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棒状ライト 特許権侵害行為差止等請求事件

事件の概要

判決日 2025.03.12
事件番号 R5(ワ)70380
担当部 東京地方裁判所民事第46部
発明の名称 棒状ライト
キーワード 構成要件充足
事案の内容 本件は、特許権侵害行為差止等請求事件である。「第1所定入力は前記短押しまたは前記長押し」を引用する「前記第1所定入力」は、前段における「第1所定入力」と同一の操作であると認定され、被告製品は構成要件を充足しないと判断された。

事案の内容

【手続の経緯】

平成26年12月12日 原出願出願日(特願2016-240332)
令和 2年12月11日 本願出願日(第2世代分割出願)
令和 4年11月 1日 本願登録日(特許第7169001号)

【請求項1】

(以下における下線は筆者が付した)
A 発光部と、
B 前記発光部を発光させる複数の色のデフォルトの発光順序を定めるデフォルトパターンを記憶する記憶部と、
C 前記複数の色の中から1つの色を推薦色として設定する設定部と、
D 前記発光部を発光させる複数の色を、前記デフォルトパターンで示される発光順序で切り替える第1ボタンと、
E 前記推薦色で前記発光部を発光させるための入力を受け付ける第2ボタ
ンと、
F 前記発光部を発光させる複数の色を、前記デフォルトパターンで示される発光順序とは逆順に切り替える第3ボタンと、
G 前記第1ボタン、前記第2ボタン、および前記第3ボタンが設けられ、内部に電源を有する把持部と、
H 前記デフォルトパターンで示される発光順序を選択する選択部を備え、
I 前記第1ボタンに対するユーザからの第1所定入力に応じて、前記選択部において選択されている前記デフォルトパターンで示される発光順序に従い、前記複数の色のうちいずれか1つの色で前記発光部を発光させる発光制御部と、を備え、
J1 前記第1ボタンは、所定時間以上継続しない押下である短押しと、前記短押しよりも長い所定時間以上継続した押下である長押しを検出可能なボタンであり、第1所定入力は前記短押しまたは前記長押しであり、
J2 前記第2ボタンは、所定時間以上継続しない押下である短押しと、前記短押しよりも長い所定時間以上継続した押下である長押しを検出可能なボタンであり、第1所定入力は前記短押しまたは前記長押しであり、
J3 前記設定部は、前記発光部が発光しているときに、前記第2ボタンの前記第1所定入力を検出した場合、そのとき前記発光部が発光している発光色を前記推薦色として、前記記憶部に記憶し、
J4 前記発光制御部は、前記第2ボタンの前記第1所定入力を検出した場合、前記設定部により前記記憶部に記憶された前記推薦色で前記発光部を発光させる
K ことを特徴とする棒状ライト。

【被告製品1の構成】

ア 被告製品1の構成
1-a LED及び前記LEDから投射された光が透過するトップパーツと、
1-b 前記LEDを発光させる15色のカラーチェンジの順序を定める発光パターンを記憶するメモリと、
1-c 前記15色の中から1つの色を登録色として設定する処理を行う設定部と、
1-d 前記LEDを発光させる15色を、前記発光パターンで示される発光順序で切り替えることができるカラー順送りボタンと、
1-e 前記登録色で前記LEDを発光させるための入力を受け付ける推し色チェンジボタンと、
1-f 前記LEDを発光させる前記15色を、前記カラー順送りボタンで切り替える前記発光パターンの発光順序とは逆順に切り替えることができるカラー逆送りボタンと、
1-g 前記カラー順送りボタン、前記推し色チェンジボタン、および前記カラー逆送りボタンが設けられ、内部に電源を有するグリップと、
1-h 前記発光パターンで示される発光順序で前記LEDを発光させることができる前記カラー順送りボタン、及び前記発光パターンで示される発光順序の逆順で前記LEDを発光させることができる前記カラー逆送りボタンを備え、
1-i 前記カラー順送りボタンを、前記LEDが発光しているときに短押しすると、前記発光パターンで示される発光順序に従い前記15色のうちいずれか1色で前記LEDを発光させることができ、
1-j1~4 前記カラー順送りボタンは、短押しと、長押しを検出可能なボタンであり、前記推し色チェンジボタンは、短押しと、長押しを検出可能なボタンであり、前記推し色チェンジボタンを、前記LED発光中に長押しした場合、そのとき前記LEDが発光している発光色を前記登録色として、前記メモリに記憶し、前記推し色チェンジボタンを、前記LED発光中に短押しした場合、前記メモリに記憶された登録色で前記LEDを発光させる
1-k ことを特徴とするハート型ペンライト。

