一年。最後は、厚さ0.2ミリのステンレスシートを自分でカットし、円筒状に巻いてリベットで止め、底にパンチングメタルを嵌め込むという構造に辿り付いた。結局、200度を超えるものを扱うことができ、かつ自分の望む形状を実現しようとすると、金属以外に選択肢がなかった。中の珈琲豆の状態が見えるように、耐熱性の透明素材で窓を付けた。ブロアの風は、外から塩ビのパイプを経由して吹き入れ、パンチングメタルを通って珈琲豆を踊らせ、チャフを吹き上げる。そのチャフを、珈琲豆の熱を奪って温風になった空気流と共に回収し、それをフィルタで集める、という構造になった。
人類は、何らかの方法で火を手に入れ、活用してきた。火を使って素焼きの瓶を焼き、やがて炻器を焼き、陶器や磁器を焼いてきた。しかしこれらは、土を成型して焼くから、一旦できあがった後での加工は難しい。青銅器や鉄器を作り出したとき、溶融した金属を型に流し込んで自由なかたちが作れるようになり、ある程度の後加工が可能になった。例えば研磨や切削、そして鍛造。更に金属シートができて、金属を使った耐熱性のある物の工作が可能になった。焙煎した珈琲豆の温度はたかだか250度程度。しかしこの温度のものを扱う装置を自作しようとすると、選択肢は極端に狭まる。
人類の最後尾で、金属を発見した、という気分になった。[T.S]