【被告製品2の構成】

2-a LED及び前記LEDから投射された光が透過するトップパーツと、
2-b 前記LEDを発光させる14色のカラーチェンジの順序を定める発光パターンを記憶するメモリと、
2-c 前記14色の中から1つの色を登録色として設定する処理を行う設定部と、
2-d 前記LEDを発光させる14色を、前記発光パターンで示される発光順序で切り替えることができるRボタンと、
2-e 前記登録色で前記LEDを発光させるための入力を受け付けるバックボタンと、
2-f 前記LEDを発光させる前記14色を、前記Rボタンで切り替える前記発光パターンで示される発光順序とは逆順に切り替えることができるLボタンと、
2-g 前記Rボタン、前記バックボタン、および前記Lボタンが設けられ、内部に電源を有するグリップと、
2-h 前記発光パターンで示される発光順序で前記LEDを発光させることができる前記Rボタン、及び前記発光パターンで示される発光順序の逆順で前記LEDを発光させる前記Lボタンを備え、
2-i 前記Rボタンを、前記LEDが発光しているときに短押しすると、前記発光パターンで示される発光順序に従い前記14色のうちいずれか1色で前記LEDを発光させることができ、
2-j1~4 前記Rボタンは、短押しと、長押しを検出可能なボタンであり、前記バックボタンは、短押しと、長押しを検出可能なボタンであり、前記バックボタンを、前記LED発光中に長押しした場合、そのとき前記LEDが発光している発光色を前記登録色として、前記メモリに記憶し、前記バックボタンを、前記LED発光中に短押しした場合、前記メモリに記憶された登録色で前記LEDを発光させる
2-k ことを特徴とする棒状ペンライト。

【争点1-3(構成要件J3及びJ4の充足性(被告各製品))について】
【原告の主張】

【争点1-3(構成要件J3及びJ4の充足性(被告各製品))について】
【原告の主張】
5 (1) 被告製品1及び2について
ア 構成要件J2において、第2ボタンの「第1所定入力」は「前記短押しまたは前記長押し」とされているから、構成要件J3及びJ4の「前記第2ボタンの前記第1所定入力」とは、第2ボタンの「前記短押しまたは前記長押し」を意味する。
 そして、本件発明に係る特許請求の範囲には、構成要件J3の「前記第1所定入力」及び構成要件J4の「前記第1所定入力」について、前者が短押しであるならば後者も短押し、前者が長押しであるならば後者も長押しに限定する記載はなく、本件明細書【0052】及び【0055】においては、構成要件J3の処理を行うためには第2ボタンを長押しすること、構成要件J4の処理を行うためには第2ボタンを短押しすることが記載されている。
 したがって、構成要件J3の「前記第2ボタンの前記第1所定入力」と構成要件J4の「前記第2ボタンの前記第1所定入力」とは、異なる入力方法であってもよい。
イ 被告製品1及び2は、「推し色チェンジボタン」(1-j1~4)ないし「バックボタン」(2-j1~4)を、LED発光中に長押しした場合にその発光色を登録色としてメモリに記憶し、これらのボタンを短押しした場合に登録色でLEDを発光させるものであるが、前記アによれば、これらのボタンの「長押し」及び「短押し」は構成要件J3及びJ4の「前記第2ボタンの第1所定入力」に当たる。

【被告の主張】

(1) 被告製品1及び2について
ア 構成要件J2において、「第1所定入力」は「前記短押しまたは前記長押し」とされているところ、構成要件J3及びJ4において、「前記第1所定入力」とされていることや、本件明細書【0014】及び【0074】において、「第1所定入力」と「第2所定入力」とが、同じ場面で長押しと短押しを区別するために用いられていることから、構成要件J3及びJ4の「前記第1所定入力」は、いずれも同じ入力方法を意味する。
イ 被告製品1及び2は、登録色の記憶と登録色でのLEDの発光とを異なる入力方法で行うものであるから、構成要件J3及びJ4の「前記第1所定入力」を充足しない。

【裁判所の判断】

2 争点1-3(構成要件J3及びJ4の充足性)について
(1) 被告製品1及び2についての構成要件J3及びJ4の充足性
ア 構成要件J3及びJ4の「前記第1所定入力」の意義構成要件J2は、第2ボタンは「短押し」又は「長押し」を検出可能なボタンであり、「第1所定入力」は「前記短押しまたは前記長押し」であることを規定し、これを受けて、構成要件J3及びJ4には、「前記第2ボタンの前記第1所定入力」との記載がある。
 そして、用語の普通の意味に照らせば、構成要件J2の「第1所定入力」は、「第2ボタン」が検出する「短押し」又は「長押し」のいずれか一方の入力方法を指し、構成要件J3及びJ4の「前記第1所定入力」は、このように「第1所定入力」として特定された「短押し」又は「長押し」のいずれか一方を指すものと解するのが相当である。
 また、本件明細書の【発明を実施するための形態】には、短押しと長押しとを入れ替えても同様に動作させることができ、「第1所定入力を短押し、第2所定入力を長押しとしてもよいし、第1所定入力を長押し、第2所定入力を短押しとしてもよい」(【0074】)と記載されている。この記載は、「第1所定入力」が「短押し」又は「長押し」のいずれか一方を指すことを前提に、「第1所定入力」を「短押し」としても「長押し」としてもよいことを示すものということができ、上記解釈に沿うものといえる。
 したがって、構成要件J3及びJ4の「前記第1所定入力」とは、「第1所定入力」として特定された「短押し」又は「長押し」のいずれか一方の入力方法を指し、構成要件J3と構成要件J4における「前記第1所定入力」は同一の入力方法を意味するものと解される。

イ 被告製品1及び2の構成要件充足性
 被告製品1及び2においては、「推し色チェンジボタン」(被告製品1)ないし「バックボタン」(被告製品2)が本件発明の「第2ボタン」に、「LED」が本件発明の「発光部」に、「登録色」が本件発明の「推薦色」に、「メモリ」が本件発明の「記憶部」に相当するところ、前記前提事実(5)ア及びイのとおり、被告製品1及び2は、推し色チェンジボタンないしバックボタンを、LED発光中に長押しした場合、そのときLEDが発光している発光色を登録色としてメモリに記憶し、LED発光中に短押しした場合、メモリに記憶された登録色でLEDを発光させる(構成1-j1~4、2-j1~4)。
 このように、被告製品1及び2においては、推し色チェンジボタンないしバックボタンの「長押し」により登録色の記憶を行うのであるから、「長押し」が構成要件J3の「前記第1所定入力」に相当する。そうすると、構成要件J4の「前記第1所定入力」は「長押し」であることを要するが、被告製品1及び2は、上記各ボタンの「短押し」により登録色での発光を行うものであるから、構成要件J4の「前記第1所定入力」を充足しない。
 したがって、被告製品1及び2は、構成要件J4を充足しない。

 ウ 原告の主張について
 これに対し、原告は、構成要件J3と構成要件J4における「前記第1所定入力」は、異なる入力方法であってもよいと主張する。
 しかしながら、「前記」との特定がされていることに照らせば、「前記第1所定入力」は同一の入力方法を意味するものと解すべきであり、原告の主張する解釈は、特許請求の範囲の記載に基づくものとはいえない。原告の指摘するその余の点も、以上の判断を左右するものとはいえない。
 したがって、原告の主張は、採用することができない。

【所感】

  本願の課題は「従来よりも簡単に所望の色で発光させることができる」であることから、「所望の色の登録」と「所望の色の発光」を単一のボタンの操作で実現することが本願の発明のポイントであると考えられる。単一のボタンの「同一の操作」で、「所望の色の登録」と「登録された色の発光」を実現することは、その他のボタンやモード変更等を伴わない限り、難しいものと考える。したがって、「所望の色の登録」と「登録された色の発光」は、単一のボタンの「異なる動作」によって実現されるものである。そして明細書には、「異なる動作」として「第1所定入力」と「第2所定入力」とが対の入力(いずれか一方が長押しで、他方が短押し)として記載されている。
 以上のことから、前段と後段における「第1所定入力」が同一の操作を指すと認定した裁判所の判断は妥当であると考える。
 前記で引用された文言に前段で記載された文言を機械的に挿入することにより、構成要件を検討してしまうことがあるが、本件のように択一的な内容を含む文言の場合には、より注意深く考える必要があることを改めて意識させられた。
 なお、2025年10月20日に控訴審の判決が出されたが、控訴人(原審の原告)の主張は認められなかった。